クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

第二回クマムシ学研究会プログラム発表と懇親会のお知らせ

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2017年8月5日(土)に第二回クマムシ学研究会を東京大学本郷キャンパスにて開催します。当日のプログラムも決まりました。今回は全部で19演題となり、前回の14演題から5演題増えました。

第二回クマムシ学研究会プログラム


日時:2017年8月5日(土)12:40〜18:15
場所:東京大学本郷キャンパス理学部二号館四階大講堂

12:20 開場

12:40-12:45 開会の挨拶

12:45-14:30 セッション1

○阿部 渉
ギンゴケに生息する緑色のトゲクマムシ~ニホントゲクマムシの正体は?~

○杉浦 健太, 湊 廣輝, 松本 緑
有性生殖クマムシの交尾行動

○西郷 永希子, 伊藤 麻紀子, 阿部 渉, 久保 健雄, 國枝 武和
乾燥耐性の無いゲスイクマムシの生活史と生存戦略

清家 奈央, 桑原 健太, 福田 恭子, 仲宗根 爽乃, 野末 馨,柴田 今日子, 大久保 真理, 森川 作志, 岡本 晋一, 垣口 貴沙,米村 重信, 西野 有理, 野間有加里, 宮澤 淳夫, 上杉 健太朗, 竹内 晃久, 鈴木 芳生, ○八田 公平
極限環境耐性生物クマムシの組織・細胞・細胞小器官レベルでの放射光mCT・光顕・電顕による統合・相関3D解析

○佐藤 健
鹿児島県霧島のCornechiniscus lobatus(ツノトゲクマムシ)

○大附 祐也
ヨコヅナクマムシのトレハロース代謝

○稲留 直紀
クマムシの窒息仮死誘導過程

14:30-14:45 休憩

14:45-16:20 セッション2

○國枝 武和、橋本 拓磨、堀川 大樹、近藤 小雪、田中 冴、桑原 宏和、秦 裕子、尾山 大明、榎本敦、宮川 清、原 雄一郎、横堀 伸一、小原 雄治、藤山 秋佐夫、荒川 和晴、片山 俊明、豊田 敦
ヨコヅナクマムシのゲノム解読と新規DNA保護タンパク質の発見

○田中 冴、秦 裕子、尾山大明、田中順子、三輪佳宏、豊田 敦、片山俊明、荒川和晴、國枝武和
ヨコヅナクマムシにおけるミトコンドリア局在タンパク質の同定と解析

○近藤 小雪、島津 拓真、國枝 武和
クマムシの乾眠に関わる遺伝子の探索

○福田 庸太, 三浦 良将, Kim Jee Eun, 溝端 栄一, 井上 豪
乾燥耐性を持つクマムシに固有なタンパク質の立体構造解析にむけた取り組み

○柴原 礼良、堀川 大樹、久保 健雄、國枝 武和
雌雄異体のクマムシの乾燥耐性能力とゲノム・トランスクリプトーム解析

○小島 広樹、久保 健雄、國枝 武和(東大・院理・生物科学)
ヨコヅナクマムシ由来細胞の分離法の確立と耐性能力の解析

16:20-16:30 休憩

16:30-18:15 セッション3

○鈴木 忠
【特別講演】雲仙温泉に生息する動物たち

○吉田 祐貴, Georgios Koutsovoulos, Dominik R. Laetsch, Lewis Stevens, Sujai Kumar, 堀川 大樹, 石野 響子, 小峰 栞, 國枝 武和, 冨田 勝, Mark Blaxter, 荒川 和晴
乾眠能力の異なる二種のクマムシの比較ゲノム解析

○荒川 和晴
クマムシは本当に「天然変性タンパクのガラス化によって乾眠する」のか?

○堀川 大樹,西野 綾介, 吉田 祐貴,冨田 勝,荒川 和晴
熱ショックタンパク質はクマムシの乾燥耐性を向上させるか?

○西野 稜介, 吉田 祐貴, 冨田 勝, 堀川 大樹, 荒川 和晴
トランスクリプトーム解析によるヨコヅナクマムシ樽形成の意義の解析

○柴田 笙子, 長井 裕季子, 豊福 高志, 三輪 哲也
東京湾・相模湾の潮間帯におけるクマムシのスクリーニングとEchiniscoides sp.の浸透圧耐性

18:15 閉会の挨拶

18:30~ 懇親会(東京大学伊藤国際学術研究センター内レストラン)


クマムシ学研究会への参加は無料です。参加登録は8月4日までにこちらよりお願いします。


また、研究会終了後は会場近くの東京大学伊藤国際学術研究センター内レストランにて懇親会を開催いたします(原則として東京大学の職員しかふだんは利用できないところだそうです)。クマムシ研究者や他の参加者との歓談をお楽しみください。

懇親会

日時:2017年8月5日(土)18:30〜20:30

会場:東京大学伊藤国際学術研究センター内レストラン ファカルティクラブ


住所:東京都文京区本郷7-3-1 東京大学伊藤国際学術研究センター

参加費:お一人様5,000円

内容:立食形式での各種料理バイキング、飲み放題付き


どうぞよろしくお願い致します。

枚方蔦屋書店に遊びに行きます(プレゼントあり)

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2017年7月30日(日)に大阪の枚方蔦屋書店で催される「ナショナル ジオグラフィック 驚きの発見を求めて出発!」にてお話しします。詳細はこちら


real.tsite.jp

「ナショナルジオグラフィック 驚きの発見を求めて出発!」

場所:枚方蔦屋書店 4F カフェスペース
申し込み方法:電話予約・web予約

11:45会場
12:00開演
14:00終了予定

参加費:無料 (「クマムシ博士の クマムシへんてこ最強伝説」ご購入でサイン会に参加いただけます。)

定員:50名様


問い合わせ先:072-844-9000


当日の参加者を対象に、抽選でクマムシグッズのなどのプレゼントもあるようですよ。


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ヒアリ被害による死亡例とリスクについて

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ヒアリ被害による死亡例とリスクについて、あらためて手短にまとめた記事をハーバー・ビジネス・オンラインに寄稿しました。

困ったことに、この環境省の声明を受けて、一部の報道機関が「ヒアリによる死亡例はない」とする誤った情報を流してしまった。この情報は現在もネット上で拡散し、少なくない人々が「ヒアリで死ぬというのはウソだった」と信じているようにみえる。


政治も経済でもそうだが、物事は0か1かに分けられるものではない。ヒアリによる死亡リスクもしかり。情報を発信する側も、それを受けとる側も、そこを注意しなければならない。


hbol.jp


この記事が、「ヒアリ死亡例はなかった」という誤情報拡散の火消しになればと思います。


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「ヒアリ死亡例は確認されなかった」という一部報道を検証する

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日本テレビのニュース報道が「環境省の調査により海外でのヒアリによる死亡例は確認できなかった」と伝えていた。


news.livedoor.com

国内で相次いで発見されているヒアリについて、海外での死亡例は確認できなかったとして、環境省はホームページから表現を削除した。

日テレNEWS24


しかし、このブログの前回の記事でも検証したように、アメリカではヒアリの死亡例が確認されているのは明らかだ。


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1998年までに累計で少なくとも44例のヒアリによる死亡ケースが確認されている。そして、これはだいぶ少なく見積もった数だ。個々の死亡ケースは、たびたびニュースになっている。たとえば2016年には、母親が死去した翌日に、葬式のアレンジのために干し草の上で電話をしていた娘が、ヒアリに襲われて亡くなったことが報告されている。


www.independent.co.uk


環境省が本当に「海外でのヒアリによる死亡例は確認できなかった」と伝えたのだろうか。さすがにそうとは、考えられない。


おそらく、専門書『ヒアリの生物学』に書かれていた「ヒアリで年間100人死亡」の根拠となる文献が確認されなかった、ということなのだろう(これについては、前回の記事で検証した)。そして、中国と台湾ではヒアリによる死亡例が確認されていない、という情報をごっちゃにして、日本テレビがミスリードするような報道をしてしまったのだと思われる。


実際に、NHKなどでは「アメリカで年間100人がヒアリで死亡という表記を削除した」と伝えている。


www3.nhk.or.jp

環境省はアメリカで年間およそ100人がヒアリに刺されて死亡していると紹介したホームページの表記が不正確なおそれがあるとして削除しました。

NHK NEWS WEB


日本テレビの報道により、多くの人々が「ヒアリに刺されても絶対に死ぬことはない」と勘違いしてしまっているようだ。LINE社系の信憑性が低いまとめサイトなどがこぞって「ヒアリでは死なない」という誤情報を拡散しており、悪影響が広がっている。


それにしても、報道機関はきちんとした情報を伝えて欲しいものだ。


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第3回神保町ヴンダーカンマーにクマムシさんのお店が出店します

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2017年7月22日(土)〜8月20日(日)まで、第3回神保町ヴンダーカンマーにクマムシさんのお店が出店します。場所は奥野かるた店2階。


jimbochowunder.tumblr.com


7月22日(土)と23日(日)は、クマムシ博士も現場でウロウロしているはず。


7月22日20時30分からは『クマムシ博士と語ろう』という語らいの会を開きます。出展者も多数参加してくれるそうですよ。会場はブックハウスカフェ。奥野かるた店から歩いてすぐです。

お申し込みはFacebookページからどうぞ。

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TBSラジオ「たまむすび」に出ます


2017年7月13日(木)15:00頃からTBSラジオ「たまむすび」にちょっと出ます。


www.tbsradio.jp


パーソナリティーはピエール瀧さんと外山惠理さん。生放送中に、クマムシの乾燥からの復活チャレンジを行う予定。ヤラセなし。


聞き逃しても公式サイトで1週間後まで聴けるようです。


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「ヒアリに刺されて年間100人死亡説」を検証する

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ヒアリ Solenopsis invicta. 撮影:松本吏樹郎(大阪市立自然史博物館)(CC BY 4.0)


2017年になって、神戸、名古屋、大阪、そして東京で相次いで発見されている、侵略的外来種のヒアリ(Solenopsis invicta)。ヒアリは人を刺し、確率はきわめて低いものの、ときに死に至らしめることもある。このことから、連日のように報道されるヒアリ発見のニュースは、少なくない人々を不安にさせている。


前回の記事で紹介した、日本語で書かれた唯一のヒアリ書籍『ヒアリの生物学』には、アメリカでは1年間で1400万人ほどがヒアリに刺され、そのうち100人ほどが死亡していると書かれている。*1


ヒアリの生物学―行動生態と分子基盤

ヒアリの生物学―行動生態と分子基盤


(追記:Amazonで在庫切れの場合、出版社に問い合わせると入手できる可能性があるそうです。出版社のサイトはこちら。)


ヒアリに対して不安を感じる源の大きな部分は、この「ヒアリで年間100人死亡説」に依るところも大きいのではないだろうか。だが、よく調べてみると、この説は、はっきりとしたデータを元にしているわけではないことが、分かってきた。


・「100人説」はどこから


この部分は『ヒアリの生物学』の著者らによる調査が元になっているわけではなく、Taber氏により2000年に出版された別の書籍『Fire ants』を引用したものである。


Fire Ants (Texas a&M University Agriculture Series, 3)

Fire Ants (Texas a&M University Agriculture Series, 3)


たしかに、『Fire ants』には以下のような一文がある。

The number of deaths per year has been estimated at one hundred but is probably underestimated because the possibility of fire ant attack is rarely investigated when the cause of death is unknown.

(クマムシ博士による訳)
ヒアリに刺されて死亡する人数は年間100以上と推定されてきたが、死因不明の場合には、死因がヒアリの可能性かどうかが調査されることは少なく、おそらくこの数字は少なめに見積もられている。


このように、『Fire ants』にはたしかに「ヒアリで年間100人死亡」と書かれているわけだが、この部分にはどの文献も引用されていない。つまり、これは著者であるTaber氏の見解のようだ。だが、この「100人説」の根拠となるようなデータや説明は、『Fire ants』の中には見られなかった。


・文献をたどる


そこで、他にヒアリによる死亡者数のデータを示している文献がないかを探したところ、1989年に出版された、Rhoades氏らによる論文に行き着いた。


Rhoades氏らは、29,300人の医者(救急医、小児科医、アレルギー専門医、かかりつけ医など)にアンケート用紙を郵送し、過去にヒアリに刺されたことによりアナフィラキシーショックを起こした人を知っているかどうかを問い合わせた。


その結果、29,300人のうち8.6パーセントにあたる2,506人の医者から回答があった。回答により得られたケースのうち、84例が死亡したケースで、2例が重篤なケースだった。


これらの84例の報告のうち、重複しているケースを省くと、最終的には致死的なケースは32例となった。このうち少なくとも2例は最終的に回復したとされ、実際に死亡したケースは、30例と見積もられた。


ところで、科学論文やWikipedia(英語版)を含めた少なくない文献に、このRhoades氏らの論文を引用して「ヒアリによる死亡例は年間80ほど」と書かれているが、上述のようにこれは重複したケースを含むものであり、正確な引用がなされていない。おそらく、Abstract(要旨)のみの情報が拾われて記述され、拡散しているのだろう。


話を戻そう。つまり、ヒアリに刺されて死亡した例は、1989年までに、累計ではっきりと判明しているのが30例ということになる。もちろん、このアンケートに未回答のままの医者の中に、ヒアリが原因で死亡した人を知っている人がいるかもしれないし、ヒアリに刺されて死んだのに、死因が心臓発作や原因不明とされているケースもあると考えられる。この30例というのは、あくまでも「最低でもこの数字」というものだ。


また、Prahlow氏とBarnard氏は、1998年までの50年間で、ヒアリに刺されて死亡した人数を、過去の文献調査により見積もった。調査された文献には、Rhoades氏らの論文も含まれる。その結果、累計で少なくとも44人が死亡していたことが判明した。


これらの結果から、少なくとも1998年までは、ヒアリに刺されたことが原因で死亡した例は、年間で1〜2人が記録されていたことになる。これ以降で、ヒアリによる死亡数をきちんと調査した文献は、見つからなかった。


・ヒアリの危険度は


ヒアリによる正確な死亡数ははっきりと分かっていないが、同じように死に至らしめるハチなどと比べることで、その危険性を相対的に推定することはできる。


アメリカ合衆国労働省は、2003年から2010年の8年間で、労働者が作業中に昆虫やクモに刺されたことにより死亡した人数が、累計で83人、年間平均で10人程度だと発表している。この83人のうち、52人(64パーセント)はハナバチ、11人(13パーセント)はスズメバチやアシナガバチ(6パーセント)、7人はクモ、そして3人(4パーセント)はヒアリを含むアリが死亡原因としている。


この結果を見ると、ハナバチなどに比べて、ヒアリによる被害の割合が、思ったよりも低いように感じる。だが、このデータの解釈の仕方には、注意が必要だ。


このデータは労働者を対象にしたものであるため、死亡事案が発生した場所が、農場などに偏っている。つまり、このデータには、農場などの環境を好むハナバチに高頻度で遭遇した結果が反映されているかもしれない。たとえば、公園や自宅の庭が主な行動範囲の子どもの場合では、また別の結果になるかもしれないのだ。
 

・まとめ


今回の調査からは、「ヒアリに刺されて年間100人死亡説」を裏付ける文献は見つからなかった。また、1年の間にヒアリに刺されて死亡する実際の人数についても、知ることはできなかった。


しかし、だからといって、「ヒアリに刺されて年間100人死亡説」をデマとするのも早計だろう。もしかすると、アメリカ国内の専門家の中には、公表されたない何らかの情報を根拠とし、この「100人説」を支持する人が一定数いるのかもしれない。


また、「100人説」を根拠とする公開データが見つからないからといって、「安心してよい」と言うこともできないだろう。いずれにせよ、仮に「100人説」が真実だとして、ヒアリに刺されて死ぬ確率は0.001パーセント以下であり、そこまで神経質になりすぎる必要はないと思われる。


アメリカでは、ヒアリ被害の対策や啓蒙も盛んになされており、以前よりも人々がヒアリに対して警戒するようになっている面もあるだろう。ただ、その一方で、アメリカではヒアリの生息域が拡大するだけでなく、その生息密度も増加している。アメリカの人口も増えており、ヒアリに遭遇する人が増えていない、とも言い切れない。


国際社会性昆虫学会日本地区会のウェブサイトによると、現在、この死亡者数について調査中とのことなので、そのうち、より正確な数字が出てくるかもしれない。


※本記事は有料メルマガ「クマムシ博士のむしマガ」392号「ヒアリの生物学」から抜粋したものです。

【料金(税込)】 1ヵ月864円(初回購読時、1ヶ月間無料)

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【参考資料】

『ヒアリの生物学』東 正剛、緒方 一夫、S.D. ポーター 著 東 典子 訳

『Fire ants』Taber S.W. 著

Rhoades et al. (1989) Survey of fatal anaphylactic reactions to imported fire ant stings. J. Allergy Clin. Immunol. 84:159-62.

Prahlow and Barnard (1998) Fatal Anaphylaxis due to fire ant stings. Am J Forensic Med Pathol. 19: 137-142.

Pegula and Kato (2014) Fatal injuries and nonfatal occupational injuries and illnesses involving insects, arachnids, and mites. Beyond the Numbers 3: 1-13.

ヒアリに関するFAQ: 国際社会性昆虫学会日本地区会

Kemp et al. (2000) Expanding habitat of the imported fire ant (Solenopsis invicta): A public health concern. J. Allergy Clin. Immunol. 105:683-691.


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【追記】

1. 『ヒアリの生物学』の出版元である海游舎のサイトへのリンクを追加しました。(2017年7月14日)

*1:ヒアリの生物学』には、年間死亡者が80人いるとする説も紹介している。この部分は、Kemp氏らの論文を引用したものだ。そして、このKemp氏らの論文では上に挙げたRhoades氏らの論文を引用したものだ。上述のように、Rhoades氏らの論文で述べている80人という数は重複したケースを含むものであり、Kemp氏は正確に引用していない。

『ヒアリの生物学』でヒアリの生態を知る

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Image: Insects Unlocked (Creative Commons CC0 1.0 Universal Public Domain Dedication)


2017年5月、神戸港で国内では初となるヒアリが発見された。さらに同年6月には名古屋港と大阪港でもヒアリが確認された。ヒアリは原産地の南米からアメリカ、オーストラリア、そしてアジア諸国へと侵入、定着しており、その分布域を拡大している。


ヒアリは針をもち毒を打ち込んで攻撃し、場合によっては人間を死に至らしめるともある。このことから、国内のメディアでも「殺人アリ」ヒアリについて大きく取り上げるようになってきたが、この侵略的外来種が実際にどの程度脅威となりうるのかについて、正確かつ詳細な情報源が限られているのが現状だ。


この生物について国内で入手できる情報源のうち、もっとも豊富な情報を提供してくれるのが書籍『ヒアリの生物学』だろう。


ヒアリの生物学―行動生態と分子基盤

ヒアリの生物学―行動生態と分子基盤


(追記:Amazonで在庫切れの場合、出版社に問い合わせると入手できる可能性があるそうです。出版社のサイトはこちら。)


2008年に出版された本書には、次のような一節がある。

ヒアリは将来日本を侵略するだろうか?答えは「イエス」である。問題は、いつ、どこに侵入するかということだ。


9年前に出版された本書は、まさに今の日本の状況を言い当てていた。今回は、本書からの情報を中心に、この生物の生態、侵略の経過、そして対策などを見ていきたい。


・ヒアリとは


ヒアリは広義には「刺されると火傷のような痛みを起こすアリの総称」だが、狭義には南米原産のSolenopsis invictaのことをいう。ここでも、このS. invictaをヒアリとよぶことにする。ちなみにinvictaとは「強い、やっつけられない」という意味。まさしく、このアリの絶望的なまでのタフさを言い表している。


触角の先に2節からなるふくらみがあることと、お腹の近くの腹柄に2つのこぶがあることが、ヒアリの形態の特徴。


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Image: ヒアリのワーカー. 『ヒアリの生物学』より著者の許可を得て掲載


ヒアリは日当たりの良い場所に巣を作る。原産地の南米よりも侵入先のアメリカなどの方でヒアリが繁栄しているが、これは宅地や公園などの都市環境がヒアリにとって好都合なこともあるようだ。人間がせっせとヒアリのための環境を整えている事実は、なんとも皮肉である。


ヒアリの巣はマウンド状のアリ塚を形成する。


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Image: ヒアリのアリ塚. 『ヒアリの生物学』より著者の許可を得て掲載


日本ではこのようなアリ塚を作るアリはほとんどいないため、もしヒアリがそれなりの規模の巣を作っていれば、これが目印になる。コロニー内のアリの数は数万〜数十万にもなる。つまり、大きなコロニーには、鳥取県の全人口と変わらない数のアリが暮らしているわけだ。


突然の雨に見舞われても、ヒアリは怖気づかない。ヒアリたちは互いに組み合ってイカダをつくり、水たまりに浮いて避難する。恐るべき生存能力。


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Image: TheCoz (Creative Commons Attribution-Share Alike 4.0 International)


他のアリと同様に、ヒアリは巣内に女王アリとワーカーがいる(真社会性)。女王アリは1時間に80個のペースで卵を産み、一生の間に200〜300万個の卵を生産する。ワーカーはすべてメスだが生殖能力はない。ワーカーの大きさは2.5〜6ミリメートルとばらつきがあり、小型ワーカーは主に巣内の仲間の世話や採餌を、大型ワーカーは主に餌となる種子を砕いたり巣を掘ったりする。


ワーカーには、女王アリや仲間の防衛という重要な任務がある。平均して、小型ワーカーは1回の攻撃で7刺し、大型ワーカーは4刺しする。攻撃力は小型ワーカーの方が高い。


女王アリが生殖力をもつ新女王とオス(有翅虫)を産む時期は、ワーカーが1刺しあたりに注入する毒の量は1.5倍となり、攻撃力が増す。この攻撃力増大は、自分たちの血縁者を守る適応的行動だと考えられる。この攻撃力の変化が女王アリからのシグナルにより引き起こされるのか、興味深いところだが、よくわかっていないようだ。



ヒアリの動画


・ヒアリの毒


アメリカでヒアリに刺される人は年間1400万人であり、毎年100人ほどが死亡していると推定された(註: この値は推定値であり、実際の数については議論がある→こちらで検証しました)。ちなみに、日本でスズメバチに刺されて死亡する人は、年間20人ほど。日本国内の交通事故で亡くなるのは4000人ほどだ。


ヒアリに刺されると激痛が走り、刺された箇所が赤く腫れあがる。ヒアリは一度に何度も刺すため、同じ場所に複数の腫れができる。ハチに刺された時には見られない膿疱ができるのが特徴だ。


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Image: ヒアリに刺されたあと. 『ヒアリの生物学』より著者の許可を得て掲載


ハチ目のうち毒を合成するハチやアリのほとんどは、毒成分のほとんどはタンパク質らしい。だがヒアリ毒はアルカロイド毒であるソレノプシンが主成分であり、この生合成経路も備えている。ソレノプシンは膜表面タンパク質の機能阻害や神経間のアセチルコリン伝達阻害を引き起こす。幼児が一度に多数のヒアリに襲われると、この直接的な毒作用で呼吸困難に陥り、死亡することもあるようだ。


通常、ヒアリに刺されても1週間ほどで治癒するが、すでにヒアリに刺されたことがある人は過剰反応を起こし、アナフィラキシーショックを引き起こすこともあり、最悪の場合は死に至ることもある。


ヒアリに刺された時は、漂白剤を同量の水で薄めて患部を洗浄し、かゆみを抑える抗ヒスタミン剤や細菌感染を防ぐ薬を塗っておく。市販の虫刺され薬で良いようだ。万一アナフィラキシーショックを起こした時はエピネフリン(アドレナリン)など、ステロイド薬を注入したりと、病院で内科的処置を行わなければならない。


ただし、ヒアリに刺されて死ぬ確率は14万人に1人(0.001パーセント以下)程度ときわめて低いことを覚えておきたい。


・ヒアリ侵略の歴史


ヒアリが南米からアメリカに侵入したのは1930年代と考えられており、それ以降生息域を拡大し続けている。上述のように、ヒアリにとって好適な日当たりの良い開けた環境が多いことも分布域拡大の原因だが、南米に存在していたような天敵がアメリカにいないことも、ヒアリが新天地で繁栄した大きな理由のようだ。


アメリカでは1950年代から1980年代にかけて、総額1億7千万ドルもの巨額の費用をかけて殺蟻剤を散布するなど対策を講じたが、ヒアリを撲滅することはできなかった。この間、有機塩素系農薬の散布による他生物への悪影響も顕在化し、レイチェル・カーソンによる『沈黙の春』に代表される環境保護運動の盛り上がりもおきた。そして残念ながら、人間や生態系に影響のない殺蟻剤の開発もうまくいかなかった。


結局、アメリカでは原産地よりもはるかに高密度のヒアリが生息することとなり、アメリカから他国への侵入と定着を許すまでになってしまった。アメリカ以外にも中国や台湾など、日本はヒアリ保有国と活発に貿易をしており、ヒアリが知らずに輸入されるリスクに常にさらされている。


・ヒアリの被害


日本では「殺人アリ」としてヒアリへの恐怖が高まっているように見える。確かに、日本でヒアリが定着可能なエリアは関東以南と幅広く、自宅、路上、公園などの日常生活の場で子どもなどを中心にヒアリの脅威にさらされると予想され、人的被害は無視できない。


ただ、日常的にヒアリに刺されていた台湾出身の知人らは、ヒアリに刺されても死ぬことはまずないので、不快以上の感想はなく、日本の報道は大げさだ、と私に言っていた。これについては、首肯できるところがある。


ヒアリが及ぼす人的被害のリスクをどう見るかは、個々人で異なるだろう。ただ、一つ言えることは、ヒアリの被害は人への影響にとどまらないということだ。


ヒアリは広食性で昆虫などの節足動物の他に植物も食べる。ジャガイモ、トウモロコシの種子、柑橘類の木を食べ、作物への被害は無視できない。


さらに、ヒアリは生まれたばかりの脊椎動物を襲う習性があり、ニワトリやウシといった家畜の仔も殺されたり盲目にさせられることがある。これらに対する策にもコストがかかり、畜産業への被害は甚大だ。また、野生の希少種への影響も懸念される。


他にもヒアリにより不動産や観光地の価値が下がったり、ヒアリが電線をかじるなどして電気系統にダメージが与えられるなど、ヒアリによる被害は広範である。アメリカではヒアリによる経済損失は年間で50〜60億ドルにも及ぶ。ヒアリはただの「不愉快な生きもの」として片付けられないわけだ。


日本のどこかでヒアリがすでにコロニーを作っていたら、我々はなす術がないのだろうか。これについては、ヒアリが侵入してからの経過時間に依存しそうだ。女王アリは新コロニーを創設してから2年ほどは繁殖できる有翅虫を産まないため、それまでに殺蟻剤などを使用して徹底した駆除を行えば、撲滅できる可能性はある。


しかし、有翅虫を生産するようになると、生息域が爆発的に拡大していくので、完全な撲滅は困難になるだろう。


・ヒアリ対策


ヒアリを定着させないためには、早期の発見と防除が鍵となる。また、定着してしまった場合に備えて、ヒアリ駆逐のための基礎研究をすでに進めておく必要もありそうだ。「倒せない」ヒアリにも天敵が存在し、たとえばノミバエはヒアリに寄生して殺す生態をもつため、生物的防除の手段として研究が進められている。


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Image: ヒアリ頭部から羽化するノミバエ. 『ヒアリの生物学』より著者の許可を得て掲載


日本には世界的に見てもアリの専門家の層が厚く、ヒアリの生態を理解し弱点を探るためのプロジェクトを国の支援のもとに立ち上げてもよいだろう。


侵略的外来種として名高いヒアリは、基礎生物学にとって興味深い対象でもある。ヒアリのコロニーには女王アリが1匹しかいない単女王制コロニーと、2匹以上の女王アリが同居する多女王制コロニーがある。面白いことに、単女王制コロニーと多女王制コロニーでは、そこにいるヒアリのGp-9遺伝子の遺伝子型が異なる。


Gp-9遺伝子は、ヒアリ体表の匂い物質の合成に関わっていると考えられている。多女王制コロニーに共存している女王どうしの血縁関係はほとんどないため、この遺伝子の「印」だけで同居するかどうかを決めていることになる。例えるなら、血液型が同じというだけで赤の他人の家族と同居し、世話するようなものだ。


このGp-9遺伝子は、ヒアリの体表に「レッテル」を貼ることで、同じ「レッテル」、つまり、同じ遺伝子型をもつヒアリ個体に仲間を受け入れさせて利他行動を促している。結果として、同じ遺伝子型のコピーが増えていくことになる。


これは利己的遺伝子の典型と考えられ、「緑ひげ遺伝子」とよばれる。緑ひげ遺伝子の存在はリチャード・ドーキンスにより1970年代に予言されたが、それが1990年代にヒアリのGp-9遺伝子として実際に発見されたことになる。


このように、ヒアリは社会生物学のモデル生物として、興味深い知見を提供してきた。これから日本でアリ研究者を目指す若い世代にとって、(日本国内で研究するのは難しいかもしれないが)ヒアリは防除研究と行動生態学研究の両方において魅力的な材料に映るのではないだろうか。


・最後に


ここに紹介したヒアリの生態は、『ヒアリの生物学』の内容のごく一部であり、さらに詳しい内容を知りたい人はぜひとも本書を手にとってみてほしい。とはいえ、Amazonでは品切れが続いているので、出版社さんにはなんとかして本書を世の中に流通させてほしいものなのだが。(追記:出版社に問い合わせると入手できる可能性があるそうです。出版社のサイトはこちら。)


※本記事は有料メルマガ「クマムシ博士のむしマガ」392号「ヒアリの生物学」から抜粋したものです。

【料金(税込)】 1ヵ月864円(初回購読時、1ヶ月間無料)

「クマムシ博士のむしマガ」は、まぐまぐブロマガで購読登録できます。


・参考資料


『ヒアリの生物学』東 正剛、緒方 一夫、S.D. ポーター 著 東 典子 訳

ヒアリの生物学―行動生態と分子基盤

ヒアリの生物学―行動生態と分子基盤

Red imported fire ant: Wikipedia

ヒアリ(Solenopsis invicta)の国内初確認について:環境省

ストップ・ザ・ヒアリ:環境省

ヒアリに関するFAQ

兵庫県内で発見された特定外来生物ヒアリ(Solenopsis invicta)について

小さな侵入者”ヒアリ”を退治せよ!: academist


【関連記事】

horikawad.hatenadiary.com

horikawad.hatenadiary.com


【追記】

1. ヒアリによる死亡者数について註をつけました。(2017年7月6日)

2. ヒアリによる死亡者数100人という通説について検証した記事を追加しました。(2017年7月10日)

3. 『ヒアリの生物学』の出版元である海游舎のサイトへのリンクを追加しました。(2017年7月14日)

クマムシ博士の講演・イベントまとめ

クマムシ博士がこれまでに行ってきた講演やイベントなどの記録をピックアップしてまとめてあります。ここに掲載していない講演会やイベントも多数。講演などのご依頼は horikawadd@gmail.com までどうぞ。


東京大学大学院新領域創成科学研究科講義
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早稲田大学TWINS講義(2017年5月)
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瑞穂町クマムシ講演観察会(2017年3月)
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昆虫大学2016(2016年12月)
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東京弁護士会達成会90周年記念講演会(2016年11月)
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H28学校生活紹介会津学鳳中学校SSH講演会(2016年10月)
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沼口麻子シャークテーブルvol.4(2016年10月)
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山口大学大学院連合獣医学研究科獣医学キャリア形成論(2016年10月)
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つくばサイエンスネットワーク第15回交流会(2016年9月)
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北海道教育研究所講習会(2016年8月)
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慶應義塾大学医学・薬学部合同サマースクール(2016年7月)
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BioClubクマムシ研究会ワークショップ(2016年6月)
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第一回クマムシ学研究会(2016年4月)
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ヤクケンみどり会講演会:クロレラ工業株式会社(2016年4月)
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慶応義塾大学 Keio Spring Science Camp 2016(2016年3月)
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第四回筑波大学GLCNetシンポジウム: これが博士の生きる道(2016年3月)
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サイエンスZEROプレゼンスタジアム2015(2015年12月)
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いきもにあ2015(2015年12月)
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サイエンスアゴラ2015「オープンサイエンス革命」(2015年11月)
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博物ふぇすてぃばる!2015(2015年8月)
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ダーウィンルーム クマムシ講演会(2015年7月)
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クマムシバー月に吠える(2015年7月)
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金沢大学理工学部域理学談話会(2015年2月)
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第3回SPARC JAPAN セミナー(2014年10月)
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総合研究大学院大学第11回生命科学リトリート学生委員(2014年10月)
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京都大学Smips 研究現場の知財分科会(2014年8月)
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堀川大樹×岩崎秀雄×東浩紀「生物学はどこまで自由になれるのか?――DIYバイオの可能性」(2014年7月)
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分子生物学会2050年シンポジウム(2013年12月)
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公開講演会「宇宙にいのちを探す」(2013年12月)
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クマムシVS極限環境微生物(2013年9月)
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ニコニコ学会βむしむし生放送(2013年4月) (撮影: 石澤ヨージ氏)
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クマムシナイト(2012年3月)
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クマムシカフェ・イン・札幌(2012年3月)
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クマムシトークショー・アット・科学未来館(2012年3月)
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春だ!満開!クマムシ祭り(2012年3月)
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クマムシ研究クラウドファンディング、達成御礼

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3月から始めていたクマムシ研究クラウドファンディング、おかげさまで最終的に300人を超える支援者の方から350万円以上が集まりました。小さなクマムシへの大きな投資をしていただいた皆様に厚く御礼申し上げます。そして、今回のクラウドファンディングプロジェクトを周知いただいたメディアや個人の方々にも感謝いたします。


今回のクラウドファンディングは初めてということもあり、だいぶ不安もあったのですが、リアルクマムシ飼育観察キットお食事権といった高額リターンにベットする方も現れ、この世の人情というものに深く触れた気がしました。


ちなみに、クラウドファンディング期間の終盤中には、アイドルグループTOKIOがテレビ番組内で幻の魚「ラブカ」を捕獲したことがニュースになり、これが


「研究者にも予算がつけばいろんな成果が出せるのに」--->「クラウドファンディングで研究を支援できるよ!」


という流れになり、これでさらに支援が集まる結果となりました。ありがたい。風が吹けば桶屋が儲かるのごとく、TOKIOが活躍すると研究予算が集まる、という現象が見られるようです。


さて、リターンの発送は8月以降になりますので、どうかしばしお待ちいただければと思います。クラウドファンディングは終わりましたが、研究はスタート地点に立ったばかり。ここから研究を前に進めていきますので、引き続きよろしくまむしです。

第二回クマムシ学研究会を開催します

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写真:荒川和晴


我が国にてめざましい進展をみせるクマムシ研究。昨年に続き、第二回クマムシ学研究会を来る2017年 8月5日(土曜日)、東京大学本郷キャンパスにて開催します。


第二回クマムシ学研究会


本研究会は一般に公開する形で開催するので、どなたでも参加できます。参加費は無料ですが、こちらから事前登録をお願いします。締め切りは2017年7月31日です。


発表はすべて口頭発表です。発表をご希望の方は、こちらをご確認の上、手続きをお願いします。そのほか、本会についての情報は公式サイトをご確認ください。


なお、前回の模様はこちらの記事をご覧ください。


news.mynavi.jp


皆様のご参加を心よりお待ちしております。


追記:当日のプログラムが決まりました。

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サイエンスZERO出演のお知らせ

2017年6月18日(日)23時30分から放送のNHK『サイエンスZERO』に出演します。


www4.nhk.or.jp


これは昨年放送された環境DNA特集のアンコール放送。どうやらこの回が人気だったようで、もう1度放送されることになった模様。


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ちなみに再放送は2017年6月24日(土)12時30分から。アンコール放送の再放送、というややこしい言い回し。


サイエンスZEROは割とお堅いイメージがあったので、頭上に異物のある人物を何度も放送するのは意外。クマムシ博士がサイエンスZEROのレギュラーになる日も・・・ないな。


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乾いても死なないクマムシの謎。その鍵を握るのは……?

よく聞かれる質問の中に「どうしてクマムシを研究しはじめたんですか?」というものがある。「そのクマムシ帽子はどうやって頭にくっついているんですか?」の次に、頻繁に聞かれる質問である。


クマムシの道に入ったのは、私が大学学部4年生のとき。変わり者だった教授に興味を持ち、その研究室に入ったのがきっかけである。その教授、関邦博さんは「クマムシの超高圧耐性」を初めて発見した人だった。ある日、研究室OBの豊島正人さんが私にクマムシを見せてくれた。


クマムシは可愛かった。


豊島さんは、その可愛いクマムシを乾燥させた。水を失ったクマムシは、空き缶が潰れたような姿になり、まったく動かなかった。だが、水をかけてからしばらくすると徐々に動き始めた。信じられない光景だった。


「可愛くて、強い」。これが、私がクマムシに惹かれた理由だ。


今回は、このクマムシの「強さ」に焦点を当てて論じたい。クマムシは乾燥しても死なず、吸水すると復活できる。この乾燥した仮死状態を、乾眠という。



クマムシは乾眠になると、超低温、超真空、超高圧などの極限環境に耐えることができる最強モードになる。クマムシは乾眠に移行するとき、体内の水分が80%から3%以下にまで低下する。カチカチの鰹節でも、15%ほどの水分がある。クマムシがいかにカラカラかがわかるだろう。当然ながら、私たちがこんなふうにカラカラになってしまえば、水を吸ったとしても生き返ることはない。


通常、細胞から水がなくなると、細胞膜が壊れたり、タンパク質などの生体物質の構造が崩れてしまう。いったんそうなると、水が与えられても、元に戻ることはない。つまり、生命活動が再開せず、死んでしまう。


クマムシは動物であり、多細胞生物である。我々と同じように神経や筋肉といった組織をもつ。つまり、乾眠のクマムシ体内ではこれらの組織もカラカラになっているが、何らかのしくみで壊れないように守られているわけだ。カラカラになっても乾眠になって生き延びられるクマムシには、極端な乾燥ストレスから細胞を守る仕組みがあるはずだ。


クマムシの細胞を守る実体として最初に提唱された物質が、二糖類のトレハロースである。センチュウやネムリユスリカなどクマムシと同様に乾眠する動物では、乾眠時にこのトレハロースが体重の15〜20%ほど蓄積されることが知られていた(1)。


トレハロースは乾燥した細胞の中で水の代わりに生体分子と相互作用したり(2)、ガラス化とよばれる状態を作り出し細胞の構造を保持する働きがあると考えられている(3)。クマムシの一種カザリヅメクマムシ(Richtersius coronifer)でも、乾眠移行に伴ってトレハロース蓄積量が20倍以上になることから、やはりクマムシの乾眠にもトレハロースが重要な働きをもつものと思われた(4)。


だが、カザリヅメクマムシでは乾眠時のトレハロース蓄積量が体重の2%ほどと比較的少ない。さらに、トレハロースを全く蓄積しないクマムシの種類も見つかり(5)、「トレハロース説」はクマムシの乾眠メカニズムをうまく説明できないことがわかってきた。


時が経ち2010年代に入ると、我々が飼育実験系を確立したヨコヅナクマムシ(Ramazzottius varieornatus)(6)をはじめとした数種のクマムシのゲノム解析が進み、クマムシの乾眠メカニズムを解析するための分子基盤が整備されてきた。そして2012年、クマムシに特異的なタンパク質であるCAHS(Cytoplasmic Abundant Heat Soluble)タンパク質とSAHS(Secretory Abundant Heat Soluble)タンパク質が、ヨコヅナクマムシから見つかった(7)。


通常、タンパク質は熱すると凝集してしまうが、CAHSタンパク質とSAHSタンパク質は高温でも凝集しない。水に溶ける能力(親水性)がきわめて高い特徴がある。これらのタンパク質は水に溶けている時は決まった立体構造をとらないが、乾燥するとコイル状の構造(αヘリックス構造)をとり、細胞内外の生体分子と相互作用することで乾燥した細胞を保護しているのではないかと考えられた。


さらに、ヨコヅナクマムシには細胞のミトコンドリアに局在するLEAMタンパク質とMAHSタンパク質も確認された(8)。これらもクマムシ以外の生物では見つかっていなかったタンパク質であり、乾燥した際にミトコンドリアの構造を保つ働きがあると推測される。


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ヨコヅナクマムシの乾眠に関わると考えられているクマムシ固有タンパク質


クマムシ特異的に見られるこれらのタンパク質は、乾眠に重要な働きをもつと思われるが、「確実にそうだ」とは断言できない。クマムシの遺伝子の働きを抑えるなどしてこれらのタンパク質の合成を抑えたときに、クマムシが乾眠に入れなくなったときにようやく、これらのタンパク質がクマムシの乾眠メカニズムにかかわっていることを主張できるからである。また、この主張をするためには、クマムシのこれらのタンパク質をコードする遺伝子を他の生物や細胞に入れたとき、乾燥耐性の向上を確認するのも一つの手だ。


クマムシの遺伝子操作は長い間確立されてこなかったが、2013年にノースカロライナ大学の研究グループがドゥジャルダンヤマクマムシ(Hypsibius dujardini)にRNA干渉法を適用できることを示した(9)。RNA干渉法は、短い二本鎖RNAを細胞内に送り込み、遺伝子の転写産物であるmRNAに干渉し、目的のタンパク質を作らせなくする技術であり、発見者のFire博士とMello博士は 2006年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。


2017年、ノースカロライナ大学のグループは、ドゥジャルダンヤマクマムシの2つのCAHSタンパク質遺伝子と1つのSAHSタンパク質遺伝子の発現を抑制すると、乾燥耐性が有意に低下することを報告した(10)。さらにこのグループは、複数あるCAHSタンパク質遺伝子のうちのいくつかを大腸菌や酵母に入れ、乾燥耐性を向上させることにも成功した。


これら実験結果から、これらのタンパク質が、ドゥジャルダンヤマクマムシの乾燥耐性獲得に関わっていることが示されたのである。ただし、この研究報告ではRNA干渉法によりクマムシの遺伝子発現が実際に抑えられているかを確認していなかったりと、データの妥当性に不十分な点もある。


今後、CAHSタンパク質やSAHSタンパク質をはじめとしたクマムシの乾眠関連候補因子の働きを知るために、私はクマムシでのゲノム編集技術CRISPR/Cas9法を確立し、解析を進めていく予定だ。RNA干渉法ではターゲットの遺伝子の発現を完全には抑制できないし、その抑制も一過性のものだ。その一方で、ゲノム編集技術では標的の遺伝子を破壊できるため、遺伝子の働きを完全に失わせることができると期待される。


クマムシにおけるゲノム編集技術応用の報告はまだないため、この技術の確立は一から進めていかなければならないが、クラウドファンディング支援を生かしてぜひとも確立させ、「乾いても死なない」クマムシの強さの謎を少しでも解明していきたい。


参考文献


1. Watanabe M (2006) Anhydrobiosis in invertebrates. Applied Entomology and Zoology 41: 15-31.


2. Crowe JH, Carpenter JF, Crowe LM (1998) The role of vitrification in anhydrobiosis. Annual Review of Physiology 60: 73-103.


3. Sakurai M, Furuki T, Akao KI, Tanaka D, Nakahara Y, Kikawada T, Watanabe M, Okuda T. (2008) Vitrification is essential for anhydrobiosis in an African chironomid, Polypedilum vanderplanki. 105: 5093–5098.


4. Westh P, Ramløv H (1991) Trehalose accumulation in the tardigrade Adorybiotus coronifer during anhydrobiosis. Journal of Experimental Zoology 258: 303-311.


5. Hengherr S, Heyer AG, Koehler HR, Schill RO (2008) Trehalose and anhydrobiosis in tardigrades — evidence for divergence in responses to dehydration. FEBS Journal 275:281-288.


6. Horikawa DD, Kunieda T, Abe W, Watanabe M, Nakahara Y, Yukuhiro F, SakashitaT, Hamada N, Wada S, Funayama T, Katagiri C, Kobayashi Y, Higashi S, Okuda T (2008) Establishment of a rearing system of the extremotolerant tardigrade Ramazzottius varieornatus: a new model animal of astrobiology. Astrobiology 8: 549-556.


7. Yamaguchi A, Tanaka S, Yamaguchi S, Kuwahara H, Takamura C, Imajoh-Ohmi S, Horikawa DD, Toyoda A, Katayama T, Arakawa K, Fujiyama A, Kubo T, Kunieda T (2012) Two novel heat-soluble protein families abundantly expressed in an anhydrobiotic tardigrade. PLoS One 7: e44209.


8. Tanaka S, Tanaka J, Miwa Y, Horikawa DD, Katayama T, Arakawa K, Toyoda A, Kubo T, Kunieda T (2015) Novel mitochondria-targeted heat-soluble proteins identified in the anhydrobiotic tardigrade improve osmotic tolerance of human cells. PLoS One 10: e0118272.


9. Tenlen JR, McCaskill S, Goldstein B (2013) RNA interference can be used to disrupt gene function in tardigrades. Development Genes and Evolution 223: 171-181.


10. Boothby T, Tapia H, Brozena AH, Piszkiewicz S, Smith AE, Giovannini I, Rebecchi L, Pielak GJ, Koshland D, Goldstein B (2017) Tardigrades use intrinsically disordered proteins to survive desiccation. Molecular Cell 65:975-984.


※本記事はacademist Journalへの寄稿記事です

【書評】『バッタを倒しにアフリカへ』ストイックすぎる狂気の博士エッセイ

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)


書店内でいやでも目を引く、虫取り網をかまえこちらを凝視する全身緑色のバッタ男の表紙。キワモノ臭全開の本書だが、この著者はれっきとした博士、それも、世界の第一線で活躍する「バッタ博士」である。本書はバッタ博士こと前野ウルド浩太郎博士が人生を賭けてバッタの本場アフリカに乗り込み、そこで繰り広げた死闘を余すことなく綴った渾身の一冊だ。


「死闘」と書くと「また大袈裟な」と思われるかもしれない。だが著者が経験したのは、まぎれもない死闘だ。あやうく地雷の埋まった地帯に足を踏み入れそうになったり、夜中に砂漠の真ん中で迷子になったり、「刺されると死ぬことのある」サソリに実際に刺されたりと、デンジャーのオンパレードである。


なぜ、そこまでの危険を冒さねばならなかったのか。油田を掘り当てるためでも、埋蔵金を発掘するためでもない。そう。すべては「バッタのため」である。


昆虫学者に対する世間のイメージは「虫が好きでたまらない人」だろう。確かにそういう昆虫学者も多い。だが、著者は単なる「虫好き」とか「虫マニア」の域を軽く超越している。誤解を恐れずに言えば、著者には狂気が宿っている。この狂気は、「絶対に昆虫学者として食べていく」という目標に対する並々ならぬ執念から生まれているものだ。


本書は一貫して著者の狂気に彩られているが、軽妙でとぼけた筆致により狂気が見事に調理され、最高のエンターテイメントに仕上がっている。


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調査地で野営


著者が昆虫学者を志した源流は、幼少時代にある。きっかけは『ファーブル昆虫記』。ファーブルに憧れ昆虫学者を志した著者はさらに、外国で大発生したバッタに女性観光客が緑色の服を食べられたことを知り、「バッタに食べられたい」という願望を抱くようになる。大学院時代にバッタ研究を行い、晴れてバッタ博士となった著者は、『地球の歩き方』にも載っていないアフリカのモーリタニアに単身乗り込む。アフリカでたびたび大発生するサバクトビバッタの研究を行うためだ。


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サバクトビバッタの大群


サバクトビバッタはアフリカの半砂漠地帯に生息する害虫である。「群生相」とよばれる飛翔能力に長けたモードになると、群れで長距離を飛行しながら農作物を食い荒らす。数百億匹が群れて、東京都の面積がバッタに覆われるほどになるという。地球の陸地の20パーセントにもおよぶ範囲がこのバッタ被害を受け、年間被害総額は西アフリカだけで400億円以上になり、深刻な貧困をもたらす一因となっている。


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葉っぱと思いきやすべてサバクトビバッタ


サバクトビバッタの生態を知ることでこの生物の弱点を炙り出せれば、防除に役立てることができるかもしれない。バッタの研究には大きな意義があるわけだ。


大義名分のもと、好きなバッタを好きなだけ研究できる・・・と思ったら大間違いだ。博士号を取ったばかりの若手研究者のほとんどは任期付きの身分であり、業績を上げなければ安定した研究職に就くことはできない。業績とはつまり発表論文に他ならず、研究者としての価値は発表した論文の数と質で決まる。博士が余剰となっている今の時代、圧倒的な業績をもっていなければ、研究者として就職することはできない。


生物学研究はハイテク機器を駆使して行われるのが通例となってきた時代の中で、物資が豊かでなく研究インフラも不安定、文化も言語も大きく異なるモーリタニアで研究を行うことは、業績を出す上でたいへんなハンディキャップに映る。


実際に、現地の研究所従業員から相場以上のお金を取られたり、バッタを集めるために子供達から買い取ろうとしたらプチ暴動になったり、30万円をかけて作ったバッタ飼育用のケージがすぐに朽ちてしまったりと、割と大きめの不幸たちがバッタ博士に容赦なくボディーブローを浴びせる。


普通なら何度も心が折れてしまうような状況だが、それでもしぶといのが、著者だ。たまたま見つけたゴミムシダマシという別の昆虫に「浮気」し、それまで誰も見つけられなかった簡便な雌雄判別法を編み出し、論文を発表してしまう。モーリタニアでもアイディア一つで研究できることを証明した。


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研究中に遭遇したハリネズミは著者と同棲することに


そして圧巻なのは、著者のコミュニケーション能力の高さだ。コミュニケーション能力というと語学力を思い浮かべるが、著者は現地の公用語であるフランス語はほとんど話せない。著者がコミュニケーションに使う武器は、人柄そのものである。


自身が所属するサバクトビバッタ研究所の所長には「バッタ研究に人生を捧げアフリカを救う」と宣言し、「〜の子孫」という意味の「ウルド」をミドルネームで授けられた。著者の相棒のドライバーとはお互いにプライベートなところまでさらけ出し合い、ほぼ完璧に意思の疎通をはかれるまでになる。さらに、バッタ研究を円滑に進めるために、裏金ならぬ「裏ヤギ」としてヤギ1頭を仲間にプレゼントするなど、「そこまでするか」というくらいに根回しも怠らない。


そんな風に困難を次々と乗り越えていく著者だが、あまりに残酷な現実が待ち構えていた。待てど暮らせどサバクトビバッタが発生しない。現れないバッタ。バッタがいなければ何もできないバッタ博士。著者は己のことを「翼の折れたエンジェルくらい役立たず」だと悟り、ちょっとしたアイデンティティー・クライシスを迎えてしまう。


さらに追い討ちをかけるように、文部科学省から受けていた若手研究者支援も期限が切れてしまう。それは、無収入になることを意味していた。だが著者は、それでもアフリカに残ることを決意し、研究所長にこう伝える。

私はどうしてもバッタの研究を続けたい。おこがましいですが、こんなにも楽しんでバッタ研究をやれて、しかもこの若さで研究者としてのバックグラウンドを兼ね備えた者は二度と現れないかもしれない。私が人類にとってラストチャンスになるかもしれないのです。研究所に大きな予算を持ってこられず申し訳ないのですが、どうか今年も研究所に置かせてください。


ここまで痺れるお願いを言える人間が、どれだけいるだろうか。そして、このような人間を無収入にしても良いのだろうか。何かがおかしい。そう言いたくなってしまう。


しかし、不遇に陥っても愚痴をこぼさず、社会や国のせいにもせず、自力で対策を講じるところが、著者のたくましいところだ。ピンチに陥った著者は、日本でバッタ研究の重要性を認知してもらうためにと、まず、自らが有名になることを決意する。露出することで人気者になれば、バッタ問題も知ってもらえて、結果としてバッタ研究で食べていくことができるようになると考えたのだ。


ここで勘の良い読者は気づく。表紙のキワモノ感満載な姿格好も、著者の性癖というわけではなく、戦略的に練られた上でのアウトプットなのだと。表紙につられて本書を買った読者は、著者の術中にまんまとはまってしまった、と苦笑いをすることになる。


通常の研究者が行うようなアウトリーチ活動とは一線を画した、エンターテイメント性を前面に押し出した著者のさまざまな活動は人気を博し、とりわけに数万人が生中継を視聴した『ニコニコ学会ベータ:むしむし生放送』でのプレゼンはもはや伝説となっている。


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『ニコニコ学会ベータ:むしむし生放送』でのプレゼン


そんな露出作戦も功を奏してか、著者はその後、京都大学の職を見事にゲットする。そして現在は国際農林水産業研究センターで研究員として研究に従事している。念願だった昆虫学者として、ちゃんと食べていっているのだ。


そして、幼少の頃より抱き続けていた夢を叶える日もやってきた。モーリタニアにサバクトビバッタが大発生し、その大群を追う著者。果たして、バッタ博士は無事にバッタに食べられるのか・・・?


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バッタの大群に食べられるのを待つ著者


この部分を綴った本書の終盤にかけての疾走感を、ぜひとも味わってほしい。


本書に描かれているバッタの生態やモーリタニアの日常などを知ったところで、多くの人には何の役にも立たないだろう。「昆虫学者になる」という著者の目的を一つのプロジェクトと考えれば、本書は一種のビジネス書ともみなせるかもしれない。しかしながら、ストイックすぎる著者のように命を懸けられるような人などほとんどいないだろうし、普通の人にとってどこまで参考になるのか怪しいところだ。


だが、そんなことは、どうでもよいのである。遠い地で、人生を懸けて全力でバッタを追いかける日本人がいる。同じ時代にこんな日本人がいることを知れるだけで、自然と救われるし、勇気付けられる。


本書は、個人的に問答無用で2017年のナンバーワン。読書刺激に飢えたすべての人におすすめの一冊である。


孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生 (フィールドの生物学)

孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生 (フィールドの生物学)


こちらは著者による処女作。バッタ研究現場の詳細が楽しくわかる。


※画像提供:前野 ウルド 浩太郎
※本記事は書評サイトHONZに寄稿したものです


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クラウドファンディング・セカンドゴール達成とお食事同伴追加スペシャルゲストのお知らせ

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3月に開始したクマムシ研究クラウドファンディングも、ファンディング期間がのこりわずかとなりました。当初目標としていた支援額の200万円が10日間で達成し、セカンドゴールの300万円もおかげさまで達成しました。現時点で266名もの支援者の方々から総額320万円以上のご支援をいただいています。


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多くの方からご支援をいただき、改めてこの場を借りて御礼申し上げます。各リターンも制作準備が着々と進んでいますが、お届けまでは今しばらくお待ちください。下はクラウドファンディング限定リターン『かんみんシロクマムシちゃんぬいぐるみS』とそのタグ。


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今回のクマムシ研究クラウドファンディングでは限定ぬいぐるみなどさまざまなリターンプログラムを用意しました。その中には20万円の『リアルクマムシ飼育観察キット』30万円の『クマムシ博士と高井研博士とのお食事会』など、高額すぎて「誰がそんなの購入するんだよw」と言われたリターンプログラムもありました。


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ところが蓋を開けてみると、20万円の『リアルクマムシ飼育観察キット』を2名、そして30万円の『クマムシ博士と高井研博士とのお食事会』を1名の方に購入いただきました。世の中にはきっぷのよい方がいるものです。『リアルクマムシ飼育観察キット』は残り3名、『お食事会』は残り1名のみ空き枠が残っています。ちなみに『お食事会』購入者には『リアルクマムシ飼育観察キット』ももれなくついてきます。


さて、ここで今回のクラウドファンディングのリターンについて最後のお知らせがあります。30万円の『お食事会』プログラムですが、さらに追加で素敵なスペシャルゲストの同伴が決まりました。慶應義塾大学先端生命科学研究所准教授の荒川和晴博士です。


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荒川博士はクマムシの生物学にも深く関わっており、オンラインサロン「クマムシ博士のクマムシ研究所」でもいつも鋭いツッコミを入れてくれています。そんな荒川博士に今回の食事会に特別に参加してもらえることになりました。荒川博士についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照ください。


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さらにさらに。もう1名のスペシャルゲストの同伴が決定しました。復顔師の戸坂明日香博士です。


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戸坂博士は頭蓋骨に粘土をつけて生前の顔を復元する「復顔」の研究で博士号を取得。縄文時代から現代までの日本人の頭蓋骨から顔を復元することで、日本人の顔がどのように変化を遂げてきたかを調べています。


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戸坂博士も以前、クラウドファンディングに挑戦し、成功した経験をもっています。


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実は、私も出演した2015年のNHK『サイエンスZEROプレゼン大会』に戸坂博士も日本科学未来館科学コミュニケーター代表として出演していました。それがきっかけで知り合い、今回のゲスト参加を引き受けてくれたわけです。ちなみに、放映時の戸坂博士のユニークな一人芝居プレゼンについて、高井博士と荒川博士はそれぞれ次のようにコメントしていました。




お食事会を購入された方には、この4名の博士が同伴しておもてなしいたします。それぞれ専門ジャンルが違うので、多岐にわたる話が聞けること請け合い。


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クマムシ研究クラウドファンディングも残りわずかですが、限定リターンなどこの機会にしか購入できないアイテムもあるので、ご希望の方はお早めにどうぞ。


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