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クマムシ博士のドライ日記

捏造の科学者 STAP細胞事件:科学界に横たわる問題を提起し続ける装置

捏造の科学者 STAP細胞事件:須田桃子


本書は毎日新聞記者の須田桃子氏によるSTAP細胞騒動の記録である。2015年の大宅壮一ノンフィクション賞にも選ばれている。


物語は、須田氏が笹井芳樹氏からのメールを受け取るところから始まる。須田桃子氏によるSTAP細胞騒動の記録である。物語は、須田氏と笹井芳樹氏とのメールのやりとりからはじまる。理研CDBから記者会見の招待を受けた須田氏が笹井氏に問い合わせたところ、笹井氏から会見への参加を強く勧められる。


STAP細胞論文発表の記者会見は、発見内容のインパクトの大きさに加えて、プロモーション要素も大きなものだった。熱狂する世間と科学界。しかし、その直後からSTAP細胞論文に数々の疑義が浮上する。須田氏らはSTAP細胞論文の主要著者である笹井氏、若山照彦氏、丹羽仁史氏、そして理研CDBセンター長の竹市雅俊氏に率直な疑問をぶつける。とくに、笹井氏とのメールのやりとりは分量も多く、生々しさが際立つ。


騒動の争点となった疑義の科学的な解説も秀逸だが、本書を通してもっとも感じるのは研究者たちの人間くささだ。科学や研究の世界では、ある事象に対しては私情を排して客観的かつ批判的に分析することが求められる。本件で責任的立場にあった理研CDBの研究者たちは、この能力がとくに優れていた。だが、どんなに優秀な研究者であっても、立場によっては科学哲学は二の次になりうることが、本件から浮き彫りになった。


STAP細胞論文に重大な疑義が見つかり、追試に成功していないにもかかわらず、細胞作製の詳細なプロトコールを発表したこと。STAP細胞やSTAP細胞から派生したとされる残存試料の解析は後回しにして、細胞作製の検証ばかりを優先したこと。彼らの説明は、科学的な論理が破綻しておいた。もしも彼らが当事者でなければ、このような判断や行動はしなかったことだろう。


本書は騒動の詳細を時系列順に追っており、よくまとまっている。ただし、ひとつ残念なのは、本件に対するネットの関わりについてあまり述べられていないことだ。


著者が大手新聞社の記者であるというポジションを考えれば、マスメディアのアクティビティーばかりに言及するのは仕方ないことかもしれない。しかし、STAP細胞論文や小保方氏の博士論文の疑義を見つけ出したのはネット上の人々であり、マスメディアもそれらの情報を頼りに報道をしていた部分も大きい。マスメディアから出た情報については媒体名を引用しているが、ネット上の情報については媒体名を記載せずに「ネット上」とひとくくりにするのは違和感を覚える。


須田氏自身も間違いなくTwitter上の研究者たちのつぶやきやPubPeer11jigen氏のブログ2ちゃんねる生物板などから情報を得ていたはずだ。本書では本件におけるネット上の各媒体が果たした役割についてあまり触れられておらず、そこには物足りなさを感じる。


とはいえ、STAP細胞騒動を本書ほど包括的に記載した本は他にないのも間違いない。研究分野間での熾烈な競争、保身に走る研究者や組織、世間と専門家との間の見識の乖離。STAP細胞騒動は無数の要因がその背景に存在し、そして、数えきれないほどの課題を残した。STAP細胞騒動を時系列順にまとめた本書は、これらの問題をこの先も提起し続ける装置として機能することだろう。


STAP細胞騒動における疑義や、解析結果の科学的な解説については、日経サイエンス2015年3月号「STAPの全貌」に詳しい。


日経サイエンス2015年3月号「STAPの全貌」


こちらも合わせて読むと、本騒動の核心をより深く理解できる。


※本記事は有料メルマガ「むしマガ」288号「熱気を帯びる地球外生命探査計画」の一部です。

クマムシ博士のむしマガVol. 288【熱気を帯びる地球外生命探査計画】

2015年4月12日発行
目次

【0. はじめに】クマムシ受容体
世間でクマムシの認知度が上がっている。クマムシ受容体が人々に発現しているのだ。そのため、以前に比べるとクマムシに関する情報がより届きやすくなっている。

【1. むしコラム「熱気を帯びる地球外生命探査計画」】
NASAのチーフサイエンティストが「地球外生命の兆候を10年以内に見つける」と発言。宇宙探査には莫大な資金がかかるため、国民の理解が必要になる。日本でも地球外生命探査を実現するために、研究者たちはあの手この手で資金をつかもうとしている。

【2. 今週の一冊『捏造の科学者 STAP細胞事件』】
毎日新聞記者によるSTAP細胞騒動の記録。本書は、科学界に横たわる問題をこの先も提起し続ける装置として機能することだろう。

【3. おわりに「クマムシチャンネル」】
クマムシチャンネルでは今後、スペシャルゲストたちが続々と登場していく予定だ。

【料金(税込)】 1ヵ月840円(初回購読時、1ヶ月間無料) 【 発行周期 】 毎週

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線虫を食べるクマムシ

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先日、線虫を丸呑みしているオニクマムシを発見した。オニクマムシは肉食で、通常はヒルガタワムシなどを飲み込むようにして食べる。だが、線虫を食べることはほとんどない。線虫は飲み込むには大きすぎるので、通常は食べられないからだ。線虫の体の側面から食べることもできない。でも、今回観察されたように、頭か尾ならば、線虫も口に入れることができる。


こういう捕食パターンは初めて見た。最初に見たときは、線虫の長さがこの3倍以上あった。ゆっくりと飲み込むようにして食べていき、この二日後には完全に食べ終わっていた。見慣れているクマムシでも、観察していると今回のような新しい発見もあって面白い。


【関連記事】

ナショジオ『クマムシ観察絵日記』一話〜二十話

クマムシが毎日新聞で取り上げられました

クマムシが2015年4月9日付けの朝刊で取り上げられました。


クマムシ:地球最強の多細胞生物 その生態と耐性の秘密
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最近は芸人のクマムシがブレイクしてクマムシの認知度が上がったせいか、本物のクマムシについて問い合わせをいただく機会が増えた気がします。


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こういう流れでクマムシの認知度が高まるのはよいことだし、一人でも多くの人にクマムシのことについて知ってほしいですね。