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むしブロ

クマムシ博士のドライ日記

テングザル―河と生きるサル:ボルネオ探訪記

テングザル―河と生きるサル:松田 一希著 (フィールドの生物学7)


著者の松田一希氏は僕とは北海道大学大学院時代の同じ研究室の出身で、しかも同級生。松田氏は現在、京都大学で特定助教をしている。拙著『クマムシ研究日誌』は、彼が僕のことを東海大学出版会の編集者田志口さんにプッシュしてくれたことで、企画が持ち上がった。


余談だが、彼はイケメンでおしゃれさんでもあるので、女性向けファッション誌『VERY』が開催したイケダン(イケてるダンナ)コンテストでも400人の中からベスト6まで勝ち進んだ経歴ももつ


松田氏は博士課程に進学後、テングザルの生態学研究をスタートさせた。霊長類のような大型哺乳類の生態調査は根気もいるし、データを集めるのもなかなか難しい。データをとりにくい研究なので、博士号をとるのも必然的に困難となる。非常にリスキーな研究テーマを選んでいるわけだが、裏を返せば、そこまでしてでも、彼はテングザルを追いかけたかった、ということだ。


テングザルはボルネオ島の河畔林に棲む。オスは天狗のような鼻をもつために、このような名前が付けられている。夜から朝方にかけては川辺ですごし、昼は森の中に入っていく。つまり、テングザルを追跡するには川上をボートで移動しながら観察するだけでなく、森の中に入っていくことも必要になる。きわめてタフな調査が要求されるが、そこは研究室のボスである東正剛教授の「パワー・エコロジー」の教えに従い、松田氏は突き進んでいた。


このようなパワー・エコロジーの実践により、彼はテングザルの詳細な行動パターンや食性を明らかにするだけでなく、霊長類で初めての記録となるテングザルの反芻行動を発見した。今や押しも押されもせぬテングザル研究の第一人者となっている。


海外を拠点とした生態学研究でたいせつなことは、実は野生生物と向き合う忍耐力だけではない。地元の住民たちといかに仲良くやっていけるかも、非常に大きな鍵となる。松田氏は流暢なマレーシア語を喋るが、これはすべて現地のマレーシア人とコミュニケーションをとりながら徐々に覚えていったのだそうだ。あくまでも対等な立場として、しかし時には舐められないように、うまく接してゆく。円滑な研究活動の遂行は、このようなコミュニケーション能力にも依存するのである。


さて、実は僕も5年ほど前に松田氏がテングザル調査をしているマレーシアのスカウ村を訪ねたことがある。スカウ村は本当に素朴な村で、そこにいた子ども達の目がとても澄んでいたことが印象に残っている。不注意に川の中に入って釣りをしていて、ワニに食べられてしまう人もいる。野外でランチを食べていると羽アリが多数ごはんに落ちてきて、注意していても食物がアリごと口の中に入ってしまう。そんな、ワイルドな場所だ。


スカウ村のようす
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スカウ村を流れる川
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スカウ川の上をボートですいすいと進むと、熱帯林特有の甘い匂いがした。


ボート上の松田氏(右)とマレーシア人の助手さん(左)
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ほどなくして運良く、僕らは川沿いの木々にたたずむテングザルを見つけることができた。


木の上で休むテングザル
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テングザルは思ったよりも落ち着いていて、あまりアクションがない。まあ、大型哺乳類はどれもだいたいそんなものなのだろう。


さらに幸運なことに、テングザルだけではなく、野生のボルネオゾウまで発見。


ボルネオゾウ
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ボルネオゾウにかなり近づくことができた。ただし、あまり近づきすぎると攻撃してくるので、一定の間合いをとらなければ危険だという。


そして、生きものとの遭遇はこれだけでは終わらなかった。野生のオランウータンまで見ることができたのだ。


オランウータン
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「ウォッォッォッォッ!」


吠えたのはオランウータンではなかった。松田氏だ。なんと、彼はオランウータンとコミュニケーションをとり始めたのだ。マレー語だけでなく、オランウータン語も堪能に操れるというわけだ。


いつの間にかこのコラムが僕のボルネオ探訪紀となってしまったが、とにかく本書はテングザルの生態だけでなく、ボルネオ情緒を知るにもうってつけの良書である。


※本記事は有料メルマガ「むしマガ」292号「南極クマムシツアー」の一部です。

クマムシ博士のむしマガVol. 292【南極クマムシツアー】

2015年5月17日発行
目次

【0. はじめに】もうすぐイタリア

来月下旬は三年に一度の国際クマムシシンポジウムがイタリアのモデナで開催されます。イタリアは伝統的にクマムシ研究が盛んで、今もモデナ大学のグループが幅広いトピックでクマムシ研究を精力的に進めています。イタリア料理も楽しみ。

【1. むしコラム「南極クマムシツアー」】
南極のクマムシについては1世紀以上にわたって調査されている。南極クマムシ研究の実態をレポート。

【2. 今週の一冊『テングザルー河と生きるサル』】
ボルネオでテングザルの研究に没頭した男の研究の記録。

【3. おわりに「新宿ゴールデン街ツアー」】
新宿ゴールデン街をはじめてめぐってきました。

【料金(税込)】 1ヵ月840円(初回購読時、1ヶ月間無料) 【 発行周期 】 毎週

「クマムシ博士のむしマガ」のご購読はこちらから

クマムシさんのLINEスタンプをつくってみた

今月のはじめに、クマムシさんのLINEスタンプがリリースされました。イラストはイラストレーターの阪本かもさんに描いていただきました。


クマムシさんスタンプ:LINEストア

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すでに多くの方に使っていただき、毎日1000個のクマムシさんスタンプが送信されています。ダウンロードしていただいたみなさま、有り難うございます。


今回のクマムシさんスタンプはLINEでの審査が3ヵ月以上かかりました。投稿論文のそれと同じくらいの期間ですね。でも、リジェクトもされずリバイズの要求もされず、一発アクセプトだったのでよかったです。中には審査に9ヵ月間かかったものもあったらしいし。


言い換えればそれだけLINEに申請されてくるスタンプが多いわけで。それを物語るデータがあります。LINEスタンプ検索で「クマムシ」と入れると、芸人クマムシのスタンプの他に本物のクマムシをモチーフにしたクマムシを含むスタンプがいくつかヒットします。


「ミジンコ」のスタンプも30個以上ありますね。こういうニッチなスタンプですら、これだけの数がある。クマムシさんのスタンプも、この無数のスタンプの渦の中に埋もれそう。


今回は阪本かもさんにイラストを描いてもらったのですが、ちょっと時間が作れたら自分でも何か作ってみたいですね。「イヤなかんじの博士スタンプ」とか。「進捗どうですか」「Nが足りないね」「その話の新規性はどこ?」などイライラして誰も買わないようなスタンプ。・・・やっぱりやめておこう。


あるスタンプが検索をとおして発見してもらうのは困難です。だけれども、そこそこの規模のコミュニティーであれば、そのコミュニティーの内輪で使い回すようなスタンプを趣味の延長線上で作ってもいいかなと思います。大学のサークルとか学会とか。制作のコストもかからないですしね。


というわけで、こちらのクマムシさんLINEスタンプをどうぞよろしくお願いします。


※本記事は有料メルマガ「むしマガ」291号「ゲノム編集がおこす社会変革(後編)」の一部です。

クマムシ博士のむしマガVol. 291【ゲノム編集がおこす社会変革(後編)】

2015年5月3日発行
目次

【0. はじめに】近況

先週から屋内に籠る生活を続けているため、この心地よい天気を満喫できずにもやもやしています。

【1. むしコラム「ゲノム編集がおこす社会変革(後編)」】
欲望という名の川がいったんひとつの方向に流れ出せば、止めるのは難しい。ゲノム編集技術は、パンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。

【2. 今週の一冊『クマムシ研究日誌ー地上最強生物に恋してー』】
クマムシにかけた青春。クマムシ博士の研究日誌。

【3. おわりに「クマムシさんLINEスタンプ」】
クマムシさんのLINEスタンプがリリース。巷で好評です。

【料金(税込)】 1ヵ月840円(初回購読時、1ヶ月間無料) 【 発行周期 】 毎週

「クマムシ博士のむしマガ」のご購読はこちらから

クマムシ本『クマムシ研究日誌』を出版します。

5月下旬にクマムシ本が出ます。タイトルは『クマムシ研究日誌』。メルマガ「むしマガ」で連載していた同タイトルの原稿をベースにまとめたものです。すでにAmazonで予約受付を開始しています。


クマムシ研究日誌: 地上最強生物に恋して


前作のクマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちーではクマムシの話が全体の3分の1ほどだったのに対し、『クマムシ研究日誌』は一冊まるごとクマムシの話。私がクマムシに出逢ってからこれまでの研究人生を時系列で追いつつ、初心者からマニア向けのクマムシ教養をつめこみました。


『クマムシ研究日誌』は怪作ぞろいの『フィールドの生物学シリーズ』の第15弾目として東海大学出版会から出版されます。このシリーズでの出版ということで、執筆中もプレッシャーがありましたが、なんとか出版までこぎ着けられてほっとしています。『クマムシ研究日誌』の目次は以下のとおり。

クマムシ研究日誌 
ー地上最強生物に恋してー


目次


はじめに

第1章 クマムシに出会うまで


型破り教授
クマムシとの出会い
クマムシとの遭遇
カーブのすっぽ抜けが真ん中やや高めに甘く入ってきた
【コラム】 クマムシとは
クマムシの圧力耐性
変な優越感
クマムシの酒
着手
クマムシを誰かにやらせようと思っていた
卒業研究

第2章 クマムシに没頭した青春の日々


パワーエコロジー
背中に深く突き刺さるナイフのような視線
運命のクマムシ
このクマムシ何のクマムシ気になるクマムシ
手なづけられたフェレットのように
大学院生としてやっていけるという自信が確信へと変わる夏
消えた学会発表資料
国際クマムシシンポジウム二〇〇三
【コラム】 人生最大のピンチ到来
クマムシと橋本聖子選手における共通点についての考察
ボゴールの奇跡
熱帯育ちの眠り姫たちに待っていた過酷な試練
クマムシを乾かそう
研究人生の転機
新天地
オニクマムシの飼育
オニクマムシの介護
【コラム】つくばライフ
ガンマ線照射施設に立ち入る
イオン線照射施設TIARA
クマムシ地獄
【コラム】つくばの異次元タイ料理店
飼い犬の鼻先をゆっくりと触れるように
岩のような塊となって肩にのしかかる落胆
最有力候補クマムシ
クマムシ・レボリューション
乾燥スケジュール異常なし
横綱級の乾燥耐性
命名「ヨコヅナクマムシ」
【コラム】乾燥耐性メカニズム
【コラム】乾燥すると縮まるクマムシの謎
宇宙生物科学会議とタコス
NASA進出への伏線
クマムシのなかまの発見と二度目の居候
【コラム】真っ白に燃え尽きるのか
クマムシゲノムプロジェクト始動
【コラム】乾眠クマムシの記憶

第3章 クマムシとNASAへ


学振の生殺し
九回の裏ツーアウトからの逆転サヨナラ
【コラム】アカデミアで研究者になるには
【コラム】余剰博士問題について
新天地2
【コラム】アメリカでの宿探し
クマムシ餌問題
【コラム】ジョン(John)
クマムシと宇宙生物学
【コラム】科学啓蒙に大切なこと

第4章 クマムシ研究所設立の夢


おもしろいことができれば、それでよい


あとがき


せっかくなので、フィールドの生物学シリーズの歴代の作品も紹介します。どれも新進気鋭の若手研究者たちが著した、熱い研究記です。


熱帯アジア動物記―フィールド野生動物学入門:松林 尚志著 (フィールドの生物学1)


サイチョウ―熱帯の森にタネをまく巨鳥:北村 俊平著 (フィールドの生物学2)


モグラ―見えないものへの探求心:川田 伸一郎著 (フィールドの生物学3)


虫をとおして森をみる―熱帯雨林の昆虫の多様性:岸本 圭子著 (フィールドの生物学4)


共生細菌の世界―したたかで巧みな宿主操作:成田 聡子著 (フィールドの生物学5)


右利きのヘビ仮説―追うヘビ、逃げるカタツムリの右と左の共進化:細 将貴著 (フィールドの生物学6)


テングザル―河と生きるサル:松田 一希著 (フィールドの生物学7)


アリの巣をめぐる冒険―未踏の調査地は足下に:丸山 宗利著 (フィールドの生物学8)


孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生:前野・ウルド・浩太郎著 (フィールドの生物学9)


凹凸形の殻に隠された謎: 腕足動物の化石探訪:椎野 勇太著 (フィールドの生物学10)


野生のオランウータンを追いかけて―マレーシアに生きる世界最大の樹上生活者:金森 朝子著 (フィールドの生物学11)


クマが樹に登ると―クマからはじまる森のつながり:小池 伸介著 (フィールドの生物学12)


イマドキの動物ジャコウネコ: 真夜中の調査記:中島 啓裕著 (フィールドの生物学13)


裏山の奇人: 野にたゆたう博物学:小松 貴著 (フィールドの生物学14)


ではでは。


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