クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

やっぱり日本のアカデミアの将来は明るいかも

メルマガにもTwitterにも書いたのだけれど、ここでも少し書いておきます。


このブログでさんざんネタにさせてもらったバッタ博士が、京都大学の助教に就任されました。


少年の頃からの夢、叶いました。: 砂漠のリアルムシキング


おめでとうございます。ネット上でも多くの人から祝福されていて、バッタ博士が皆から愛されていることがよく伝わってきます。ネット上のリアルなストーリーに皆さん共感している感じがいいですね。この助教のポジションでは引き続き5年間までモーリタニアで研究が可能だそうで、またアフリカでの勇姿を届けてくれることでしょう。


今回の京都大学の公募プログラムは白眉プロジェクトとよばれるもので、様々な専門分野から人材を選んだようです。就職活動を放棄していた私は知らなかったのですが、ポスドクらの間ではかなりステータスの高い憧れのポジションらしい。選考会議も「伯楽会議」と称しているだけのことはあります。


白眉プロジェクト: 京都大学


採用名簿をよく見ると、知人で共同研究でもお世話になっている進化発生生物学研究者の越川滋行さんの名前も。越川さんも助教ご就任、おめでとうございます。北大近くの「まるたかラーメン」で「就職できなかったら西表島に移り住んで虫追っかけながら暮らしたいよね・・・」と語り合ったのが思い出されます。


前年度には右利きのヘビ仮説で有名な細将貴さんも同じプログラムの助教で採用されているんですね。このプログラムではないけれど、私と同じ北大の研究室出身の同級生、テングザル研究者の松田一希さんも京大で助教に採用されている。京大に「いいね!」を36回ほど連打したい。


そしてこれらの4氏のうち3氏が東海大学出版会の「フィールドの生物学シリーズ」で単著を出していますね。


孤独なバッタが群れるとき: 前野ウルド浩太郎 著 (東海大学出版会)


テングザル―河と生きるサル: 松田一希著 (東海大学出版会)


右利きのヘビ仮説―追うヘビ、逃げるカタツムリの右と左の共進化: 細将貴 著 (東海大学出版会)


東海大学出版会の先見の明というか、将来活躍するような若手研究者を見定める嗅覚はなかなかのものがあります。いいですね、東海大学出版会。おすすめです、東海大学出版会。


さて、よくポスドクの間で囁かれる噂に「海外に出ると国内でのコネが切れるから就職に不利」というのがあるが、上の白眉プロジェクトのデータではむしろ海外留学組がよく採用されている。バッタ博士も越川さんも細さんも海外組だ。なので、この言説はあまり信憑性が無い気がする*1。海外で修行をするメリットは大きいだろう。


あとは生物学だと「分子生物学を扱っていないと相手にされない」という言説もあるが、これも定規や天秤などローテクで勝負しているバッタ博士が採用されたことで、普遍的なドグマではないことが窺える。もっとも、バッタ博士の場合は人類救済や外交の面でも評価されているのだろうけど。


いずれにしても、振り切れちゃってる感じの人々がこうしてよいポジションに収まっていくのは嬉しいですね。このメンツのもつ引力はすごいです。アカデミアのトキワ荘。来年度以降、この環境に憧れてさらに多くの変人研究者が応募、着任し、変人ポジティブフィードバック(HPF)が起こることでしょう。この調子なら、日本のアカデミアの将来はきっと明るい


それでは、私の方は引き続きフリーの研究者を目指していきたいと思います。


【お知らせ】このブログが本になりました

クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー

*1:ただし、同程度の業績をもつ者どうしであればコネがある方が有利の場合もあるだろう。コネを重視するような選考には国内組が有利と思われる。

クマムシ、極限環境微生物学者に完全勝利。


去る9月25日に新宿ロフトプラスワンで行われたクマムシ vs 極限環境微生物ー地上最強生物トークバトルが満員の観客を迎えて行われた(このイベントに至るまでのあらすじはこちら→クマムシ博士から深海を行く微生物ハンターへの反論: ナショナルジオグラフィック)。


結果から先にいうと、クマムシの圧倒的勝利で幕を閉じた。ここではその模様を振り返ってみたい。



イベント開始。しかし、極限環境微生物学者の高井研氏の姿が見えない。クマムシ勢を相手に怖じ気づいたのだろうか。仕方がないので、メレ山メレ子さんと一緒にイベントを進行する。私がいかにクマムシが最強であるかをプレゼン。ちなみに私がかぶっているクマムシ帽子は、ひよこまめ雑貨店さんに特注で作ってもらったものだ。クマムシは生物学的にも芸術的にも優れていることを説明。そして、むしむし女子からもキラキラ女子からも圧倒的に支持されていることも。



クマムシ助手による「クマムシのうた」のウクレレ弾き語りにより、これが体現された。



以下がその時の映像(残念ながら最初の方はマイクで拾えていない)。



クマムシさんのうたの歌唱終了後、会場全体がクマムシ色に染まった。イベント序盤で早くもクマムシ勝利が決定的となった。


そして会場が暗転し、高井氏を筆頭とする悪の枢軸である極限環境微生物軍団が登場。



高井氏による極限環境微生物のプレゼンが始まると思いきや、捏造データをもとにした私を咎める誹謗中傷が彼により繰り広げられた。科学者としてあるまじき行為である。





クマムシさんは最貧国の国民にタダ同然で作らせている」など事実無根の内容をぶちまける。しかし、このことは逆に極限環境微生物の劣勢、そしてクマムシの圧倒的優位性を自ら認めているようなものである。



クマムシが圧倒的勝利を収めた後、イベント後半は観客からの質問に我々が答える質疑応答を中心に進んだ。極限環境微生物陣営には高井氏の舎弟である和辻智郎氏と西澤学氏も参戦。ちなみに両氏とも名の知れた研究者である。



ここでもお客さんの質問者に対し「愚問だ」などと悪態をつく高井氏。完全に悪役プロレスラーである。


ただ、お客さん達には楽しんでいただけたようで、なんとかイベントも無事(?)に終了。イベント終了後は我々出演者による著書のサイン会へと移った。


メレンゲが腐るほど旅したい メレ子の日本おでかけ日記: メレ山メレ子


微生物ハンター、深海を行く:高井研


クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー: 堀川大樹


たくさんの方にご来場いただき、改めて御礼申し上げます。


さて、本記事では高井氏について少しネガティブな記述が多くなってしまった。フォローするわけではないが、最後に彼の可愛い一面を紹介しておこう。



高井氏に近い某筋(望月氏)から入手した、クマムシさんてぬぐいをバンダナにし、クマムシさんぬいぐるみを抱いてほほえむ高井氏の写真だ。実はクマムシが大好きな高井氏。彼は本当は善い人物で、ちょっと感情表現がストレートにできないツンデレなのだ。いずれにしても、この写真からも分かるように、クマムシは極限環境微生物も、その研究者も完全にノックアウトした(註: 写真は一部フィクションです)。


もう一度言うが、クマムシこそ地上最強生物なのだ。


【関連記事(イベント参加者による本イベントレポート)】


クマムシ vs 極限環境微生物 トークバトルがwktk: おち研

地上最強生物トークバトル!: ひよこまめ雑貨店

【地球最強】遂に、地上最強の生物が決定!!: イベニア

二人の天才: 愛とチムニーの日々

知的労働者が書籍を出版する方法

おかげさまで拙著「クマムシ博士の「最強生物」学講座」が好評につき、早くも増刷が決定。ご購入いただいた皆さまに感謝。











クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー


日本滞在中に都内の書店を散策していたが、ほとんどの大型書店で本著を平積みにしていただいていた。



写真は丸善お茶の水店


また、書評サイトHONZでは土屋敦さんに熱いレビューを書いていただいた。


黒い情念がゴッゴッゴッ! 『クマムシ博士の「最強生物」学』


著者の私自身もワクワクしてしまうような、今までに見たことのないレビュー。どうも有り難うございます。


さて、今回は本書が書籍化に至った経緯について少し書いておく。私のケースは、特に書籍出版を目標としている知的労働者にとって参考になると思う。


そもそも少し前までは、一般科学書を出版するのは教授等の肩書きのある研究者か、著名な科学ジャーナリストに限られてきた。権威の無い人間が書籍を出版するのは難しかったのだ。


だがご存知の通り、ネット、とりわけブログやTwitter、そしてはてなブックマーク等のネットツールの登場により、優れた文章の書き手が容易に発見される時代が到来した。ブログに書いた文章がSNS上で言及され、その数が評価の指標になるからだ。そして出版社の編集者は、この指標をもとに本の書き手を選定している。書籍出版には、権威ではなく、読み手を惹き付ける内容、中身が大事になってきたのだ。


私のブログは科学、とりわけ生物学を対象にしている。大事なことは、非専門家の読者にも理解できるように記事を書くことだ。本ブログを書いている研究者・専門家は多くいるが、この意識を持ちながら情報を発信している人間は少ない。専門知識があり、なおかつ分かりやすい文章を書ける人間が、書籍の書き手として重宝されるのだ。高度な専門知識をいかにやさしく説けるか。この落差が大きいほど、書物としての価値も高くなる。野茂の落差のあるフォークに多くの打者がついバットを出してしまうのと同じ原理だ。


私の場合、記事を50〜60ほど書いた2011年の末頃から書籍出版の依頼が来始めた。その中で、新潮社からはブログと有料メルマガをベースにしたものを出版したいということだったので、最初の書籍となった。今後、さらにいくつかの書籍を他出版社から出版予定である(出版社のみなさまへ:現在は新規の出版依頼は受付けていません)。


ということで、書籍出版を目標としている人は、以下のステップを踏んでいくとよいだろう。


1. ブログに自分の専門分野周辺の話題を噛み砕いて書く

2. Twitterやはてなブックマークなどで読者の反応をチェック

3. 足りなかったと思える点を次回の記事に反映させる

4. 2と3を繰り返す


このステップを忠実に遂行していれば、いずれ出版社から声がかかってくるだろう。


書籍を出すことで優雅な印税生活を送るのは難しいが、書籍化をきっかけに自分の活動の枠を広げることができ、自由度が増す。本を出すことで得られるこのメリットは、金銭面の収入以上に大きいと感じている。ということで、書籍出版に興味がある人は、とりあえずブログを開設して何か書いてみてはいかがだろうか。


【関連記事】

クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー

ニコニコ生放送【クマムシ vs 極限環境微生物ー地上最強生物トークバトル!】


明日9月25日19:30からのイベント「クマムシ vs 極限環境微生物ー地上最強生物トークバトル!」をニコニコ生放送で放送します。


ニコニコ生放送「クマムシ vs 極限環境微生物ー地上最強生物トークバトル!」


会場に来れない方はニコニコ生放送で野次をコメントしてください。


Facebookにも本イベントのページを作りました。


クマムシ vs. 極限環境微生物ー地上最強生物トークバトル! : Facebook


こちらでは、クマムシと微生物どちらが強いと思うかをイベント前やイベント後にアンケート調査しますので、ぜひともクマムシに清き一票を、いや、イベントを盛り上げていただければと思います。


それでは、明日お会いしましょう。


(イベント詳細はこちら↓)

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クマムシ vs. 極限環境微生物ー地上最強生物トークバトル!


【日時】


2013年9月25日(水) OPEN 18:30 / START 19:30


【会場】


新宿ロフトプラスワン

新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2  アクセス


【出演者】


高井研(微生物地球学者)
堀川大樹(クマムシ博士)
メレ山メレ子(むし大好きブロガー)


【イベント内容】


地球に君臨する最強生物は誰だ?! 


地上最強の生物として知られるクマムシ。その愛くるしいフォルムから、人気もうなぎのぼり。


しかし、これを黙って見過ごすことのできない生物たちがいた。極限的な環境を住処とする、極限環境微生物である。冷戦が続いていたクマムシ vs. 極限環境微生物。だが遂に今回、最強生物どうしの闘いが研究者同士の代理戦争に発展してしまった……。


クマムシ博士 vs. 微生物学者。地上最強生物を決める前代未聞のトークバトルの火ぶたが、今落とされる!


【チャージ】


前売¥1500 / 当日¥1800(共に飲食代別)

※前売券は8/31(土)正午12時よりe+にて発売!(チケット購入はこちらから)

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クマムシ博士から深海を行く微生物ハンターへの反論

ナショナルジオグラフィックに、クマムシがいかに最強かを書いて寄稿しました。


クマムシ博士から深海を行く微生物ハンターへの反論: ナショナルジオグラフィック

結論として、単細胞生物の微生物は、科学的にも芸術的にもクマムシの敵ではないということなのである。


この続きは25日のイベントで!


クマムシ vs. 極限環境微生物ー地上最強生物トークバトル

MARUZEN&ジュンク堂渋谷店で出版記念イベントを開催します。










クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー


近日発売になる拙著「クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたち」の出版記念イベントのトークショーをMARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店で行います。トークのお相手はぬいぐるみ作家でクマムシさんコンテンツ制作者の一人、泉本桂奈さん。


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「クマムシって何だ?」とおっしゃるあなたに贈るクマムシ・トーク!! 堀川大樹×泉本桂奈


日時:2013年09月20日(金)18:30 〜

場所:MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店 7階喫茶コーナー

定員:40名

入場料:1000円 (1ドリンク付)


お問い合わせ・ご予約は下記まで

MARUZEN&ジュンク堂書店 渋谷店(東急百貨店本店7F)
電話:03-5456-2111
営業時間:10:00〜21:00


詳しくはMARUZEN&ジュンク堂公式サイトでご確認ください。
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当日はサイン会も行います。よろしくどうぞ。


【関連記事】

クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたち

クマムシ vs. 極限環境微生物ー地上最強生物トークバトル

先日、極限環境微生物学者の高井研氏の著書を出版社のイーストプレスから送ってもらった。


微生物ハンター、深海を行く:高井研

本書は高井氏の研究人生のこれまでをドラマティックに、そしてバブリーな表現で綴ったものだ*1。これから研究者を目指そうとする学生にとっては参考になる部分あるだろう。参考にならない部分もあるが。


さて、本書の中ではなぜか私とクマムシも取り上げられている。しかも、かなりディスられているのだ。

ブログやらツイッターやらのコメント欄に、どうもうら若い女性達の「堀川さん素敵 ♡、クマちゃん最強、きゃわうぃーねー♡」みたいなニュアンスのコメがたくさん載っているのを見た瞬間、ワタクシの心の闇に「堀川許すまじ!クマムシ許すまじ!」の黒い情念がゴッゴッゴッと湧き上がってくるのを止められずにいたのだ。

「へっ、なにがクマムシだよ。あんなプニュプニュのユルユル歩きなんて、相手じゃねえぜ。地球最強はアレよ、極限環境微生物よ。そらそうよ」などと嫉妬の炎が燎原の火のごとくメラメラしていたりするわけで


本書やtwitterでの発言から、高井氏はかなりの女性好きであることが伺える。クマムシや私に対するライバル意識は、女性からの注目を集める我々に対する嫉妬心が源となっているようだ。


いずれにしても私から言いたいことは、クマムシは極限環境微生物の敵ではなく、正真正銘の地上最強生物だということだ。


もちろん、生存可能な温度範囲など、ストレスに対する耐久力を強さの指標とした場合は極限環境微生物の方がクマムシよりも上だろう。だが、文字通り"単細胞"の微生物どもと、脳神経系や消化系など複雑な体制を備える高等生物クマムシを比較すること自体がおかしいのだ。ストレスにさらされたとき「細胞ひとつが生存できればOK」という極限環境微生物とは、まったく次元の異なる耐性能力なのである。


とまあ、ネット上での水掛け論をしても仕方がないので、MCにメレ山メレ子さんを迎えて公開討論を開催することにした。詳細は以下の通り。


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クマムシ vs. 極限環境微生物ー地上最強生物トークバトル!


【日時】


2013年9月25日(水) OPEN 18:30 / START 19:30


【会場】


新宿ロフトプラスワン

新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2  アクセス


【出演者】


高井研(微生物地球学者)
堀川大樹(クマムシ博士)
メレ山メレ子(むし大好きブロガー)


【イベント内容】


地球に君臨する最強生物は誰だ?! 


地上最強の生物として知られるクマムシ。その愛くるしいフォルムから、人気もうなぎのぼり。


しかし、これを黙って見過ごすことのできない生物たちがいた。極限的な環境を住処とする、極限環境微生物である。冷戦が続いていたクマムシ vs. 極限環境微生物。だが遂に今回、最強生物どうしの闘いが研究者同士の代理戦争に発展してしまった……。


クマムシ博士 vs. 微生物学者。地上最強生物を決める前代未聞のトークバトルの火ぶたが、今落とされる!


【チャージ】


前売¥1500 / 当日¥1800(共に飲食代別)

※前売券は8/31(土)正午12時から9/24(火)18時までe+にて発売。(チケット購入はこちらから)


※ニコニコ生放送はこちらから

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強いのはどちらか、決着をつけるのを楽しみにしている。


【お知らせ】このブログが本になりました

クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー

*1:"新人ポスドクびんびん物語"など、ヤングな世代には元ネタが分からない表現が多い。

クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたち

このたび、『クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー』という書籍が新潮社から出版された。本書は本ブログとメルマガに執筆したコンテンツの一部を加筆修正し、まとめたものだ。一部、書き下ろしも含んでいる。クマムシさんの表紙が目印。











クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー


この本は、常識破りの極限生物とその生きざまのエピソードを、クマムシ博士が読者にわんこそばを食べさせる感覚で紹介する生物学講座である。本書に登場するのは、クマムシから人間までの多岐にわたる、私が愛してやまない生き物の数々だ。


私は幼い頃より、生き物、とりわけ昆虫が好きだった。昆虫の姿や生態は、我々のものと随分と違う。言い換えれば、我々の常識と彼らの常識はまったく異なる。常識の異なるアナザーワールド。昆虫たちのもつ異世界に、私は虜になった。


それでは以下に、本書の目次を紹介する。

クマムシ博士の「最強生物」学講座 
ー私が愛した生きものたちー



「生物学のとば口に立ったばかりのいたいけな高校生共を生物学の泥沼へと誘う魔道の禁書」*1

目次


はじめに

第1章 地上最強動物クマムシに敬礼


乾燥、超低温、放射線、高圧、そして宇宙空間。地上最強動物クマムシの生存可能領域は地球外にまで広がっている。実在する奇跡・クマムシに出会ったとき、誰でも敬礼せずにはいられない。


・「クマムシって何?」という奇特な方へ
・「わたしの放射線耐性力は57万レントゲンです」
・クマムシのエクストリームフレンドたち
・ついに乾いたミニ人間
・「サイヤ人死にかけ&復活実験」で覚醒したスーパー放射線耐性菌
・サイボーグ生命体の誕生を祝福する

第2章 クマムシミッション・ハイテンション


地上最強動物クマムシの生態を頭で理解したら、次はいよいよ実践だ。クマムシ捕獲計画に、クマムシ増殖祭り。想像しただけで、大興奮。クマムシミッション、ハイテンション。


・クマムシ捕獲計画実行中
・クマムシ増殖祭り開催中
・クマムシさんを人類救済の切り札に
・超高校級と呼ばれたあるヤングサイエンティストの野望

第3章 暴かれた宇宙生命体の真実


科学者が踏み込んだ新たな学問領域、宇宙生物学。生命起源の解明、地球外生存可能範囲の特定、そして地球外生命の探索。未知なる世界の深淵に科学者たちが見た、宇宙生命体の真の姿とは・・・。


・ヒ素で毒づく宇宙生物学界
・地球人と火星人は双子どうしかもしれない
・私たちは宇宙生まれ地球育ちかもしれない
・スクープ:納豆菌は宇宙生命体だった
・日本に大量増殖したミュータント人間とその原因

第4章 キモカワクリーチャー劇場アゲイン


一見気持ち悪いが、よく見ると可愛いらしい生きものたち。そんなキモカワクリーチャーたちの魅力に気付いてしまったらもう最後。引き返せない、戻れない。ようこそ、魅惑のキモカワクリーチャ—劇場へ。


・キモカワアニマルのキモカワ精子
・不老不死の怪物と地球脱出と
・出動!サイボーグゴキブリ
・クモの糸をはくカイコ
・生き物をゾンビにするパラサイトの華麗なる生活

第5章 博士生態学講座


世界で生み出される博士の数は増加の一途をたどっている。街で石を投げれば当たるほどにコモデティ化した博士。とはいえ、外界から博士たちの実態を知るのは容易でない。ここでは、知られざる博士たちの生態をお見せしよう。


・スーパー研究者たちの掟
・意識の高い博士の特徴
・理系研究室分類学
・理系的「ジョジョの奇妙な英語学習法」
・フジツボ貴婦人あらわる
・バッタに捕食されたい博士

第6章 ぼくたちみんな恋愛ing


この世に男と女がいる限り、恋愛戦争に終わりは無い。それは人間界だけに限らない。今日も明日も明後日も。ぼくたちみんな、エンドレス恋愛中。


・オタクと変態はモテる
・タイムトラベラーと肉体関係を持つのは危険
・悪魔を召還し、嫌がる相手と無理矢理交尾するオス
・うんこになって飛行移動するカタツムリ
・パラサイト男子とその彼を体内に宿した女子の愛の物語



あとがき


常識を破ること。それは、常識の範囲を大きく逸脱した極限の世界を生きることに等しい。クマムシや型破りな人々の生きざまを見ていると、自分がいかに狭い視野で物事を考えていたかに気付かされる。


同調圧力が強いこの社会の中では、望むと望まざるにかかわらず、私たちは平均であり続けようとしてしまう。それは、物事を単一の視点からしか見れなくなることを意味する。この世界は、多様性で満ちているにもかかわらず、だ。


本書で取り上げた生き物たちのエピソードが、読者の中にある常識というコリを少しでも揉みほぐし、これまでと異なる視点で世界を見る眼を養う一助となれば、著者として嬉しく思う。


(アマゾンからの購入はこちらから)

*1:キャッチコピーはBernard_Domon氏にいただいた

コスモポリタン・インベイシブ・スピーシーズ


クマムシ党の政見放送: Togetter


史上最強動物クマムシをモチーフとした「クマムシさん」が三次元化されて世に出てから1年が経過した。この間、オンラインショップ「クマムシさんのお店」や日本科学未来館とジュンク堂などをオリジナル・ハビタットとし、クマムシさんは各地にその生息範囲を広げてきた。この夏には、ついに東急ハンズ池袋店にも分布域を広げた。国内にクマムシさんがゆっくりと、しかし確実に浸透しつつある。





今月はさらに、世界展開プロジェクトも始動する。具体的にはインターナショナル・オンラインショップのオープンだ。これで、世界中に生息域が拡大する。もはや、コスモポリタンなインベイシブ・スピーシーズとなり、各国のエンデミック・スピーシーズ(ミッ●ーとかアン●リー●ードとか)を駆逐せんとする状況である。本物のクマムシがコスモポリタンな生物であるため、これは必然的な運命ともいえる。





さて、ただいまクマムシさんフォトコンテストもtwitterとfacebookで開催中だ。


クマムシさんフォトコンテスト【twitter版】
クマムシさんフォトコンテスト【facebook版】


賞品はクマムシさんぬいぐるみLおよびプレミアムぬいぐるみなので、夏休みに暇を持て余している方はどうか参加していただきたい。


【関連リンク】

クマムシさんのお店

ナウシカのメーヴェを作った男


メーヴェ(写真クレジット: 八谷和彦


宮崎駿原作の漫画およびアニメ—ション映画「風の谷のナウシカ」。作中で、メーヴェとよばれるグライダーのような軽量飛行装置に乗る。主人公のナウシカメーヴェを操り、自由自在に飛び回る。


このメーヴェを現実に作っている人がいる。メディアアーティストの八谷和彦さんだ。八谷さんといえば、ピンクのクマがメールを届けてくれるメールソフト「PostPet」を世に送り出した人物としてもよく知られる。



メーヴェに乗る八谷氏(写真クレジット: 米倉裕貴)


その八谷さんが、なぜナウシカメーヴェを作ろうと思ったのか。そのきっかけとなったのは、イラク戦争だった。


アメリカがイラクを侵攻したとき、日本がいとも簡単にこれを是認し追従したことに憤慨した八谷さん。「俺はナウシカにはなれないけれど、ナウシカみたいな人が現れた時に、生まれた時に乗るものを作ろう」と誓った。そして、OpenSkyと名付けたメーヴェの開発プロジェクトをスタートさせた。2003年のことだ。


だが、空想の世界の飛行装置機体を実際に作ることは、困難を極めた。改良をいくら続けても、機体を宙に浮かべることができない。


試行錯誤を続けて、気がつけば開発開始から10年の歳月が過ぎていた。そして今年、ついに八谷さん自身の乗る機体が初飛行に成功した。下の動画では、この時の様子を見ることができる。メーヴェが離陸したのを見た瞬間、自然と鳥肌が立ってしまった。メーヴェは今後もさらに進化し続けそうだ。



現在、東京の「アーツ千代田 3331」で開催中の八谷さんの個展「OpenSky 3.0ー欲しかった飛行機、作ってみたー」では、オープンスカイプロジェクトの開発経緯や機体の展示を行っている。興味のある方は訪れてみてはいかがだろう。


私はひょんなことから八谷さんと一緒にイベントをさせてもらってきたが、その縁で今回、私が発行する有料メルマガ「むしマガ」に登場してもらうことになった。八谷さんに語ってもらった25000字を越えるインタビューでは、メーヴェPostPetだけでなく、ご自身が参加している「なつのロケット団」でのロケットの開発についても熱く語ってもらってた。


八谷さんのインタビューを通して感じたことは、「もし世の中にコレがあったらわくわくするよね」というポジティブなマインドが彼の根底にあるということだ。大半の人が実現不可能だと思うことでも、可能なものに変えてしまう。言うのは簡単だが、実行するのは難しい。無理そうなアイディアの秀逸さだけではなく、自分の専門の枠に捕らわれず、やりたいものに手を伸ばす姿勢など、私も見倣うところが多い。


八谷さんのインタビューは、むしマガにて今週から8回にわたり掲載する。インタビューのラインナップは以下の通り。 

第1回「メディアアーティストとは何か」
第2回「PostPetジョジョの奇妙な冒険だった」
第3回「ナウシカみたいな人のための乗り物を作りたい」
第4回「誰にも登られていない山を最初に登る」
第5回「ロケットにかける想い」
第6回「小惑星をバスにして火星に行きたい」
第7回「これからは複数の仕事を持とう」
第8回「ホストクラブはライブメディアの究極の形」


それでは、以下に各回のインタビューの一部を掲載する。

                                                                                              • -

第1回「メディアアーティストとは何か」


→八谷
→堀川


堀: では、今回は八谷さんの話がメインなので、これからたくさん語っていただこうと思います。八谷さんのことをちょっと知っている方も、八谷さんの職業が何なのか分からないという人も結構いるんじゃないでしょうか。


八: はいはい。


堀: メディアアーティストというのを聞き慣れない人もいると思うので。最近はハイパーメディアクリエーターとか、ハイパーメディアフリーターと名乗る方もいますけど(笑)。


八: はい(笑)。


堀: で、メディアアーティストというのはどういうものか、と。


八: 美術の中でメディアアートというジャンルがあります。普通の美術だと彫刻だったり絵画だったり、絵画の中でも油絵、日本画、アクリルとか、技法ごとのスタイルがありますけど、メディアアートという割りと新しいジャンルもありまして。だいたい1970年代、1980年代くらいにその源流があるんですけど。


堀: ええ。


八: ビデオやテレビを題材に作品を作り始めたビデオアートからコンピュータにシフトしてきて、ある種のインタラクティビティというか、観客が何かすると作品が変わったりとか、そういう今までのビデオアートに含まれないものがメディアアートとして出てきたんですね。だからぶっちゃけた話、コンピュータとかそういうものを使った作品をメディアアートと呼ぶことが多いんですけど。


堀: なるほど。


八: そういうものを作る作家が大体1980年代後半から90年代にかけて増え始めて。メディアアートを作る人なので、メディアアーティストと名乗っている感じですね。


堀: それは広義にはコンピュータグラフィックスなどを作る人もメディアアーティストに含まれるんですか?


八: そうですね、技法としては同一でも、コンピュータグラフィックスとかCGIとよばれるものを作る人がメディアアーティストと名乗るかどうか。それは例えば作られたものが商業的なものなのか、それとも個人的にアートを目的として作っているものなのかで違いますね。


堀: 作り手それぞれの意識によって変わってくるということですか。


八: はい。美術作品として作られたものの中で、ハードウェアとしてのコンピュータやネットワークを使っていたり、ウェブの技術を使っているものをメディアアートと呼ぶ感じですね。


堀: 例えば、コマーシャルに乗らないものをやっている人たちというのは、基本的にはその作品自体を売っていたり展示するということでお金をもらっているということですか.......


(本編に続く)


第2回「PostPetジョジョの奇妙な冒険だった」


堀: ところでPostPetのアイディアの元になったのは、夢で熊を見たのが元になっていると。


八: そうですね。正夢にするのが面白いかな、というか。


堀: あとはジョジョのスタンド(註)も参考にしていると。


註)荒木飛呂彦の描く長編漫画「ジョジョの奇妙な冒険」には「スタンド」と呼ばれる守護霊のような存在が登場する。スタンドは人により異なる能力をもつ。


八: そうですね。中二病的なんですけど、漫画の中のものが本当に有り得るとしたら、どうやって表現するか、とか好きなんですよ。無理をどうやって実現するかを真剣に考えるのが好きで。荒木先生は、スタンドは超能力が目に見える形になったものと言っているんですけど。そんなものを本当に実現するのは難しいけれど、ネットで自分の分身的なものをキャラクターとして設定して、それが唯一のものであればジョジョのスタンド的なものに思えるんじゃないか、と。コピーが不可能なものと言ったら変ですけど、PostPetの場合、ペットは一匹しか飼えないという基本的な設定にして。当時はたまごっちはあったんですけど、たまごっちとは違うものにしようというのはすごくありましたね。あと、ポケモンとも変えようと。


堀: ええ。


八: 例えば、たまごっちはいつもこちらに対して「世話をしろ」とアラームを鳴らしてくるんですけど、それは嫌だと(笑)。それとポケモンみたいにたくさんキャラクターを飼えるというのも嫌で。スタンドは一人に一体、ペットは一人に一匹のみ、と。しかもペットが相手のところに行った時、例えば僕が堀川さんのところにペットを送った時に、堀川さんが僕のペットを可愛がることもできるんですけど、殴ることもできるんですね。


堀: はい(笑)。


八: 殴るとひみつ日記に「堀川大樹に殴られた」とか書いてあって、精神的なダメージをこっちに負わせることもできるんですよね。「何で殴るんだ・・・俺、何か悪いことしたっけ?」みたいな。そういう感情が生まれるわけです。そういうのは全部、ジョジョの奇妙な冒険のスタンドのルールからとって。姿とかは全く違いますけど、考え方とか設定は近づけて作ったんですね。


堀: なるほど、なるほど。例えば、今流行っているアメーバピグとかは、やっぱりPostPetの辺りから発生しているんでしょうかね......


(本編に続く)


第3回「ナウシカみたいな人のための乗り物を作りたい」


堀: メーヴェを作ろうと思ったきっかけはあったんですか?元々ずっと作りたいという想いがあったんですか。


八: いつか作りたいものの一つではありましたね。


堀: 技術的な部分については、専門家の方がいないとかなり難しいと思うんですけど。


八: そうですね。あの尾翼のない飛行機を無尾翼機というんですけど。メーヴェ無尾翼機で、たぶん宮崎駿さんは「メーヴェは実際には飛ばないだろう」と思ってデザインしていると思うんですけど、実際に制作された無尾翼機はいくつか例があって。戦中ドイツで作られたホルテンHo229という機体もありますし。


堀: そうなんですね。


八: メーヴェハンググライダーとかをもとにデザインした思うんですよね。ナウシカの中でエンジンがついてない機体を「凧」とか呼んでいるし。その辺をちゃんと組み合わせれば、メーヴェにかなり近いものができるんじゃないかとうっすらと思っていたんですけど。で、イラク戦争が起きた頃に、日本があまりに簡単にアメリカに追従してイラク侵攻を認めたことに衝撃を受けて、「俺はナウシカにはなれないけど、ナウシカみたいな人が現れた時に、生まれた時に乗るものを作ろう」みたいに思って。


堀: すごい動機ですね。


八: 半分ねじ曲がってますけど(笑)。メーヴェの実機を作るのはいつかやりたかったんだけど、やるなら今しかないと思って作り始めたんですね。


堀: それが2003年頃ですか?


八: そうですね。もう10年になるんですよ。最初はそんなに長くやる予定はなくて、完成まで5年くらいかな、と思っていたんですけど、2倍かかりましたね。見積もりが甘かったです。とはいえ、すごく長くなったのは色々状況の変化、震災があったりとか、トラブルが出てきて時間がかかったりとか、会社の利益が下がったりとかがあって。でもあまり無理はしないというか、別にクライアントがいて依頼されてやっている仕事じゃないから慌ててやって失敗するのも嫌だし。ぼちぼちやっていますね。


堀: ほうほう。メーヴェは成功したら量産して製品化するところまでもっていきたいというのはあるんですか?


八: それはないですね。


堀: 趣味みたいなところに近い、というところはあるんですか?あるいはアート作品として作ってらっしゃるんでしょうか......



(本編に続く)


第4回「誰にも登られていない山を最初に登る」


八: でも、一機だけでもメーヴェ的な機体があるかどうかで、そういう飛行機が実現可能かどうかを知ることができる。その一機を作るのが自分の仕事。誰にも登られていない山があったとして、その山をみんな遠くから見ているだけなんだけど、その山に登った人が一人でもいたら、人類にはそれを登ることが可能という証明になるじゃないですか。


堀: そうですね。科学もそうですね。


八: そうですね、まさに。追試可能な実験やってる、というか。そういうものとして機体を一機作るという考え方ですね。ジェットエンジンが大きすぎたりとかあるいは小さなエンジンにパワーがなかった頃は、ああいったメーヴェみたいな小型の機体でジェットエンジン付き機は考えにくかった。今はそれができつつあるのと、あと、今の機体はほとんど木とFRPででできているんですが、それをカーボンなどにするともっと軽量化できるかもしれないし。そうするとメーヴェにより近い機体ができるんですけど、まず最初の原型機が一機はないと、検証もできないので。


堀: 八谷さんはテクノロジーの深い部分を見ている感じがするんですけど、昔からロケットとかメカが好きだったんですか?


八: そうですね、嫌いではもちろんなかったですが、すごくハイテクなものが大好きというわけでもなかった気がしますね。現実主義というか、自分の手に入る範囲でのテクノロジーを、一見アホな事に使うのが好き、というのはありますね。例えば、視聴覚交換マシンを造った頃は東大の研究室とかで数千万円とか数億円の予算をかけてバーチャルリアリティの研究がなされていたんだけど、それに勝つようなものをサラリーマンがお小遣いで作る、とかがやりたかったことで。


堀: はい。


八: 今も、航空機の開発というのは数億円〜数十億円かかるのが普通なんですけど。もちろん、すでにデザインされたもの、アメリカで飛んでいるもののキットを買ったりして作ればそんなにコストはかからないですけど、通常は新型機を作るのはすごくお金がかかったりするので。それをなるべくローコストでやるのがカッコイイ、みたいな......


(本編に続く)


第5回「ロケットにかける想い」


堀: 今はロケットの小型化とコストダウンを頑張ってやっているということですね。


八: はい。今まで国が国威発揚でつくってきたから、「より大型の衛星を」「より遠くへ」でロケットがどんどん大型化していったわけで。恐竜みたいなものに対して、新しく現れた小さいネズミのようなほ乳類が勝つ、みたいなこともありかもしれないですからね。まあ、ロケットは単純に輸送手段なので、20トントラックのニーズはこれからもあるとは思いますが、バイク便とかリヤカー便とか色々多様性がないと輸送手段としてはダメだよね、というのは少なくともみんな思っていますね。


堀: それは例えば、将来は低軌道を回る各企業などが保有する宇宙ホテル(註)みたいなのができたとして、そういうところにバイク便のような小さなロケットで物資や人間を輸送したり、そういうイメージですか。


註)国政宇宙ステーションのように低軌道を回るホテル施設。各国の企業が宇宙ホテルの開発に乗り出している。


八: そうですね。たぶん宇宙ホテルみたいなものを運ぶとなると、でかいロケットが必要になると思うんですけど、そこまで行く手段として人間だけ運べばいいのであれば、そこまで大きくする必要はないので。そういう小さな輸送ロケットを民間が運用して担うというのは、十分アリだと思います。


堀: うんうん。で、それが上手くいったら、もっと話が大きくなっちゃいますけど、火星とか惑星に行くようなものも作りたいですか?


八: 作るかもしれないですね。そのへんはSF的な話になるんですけど。まあ、とりあえず僕らが一番やりたいのは、別に月には行かなくてもいいから、小惑星(註)を捕まえてきたい、と。


註)火星軌道の外側には固体成分が多めの小規模の惑星群が回っている。この小さな惑星が小惑星である。


堀: おお。きた。


八: 火星のちょっと先には小惑星がたくさんあって、そこに小さなロボットを送り込んで小惑星の材料を使ってバス便に改造する、と。小惑星の軌道をちょっと変えてやって、地球のすぐそばまで来るようにする。そうすれば、地球からちょっと行けばその小惑星のバス便に乗れて、火星まで行くことができると。


堀: うん、うん。


八: もし火星まで人間が行くとすると、宇宙放射線被曝の問題が避けて通れなくなると思うんですよね。今は国際宇宙ステーションだって、せいぜい400kmくらいの高度だから、宇宙放射線による被曝はそこまでまだシリアスな問題ではない。


堀: そうですね。


八: でも、火星まで行くとすると、ちょっと死にかねないですよね。6ヶ月くらい宇宙放射線被曝していると。じゃあ、遮蔽しなくちゃいけない、と。遮蔽するためには結局、ロケットの厚み、質量が必要になる。水でも鉛でも何でもいいんですけど、でもそうすると、大きいものを打ち上げるのはどんどん難しくなってくるんですよね。


堀: この部分は有人惑星間飛行で一番問題になってくる部分ですね。


八: ええ。放射線を遮蔽できるようにすれば材質は何でもいいので、だったら小惑星をちょっとくり抜いて中に人間が住めるようにして、それで火星まで行けば放射線問題は少なくともクリアできると。小惑星をくり抜いて、アリの巣のようなところに人が住んで。氷がある小惑星を上手く選べば水問題も解決するし、水を電気分解して水素も得られるし。


堀: ふむふむ。で、その小惑星バスの推進力は原子力を考えているんですか?ウランのある小惑星を捕まえられれば、原子力を使うことができると思うんですが。


八: 堀江貴文さんは原子力を考えていますね......


(本編に続く)


第6回「小惑星をバスにして火星に行きたい」


八: 僕らはこういうSFみたいな話ばかりしているんですけど、でも具体的にはそれが一番火星とかにいくためにはいいやり方で。それを拡張していけば多分、太陽系外に行ったりとか、次のステップに繋がるんじゃないかと。


堀: いやー、スケールが大きいですね。


八: でかいものを地球から打ち上げるのは効率が良くないんですよね。重力があるから。小惑星の重力は大したことないので、そこからだったらあまり大きな力なしに遠くまで行けるし。


堀: そういう意味では、アメリカではそういう話をしている人もいますよね。つい最近、NASA小惑星を捕まえて地球の近くまで運んでくるという計画を発表しましたね。


八: そうそう、この前記事になったのを見て悲しくなりました。僕ら、そういう話をホントに10年前くらいから飲み会でしていたのになー、と(笑)。


堀: アメリカは動くのが早いですからね。資金もあるし。


八: 小惑星を捕まえてくれば火星に行けるというアイディアは、野田さんから最初に聞いたんですよね。実際、炭素型、ケイ素型、金属型、そして水がある小惑星。地上からでも、どのタイプの小惑星か観測すればある程度まで分かるから、狙って採りに行くことは可能だと。だから、その後はまずはやぶさみたいな探査機による調査をして、それが狙い通りの小惑星だったら、そこにロボットなどを送り込んで働かせて、基地を作る。


堀: アメリカの今度の計画は、小惑星を捕獲して地球の低軌道にのせるというものですよね。その小惑星を、民間の宇宙ベンチャーが利用して調査したり、将来の惑星上の活動のための練習台にすると。もしかしたら、今言われたように、ロボットをこの小惑星に送って作業させるようなこともすると思うんですけど。それは多分、NASAが公募で呼びかけると思うんですが、あれはアメリカが国家的事業としてやるだろうから、アメリカに法人がないとできないかもしれないですね。


八: あるいは、皆でやろう、となるのがいいと思いますけどね。小惑星一個だけだと、全部用件を満たすのは無理だと思うんですよ。金属があるとか、水があるとか、人間が生活できるだけの厚みがあるとか、そういう都合のよい全部揃った小惑星を見つけるのは難しい。だったら、ロシアはとりあえずウランがある小惑星見つけて、日本は水がある小惑星を見つけて、という感じで。で、そういういくつかの異なるタイプの小惑星を列車みたいに連結して......


(本編に続く)


第7回「これからは複数の仕事を持とう」


堀: なるほど。ところで、八谷さんはこれから何を目指していかれるのでしょうか。


八: 現状は手を広げすぎている部分がありまして(笑)。ニコニコ学会もそうですし、なつのロケット団もそうなんですけど。この二つはまったくお金にならなくて支出ばかりで。打ち上げ実験のために北海道に行く旅費も車代も滞在費も全部自費と、なつのロケット団の活動はお金が出ていくばかりですし、ニコニコ学会も別に金銭的なプラスはないんですけど、でもこの二つは割と大事だと思っています。あと、アートの活動も実際にはあまりお金にはならないですね。


堀: ええ。


八: でも、仕事は4つから6つくらいやるのが僕には適性と思っていて。ちゃんとお金になる仕事3つと、お金にならない仕事3つくらいまでは許容範囲なので、その中で楽しんでやろう、と。それは学生さんにには言いたいですね。将来的には、仕事を複数持った方がいいですよ、と。


堀: ふむふむ。


八: 収入面で複数の仕事を持ちつつ、あとは普通のボランティアでもいいと思うんですけど、自分がちゃんと熱意を持って取り組める仕事的なワークをするといいと思います。ジョブじゃなくてワーク。そういう自分が創意工夫していける仕事を複数持つというのは、自分の将来のために大事な気がします。で、僕のロケット開発やニコニコ学会の活動も、別にお金が出ていくばかりだけじゃなくて、お金じゃない対価を僕はもらっていると思うのです。今回だと、むしむし生放送に登壇した皆さんに知り合えたこととか。あと、それを大学の授業の中で話すこともあるし。


堀: インプットもあるし、あとネットワークも作れますよね。


八: そうですね。結局、そういうネットワークから後の仕事につながることが多いですね。僕の収入の方での仕事は4つあって、自分の会社と、学校で教えているのと、あとはアーティストとしての仕事と。アーティストとしての仕事はプラスマイナスでいうとマイナスになりがちなんですけど(笑)。あとはもう一つ、独身の時に住んでいた部屋を人に貸して大家さんをやっているんですけど。


堀: それは意外......


(本編に続く)


第8回「ホストクラブはライブメディアの究極の形」


八: テキストデータは手軽に入手できて便利なんだけど、そこにたくさんのお金を払いにくい。でもライブだと、トークショーであれ演奏であれ、お金を払う。だから、そのライブメディアの究極の形がホストクラブかな、と。


堀: なるほど。


八: だって、キャバクラにしろホストクラブにしろ、普通のお姉ちゃんとかお兄ちゃんとお喋りするためにお金を払うわけですよね。だったら、アーティストや研究者とお喋りするのはもっと価値があるだろうと。


堀: ええ。


八: ニコニコ超会議「むしむし生放送」の時、あの場で皆さんの書籍がばーんと売れたじゃないですか。でも、仮にあの場に出演者がいなくて、プレゼンを大画面で流していて、そこで本を売っていてもあまり売れなかったと思うんですよ。目の前に人がいて、直接話を聞いて感動した人って、財布のひもがかなり緩む。


堀: なるほど。


八: ホストクラブはそのうちまたやりたいので、ぜひ帰国の際には出てもらえればと。


堀: 僕でよければ(笑)。


八: 前に漫画家さんとかミュージシャンをよんでホストクラブをやった時には、すごく人が集まって。漫画家さんとか、作品は知られているけど、意外と本人と会う機会が少ない、という人は狙い目なんです......


(本編に続く)

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【関連書籍】



ナウシカの飛行具、作ってみた 発想・制作・離陸- メーヴェが飛ぶまでの10年間: 八谷 和彦, 猪谷 千香, あさり よしとお


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基礎研究における自由市場からの研究資金集めは経済の論理により捏造を生じやすくするか

研究者が独自に自由市場から研究資金を集めることについて書いた前回の記事には、予想以上に大きな反響があった。公的な資金に頼らずに研究者自らが動くとうこのアイディアについて、賛同するコメントが多く寄せられた。私の活動に触発されて下の科学ブログを始めたというメッセージもいただいた。


600文字で解説する世界で1番わかりやすい最新科学ニュース


こうして少しでも多くの研究者の意識が変わり、新しい研究文化が育ってくれれば、私としては大変嬉しいことである。


その一方で、研究者が独自に資金を集めることについて、一部から批判的な意見もいただいた。その批判内容の多くは、「自由市場から研究資金を集めようとすると、基礎研究が経済の論理に流されて歪みやすくなる」というものだ。つまり、「お金を儲けようとするあまり、自身の研究成果を捏造するようなインセンティブが働いてしまう」ということである。


前回の記事に書いた通り、私が自由市場から資金を集める方法として実践しているのは、キャラクターグッズ販売と有料メルマガの発行である。基礎研究に従事する研究者が私のようなやり方で自由市場において研究資金を得ようとする場合、果たして経済の論理に飲み込まれて研究成果を捏造する方向にプレッシャーがかかるのだろうか?


結論から先にいうと、このような活動が研究成果の捏造を生じさせるようなインセンティブは、ほぼ働かない。その理由を、私や他の研究者の活動を例に以下に解説する。


・自由市場からの研究資金集めは研究成果を歪める方向に行かない


まず、私の研究対象生物クマムシをモチーフにしたキャラクター「クマムシさん」のグッズ販売について。


クマムシさんのお店


キャラクタービジネスにおいて大事なことは、一にも二にもキャラクターの魅力である。そのキャラクターのデザインや性格、そしてキャラクターの背後にあるストーリー性が人気を左右する。twitterなどのSNSでユーザーとのコミュニケーションも、キャラクター人気の重要な要素だ。クマムシさんもtwitter上で「クマムシ相談室」というコーナーを設け、ユーザーからの相談に答えている。人々はそのキャラクターを可愛いと感じたり、親しみが増したりした帰結として、そのキャラクターのグッズを購入するのである。


もちろん、クマムシさんの場合は、本物のクマムシが好きでグッズを購入する人もいるだろう。しかし、大多数の購入者は上述のような理由でグッズを購入するわけだ。クマムシについての私の最新の研究成果に強い関心を抱いていている人は稀であり、たとえ何か大きな研究成果を挙げたところでキャラクターグッズの売上はそれほど伸びないだろう。実際に以前、私がクマムシについての研究成果を発表しても、クマムシさんのファン層の人々はほとんど反応していなかった。


キャラクタービジネスとは異なるが、これと同様の現象は2010年にブームとなった小惑星探査機のはやぶさの周辺でも観測された。


長旅の末に地球に帰還し、最後は地球を撮影して大気圏突入で燃え尽きたはやぶさのストーリーに、人々は感動した。だが、果たしてそのうちのどれだけの人がはやぶさの詳細なミッション内容を知っていただろうか。成果のうちどの部分が、科学的に革新性をもっているかを言えただろうか。はやぶさの人気も、人々は研究成果の部分よりも、むしろ擬人としてのはやぶさのキャラクターとストーリー性に感情移入したところが大きいのだ。


これらの例から分かるように、キャラクタービジネスにおいて研究成果をアピールするやり方は、マーケティングとして効果が薄いためリターン=獲得資金量があまり見込めない。ビジネスとして非常に効率の悪い方法なのである。このような条件の下では、研究者が研究成果を捏造するようなインセンティブはほとんど働かないのだ。


次に、有料メルマガの例を見てみよう。


有料メルマガ「むしマガ」・堀川大樹: まぐまぐ


私の場合、有料メルマガには自分の研究成果も書いているが、それよりも他の研究者の成果について書く場合が多い。自分の研究成果は書いているうちにすぐにネタが尽きてしまうのと、読者が読みたいのは一人が行っている研究内容よりも概論的なネタの方だからである。この傾向は、当ブログでも同様だ。


有料メルマガ発行というと、ちょっと特殊なビジネスに聞こえるかもしれないが、基本的なビジネスシステムは本を出版して印税を貰うモデルとほぼ同じである。研究者が作家活動をして資金を調達する方法ということになる。


そう考えてアマゾンを見渡してみると、作家として成功している研究者を何人も見つけることができるだろう。彼らも自身の研究成果を本にまとめて発表する場合もあるが、やはりほとんどは自身の専門分野全体とその周辺にまたがる概論的な内容である。これらの作家研究者はテレビ番組や講演会に出る場合もある。このときもやはり、自分の研究成果よりはむしろより広い分野の解説をすることが多い。


大半の市民は、研究者個人の研究成果よりも、もっと広い枠組みでの専門的な知見を知りたいのだ。これはブログでも同じことがいえる。科学一般を伝えるポピュラーサイエンスの方が、自身の成果を解説する研究者のブログよりも圧倒的に人気がある。私のブログでも、自分のクマムシについての研究成果の解説記事よりも、納豆菌のネタ記事の方がアクセス数が50倍ほど多かった。


多くの市民が個々の研究者の成果内容よりも、より広い専門分野の知見に興味があるため、ここでも作家研究者が自身の研究成果を捏造しようとするインセンティブはきわめて働きにくい。それを証拠に、人気のある作家研究者の中には何年も論文を書いていない人もいる。作家研究者の研究業績と人気度に相関関係もみられない。研究業績の無い作家研究者がそれでも多くの市民に支持されているのは、学術的な内容を一般市民にも分かりやすく伝える表現力に優れていたり、その研究者のキャラクターが面白いからなのだ。池上彰っぽい人がよいのだ。もう一度いうが、このような理由から、研究成果を捏造するインセンティブはほとんど働かない。


・通常の研究活動には経済の論理が大きく関わり捏造が生じやすくなる


ここまで述べたように、研究者が自由市場から資金を得ようとする場合には研究成果を捏造する方向には向かいにくい。それではここで、政府や民間などの組織から研究補助金を得て研究活動を行っている、大学や独立行政法人の研究機関に所属する通常の研究者について考えてみたい。


結論からいうと、実は、これらの公的な資金の援助を受けている研究者の方が、自由市場から資金を得ている研究者よりも、はるかに経済の論理に流されやすく、その結果として研究成果を捏造しやすくなるのだ。


通常、研究者が研究費を獲得するためには、研究計画とともに研究業績を書類にまとめ、研究費を支給する組織に提出する。当然ながら、研究者の提出した研究計画と研究業績が優れていれば、研究費が当たりやすくなる。これは、アカデミアでは常識の基本ルールだ。


この基本ルールは、研究職のポジションを得る時にも横たわっている。このポジションには期限のついた博士研究員(ポスドク)、学術振興会特別研究員などのフェローシップ、任期制あるいは終身雇用制の大学教員職などの研究職が含まれる。これらのポジションにありつけるかどうかは、研究業績の質と量が左右するといっても過言ではない。具体的には、インパクトのある研究論文をどれだけ出版しているかにかかっているのだ。


すなわち、当たり前のことなのだが、研究費を獲得するにしろ、ポジションを獲得するにしろ、大きな経済の論理が働くわけである。仮に、ある博士研究員が現在のポジションの任期終了後に5年間の任期付の助教のポジションを得たとすると、3000万円以上の総収入を得られることになる。だが、もしどこのポジションにもありつけなければ、収入はゼロになってしまう。両方の場合の格差は3000万円以上になってしまうわけだ。


このように、研究費の獲得にもポジションの獲得にも、経済の論理が大きく関わってくる。しかも、研究者の研究成果がダイレクトに強く関わってくるのだ。このような条件の下では、研究者が研究成果を捏造するインセンティブは大きく働く。

研究者は論文の質や量で評価され、研究費やポストの獲得に直結する。(略)ただし、有名科学誌のハードルは高く、あいまいさのない「きれいなデータ」が求められる。判明した不正の大部分は、データを示した画像を改ざんしたり、別の実験データを使い回したりしたものだ。

東大論文不正:元教授、研究者同士競わせる: 毎日新聞jp


もちろん、それでも研究成果を捏造する研究者はごく一部だ。捏造が発覚した時にはアカデミアから強制退場させられるリスクがあるし、そもそも研究者のプライドとしてそれを許さない人間が圧倒的多数である。研究成果が出なかったためにどこの公募にも通らず、潔くアカデミアから去っていった研究者も私の周りだけで何人もいる。


それでもやはり、ここまで説明したような研究活動システム上生じる圧力から、ゴッドハンドを繰り出して捏造をする研究者がちらほら出てしまうのだ。基礎研究の分野の大物研究者が捏造に手を染めるケースも少なくない。単なる名誉欲のためではなく、多額の研究費を維持できなければ以前と同じスケールで研究を進められなくなり、他のライバル研究室との競争に負けてしまうというプレッシャーが、捏造を導くことも大いにあるだろう。


いずれにしてもここで私が言いたいのは、通常の研究活動はそもそも経済の論理に組み込まれており、しかも研究成果を捏造するインセンティブが大きく働いているということである。つまり、「自由市場で研究資金を調達しようとすると経済の論理に巻き込まれる」という指摘そのものが、ナンセンスなのである。


むしろ、キャラクターグッズなどを販売して自由市場から十分な研究資金が得られれば、論文を定期的に出版する必要性に迫られることはない。市場からの資金提供は、研究業績によって評価されないからである。よって、本当にやりたい研究を、自由にじっくりと遂行できる。こう考えるとむしろ、自由市場から研究資金を獲得した方が、変なプレッシャーから解放されて、健全な研究活動を行えるといえよう。


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堀江貴文氏に学ぶ研究者としての生き方

6月23日の日曜日、堀江貴文さんが私のいるフランス・パリ第5大学の研究室まで、クマムシを見に遊びにきてくれた(クマムシの説明についてはこちら)。


堀江さんとはニュースサイトのハフィントンポスト関係者の懇親会の時にお会いしたのがきっかけで、今回の研究室見学へとつながった。堀江さんは顕微鏡でクマムシを熱心に覗きこんでいて、ずいぶんとクマムシを気に入ったご様子。


生物学の話も色々としたが、研究者を相手に話をしているような感覚だった。ライブドア時代にバイオベンチャーのユーグレナに投資をしたり、今もバイオ事業を考えていたりと、さすがにこの分野の知識も豊富だ。嬉しいことに、「クマムシの耐性について面白いことが分かったら一緒に何かしよう」というお話もいただいた。


現在、私はアカデミアにいる研究者としては珍しくキャラクタービジネスをしたり、有料メルマガの発行を通して、組織や政府に頼らず自力で研究費を調達する試みを行っている。これは、堀江さんから受けた影響が非常に大きい。


もう一度いう。政府の補助金なんて当てにする科学技術の発展なんてやめにしよう。: 六本木で働いていた元社長のアメブロ


堀江さんは夢を実現させるために、好きな宇宙開発事業に自らのお金を投資している。そこには、国に頼ろうという発想は皆無だ。これは、私がいるアカデミアの99%の研究者の考えと180º異なる。私自身も、もともとは他の大多数の研究者や同僚と同じような考えだったが、堀江さんの生き方を見ているうちに、自分でも何かやってみようという気持ちになった。


もちろん、政府は基礎研究に十分な予算を付けるべきだ。しかし、現実問題として、研究者が政治をコントロールて予算配分を変えることは難しい。さらに、ポスドク(博士号取得後に1〜3年の任期付で雇用される研究員)などの不安定な立場では、数年後に研究を続けていられるかどうかの保証すらない。組織や政府に頼るだけでは、研究者はときに大きなリスクを抱えることになる。


研究で夢を実現させたければ、自らの手で将来をを変えるしかない。そこで私は自分の研究対象であるクマムシをキャラクター化し、収益を出す試みを始めた。


クマムシさん公式アカウント: twitter


また、堀江さんの有料メルマガの成功を見て、私も有料メルマガを発行するに至った。研究者が最新の科学研究成果を噛み砕いて面白おかしく伝える内容のメルマガで、収益についてはすでに損益分岐点を越えている。


有料メルマガ「むしマガ」・堀川大樹: まぐまぐ


これらの試みを始めてからはまだ日が浅いが、幸いなことに私の活動は各方面から支持を集めつつある。


堀川大樹さん「最強」のクマムシを「ゆるキャラ」に仕立てた: 朝日新聞


この活動が順調に進めば、近い将来、自らの生活費と研究費を確保して、世界中の好きな場所で好きな研究ができるようになる可能性も高い。これが実現すれば、研究者にとっては夢のような生活だ。


もちろん、研究活動の傍らでコンテンツを作って発信するのは大変だし、皆がうまく稼げるという保証もない。しかし私自身、この活動を通して様々な分野で活躍する人に会って刺激をもらえたりと、人生がすごく豊かになった。お金に換えられない経験もできるのだ。実際に、憧れていた堀江さんにもこうして会うことができた。























堀江さん(左)とクマムシさん(中央)と堀川(右)


研究者もそうでない人も、自分のやりたいことをするために何かを発信してみるとよいと素直に思う。できないことを周りのせいにするよりも、自分で変わった方が早い。他人の目など気にせずに、とりあえず動き始めたらいい。堀江さんと話をしていて、改めてそう思った。


【お知らせ】このブログが本になりました

クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー

遺伝子改変で鼻センされた蚊


吸血するネッタイシマカ image from Wikimedia commons


日本はこれから夏にかけて虫が元気いっぱいにあふれる季節である。虫好きにはたまらない季節が来るわけだが、虫好き人間でも嫌な虫はいる。蚊はそんな虫の代表だろう。


蚊の中には黄熱、デング熱などのウィルス、そしてマラリア原虫を媒介する、「かゆいかゆい」だけでは済まない非常に困った輩もいる。ネッタイシマカAedes aegyptiもそんな輩の一員だ。ほとんどの蚊は温血動物であれば誰かまわず吸血するのだが、このネッタイシマカはヒトを優先的に見分けて吸血する。浮気しない一途な性格なのだ。いや、むしろ厄介な粘着ストーカーだ。


そんな厄介なストーカーに対して、素晴らしい対抗策がある。虫よけスプレーだ。虫よけスプレーにはディートという化学物質が含まれるが、これを蚊は嫌うのだ。この写真にあるように、その効果は一目瞭然だ。


蚊やその他の昆虫がなぜこのディートを嫌うのか、そのカラクリはよく分かっていない。ただ、昆虫の嗅覚がこの隠避行動に関わっているのは容易に想像がつく。そしてこのカラクリを調べていけば、他にもっと効果的な隠避物質を開発することも期待できる。


そこで(そう思ったかどうか定かではないが)、今回、アメリカのロックフェラー大学の研究グループはネッタイシマカのディート嫌いが嗅覚と関係しているかを調べた。

 
DeGennaro et al. (2013) orco mutant mosquitoes lose strong preference for humans and are not repelled by volatile DEET. Nature, early edition.


研究者らは、ネッタイシマカの嗅覚を奪うことにした。蚊には鼻が無いからそもそも鼻センをできない。だから、遺伝子レベルで鼻センをした。嗅覚に関わる遺伝子を削り取ったのだ。


すると、どうだろう。正常なネッタイシマカはディートのにおいを嫌ったのに対し、嗅覚を奪われたネッタイシマカは、ディートのにおいにも普通に近づくようになった。


しかし、話はこれだけで終わらなかった。上述したのはディートの「においのみ」を与えた場合の実験結果だった。そこで次に、実際にヒトの腕にディートを塗って、嗅覚を失った蚊でいっぱいになった箱に腕ごと突っ込み、蚊の反応を調べたのだ。


嗅覚を失った蚊はにおいが分からないので、ディートを塗った腕にも止まるはずである。そして、実際に腕に止まった。しかし、である。においが分からないはずの蚊は、しばらくすると腕を離れて飛んでいってしまったのだ。


つまり、蚊はにおいが分からなくても、ディートに実際に接触すると逃げるのだ。蚊のディート嫌いには嗅覚以外の触覚などの感覚も関わっていることが示唆された。


今後、蚊の嗅覚やそれ以外の感覚のメカニズムを突き詰めて解き明かすことで、ディートよりもさらに強力な虫よけスプレーが開発できるかもしれない。また、昆虫の隠避行動を引き起こす安全な化学物質が開発されれば、ヒトの虫よけだけでなく、農作物の昆虫防除にも役立てることもできるだろう。


※本記事は有料オンラインジャーナル「むしマガ」(月額840円・初月無料)の158号に掲載された論文を短縮した簡易論文版です。こちらから購読登録すると完全版を読むことができます。

納豆フォトコンテスト結果発表

先週告知した納豆フォトコンテストですが、たくさんの納豆フォトを応募いただきました。みなさま、ご協力どうも有り難うございました。


むしブロ+納豆フォトコンテスト審査委員会による厳正な審査を行いましたので、その審査結果をここで発表させていただきます(この記事を読み進めると目がネバネバしてきますが。どうかご了承ください)。


まず、佳作の作品から。


佳作1: こまさん (‏@koma_mk)


納豆ご飯にみそ汁という、日本の朝を体現したシンプルな作品ですね。お箸が綺麗なのも粋です。



佳作2: ririri@砕けそうさん (@ririri1108)


見ている者に迫り来る納豆の群衆を捉えた構図、そして賞味期限が2週間ほど過ぎた納豆ということで、アグレッシブさが表れています。



佳作3: KazNさん (@KazN2)


これも至近距離で納豆を切り取った迫力ある作品に仕上がっています。白米の白さと納豆の褐色のコントラストが、納豆の圧倒的存在感をさらに引き立てていますね。



佳作4: 西島さん (@kachidehi)


こちらは自家製の納豆とのことで、作り手の西島さんの人柄が染み渡ったかのような朗らかかつ繊細な光沢を醸し出しています。草食系納豆とでもいったところでしょうか。



佳作5: はるはるさん (@spring_haruru)


大根おろし、しらす、そしてシソのみじん切りを添えることで納豆に上品な色合いをもたせることに成功した一品。器の淡いピンクも納豆のもつ粘着テイストを見事に打ち消しています。



佳作6: 1467さん (@shimalino)


納豆とオクラのネバネバツートップで蕎をいただくという離れ業の一品。こちらは香港での夕食で食べた納豆とのことですが、日本料理屋さんで召し上がったのでしょうかね。



佳作7: がとうあんぷさん (@unpeu_G)


こちらも自家製納豆。自家製だと納豆が優しく見えるような気がしますね。作り手のもつ波動の種類によって納豆も変わってくるのでしょうか。



佳作8: トビムシさん@御社が第一脂肪ですさん (@Schrodingerscap)


こちらは昔ながらのわら納豆。わらの隙間からのぞいて見える納豆、ちょっと恐怖感が煽られますね。


さて、次は優秀賞です。



優秀賞: ochiさん (@02320_ochi)


初夏の爽やかさを想起させる演出が、納豆から発せられるノイズを見事に掻き消しています。納豆成敗に意気込むクマムシさんの凛とした表情もよいですね。ochiさんのブログ記事にさらなる解説がありますので、よろしければご覧ください。


ヒマだったから納豆菌とクマムシを対決させてみた: おち研



さて、いよいよ納豆フォトコンテスト最優秀賞作品の発表です。


最優秀賞: 203gowさん (@niimarusangow)


なんと、編み納豆。納豆の一粒一粒の形状、そして粒ごとに微妙に異なる大きさがリアリティを創出しています。そして糸の引き具合があまりにも見事です。天才の作品としか形容のしようがありません。本作品は私の著書に掲載させていただく予定です。



203gow氏


さて、この作者の203gowさん、実は著名な編みアーティストなのです。



編み巨大イカ



編みゴマすり器



編み再生ニッポン


ふだん、あまり編みものの対象とならないようなモノを編むのが203gowさんのこだわりで、ニコニコ学会βでも即興で編み物をしていた姿が印象的でした。個展などもたまに開かれているようなので、興味のある方はぜひ203gowさんのHPをチェックしてみてください。


へんなあみもの〜編み師203gow


それでは、改めまして今回の納豆フォトコンテストにご応募いただいた皆様に感謝の意を表したいと思います。どうも有り難うございました。


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クマムシの紫外線耐性能力が明らかに


Fig. 1 クマムシさん (イラスト: 阪本かも)



超低温、放射線、高圧、さらには宇宙空間の真空にも耐えられるタフなクマムシ。今回、私 (堀川) たちの研究グループにより、クマムシの紫外線耐性に関する研究報告がオンライン科学ジャーナルのPLoS Oneで発表された。本研究は、NASA宇宙生物学研究所、カリフォルニア・ポリテクニック・ステート・ユニバーシティ、ブラウン大学、東京大学、慶應大学、国立遺伝研究所、国立情報学研究所、フランス国立衛生医学研究所の共同研究により実施された。


Horikawa et al. (2013) Analysis of DNA repair and protection in the tardigrade Ramazzottius varieornatus and Hypsibius dujardini after exposure to UVC radiation. PLoS One


陸に棲むクマムシは、乾燥にさらされると脱水して干からび、仮死状態になる。この状態を乾眠という。クマムシはこの乾眠状態では、ほとんど代謝がみられないが、水が与えられると活動を再開する。


乾眠状態のオニクマムシは宇宙空間で真空と紫外線に10日間さらされた後、わずかな割合だが、生き延びた個体が確認された。この時にオニクマムシが照射された紫外線(波長116.5-400 nm)の線量は7577 kJ/m2というとてつもなく高いものだった。


この線量ではさすがのクマムシもその多くが死滅してしまったが、わずかながら生き残った個体がいたことから、やはりクマムシは他の生物に比べて高い紫外線耐性能力を備えていると言うことができるだろう。


このようなクマムシの強さは、地球外生命体の存在可能性を探るのに良いモノサシとなるわけだ。私は、クマムシを通してこのテーマに関する研究をNASAで遂行した。いわゆるアストロバイオロジーというジャンルである。本研究成果の大部分も、NASAで得られたものだ。


宇宙空間や他惑星では、地球に比べて高い線量の紫外線が降り注いでいる。そこで私たちは、クマムシが紫外線にどこまで強いのか、そしてその強さの秘密が何なのかを探り、地球外環境で生存可能な生命体の定義づけを試みた。


まず、通常の水を含んだ活動状態のヨコヅナクマムシと、乾燥した乾眠状態のヨコヅナクマムシに紫外線(波長254 nm)を照射し、その後の生存と繁殖を私たちが開発した飼育システムを用いて追跡調査した。


その結果、ヨコヅナクマムシは乾眠状態において、活動状態よりも顕著に高い紫外線耐性が見られた。乾眠状態では20 kJ/m2まで紫外線を照射された場合でも個体が子孫を残したのに対し、活動状態では5 kJ/m2以上の線量の紫外線を照射されると照射10日後には90%以上の個体が死滅し、産卵した個体も確認できなかった。


ちなみにガンマ線やイオン線などの電離放射線を照射した場合では、クマムシは活動状態の方が乾眠状態よりも耐性がやや高いことが報告されている。つまり、紫外線は電離放射線とはクマムシへの生物学的な作用の仕方が異なる事が考えられる。


さて、高線量の紫外線照射は、生物に致死的なDNA損傷を引き起こす。 紫外線照射 による代表的なDNA損傷は、ピリミジン二量体の形成である。DNAは4種類の塩基とよばれる物質が含まれているが、このうちチミンとシトシンがピリミジンである。紫外線が照射されると、隣接したこれらの塩基がくっついて二量体とよばれるものとなり、突然変異を誘発するなど、生物に有害な影響を及ぼす。


私たちは、紫外線の照射後の活動状態および乾眠状態のヨコヅナクマムシのDNA損傷を検出するため、抗体を用いた実験手法によりDNAに生じたチミン二量体の頻度の定量的な解析を行った。その結果、乾眠状態のヨコヅナクマムシは活動状態の場合に比べ紫外線照射後のチミン二量体の形成がほとんど起こらない事が判明した。これは、ヨコヅナクマムシが乾眠状態において、チミン二量体が形成するのを妨げるメカニズムをもつことを暗示している。


また、活動状態のヨコヅナクマムシでは2.5 kJ/m2の紫外線照射後に生成したチミン二量体が112時間後にはほぼ完全に消失する事が判明し、DNA修復活性をもつことが確認された。ヨコヅナクマムシのゲノムデータベースを用いた検索およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による解析から、ショウジョウバエの光回復型DNA修復酵素PHRAのホモログ遺伝子をもつ事が明らかになった。


さらに、紫外線照射後にこの遺伝子の転写量が増加したことから、ヨコヅナクマムシのDNA修復機構にこの酵素が関わっている可能性が示唆された。


これらの研究から、ヨコヅナクマムシの紫外線耐性は、乾眠状態におけるDNAの防護能力と活動状態時での修復能力により支えられているものと考えられる。


ところで、ヨコヅナクマムシに比べて乾燥耐性能力が低いドゥジャルダンヤマクマムシでは活動状態時の紫外線耐性能力が低かった。乾燥耐性と紫外線耐性のメカニズムはリンクしている可能性もある。


多量の紫外線が降り注ぐような環境をもつ他惑星でも、バクテリアのような単細胞生物だけではなく、多細胞生物のようなより複雑な生命体が、クマムシと似たような生存戦略機構をもち繁栄しているかもしれないのだ。 火星の地表やそれに近い環境から、クマムシ型生命体が発見される日も近いかもしれない。*1


【お知らせ】このブログが本になりました

クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー

*1:本記事は岩波の「科学」2012年7月号に寄稿した文章を一部改変したものです。