クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

『ヒアリの生物学』でヒアリの生態を知る

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Image: Insects Unlocked (Creative Commons CC0 1.0 Universal Public Domain Dedication)


2017年5月、神戸港で国内では初となるヒアリが発見された。さらに同年6月には名古屋港と大阪港でもヒアリが確認された。ヒアリは原産地の南米からアメリカ、オーストラリア、そしてアジア諸国へと侵入、定着しており、その分布域を拡大している。


ヒアリは針をもち毒を打ち込んで攻撃し、場合によっては人間を死に至らしめるともある。このことから、国内のメディアでも「殺人アリ」ヒアリについて大きく取り上げるようになってきたが、この侵略的外来種が実際にどの程度脅威となりうるのかについて、正確かつ詳細な情報源が限られているのが現状だ。


この生物について国内で入手できる情報源のうち、もっとも豊富な情報を提供してくれるのが書籍『ヒアリの生物学』だろう。


ヒアリの生物学―行動生態と分子基盤

ヒアリの生物学―行動生態と分子基盤


(追記:Amazonで在庫切れの場合、出版社に問い合わせると入手できる可能性があるそうです。出版社のサイトはこちら。)


2008年に出版された本書には、次のような一節がある。

ヒアリは将来日本を侵略するだろうか?答えは「イエス」である。問題は、いつ、どこに侵入するかということだ。


9年前に出版された本書は、まさに今の日本の状況を言い当てていた。今回は、本書からの情報を中心に、この生物の生態、侵略の経過、そして対策などを見ていきたい。


・ヒアリとは


ヒアリは広義には「刺されると火傷のような痛みを起こすアリの総称」だが、狭義には南米原産のSolenopsis invictaのことをいう。ここでも、このS. invictaをヒアリとよぶことにする。ちなみにinvictaとは「強い、やっつけられない」という意味。まさしく、このアリの絶望的なまでのタフさを言い表している。


触角の先に2節からなるふくらみがあることと、お腹の近くの腹柄に2つのこぶがあることが、ヒアリの形態の特徴。


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Image: ヒアリのワーカー. 『ヒアリの生物学』より著者の許可を得て掲載


ヒアリは日当たりの良い場所に巣を作る。原産地の南米よりも侵入先のアメリカなどの方でヒアリが繁栄しているが、これは宅地や公園などの都市環境がヒアリにとって好都合なこともあるようだ。人間がせっせとヒアリのための環境を整えている事実は、なんとも皮肉である。


ヒアリの巣はマウンド状のアリ塚を形成する。


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Image: ヒアリのアリ塚. 『ヒアリの生物学』より著者の許可を得て掲載


日本ではこのようなアリ塚を作るアリはほとんどいないため、もしヒアリがそれなりの規模の巣を作っていれば、これが目印になる。コロニー内のアリの数は数万〜数十万にもなる。つまり、大きなコロニーには、鳥取県の全人口と変わらない数のアリが暮らしているわけだ。


突然の雨に見舞われても、ヒアリは怖気づかない。ヒアリたちは互いに組み合ってイカダをつくり、水たまりに浮いて避難する。恐るべき生存能力。


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Image: TheCoz (Creative Commons Attribution-Share Alike 4.0 International)


他のアリと同様に、ヒアリは巣内に女王アリとワーカーがいる(真社会性)。女王アリは1時間に80個のペースで卵を産み、一生の間に200〜300万個の卵を生産する。ワーカーはすべてメスだが生殖能力はない。ワーカーの大きさは2.5〜6ミリメートルとばらつきがあり、小型ワーカーは主に巣内の仲間の世話や採餌を、大型ワーカーは主に餌となる種子を砕いたり巣を掘ったりする。


ワーカーには、女王アリや仲間の防衛という重要な任務がある。平均して、小型ワーカーは1回の攻撃で7刺し、大型ワーカーは4刺しする。攻撃力は小型ワーカーの方が高い。


女王アリが生殖力をもつ新女王とオス(有翅虫)を産む時期は、ワーカーが1刺しあたりに注入する毒の量は1.5倍となり、攻撃力が増す。この攻撃力増大は、自分たちの血縁者を守る適応的行動だと考えられる。この攻撃力の変化が女王アリからのシグナルにより引き起こされるのか、興味深いところだが、よくわかっていないようだ。



ヒアリの動画


・ヒアリの毒


アメリカでヒアリに刺される人は年間1400万人であり、毎年100人ほどが死亡していると推定された(註: この値は推定値であり、実際の数については議論がある→こちらで検証しました)。ちなみに、日本でスズメバチに刺されて死亡する人は、年間20人ほど。日本国内の交通事故で亡くなるのは4000人ほどだ。


ヒアリに刺されると激痛が走り、刺された箇所が赤く腫れあがる。ヒアリは一度に何度も刺すため、同じ場所に複数の腫れができる。ハチに刺された時には見られない膿疱ができるのが特徴だ。


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Image: ヒアリに刺されたあと. 『ヒアリの生物学』より著者の許可を得て掲載


ハチ目のうち毒を合成するハチやアリのほとんどは、毒成分のほとんどはタンパク質らしい。だがヒアリ毒はアルカロイド毒であるソレノプシンが主成分であり、この生合成経路も備えている。ソレノプシンは膜表面タンパク質の機能阻害や神経間のアセチルコリン伝達阻害を引き起こす。幼児が一度に多数のヒアリに襲われると、この直接的な毒作用で呼吸困難に陥り、死亡することもあるようだ。


通常、ヒアリに刺されても1週間ほどで治癒するが、すでにヒアリに刺されたことがある人は過剰反応を起こし、アナフィラキシーショックを引き起こすこともあり、最悪の場合は死に至ることもある。


ヒアリに刺された時は、漂白剤を同量の水で薄めて患部を洗浄し、かゆみを抑える抗ヒスタミン剤や細菌感染を防ぐ薬を塗っておく。市販の虫刺され薬で良いようだ。万一アナフィラキシーショックを起こした時はエピネフリン(アドレナリン)など、ステロイド薬を注入したりと、病院で内科的処置を行わなければならない。


ただし、ヒアリに刺されて死ぬ確率は14万人に1人(0.001パーセント以下)程度ときわめて低いことを覚えておきたい。


・ヒアリ侵略の歴史


ヒアリが南米からアメリカに侵入したのは1930年代と考えられており、それ以降生息域を拡大し続けている。上述のように、ヒアリにとって好適な日当たりの良い開けた環境が多いことも分布域拡大の原因だが、南米に存在していたような天敵がアメリカにいないことも、ヒアリが新天地で繁栄した大きな理由のようだ。


アメリカでは1950年代から1980年代にかけて、総額1億7千万ドルもの巨額の費用をかけて殺蟻剤を散布するなど対策を講じたが、ヒアリを撲滅することはできなかった。この間、有機塩素系農薬の散布による他生物への悪影響も顕在化し、レイチェル・カーソンによる『沈黙の春』に代表される環境保護運動の盛り上がりもおきた。そして残念ながら、人間や生態系に影響のない殺蟻剤の開発もうまくいかなかった。


結局、アメリカでは原産地よりもはるかに高密度のヒアリが生息することとなり、アメリカから他国への侵入と定着を許すまでになってしまった。アメリカ以外にも中国や台湾など、日本はヒアリ保有国と活発に貿易をしており、ヒアリが知らずに輸入されるリスクに常にさらされている。


・ヒアリの被害


日本では「殺人アリ」としてヒアリへの恐怖が高まっているように見える。確かに、日本でヒアリが定着可能なエリアは関東以南と幅広く、自宅、路上、公園などの日常生活の場で子どもなどを中心にヒアリの脅威にさらされると予想され、人的被害は無視できない。


ただ、日常的にヒアリに刺されていた台湾出身の知人らは、ヒアリに刺されても死ぬことはまずないので、不快以上の感想はなく、日本の報道は大げさだ、と私に言っていた。これについては、首肯できるところがある。


ヒアリが及ぼす人的被害のリスクをどう見るかは、個々人で異なるだろう。ただ、一つ言えることは、ヒアリの被害は人への影響にとどまらないということだ。


ヒアリは広食性で昆虫などの節足動物の他に植物も食べる。ジャガイモ、トウモロコシの種子、柑橘類の木を食べ、作物への被害は無視できない。


さらに、ヒアリは生まれたばかりの脊椎動物を襲う習性があり、ニワトリやウシといった家畜の仔も殺されたり盲目にさせられることがある。これらに対する策にもコストがかかり、畜産業への被害は甚大だ。また、野生の希少種への影響も懸念される。


他にもヒアリにより不動産や観光地の価値が下がったり、ヒアリが電線をかじるなどして電気系統にダメージが与えられるなど、ヒアリによる被害は広範である。アメリカではヒアリによる経済損失は年間で50〜60億ドルにも及ぶ。ヒアリはただの「不愉快な生きもの」として片付けられないわけだ。


日本のどこかでヒアリがすでにコロニーを作っていたら、我々はなす術がないのだろうか。これについては、ヒアリが侵入してからの経過時間に依存しそうだ。女王アリは新コロニーを創設してから2年ほどは繁殖できる有翅虫を産まないため、それまでに殺蟻剤などを使用して徹底した駆除を行えば、撲滅できる可能性はある。


しかし、有翅虫を生産するようになると、生息域が爆発的に拡大していくので、完全な撲滅は困難になるだろう。


・ヒアリ対策


ヒアリを定着させないためには、早期の発見と防除が鍵となる。また、定着してしまった場合に備えて、ヒアリ駆逐のための基礎研究をすでに進めておく必要もありそうだ。「倒せない」ヒアリにも天敵が存在し、たとえばノミバエはヒアリに寄生して殺す生態をもつため、生物的防除の手段として研究が進められている。


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Image: ヒアリ頭部から羽化するノミバエ. 『ヒアリの生物学』より著者の許可を得て掲載


日本には世界的に見てもアリの専門家の層が厚く、ヒアリの生態を理解し弱点を探るためのプロジェクトを国の支援のもとに立ち上げてもよいだろう。


侵略的外来種として名高いヒアリは、基礎生物学にとって興味深い対象でもある。ヒアリのコロニーには女王アリが1匹しかいない単女王制コロニーと、2匹以上の女王アリが同居する多女王制コロニーがある。面白いことに、単女王制コロニーと多女王制コロニーでは、そこにいるヒアリのGp-9遺伝子の遺伝子型が異なる。


Gp-9遺伝子は、ヒアリ体表の匂い物質の合成に関わっていると考えられている。多女王制コロニーに共存している女王どうしの血縁関係はほとんどないため、この遺伝子の「印」だけで同居するかどうかを決めていることになる。例えるなら、血液型が同じというだけで赤の他人の家族と同居し、世話するようなものだ。


このGp-9遺伝子は、ヒアリの体表に「レッテル」を貼ることで、同じ「レッテル」、つまり、同じ遺伝子型をもつヒアリ個体に仲間を受け入れさせて利他行動を促している。結果として、同じ遺伝子型のコピーが増えていくことになる。


これは利己的遺伝子の典型と考えられ、「緑ひげ遺伝子」とよばれる。緑ひげ遺伝子の存在はリチャード・ドーキンスにより1970年代に予言されたが、それが1990年代にヒアリのGp-9遺伝子として実際に発見されたことになる。


このように、ヒアリは社会生物学のモデル生物として、興味深い知見を提供してきた。これから日本でアリ研究者を目指す若い世代にとって、(日本国内で研究するのは難しいかもしれないが)ヒアリは防除研究と行動生態学研究の両方において魅力的な材料に映るのではないだろうか。


・最後に


ここに紹介したヒアリの生態は、『ヒアリの生物学』の内容のごく一部であり、さらに詳しい内容を知りたい人はぜひとも本書を手にとってみてほしい。とはいえ、Amazonでは品切れが続いているので、出版社さんにはなんとかして本書を世の中に流通させてほしいものなのだが。(追記:出版社に問い合わせると入手できる可能性があるそうです。出版社のサイトはこちら。)


※本記事は有料メルマガ「クマムシ博士のむしマガ」392号「ヒアリの生物学」から抜粋したものです。

【料金(税込)】 1ヵ月864円(初回購読時、1ヶ月間無料)

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・参考資料


『ヒアリの生物学』東 正剛、緒方 一夫、S.D. ポーター 著 東 典子 訳

ヒアリの生物学―行動生態と分子基盤

ヒアリの生物学―行動生態と分子基盤

Red imported fire ant: Wikipedia

ヒアリ(Solenopsis invicta)の国内初確認について:環境省

ストップ・ザ・ヒアリ:環境省

ヒアリに関するFAQ

兵庫県内で発見された特定外来生物ヒアリ(Solenopsis invicta)について

小さな侵入者”ヒアリ”を退治せよ!: academist


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【追記】

1. ヒアリによる死亡者数について註をつけました。(2017年7月6日)

2. ヒアリによる死亡者数100人という通説について検証した記事を追加しました。(2017年7月10日)

3. 『ヒアリの生物学』の出版元である海游舎のサイトへのリンクを追加しました。(2017年7月14日)

【書評】『バッタを倒しにアフリカへ』ストイックすぎる狂気の博士エッセイ

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)


書店内でいやでも目を引く、虫取り網をかまえこちらを凝視する全身緑色のバッタ男の表紙。キワモノ臭全開の本書だが、この著者はれっきとした博士、それも、世界の第一線で活躍する「バッタ博士」である。本書はバッタ博士こと前野ウルド浩太郎博士が人生を賭けてバッタの本場アフリカに乗り込み、そこで繰り広げた死闘を余すことなく綴った渾身の一冊だ。


「死闘」と書くと「また大袈裟な」と思われるかもしれない。だが著者が経験したのは、まぎれもない死闘だ。あやうく地雷の埋まった地帯に足を踏み入れそうになったり、夜中に砂漠の真ん中で迷子になったり、「刺されると死ぬことのある」サソリに実際に刺されたりと、デンジャーのオンパレードである。


なぜ、そこまでの危険を冒さねばならなかったのか。油田を掘り当てるためでも、埋蔵金を発掘するためでもない。そう。すべては「バッタのため」である。


昆虫学者に対する世間のイメージは「虫が好きでたまらない人」だろう。確かにそういう昆虫学者も多い。だが、著者は単なる「虫好き」とか「虫マニア」の域を軽く超越している。誤解を恐れずに言えば、著者には狂気が宿っている。この狂気は、「絶対に昆虫学者として食べていく」という目標に対する並々ならぬ執念から生まれているものだ。


本書は一貫して著者の狂気に彩られているが、軽妙でとぼけた筆致により狂気が見事に調理され、最高のエンターテイメントに仕上がっている。


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調査地で野営


著者が昆虫学者を志した源流は、幼少時代にある。きっかけは『ファーブル昆虫記』。ファーブルに憧れ昆虫学者を志した著者はさらに、外国で大発生したバッタに女性観光客が緑色の服を食べられたことを知り、「バッタに食べられたい」という願望を抱くようになる。大学院時代にバッタ研究を行い、晴れてバッタ博士となった著者は、『地球の歩き方』にも載っていないアフリカのモーリタニアに単身乗り込む。アフリカでたびたび大発生するサバクトビバッタの研究を行うためだ。


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サバクトビバッタの大群


サバクトビバッタはアフリカの半砂漠地帯に生息する害虫である。「群生相」とよばれる飛翔能力に長けたモードになると、群れで長距離を飛行しながら農作物を食い荒らす。数百億匹が群れて、東京都の面積がバッタに覆われるほどになるという。地球の陸地の20パーセントにもおよぶ範囲がこのバッタ被害を受け、年間被害総額は西アフリカだけで400億円以上になり、深刻な貧困をもたらす一因となっている。


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葉っぱと思いきやすべてサバクトビバッタ


サバクトビバッタの生態を知ることでこの生物の弱点を炙り出せれば、防除に役立てることができるかもしれない。バッタの研究には大きな意義があるわけだ。


大義名分のもと、好きなバッタを好きなだけ研究できる・・・と思ったら大間違いだ。博士号を取ったばかりの若手研究者のほとんどは任期付きの身分であり、業績を上げなければ安定した研究職に就くことはできない。業績とはつまり発表論文に他ならず、研究者としての価値は発表した論文の数と質で決まる。博士が余剰となっている今の時代、圧倒的な業績をもっていなければ、研究者として就職することはできない。


生物学研究はハイテク機器を駆使して行われるのが通例となってきた時代の中で、物資が豊かでなく研究インフラも不安定、文化も言語も大きく異なるモーリタニアで研究を行うことは、業績を出す上でたいへんなハンディキャップに映る。


実際に、現地の研究所従業員から相場以上のお金を取られたり、バッタを集めるために子供達から買い取ろうとしたらプチ暴動になったり、30万円をかけて作ったバッタ飼育用のケージがすぐに朽ちてしまったりと、割と大きめの不幸たちがバッタ博士に容赦なくボディーブローを浴びせる。


普通なら何度も心が折れてしまうような状況だが、それでもしぶといのが、著者だ。たまたま見つけたゴミムシダマシという別の昆虫に「浮気」し、それまで誰も見つけられなかった簡便な雌雄判別法を編み出し、論文を発表してしまう。モーリタニアでもアイディア一つで研究できることを証明した。


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研究中に遭遇したハリネズミは著者と同棲することに


そして圧巻なのは、著者のコミュニケーション能力の高さだ。コミュニケーション能力というと語学力を思い浮かべるが、著者は現地の公用語であるフランス語はほとんど話せない。著者がコミュニケーションに使う武器は、人柄そのものである。


自身が所属するサバクトビバッタ研究所の所長には「バッタ研究に人生を捧げアフリカを救う」と宣言し、「〜の子孫」という意味の「ウルド」をミドルネームで授けられた。著者の相棒のドライバーとはお互いにプライベートなところまでさらけ出し合い、ほぼ完璧に意思の疎通をはかれるまでになる。さらに、バッタ研究を円滑に進めるために、裏金ならぬ「裏ヤギ」としてヤギ1頭を仲間にプレゼントするなど、「そこまでするか」というくらいに根回しも怠らない。


そんな風に困難を次々と乗り越えていく著者だが、あまりに残酷な現実が待ち構えていた。待てど暮らせどサバクトビバッタが発生しない。現れないバッタ。バッタがいなければ何もできないバッタ博士。著者は己のことを「翼の折れたエンジェルくらい役立たず」だと悟り、ちょっとしたアイデンティティー・クライシスを迎えてしまう。


さらに追い討ちをかけるように、文部科学省から受けていた若手研究者支援も期限が切れてしまう。それは、無収入になることを意味していた。だが著者は、それでもアフリカに残ることを決意し、研究所長にこう伝える。

私はどうしてもバッタの研究を続けたい。おこがましいですが、こんなにも楽しんでバッタ研究をやれて、しかもこの若さで研究者としてのバックグラウンドを兼ね備えた者は二度と現れないかもしれない。私が人類にとってラストチャンスになるかもしれないのです。研究所に大きな予算を持ってこられず申し訳ないのですが、どうか今年も研究所に置かせてください。


ここまで痺れるお願いを言える人間が、どれだけいるだろうか。そして、このような人間を無収入にしても良いのだろうか。何かがおかしい。そう言いたくなってしまう。


しかし、不遇に陥っても愚痴をこぼさず、社会や国のせいにもせず、自力で対策を講じるところが、著者のたくましいところだ。ピンチに陥った著者は、日本でバッタ研究の重要性を認知してもらうためにと、まず、自らが有名になることを決意する。露出することで人気者になれば、バッタ問題も知ってもらえて、結果としてバッタ研究で食べていくことができるようになると考えたのだ。


ここで勘の良い読者は気づく。表紙のキワモノ感満載な姿格好も、著者の性癖というわけではなく、戦略的に練られた上でのアウトプットなのだと。表紙につられて本書を買った読者は、著者の術中にまんまとはまってしまった、と苦笑いをすることになる。


通常の研究者が行うようなアウトリーチ活動とは一線を画した、エンターテイメント性を前面に押し出した著者のさまざまな活動は人気を博し、とりわけに数万人が生中継を視聴した『ニコニコ学会ベータ:むしむし生放送』でのプレゼンはもはや伝説となっている。


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『ニコニコ学会ベータ:むしむし生放送』でのプレゼン


そんな露出作戦も功を奏してか、著者はその後、京都大学の職を見事にゲットする。そして現在は国際農林水産業研究センターで研究員として研究に従事している。念願だった昆虫学者として、ちゃんと食べていっているのだ。


そして、幼少の頃より抱き続けていた夢を叶える日もやってきた。モーリタニアにサバクトビバッタが大発生し、その大群を追う著者。果たして、バッタ博士は無事にバッタに食べられるのか・・・?


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バッタの大群に食べられるのを待つ著者


この部分を綴った本書の終盤にかけての疾走感を、ぜひとも味わってほしい。


本書に描かれているバッタの生態やモーリタニアの日常などを知ったところで、多くの人には何の役にも立たないだろう。「昆虫学者になる」という著者の目的を一つのプロジェクトと考えれば、本書は一種のビジネス書ともみなせるかもしれない。しかしながら、ストイックすぎる著者のように命を懸けられるような人などほとんどいないだろうし、普通の人にとってどこまで参考になるのか怪しいところだ。


だが、そんなことは、どうでもよいのである。遠い地で、人生を懸けて全力でバッタを追いかける日本人がいる。同じ時代にこんな日本人がいることを知れるだけで、自然と救われるし、勇気付けられる。


本書は、個人的に問答無用で2017年のナンバーワン。読書刺激に飢えたすべての人におすすめの一冊である。


孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生 (フィールドの生物学)

孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生 (フィールドの生物学)


こちらは著者による処女作。バッタ研究現場の詳細が楽しくわかる。


※画像提供:前野 ウルド 浩太郎
※本記事は書評サイトHONZに寄稿したものです


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クマムシさんを預かっていただける書店さん募集

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クマムシ本新刊『クマムシ博士のへんてこ最強伝説』が、全国の書店で並び始めました。今回のクマムシ本はゆるマニ系(ゆるくてマニアック系)。おまけでクマムシールもついてきます。


クマムシ博士の クマムシへんてこ最強伝説

クマムシ博士の クマムシへんてこ最強伝説

  • 作者: 堀川大樹,ナショナルジオグラフィック
  • 出版社/メーカー: 日経ナショナルジオグラフィック社
  • 発売日: 2017/02/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る


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アマゾンなどで予約注文をしていただいた方にも、そろそろ発送が始まるころですので、しばしの間クマムシさんを揉みながらお待ちください。


ところで今回は、全国の書店さんに、クマムシ博士と出版元のナショジオから、下記のとおりお願いがあります。



クマムシさんの存在は書籍売上のみならず、店舗イメージアップにも貢献すると思われます。ということで、もし『クマムシ博士のへんてこ最強伝説』の販売に際し、クマムシさんキーチェーン付きポップを設置していただける書店さんは、ぜひナショジオのツイッターアカウントまでメンションかDMでご連絡ください。


それでは、どうぞよろしくお願いします。


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【書評】『ヒトの遺伝子改変はどこまで許されるのか ゲノム編集の光と影』イノベーションに突きつけられた、大きな課題

ヒトの遺伝子改変はどこまで許されるのか ゲノム編集の光と影 (イースト新書Q)

ヒトの遺伝子改変はどこまで許されるのか ゲノム編集の光と影 (イースト新書Q)


生殖医療技術と遺伝子改変技術の目覚しい進展により、人類はすでに、自分たちの遺伝子を改変する時代に入っている。


本書の「遺伝子改変は"どこまで"許されるのか」というタイトルは、いま議論すべき喫緊の課題である。本書では、生命倫理学の専門家である著者が、生殖医療技術と遺伝子改変技術の過去と現在を紹介しつつ、この課題の落としどころを冷静に探ってゆく。


ゲノム編集技術「CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)システム」の登場により、従来の遺伝子組み換え技術とは比較にならないほど、高効率で容易に、しかも安価に生物の遺伝子改変を行うことが可能になった。CRISPR/Cas9システムを用いた遺伝子改変により、筋肉が増量したマダイやウシなどの農産物や、医学研究のためにヒトの疾患を再現したサルが、すでに誕生している。


そして2016年、ついに世界で初めて、CRISPR/Cas9システムを用いたがん遺伝子治療の臨床試験が、中国で行われた


がん細胞は、自分を攻撃するリンパ球(T細胞)の働きを抑える。そこで研究者らは、がん細胞の作用を受けずに攻撃力を維持したリンパ球を遺伝子改変で作り出すことを思いついた。遺伝子改変したリンパ球にがん細胞を攻撃させることで、がんを治療できると考えたのである。


この臨床試験では、肺がん患者のリンパ球を採取したのちにCRISPR/Cas9システムによって遺伝子改変し、再び肺がん患者の体内に戻した。この肺がん患者のその後の容態については、まだ発表されていない。


ゲノム編集による遺伝子治療は、がんや遺伝病の克服に光明を与えるツールであることは、間違いない。ただ、それと同時に、その安全性についてはまだ未知数なのも事実だ。


ヒトにゲノム編集を施す際に懸念されるのが、ゲノムDNA上の狙った位置以外の部分を編集してしまうことである。これはオフターゲット作用という。オフターゲット作用により、たとえばがん原因遺伝子やがん抑制遺伝子に変異を起こしてしまうと、がんを発症しかねない。


実際に、遺伝子組み換え法で遺伝子治療を受けた少なくない数の患者が、血液のがんである白血病を発症した事例もある。いずれにしても、遺伝子改変による治療を行うにあたって大事になことは、治療によって享受しうるメリットがデメリットを上回ることだ。


ところで、リンパ球のような体細胞に施された遺伝子改変は、子どもに伝わることはない。だが、卵子、精子、そして受精卵などの生殖細胞に遺伝子改変を施す場合は、その遺伝子改変が子孫に代々伝わっていく。


遺伝病の治療や予防のためであっても、生殖細胞を遺伝子改変については、よりいっそうの安全性の検証が必要になる。基礎研究によるデータを吟味し、ヒト生殖細胞への臨床応用は慎重になるべきだ。


だが、本書で紹介されている現状を鑑みる限り、生殖細胞へのゲノム編集治療はいつ起きてもおかしくないと感じる。遺伝病原因遺伝子を保有する患者当事者からも生殖細胞を用いたゲノム編集研究を望む声が出されているし、そのような研究を厳しく規制していない国も多い。


治療目的ではなく、プロスポーツ選手にすべく遺伝子改変で筋肉を増強したゲノム編集ベビーを望む親が出てきてもおかしくない。そのような親からの需要が増せば、生殖細胞への遺伝子改変サービスを提供する闇医療ビジネスもできてくるだろう。


イノベーションは、人類の倫理観を劇的に変えうる。ゲノム編集技術というイノベーションはまさに今、「ヒトの遺伝子改変はどこまで許されるのか」という問いを私たち一人一人に投げかけている。本書を読めば、この大きな課題への理解が格段に深まるはずだ。

ゲノム編集の衝撃―「神の領域」に迫るテクノロジー

ゲノム編集の衝撃―「神の領域」に迫るテクノロジー

本書のテーマの核にもなっているゲノム編集技術について丁寧に書かれた良解説書。クマムシ博士のレビューはこちら。

horikawad.hatenadiary.com


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※本記事は書評サイトHONZに寄稿したものです

クマムシール付き『クマムシ博士のクマムシへんてこ最強伝説』を出版します。

クマムシ本新刊『クマムシ博士のクマムシへんてこ最強伝説』を2月下旬に出版します。最強生物クマムシの本なので、本書の帯には「死なない!」がやたら目立っていますが、もちろんクマムシも死にます。それも、意外なくらいにあっけなく。本書ではクマムシの強さよりも、むしろそういう弱い部分を取り上げています。


クマムシ博士の クマムシへんてこ最強伝説

クマムシ博士の クマムシへんてこ最強伝説

  • 作者: 堀川大樹,ナショナルジオグラフィック
  • 出版社/メーカー: 日経ナショナルジオグラフィック社
  • 発売日: 2017/02/24
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る


前作『クマムシ研究日誌』や前々作『クマムシ博士の「最強生物」学講座』とは異なり、本書『クマムシ博士のクマムシへんてこ最強伝説』では、クマムシのちょっとした仕草やへんな習性、そして、研究をする上で重要であるものの語られることのないクマムシtipsなどをイラストともに描きました。


クマムシにしても他の生きものにしても、研究論文では書かれないけれど面白い習性がたくさんあるものです。今回、クマムシに日々向き合い、実際に目にしたことを書けるのは、とても楽しいことでした。クマムシ研究者にとってみれば「あるある!」と首肯してしまうようなものばかり。マニアックなネタばかりだけれど、二次情報からは知ることのできない「へんてこ」なクマムシのナマ生態を少しでも多くの人に知ってもらえれば嬉しいです。


ところで、本書はWebナショジオで連載していた『クマムシ観察絵日記』に大幅な加筆をし、コラムを加えたものです。『クマムシ観察絵日記』のWeb連載で掲載していたクマムシイラストはカラーでしたが、書籍化にあたり事情あってイラストは白黒になっています。その代わり、本書の巻頭には付録として11点のフルカラー・クマムシイラストのシールがついています。おとくまむし。


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一見ゆるい感じの本書ですが、中身は割とマニアックな本格派です。クマムシ好きな大人にはもちろん、小さなお子さんがいる家庭で親子一緒に読むのもマル。


本書の目次は以下のとおり。

クマムシ博士のクマムシへんてこ最強伝説


目次


ここが最強!クマムシの愛すべきエクストリーム・ポイント



第1章 クマムシとは何者か


 “最強生物”クマムシとは

第2章 クマムシ観察絵日記


 1日目「クマムシ、すべる」
 2日目「クマムシのすみか」
 3日目「屏風のトラ、コケのクマムシ」
 4日目「初対面の感動」
 5日目「マイ実体顕微鏡購入のすすめ」
 6日目「コケの中の乾燥生物フレンズ」
 7日目「一網打尽!クマムシ大量捕獲マシーン」
 8日目「美白のシロクマムシ」
 9日目「クマムシ界の猛獣、オニクマムシ」
 10日目「最高にクールなヨロイトゲクマムシ」
 11日目「クマムシ界の横綱、ヨコヅナクマムシ」
 12日目「ビッグ・クマムシ」 
 13日目「「弱さが武器」のクマムシ」
 14日目「食べたものも丸わかり、すけすけボディー」
 15日目「卵のアート」
 16日目「クマムシをあやつる」
 17日目「息苦しい世の中は死んだふりでやり過ごせ」
 18日目「残酷非道な標本作り」
 19日目「クマムシの種類を決める苦行」
 20日目「肉食クマムシの強力キス」
 21日目「生きたままのミイラをつくる」
 22日目「クマムシ界の猛獣を手なずける」
 23日目「クマムシのすべらない話」
 24日目「モグモグ・ベアーズ」
 25日目「おちょぼ口のミニハンター」
 26日目「クマムシ vs センチュウ」
 27日目「全米が泣いた?!『クマムシの恋人』」
 28日目「母さんが残したシェルター」
 29日目「シェルター・ベイビーズ」
 30日目「クマムシの餌を引きはがす」
 31日目「死を招く天敵「モヤモヤ」」
 32日目「悪夢」
 33日目「クロレラとクマムシ」
 34日目「浪費家の恋人に貢げ」
 35日目「手放せない緑の絨毯」
 36日目「さよなら絨毯」
 37日目「女子会好きなヨコヅナ」
 38日目「目に焼きつける、クマムシの色」
 39日目「天空からのインベーダー」
 40日目「ヨコヅナの強さ」
 41日目「透明ドレスのひみつ」
 42日目「寒がりの道産子」
 43日目「橋本聖子仮説」
 最終日「グッバイ人類」

第3章 もっとクマムシ


 クマムシはいかに最強なのか
 鳥羽水族館で生体展示
 クマムシを食べてみた


あとがき


すでにアマゾンで本書の予約注文が始まっています。初版の部数はあまり多くないので、万一の品切れに備えて今のうちに予約しておくと確実に入手できると思われます。


最後に、この本ができた経緯について少し。


ことの始まりは、『Webナショジオ』の人気シリーズ『研究室に行ってみた』でした。2011年、作家の川端裕人さんがこのシリーズの取材のために、私が当時いたフランスの研究室まで来ていただき、記事にしていただきました。


natgeo.nikkeibp.co.jp


翌年の2012年、この記事を担当していたWebナショジオ編集者の齋藤海仁さんから、「クマムシを題材に何か連載ができないか」という打診をいただきました。「クマムシ4コマ漫画」や「クマムシかるた」などの企画案が出たのだけれど、いろいろあってボツに。


齋藤さんがアイディアを練った末、私がクマムシを観察していて面白いと感じたところなどを絵日記風にして紹介する『クマムシ観察絵日記』の連載が決まり、2014年にWebナショジオで始まりました。斎藤さんから最初に連載の企画をいただいてから、実に2年が経過していました。


natgeo.nikkeibp.co.jp


『クマムシ観察絵日記』の連載は2016年に終了。その後、ナショジオからの書籍化が決定。こうして、本書『クマムシ博士のクマムシへんてこ最強伝説』の出版に至りました。書籍化にあたって、ナショジオの葛西陽子さんと尾崎憲和さんにはたいへんお世話になりました。


ナショジオの皆さん、イラストを手伝っていただいたsakiさん、クマムシ研究仲間、クマムシたち、そしてクマムシファンのみなさまがいたからこそ、本書が世にでることになりました。少しでも多くの人が本書を手にとってくれますように。


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2016年にクマムシ博士が掲載された雑誌や書籍など

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ジュニアエラ2016年9月号より


2016年もさまざまな出版物などでクマムシ博士を紹介していただいた。ここでは、主なものを紹介させていただく。


DVD付 水の生き物 (学研の図鑑LIVE)

DVD付 水の生き物 (学研の図鑑LIVE)


まずは水の生物をフィーチャーした図鑑。クマムシのパートへの資料提供および監修を、荒川和晴さんと藤本心太さんと一緒に担当した。


この図鑑はクマムシもさることながら、他にもあまりスポットライトが当たらない生物も含め、かなりの水生生物の分類群をカバーしている。掲載種数は1300種。系統樹も入っていたりと、なかなか本格的な作りになっているので、大人も興奮できる。


これをながめておけば、海辺や川辺に出かけたときも、楽しさはひとしおだろう。付録のBBC制作DVDも楽しい。年月を経ても読まれ続けるであろう、力の入った図鑑だ。


本音で生きる 一秒も後悔しない強い生き方 (SB新書)

本音で生きる 一秒も後悔しない強い生き方 (SB新書)


こちらは言わずと知れた堀江貴文さんの著書。ベストセラーになっているようだ。本書では「言い訳しないで行動する」例として、クマムシ博士の活動を取り上げていただいた。他には、カンボジア国籍を取得しオリンピックに出場した猫ひろしさんも紹介されている。


フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。

フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。


こちらは、以前クマムシ一日バーを開催させていただいたバー「月に吠える」のオーナーのコエヌマカズユキさんの著書。ウェブマガジンでもインタビューしてもらった。


magazine.moonbark.net


昨今、フリーライターやウェブライターがジャンクページを量産する駒として扱われている報道をよく目にするが、本書ではそうならずにライターとしてやっていくための指南が示されている。 


フリーライターとして強みをもつ方法はいろいろあるが、そのひとつが誰にも負けない専門知識を身につけることだ。その例として、本書はクマムシ博士を紹介している。


本書はライター志望者に向けて書かれているが、どんな仕事にも参考になるTipsも多い。とりあえず、物書きをする人は読んでおいて損はない。


ジュニアエラ 2016年 09 月号 [雑誌]

ジュニアエラ 2016年 09 月号 [雑誌]


子ども向けジャーナル『ジュニアエラ』9月号には「“最強”生物「クマムシ」のナゾ」と題したインタビュー記事を掲載いただいた。最近はクマムシを知っている子どもが増えて嬉しい限り。


www.aquarium.co.jp


鳥羽水族館の機関紙『TOBA SUPER AQUARIUM』2016年夏号(No.69)には「クマムシ生体展示への道」と題した記事を寄稿させていただいた。鳥羽水族館では、不定期でヨコヅナクマムシの生体展示が行われている。


horikawad.hatenadiary.com


Educo No.40/2016年初夏号 - 教育出版


こちらも教育雑誌。Educo No.40/2016年初夏号で、クマムシ研究についての取り組みについて書かせてもらった。


あとはテレビや新聞などにもいろいろと取り上げてもらったが、ここでは割愛する。2017年はクマムシ博士の単著新刊も出る予定なので、またしかるべき時期に告知させていただきたい。


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【書評】『衛生害虫ゴキブリの研究』年季入りの本格書

衛生害虫ゴキブリの研究 (SCIENCE WATCH)

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「黒塗りの家庭内ランナー」としてお馴染みの生きもの、ゴキブリ。


たったの一匹が加工食品に混入しただけで、ひとつの企業を存続の危機に追いやるほど、この生物は忌み嫌われている。だがはたして、この同居人の実際の姿を知る日本人は、いったいどれくらいいるだろうか。


何のてらいもないタイトルの通り、本書は、屋内で遭遇する衛生害虫ゴキブリの研究書である。著者は、民間の研究所などで50年以上にわたってゴキブリ研究に従事してきており、ちなみに昭和7年生まれ。そして本書には、著者らによる圧巻の研究成果の数々が、これでもかと言わんばかりに詰め込まれている。表紙に描かれたイラストこそゆるふわの脱力系だが、けっして生半可な気分では読了できない本格的なハードコア・ゴキブリ書に仕上がっているのだ。


本書のページを開くとまず目に飛び込んでくるのが、巻頭カラーグラビアを飾っているゴキブリたちだ。これらはいずれも日本の屋内に出没するゴキブリ種ばかりだが、この巻頭グラビアで真っ先に紹介されているのがヤマトゴキブリであるところに注目したい。外来種も多くいるゴキブリたちの中から、あえて日本産のヤマトゴキブリをトップに推してきた著者の心意気がうかがえよう。


この巻頭カラーグラビアはただ鑑賞するだけのものではなく、それ以上の意味をもつ。このグラビアこそが本書内のゴキブリ簡易区別表と密接に連動しており、ゴキブリの種類を調べるのにたいへん便利な仕様となっているのである。本書を利用し、ゴキブリホイホイなどにトラップされたゴキブリの種を同定するのも楽しいだろう。もちろん、子どもの自由研究にも最適だ。


よく知られているように、ゴキブリは三億年前から地球上に存在している。私たちの大先輩である。この生物は世界に3500〜4000種ほどおり、日本では50種強が確認されてきた。しかもこれだけの種数を誇りながら、屋内に出没するのはこのうち1%にも満たない。ほとんどの種類は、森などに生息する屋外性である。


日本でみられる主な屋内性のゴキブリはヤマトゴキブリ、ワモンゴキブリ、コワモンゴキブリ、クロゴキブリ、トビイロゴキブリ、チャバネゴキブリなど。ワモンゴキブリやチャバネゴキブリはアフリカ地域などに由来する外来種である。近年は人類の生活環境が都市化し、冬でも温暖な家屋や施設が増えた。これに伴い、亜熱帯・熱帯性ゴキブリが本州にも進出している。


ゴキブリは増殖力が高いイメージがあるが、著者らによる実際の研究成果から、それが具体的な数字となって証明されている。たとえば、亜熱帯性のチャバネゴキブリ10匹の集団に3グラムの餌を1週間に一度のペースで与え続けると、40〜50日後にはなんと1500匹ほどにまで増える。ゴキブリの餌となる食べかすを、家の中で1週間にたったの3グラム(1日あたり0.4グラム)落としていたら、それだけでゴキブリが大増殖する可能性があるわけだ。


これが1週間に10グラム、いや、20グラムだったら・・・・・・。考えるだけで恐ろしい。仮にゴキブリの99%を駆逐したとしても、ちょっと掃除をしないだけですぐにゴキブリが爆発的に増えることがわかるだろう。ゴキブリを増やさないために肝心なのは、こまめな掃除ということに尽きるのだ。


不死身なイメージのあるゴキブリだが、意外な一面もある。暴れるゴキブリの脚をつかむと簡単にちぎれてしまったり、そのやわらかなボディも強く挟めば死んでしまう。実験作業のときは、ゴキブリをうっかり殺めてしまわぬように炭酸ガスで麻酔するなどして、つまんで移してやる。実は、か弱い生物なのである。ちなみに実験用のゴキブリは調製された餌と水で飼育されているため、とくに不潔ということはなく、素手でつかんでも特に問題ない。


本書には他にもゴキブリの生態や駆除のコツが目白押しだ。とりわけ圧巻なのは、ゴキブリの冬眠についての研究成果の数々である。ゴキブリの休眠をさまざまな温度や日照条件で検証した著者らのデータが紹介されているのだが、クロゴキブリなどは寿命が長いため、ひとつの実験に丸一年以上かかることもある。


このような実験を行うためには、日々のゴキブリ個体のチェックが欠かせない。温度管理も、実験の肝となる。もしも、ゴキブリを飼育している恒温器や飼育室の温度管理システムが実験期間中に故障し、実際の飼育温度が乱れようものなら、実験データはそこで水の泡になってしまう。これは憶測だが、不慮の事故などで、パーになってしまったデータも少なくなかったのではないだろうか。


そんなリスクを経て、長期にわたって得た実験データが、本書にはいくつも掲載されている。まさに、著者の研究の結晶たちだ。このようなデータの一つ一つを見ると、なんだか図表に向かって拝みたくなってくるほどである。


決して、これは万人向けの生やさしい本ではない。むしろ、読み手を選ぶ本だ。ひとつ言えるのは、本書が、半世紀以上にわたってひとつの研究対象に向き合ってきた研究者本人の手によって、記されているということだ。世の中に科学書は数あれど、こんな本は、そうそうお目にかかれない。


年代物のブランデーをじっくりと味わうような読書体験をしたい本読みにこそ、本書はおすすめしたい。


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ゴキブリだもん?美しきゴキブリの世界? (一般書籍)

ゴキブリだもん?美しきゴキブリの世界? (一般書籍)


※本記事は書評サイトHONZに寄稿したものです


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マンガ版『アカデミック・ラブ』

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  ア カ デ ミ ッ ク ・ ラ ブ



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─────4月上旬、北関東のとある学園都市でもようやく桜が咲き始めた。 



T大学は、そんな街の一角を占める総合大学である。 



日本でも有数の広大なキャンパスを擁し、学術面でもノーベル賞受賞者を輩出するなど誇らしい実績をもつことで知られている。  


その大学の片隅に位置する建物内に、動物生態学研究室がある。この研究室では、昆虫から脊椎動物に至るまで、さまざまな動物についての生態学的研究が行われている。  



毎年4月には、動物生態学研究室では新歓コンパが催される。



研究室で開催される新歓コンパの目的は表向きは文字通り「新入生を歓迎し親睦を深める」というものだ。だが、男性研究室員にとっては、これとは異なる明確な目的があった。 



──────それは、新入生の女の子にツバを付けることである。 


通常、理系の研究室では男女比が圧倒的に男側に偏っている。


このような条件下では、男性陣の間で女性メンバーを巡る奪い合い、つまり雄間闘争が起こる。


T大動物生態学研究室でも、研究室員の男女比は三対一と偏っており、例に漏れず雌をめぐる雄間闘争が起きる運命にある。           



よって、彼らににとっての新歓コンパの至上命令は、いかにして自分が他の男性陣をおさえて有利なポジショニングをとり、新入生の女の子にアプローチするかという事になる。


今回、新入生の中で女の子は修士一年生の竹園紗季ただ1人。



彼女はガの行動生態学に興味があったが、東京の国立大学の所属学科には生態学の研究室が無かったため、大学院からはT大動物生態学研究室に入ってきたのだ。  


都会の洗練された凛とした雰囲気を醸し出す彼女の存在は、研究室の中で少し浮いて映った。



しかし、純白のブラウスにかかる黒いネクタイには、蛾の刺繍が大きく施されており、彼女が年季の入った虫屋であることを示唆していた。  



修士二年生の大鷲京太が、お調子者キャラを全面に出しながら自分の椅子ごと紗季の隣に移動し、話しかけてきた。 



「蛾、好きなのかお?」


他の男性研究室員を出し抜いての、先制攻撃である。



「え・・・・・・・・」



「この蛾のネクタイ、自分で作ったのかお? それとも、どこかで買ったのかお?」



「えっと、アーティストが昆虫をモチーフにした作品を
展示するイベントがあって・・・・・・そこで買ったんです・・・・・。この蛾はクスサンで・・・・・・」



「へぇ~。オレは猛禽類の研究が専門だけど、虫も好きなんだお」



「えっ、そうなんですか?」



「もちろん!でも、この蛾の刺繍、本当によく出来ているお。ちょっと触ってもいいかお?」



「えっ・・・・・・。」


京太は、自分の右手を紗季の胸元に近づけた。他の男性研究室員たちを一気に突き放すため、準求愛行動ともいえる接触アプローチ戦略を展開したのである。   



(あっ・・・!?チ、チクショウ!)



(いいなぁ、あんな近づいて・・・・・・。)


───────だが・・・・・・・、


これを黙って見ていられなかったのが、研究室内ヒエラルキーの最上位に君臨するポスドクの観音台則夫である。 



「大鷲ぃ・・・お前、そんな事するから彼女いない歴23年なんだろうが。 ちったぁ女心勉強しろや!」



「な・・・・、何ですかお!?オレはちょっと昆虫について話してただけですお!」



「竹園さん、騙されちゃダメだぞ。コイツねぇ、昆虫好きをアピールしてたけど、ラボで企画している昆虫採集旅行に参加したこと
一度も無いんだよ。嘘なの、嘘。」



「・・・・・・・・・・・・」



「い、いやっ・・・・・、最近、昆虫好きになったんだお!本当だお!」



「じゃあお前、俺の研究材料のキチョウの学名言ってみろよ」



「うっ・・・・・・」



Eurema hecabeだよ。ほ~ら、昆虫のこと全然知らねーじゃん」



(あ~あ、終わったな・・・・・・。ポスドクの観音台さんの方が、教授の次にウチでの立場デカいし)



「大体、大鷲さぁ、女心もそうだけど、本業の自分の研究テーマについても、もっと勉強しろよな。この前のセミナー発表でも、データの取り方が全然ダメダメだった。サンプリングする前に、どのくらいのサンプルサイズが必要かとか、どの解析手法を採用するかとか、ちゃんと検討しとけっつーの」



「は・・・、はい・・・・・・」



「鳥の研究は、ただでさえデータ取りにくいんだからよ。お前、ドクター行きたいって言ってるけど、それだと何年かかっても学位とれないよ?わかってる?」



「・・・・・・・・・・・・・」



「竹園さんもこれから分かってくるだろうけど、研究ってやっぱストラテジーが重要だからさ。ま、その辺は俺に聞いてくれれば何でもアドバイスするから、遠慮なく絡んできてよね。同じ虫屋同士、同じ鱗翅目屋同士だしさ」



「は、はい!」



則夫はアカデミックなアドバイスをするように見せかけて、京太をとことんディスった。 


京太が研究室内のヒエラルキーが低いのをアピールする事で、相対的に自分がいかにオスとしての力があるか、そして優れているかをこれでもかと紗季に見せつけたのである。 



結局則夫の思惑通り、紗季は彼を質の高い魅力的なオスとして認識するようになった。 



男性大学院生たちは、誰も則夫を敵に回して紗季にアプローチすることを許されなかった。 



則夫は、紗季が野外調査をする際には自家用車を出したり、研究のディスカッションと称して二人きりでファミレスでの食事に誘った。 



則夫のポスドクとしての給与は決して高くなかったが、車で出迎えたりロイヤルホストで食事を奢るような事は、京太や他の貧乏院生には決して出来ない芸当であった。


勿論、大学の外の世界を見れば、則夫よりもはるかにオスとしての魅力をもつ男性はゴマンといる。外見だって、則夫は決してイケメンとはいえない。 



だが日本の大学院生は日夜研究をするので忙しく、外部の人間と接触する機会がきわめて乏しい。よって、人間関係は研究室内で全て完結するため、恋人候補も研究室内のメンバーに限られてくる。


研究室内で最も質の高い異性に魅かれるのは、当然の帰結なのだ。 


──────新歓コンパから四ヶ月後、お盆を前に、紗季と則夫は交際する事になった。 



京太の心の叫びを代弁するかのように、けたたましく鳴くセミたち───────。 



それから3年が経過し、また新しい春がきた。



京太は博士課程3年生になっていたが、この間に恋人が出来たことは一度としてなかった。 



研究室に、紗季以外に好みの女がいなかったわけではない。だが、アタックしたところで振り向いてくれる女の子がいるようには感じられなかった。



そして何より、京太にはアタックする意欲そのものが失われていたのである。


日頃から則夫にさんざんコケにされ続けた京太は、
研究室内ヒエラルキーの下位から脱することができなかった。
このような地位にいる限り、女子からはオス的魅力に欠けるダメ男子として見なされてしまう。



すると、ますます自信が失われる。
自信が失われると、オス的魅力も失われていく。
学年が上がっても下位ヒエラルキーから脱することができず、ますますモテなくなる。



セミの幼虫のような地中生活を余儀なくされていた京太だったが、今年は大きな転機が訪れた。 



則夫が研究室を去ることになったのだ───────!   



「すまない。
今年は科研費を獲得できなくてな・・・・・・。
これ以上ポスドクとして雇えなくなったよ」


則夫はアカデミックポストに就くことができず、東北の小さな博物館で非常勤の学芸員として働くことになった。



そしてこの異動が引金となり、紗季と別れることになった。



則夫はいなくなった事で、京太がヒエラルキーの最上位に進出できるチャンスが出てきた。さらに、紗季も今やフリーの存在だ。 



十分に栄養を蓄えたセミの如く、京太は長い地中生活に終止符を打ち、高々とそびえる桜の木に登る準備を始めた。羽化をするまで、もう秒読み段階だ。 


新歓コンパやラボミーティングでは、最上級生である京太が主に仕切ることになった。 



則夫に散々コケにされ続けた日々・・・・・・・・・。  



京太は決意していた。自分がアイツにやられた事を、後輩にはしたくない・・・・・・・・。 


──────だなんて、微塵も考えてなかった。 



則夫が自分にしたように、自分も後輩を徹底的にコケにする。そうやって後輩どもが紗季に手を出さないようにする。そう固く誓っていた。



「千現~!!お前、一番下のくせに酌もできねえのかお!そんなんだからデータを取るのもダメなんだお!!」



「す・・・・、すいません!」



「オレはオオタカの研究者なんだお・・・・・。」



「何より、オオタカは肉食獣なんだお。」



「だから、オレは最強の肉食になるんだお!」


森の中でオオタカのメイティング・ビヘイビアーの観察をしながら、京太は紗季とのメイティング・ビヘイビアーを夢見ていた。(メイティング・ビヘイビアー:交尾行動)


則夫が去った事により空白となったボスザルのポジションを、ついに獲得したのだ。それまでは路上の隅に生える干涸びたコケを見るような目で京太を見ていた女性研究室員たちの接し方も大きく変化していた。



「大鷲先輩~。ここ、分からない所あるんですけど・・・・・」


オスとしての魅力が現れ始めた京太は、自信も出てきた。そして研究室内でよりいっそうボスザルらしく振る舞う。すると、さらに女性研究室員が京太を慕うようになり、プライベートな相談までする女子も出てきた。




他の女性研究室員と同じく、ポジティブ・モテ・フィードバック(PMF)期に突入した京太を見る紗季の目も次第に変わっていった。  




(・・・・・・・・・・・・機は熟したお!)



「─────この前のプレゼンの時に言ってた解析の問題、もう解決したかお?」



「え、いえ、まだちょっと考えてるんです・・・・」


少し驚いた表情をしてから目を下に移し、はにかみながら答えた。マイナーリビジョンだ。(マイナーリビジョン:論文を少し改訂する事)  



「あれね~、あれはやっぱりNが少なすぎるのが原因だと思うんだおね。Nをもっと増やした方がいいお!」(N:実験のサンプル数)



「でもぉ・・・・・、私一人で採集しているからなかなかサンプルがとれなくてぇ・・・・・」



「・・・・・・・・よかったら、今度手伝ってあげるお。オレもD論も目処がついたし、大丈夫だお。よし、来週行くお!」



「ええっ・・・・・!いいんですか!?」


─────無事アクセプト。コングラチュレーション! (アクセプト:論文が受け入れられる事)


これを皮切りに、ディスカッションと称した深夜のファミレスデートなど、京太は様々な方法で紗季にアプローチを続けた。  



京太は無事に博士課程を三年間で卒業し、博士号の学位を取得した。卒業後は、S総合研究所にポスドクとして赴任することも決まった。 


────────そしてついに京太は紗季と交際し、半同棲生活をすることに決めた。 




「紗季とのメイティング・ビヘイビアーもしちゃったお!」


京太はこれまでの人生で、最良の時代を迎えていた───────。 


────────そして、さらに3年の時が流れた。


紗季は京太の指導もあり、無事に三年間で博士課程を卒業。卒業後は、昆虫の研究で有名なN資源研究所のポスドクの職に就いた。 



この二年間、二人は順調な同棲生活を送っていたが・・・・・・・・・・、ここのところ、二人の周りには重たい空気が流れ始めていた。



京太の勤め先でのポスドク任期があと三ヶ月で終了するにもかかわらず、次のポジションは未だ決まらなかった。 



「また・・・・・・・、ダメかお」


この一年近くの間に、大学の助教や研究所のポスドクなど合わせて十以上のポジションの公募に応募したが、全て落ちた。書類による第一次審査すら通らなかった。   


公募選考の際に重要なのは、研究業績だ。具体的には、国際科学誌に掲載された論文の本数と質によって判断される。



京太の場合、筆頭著者として二報の論文を発表していた。一報はT大在籍時に行っていたオオタカのメイティング・ビヘイビアーに関する内容、もう一報は、S総合研究所に来てから調査した、関東地方におけるオオタカの分布についてのものだ。


ポジションの公募における審査の際、論文の質はその論文が掲載された雑誌のインパクト・ファクターにより判断される。 つまり、雑誌のインパクトファクターに論文数をかけた結果が応募者の業績とみなされるのである。 



京太は、いずれも鳥類の生態学に特化した国際科学誌で発表したが、そのインパクト・ファクターは2を少し上回るほどであり、生態学関連の雑誌では中堅の部類に入る。(インパクト・ファクター:科学系学術雑誌の影響度、引用された頻度を測る指標。高いほど、そこに掲載される論文は優秀とみなされる)


当たり前だが、各公募では応募者の中から一人だけが採用される。いくら優秀でも、二番目以下では不採用なのだ。 



ダメなんです。 


そして何より、京太には強力なコネもなかった。今も昔も、研究職の公募はコネで決まることが少なくない。


京太は、自分よりも業績の少ない人間がコネで助教の職に決まったケースを何度も見てきた。 


───────しかし、まだ最後の望みが残っていた。 



京太の古巣であるT大動物生態学研究室が、教授の定年退官に伴い、その後釜として助教を募集していたのだ。


────────しかも、今時珍しく任期のないパーマネントのポジションである!(パーマネント:普通なら助教までは目立った功績が出ない限り、雇われる年期に限りがある。一方、パーマネントはずっと大学に雇ってもらえる身分なのである)


パーマネントのポジションをゲットすれば、もう任期が切れて無職になる悪夢を見なくて済む。嫁も見つかる。マイホームも手に入る。この世のすべての苦しみから解放される。パーマネント、それは果てしない夢でありユートピアだ。


コネという点で、研究室出身の京太はとてつもなく有利な立場にいた。実際に、応募書類を提出する前に動物生態学研究室に挨拶に行ったときも、教授はこう言った。



「知らない人よりは、知っている人を選びたいねぇ・・・・」


だが、京太には一つ気がかりなことがあった・・・・・・・・・・・・。 



動物生態学研究室に在籍時に、京太をさんざんコケにした、あの観音台則夫である。



則夫がこの公募に応募してきたら、教授は自分ではなく、則夫を選ぶかもしれない。そんな不安を抱えていた。


そこで京太は動物生態学研究室を訪れた際、後輩である千現武志を呼び出した。 



「おい、千現。今回の公募、観音台さんは応募してくるのかお?お前、なんか聞いたか?」



「え、いえ・・・・・・・・。多分、観音台さんは応募しないと思いますよ」



「え?そうなのかお?」



「はい。観音台さんは研究はもうやめたらしいです。先生が話していました。なんか、どこかの出版社に就職したらしいです・・・・・・」



───────勝った。京太はそう確信した。 




「紗季、例の公募、もうオレで間違いなさそうだお。先生もコネを優先するって言ってたし、他に対抗馬がいないお!」



「本当!?よかったじゃなぁい!今度は、期待してるんだからぁ」



「期待してろお!んじゃ、メシ食いに行くお!」




「ご注文は?」



「・・・・・・」



「ちょっとぉ!何、あのコのことジロジロ見てるのよぉ!」



「み、見てなんかないお!?」



「どうかしらぁ。おバカさんなんだから・・・・・・」


胸元のネクタイに鎮座するクスサンも、紗季と一緒に自分を睨みつけているような気がした。


それから一ヶ月が経過した初雪の日・・・・・・・。



京太の元に、一通の封筒が届いた。 




「お?T大からだお!全く、やっと来たのかお!」



「ウヒヒ、どうせ助教はオレに決まったっていう・・・・・・、」



「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」





「な・・・・、なんで・・・・・・。
なんでオレが・・・・・。えっ・・・・・?
」



「ただいまー。あら?どうしたのよぉ?」



「あ・・・・、あ、あ・・・・・・・・」



「・・・って、ええっ!?ダメだったの!?どうして・・・・・・!」



──────翌日、教授からメールが来た。 




「本当に申し訳なかった。実はね・・・・・・、」


教授は京太ではなく、あの後輩の武志を助教に採用していたのだ。



教授が武志を採用したという事実。


これは、教授が自分の後釜にふさわしいのは武志であり、京太ではないと考えていた事を示していた。




「う・・・・・・・!」



────────右手に激痛が走り、京太は意識を取り戻した。



目の前には、無惨に破壊されたパソコンがあった。   



無意識のうちに、自分のノートパソコンに鉄槌を下していたのだ。何度も、何度も。    


破壊されたノートパソコンからは、ゴムの焼けるようなにおいが立ちのぼっていた。


濃い、敗北のにおいだった───────。


───────半年後、太平洋に浮かぶO島



京太は、この島で環境省管轄下の自然保護官補佐とよばれる職に就いた。



気にやんだ教授が、彼にこの職を紹介したのだ。


O島は人気のない孤島だが、希少生物の宝庫として、一部のナチュラリストの間で人気のあるフィールドだ。



勤務内容は、研究活動というよりも管理監督業務に近い。自然公園内の管理や監視、そして生物調査が主な仕事である。


もちろんポスドクではない。給与は手取りで二十万円を少し上回るほど。契約期間も一年で、更新はない。



紗季との遠距離恋愛生活も、すでに五ヶ月目に入った。交通費が馬鹿にならないので、お互いに会うことはせず、LINEと電話で連絡を取り合っていた。


京太は研究者として復活するために、相変わらずポスドクや助教の公募に応募し続けていた。そして、相変わらず落ち続けていた。



しかし、諦めるわけにはいかない。できれば、どこかの大学や研究所でポジションを得て、また紗季と一緒に暮らしたい。そう願っていた。 


ただ、最近は紗季の反応が気になっていた。 



以前はLINEでメッセージを送ると数時間以内に返ってきたのに、ここ最近は一日以上経っても既読にならないこともあるからだ。携帯電話に着信を残しても、折り返しかけてくることがなくなってきた。 


忙しいとか言っているくせに彼女のフェイスブックには、食べものや研究者同士の飲み会での写真が頻繁に投稿されていた。



「かつての研究室の皆と飲み会!とっても楽しかったわ~♥ 」


───────そして、その写真には助教になった武志の姿があった。


写真の中の武志は不敵の笑みを浮かべ、その目は京太のことを小馬鹿に見下しているかのように見えた。



「ち・・・、ちくしょう・・・・・・・。」


京太は、頭の中に無数のフジツボがびっしりと張り付いているような感覚に襲われた。 


重力にまかせて重くうなだれた頭を、上げることができなかった。


京太の業務は、大半を歩く時間に費やす。歩行をしている間、脳内は自然と紗季で埋め尽くされる。



「紗季のヤツ、オレよりもアイツらとの飲み会を優先しやがって・・・・・・。アイツ、絶対に何かを隠している。いや、気のせいかもしれない。でも、あの態度は・・・・・・・」


そして、いくら考えたところで決して答えが出ないことに気づいた京太は意を決してLINEで尋ねることにした。 



案の定、紗季からはすぐに返信は来なかった。 



三十分おきにLINEをチェックしていたが、一日、二日と時間が経っても一向に既読にならない。  


一日が、何十日間にも感じられた。 



「クソッタレ!もう3日だお・・・・・・!」



「!? 電話が来た・・・・・・・!」




「い、いいんだお!そんなの!それより、その・・・・・・。」






「・・・・・・・・誰だお。
まさか・・・・・・、」






「─────やっぱりかお!あのクソ野郎が!!」



「テメエ、嘘つきやがって・・・・・。 「ずっと一緒にいようね」って言ってたくせに。お前の研究だって、ずっと面倒見てきたのに・・・・・!」




「ああ、わかったお。パーマネントだからだお?アイツはパーマネントだからだお!?どうなんだ、オイ!?」




「京ちゃんも言ってたじゃない。「生物にとって、適応度の期待値が大事だ」って。武志くんはパーマネント。だから、これから安定した収入が見込める。若くて研究能力もあるし、このままいけば順調に教授になると思うわぁ。」





「専門が生態学だとドクターを持ってても潰しがきかないからアカデミア以外の就職も難しいでしょ。私が適応度1以上、つまり子どもを二人産んで養っていくには、よ。このまま京ちゃんと一緒だと難しいの自分でも分かってるでしょ?」



「オ、オレはいつか・・・・・、」




「「世界一の鳥類研究者になる」とか、「『Nature』3報はいける」とか、「オレのモットーは大きな野望と高い志。「オオタカ」なだけに」とか・・・!現実を見なさいよ!!まだファーストが2報しかないし、インパクト・ファクターの合計も5にも満たないじゃない!!」(ファースト:自分の名前が最初に載ってる論文)



「京ちゃん、武志君のこといつも馬鹿にしてたけど、あのコはドクターとる前に、あの『Nature Ecology』に二報出してるのよ?コネが無くったって、助教になってたわ絶対!」








───────2年後、




「いやぁ、本当に君そっくりだなぁ!」



「いやぁね、赤ちゃんは成長したらまた顔が変わってくるし、まだどっちに似ているかなんて分からないわぁ。」



「でも、自分の子どもがこんなに可愛く産まれてくるなんて信じられないね。よかったよ、僕に似なくて!」



「あ、そろそろミルクあげなきゃ。」


この世に存在する苦しみを一切知らない赤ん坊は、これ以上無い平穏な表情で母乳を飲み続けた・・・・・・。赤ん坊にかけられたよだれかけに施された刺繍のクスサンも、やはり平穏な表情で母親をじっと見つめていた。


なお、その後の京太の消息を知る者は、誰もいない。



※マンガ版『アカデミック・ラブ』はオリジナル作品『アカデミック・ラブ』をもとにした二次創作をもう一度原作に近づけて作成し直した三次創作です。


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【書評】虫ビギナーにおすすめのポップな虫入門書2冊『恋する昆虫図鑑』『カブトムシゆかりの虫活! 』

私は、自身の研究対象であるクマムシのキャラクター「クマムシさん」を、数年前からプロモーションしている。この活動の大きな目的のひとつは、キャラクターを入り口として人々が生物や自然に親しみを持ってもらうことだ。


実際に、クマムシや昆虫にまったく興味がなかったが、クマムシさんのグッズを買ってから本物のクマムシを知り興味を持った人が何人もいる。そのような人を目の当たりにするのは本当に嬉しく、それと同時に、啓蒙活動をするにあたって、啓蒙対象を絞らず間口を広くしておくことの大切さを再認識させられる。


最近は虫をモチーフにした作品を出展するイベントも増えており、私の観測範囲では空前の虫ブームが起きているようにも感じる。だが、「虫イコール気持ち悪い」という固定観念が植えつけられてしまった人も多いのが実情だろう。最近では、虫を触れない若年層が増えているという声も聞こえてくる。ちょっと虫に興味があるが、はまるきっかけを持てない、という層もあるはずだ。


さて、今回は、そんな人のためのポップな虫入門書を2冊紹介したい。まず1冊目は、『恋する昆虫図鑑 ムシとヒトの恋愛戦略』。


恋する昆虫図鑑 ムシとヒトの恋愛戦略:篠原 かをり 著


本書のタイトルは、ちょっと前に物議を醸した書籍とよく似ているが、著者も出版社もお互いにまったく関係のない者同士である。


本書の最大の特徴は、虫の生態を人間に置き換えて説明しているところにある。この部分はきわめて徹底されている。登場するいくつもの虫に対し、それぞれの生態に沿った詳細な人物像が割り当てられており、著者の人間観察力と妄想力におののいてしまう。たとえば、一生をミノの中で暮らすオオミノガのメスについての記述は、以下の人物像に例えられている。

「太っているから痩せなきゃ」「私、かわいくないから........」などと自ら自虐的発言を繰り出しておきながら、「そうだね。かわいくないね」という肯定はおろか、「そんなことないよ!普通だよ!」という無難な回答をしてもムッとしたり落ち込んだりする......そんな少し面倒くさい女、あなたの周りにもいませんか?


(中略)


彼女たちの多くは、決してかわいくない訳ではありませんが、かと言って本人たちの自己申告を否定してまでかわいいと励ましてあげる義理はないくらいの微妙な容姿をしています。


(中略)


彼女は否定されるのが大の苦手。自分を肯定してくれる人だけで周りを固めて、すぐに殻に閉じこもってしまうのです。


著者はさらに、オオミノガ系女子の特徴として「赤文字系の服装を好む」ことも挙げているが、この根拠がどこに由来するのか気になるところだ。いずれにしても、本書は虫に興味を持ち始めたビギナーだけでなく、ゴシップ好きだったり、人間のネガティブな面を見て楽しめるような、ちょっと根暗な人にもおすすめだ。


ちなみに、本書『恋する昆虫図鑑』はもともとは出版甲子園という学生作家を掘り起こすイベントの企画がもとになっている。著者の篠原かをりさんが第10回出版甲子園のグランプリを受賞し、本書が世に出た。まだ現役大学生の若い著者の今後の活躍に期待したい。


続いて紹介する2冊目は、『カブトムシゆかりの虫活! —虫と私の○○な生活—』。


カブトムシゆかりの虫活! —虫と私の○○な生活—:カブトムシゆかり 著


本書の著者は、知る人ぞ知る昆虫アイドル、カブトムシゆかりさんだ。全編フルカラーの本書は、著者のエッセイ、ヨロイモグラゴキブリなど著者が飼っている昆虫の紹介、フィールド観察記録など、かなりバラエティに富んだ内容となっている。笑顔で虫を手にした著者の写真も散りばめられており、虫を愛でる楽しさが伝わってくる。


一見ポップな本書だが、とくに興味深いのが、虫好きアイドルを名乗る著者ならではの心の葛藤を綴った部分だ。著者はもともと虫が好きで、虫を紹介するブログを運営していたことがきっかけで、芸能プロダクションにスカウトされたという。ただ、周囲からは、虫好きアピールが売れるための表面的な戦略だと誤解されたり、番組ではどうしてもキワモノ扱いされたりと、著者の本来の目的である「虫の素晴らしさを広めること」を達成することの難しさがうかがえる。


さらに著者は、テレビ番組などで虫がイヌやネコなどに比べて雑な扱いを受けて弱ったり死んでしまったりしたことも嘆いており、メディアの現場のあり方に疑問を呈している。通常、芸能活動をする芸能人は、このようなメディア批判はしづらいはずだ。著者は自身が売れることよりも、虫を広めること、そして何よりも虫を愛することを最優先にしていることが、これらの記述からうかがえる。


実際に、著者は虫の素晴らしさを広めるため、メディアだけの仕事ではなく、虫のお姉さんとして昆虫教室などのイベントでも啓蒙活動をしている。


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私も先日、著者と昆虫学者の丸山宗利さんのトークイベントに参加したが、著者の話もユーモアに富んでいてとても面白かった。今後の虫啓蒙活動にも大いに期待したい。

【書評】『ゲノム編集の衝撃 「神の領域」に迫るテクノロジー』 来るべき未来に備えて正しい理解を

ゲノム編集の衝撃―「神の領域」に迫るテクノロジー:NHK「ゲノム編集」取材班 著


「今、もっともエキサイティングなバイオテクノロジーは何か」。この質問に対し、多くの生命科学者は次のように答えるだろう。「それはゲノム編集だ」、と。本書は、ゲノム編集がどのような技術で、この技術がいかに未来を変えうるかについて解説した良書である。


ゲノム編集とは、遺伝子の本体であるDNAの狙った位置を切り貼りするなどして「編集」し、その生物のすべての遺伝情報、すなわちゲノムを改変する技術である。ゲノム編集により、有用な農作物の作出や、遺伝性疾患の治療ができるようになると期待されている。ゲノム編集技術のひとつであるCRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)システムの確立により、この技術が爆発的に普及するようになった。


以前、むしブロでゲノム編集について解説した記事を公開したところ、大きな反響があった。ただ、これまでに国内で出版されたゲノム編集関連の書籍は研究者向けのものばかりで、一般向けに書かれた入門書のような存在は皆無だった。本書は生物学についての専門知識がなくても容易に読み進められるように書かれており、ゲノム編集を「いろは」から知りたい読者にとって良好な解説書となっている。


入門書といっても、書かれている内容は本格的だ。国内外の専門家たちへの丹念なインタビューからは、ゲノム編集技術についての具体的な最新の研究例を知ることができる。とくに巻末に掲載された広島大学の山本卓教授による Q&A形式の解説では、最先端のゲノム編集研究の動向がうまくまとめられている。


ここで、本書で紹介されているゲノム編集の応用例をいくつか紹介しよう。まずは、家畜への応用。もし一頭あたりの食肉用家畜の筋肉を増量することができれば、資源をより効率的に生産することができる。現在、この目的でゲノム編集技術を用い、筋肉が増量したマダイやウシの作製が進められている。


筋肉が増量したこのような家畜は、ミオスタチン遺伝子をゲノム編集で破壊することによって作り出される。ミオスタチン遺伝子がコードするミオスタチンタンパク質は、筋肉細胞を適切な数に抑える役割がある。ミオスタチン遺伝子が破壊されれば、ミオスタチンタンパク質が作られず、抑制が効かなくなる。よって、筋肉の細胞数が正常の場合よりも増加するわけだ。


また、ゲノム編集技術の医療方面への応用例のひとつとして、疾患モデル動物の作製がある。現在まで、医学研究で用いられる疾患モデル動物としてはマウスが主流だ。特定の疾患をもつマウスを遺伝子ノックアウト技術で作り出し研究することで、ヒトへの治療法を探ることができる。だが、マウスとヒトでは生理学的特性が異なる部分もあり、マウスで得られた知見がヒトでも一致するとは限らない。


そこで開発されつつあるのが、マウスよりもヒトに近い、サルの疾患モデルの作製である。遺伝子ノックアウト技術では、サルに対して遺伝子改変を行うことが困難だった。だが、ゲノム編集はサルの遺伝子を改変することができる。国内でも、実際にゲノム編集を使って、免疫不全のコモンマーモセットというサルの作製に成功している。本書では、この他にもゲノム編集の応用例が多岐に渡って紹介されている。


ところで、本書はNHKの「ゲノム編集取材班」により製作され2015年夏に放映されたNHK『クローズアップ現代』の「“いのち”を変える新技術 ~ゲノム編集最前線~」の内容が土台となって書籍化されたものである。だが、番組の放映から一年後に出版された本書には、ゲノム編集の新技術や、各国政府と研究者コミュニティによる本技術への見解など、多くの新情報が追加されている。ゲノム編集は文字通り日進月歩の技術であり、この技術に対する社会の反応も刻一刻と変わり続けているのだ。


ゲノム編集技術はヒトへの応用も可能だ。機能拡張のために好ましい性質を持った子ども「デザイナーベイビー」の設計にもつながりうる。このため、ゲノム編集については生命倫理の議論を避けて通れない。ゲノム編集に対して、漠然とした不安や恐怖を抱く人もいるだろう。ゲノム編集について冷静な議論を進めるためには、この技術への正確な理解が不可欠である。本書のような媒体が、少しでも多くの人に届くことを願う。


ヒトの遺伝子改変はどこまで許されるのか ゲノム編集の光と影 (イースト新書Q)

ヒトの遺伝子改変はどこまで許されるのか ゲノム編集の光と影 (イースト新書Q)

ヒトの遺伝子改変について、生命倫理学の専門家による深い洞察が記された一冊。クマムシ博士のレビューはこちら。

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生物学の知識がある研究畑の人にはこちらもおすすめ。


実験医学 2014年7月号 Vol.32 No.11 ゲノム編集法の新常識! CRISPR/Casが生命科学を加速する


今すぐ始めるゲノム編集〜TALEN&CRISPR/Cas9の必須知識と実験プロトコール (実験医学別冊 最強のステップUPシリーズ)


※本記事は書評サイトHONZに寄稿したものです


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【書評】松尾芭蕉マニアもいる?!等身大の北朝鮮がみえてくる『実録・北の三叉路』

実録・北の三叉路:安宿 緑 著


本書は北朝鮮系の人々を描いたノンフィクションである。北朝鮮、といっても、日頃の報道番組が扱うような、政治的な話にフォーカスしたものではない。スポットライトが当てられているのは、北朝鮮に暮らしていたり、北朝鮮にルーツをもつ、いたって普通の人たちだ。ふだん知られることのない彼らの日常が、本書では実にいきいきと語られている。


ベールに包まれている北朝鮮系の人々にアクセスし、取材をすることは容易ではない。本書が日の目を見たのは、著者の生い立ちと経歴によるところが大きい。
本書の著者は朝鮮北部の父と在日韓国人2世の母をもつ、いわゆる在日コリアンである。日本の朝鮮学校に通い、あの朝鮮総聯で働いていたこともある。北朝鮮に親類がいるため、90年代から訪朝を繰り返し、現地の人々との交流も続けてきた。現在は日本で雑誌のライターをしつつ、北朝鮮情報を自身のブログで発信している。著者のどこかとぼけた筆致のせいだろうか、やや深刻な話題であってもなぜか笑いを誘ってしまうことも。


朝鮮学校時代の著者は、使命感に燃えて朝鮮労働党員になる夢を抱く。だが、著者のようなタイプの生徒は稀で、クラスメメイトはいわゆるヤンキーが多く、「祖国愛」に拒否反応を示すタイプが大半だったという。著者はそのままの調子で模範生として成長し、朝鮮総聯にも務めることになる。


朝鮮総聯在任中のある日、拉致被害者が帰国することになった。それまで「いない」と信じ込んでいた拉致被害者の存在を突きつけられた、著者を含む朝鮮総聯関係者。当時の彼らの反応も実に生々しく、人間らしさが漂う。

北朝鮮に住む中学生、案内人、軍人など、さまざまな人々と交流したエピソードも、写真とともに紹介されている。笑顔でおどけている北朝鮮人の姿は、それだけで新鮮に感じてしまう。これも私たちがふだん、ネガティブ一色の北朝鮮報道に馴れきっているためだろう。


北朝鮮に住んでいる一般人が日本をどのように思っているのかも興味深い。北朝鮮は国家をあげて日本を敵対視しときに激しく罵倒するが、一般市民が日本のことを深く憎しんでいたりすることはないようだ。むしろ、日本製品や日本食が好きだったり、ポジティブなイメージすらあるという。松尾芭蕉マニアの作家もいるくらいだ。


ただ全体的には、北朝鮮人は日本に対してそれほど高い関心はないらしい。その一方で、韓国の話題になると皆すごい形相になるという。隣国に対する高いライバル意識がうかがえる。


本書を読み終えた後には、北朝鮮という国が単なる記号ではなく、そこに暮らす、私たちとかわらない普通の人々が一体となったひとつのコミュニティーであるという、当たり前のことに気づかせてくれる。マスメディアでは知ることのできない北朝鮮を知りたい人に、本書を強くおすすめしたい。


BBCが行った世論調査によると、2012年時点で北朝鮮に対してポジティブな印象をもつ日本人の割合はわずか1パーセントだったのに対し、ネガティブな印象ををもつ割合は88パーセントだった(日本を除く21カ国の北朝鮮への印象は、ポジティブ19パーセントに対してネガティブ49パーセント)。依然として、日朝の間に横たわる溝は深い。国単位の外交だけではなく、市民ベースでの相互理解が、両国の関係改善につながるのだろう。


※本記事は書評サイトHONZに寄稿したものです

【書評】我々は特別な存在か。宇宙的バランス感覚を養う一冊『生命の星の条件を探る』

生命の星の条件を探る:阿部 豊 著


生命の星、地球。都会のようなコンクリートジャングルにおいても雑草が茂り、アリたちが闊歩する。足下をふと見れば道路の片隅にコケが生育していて、そのコケの中にはクマムシがいる。朝晩の電車に乗り込めば、無数のホモ・サピエンスと接触する。生物はそこに居て当然。そんな風に私たちは感じてしまう。だが、地球以外の天体に由来する生命体は、現在までまだ見つかっていない。はたして、生命を育んでいる惑星は、この広い宇宙で地球だけなのだろうか。


生命体が棲息する環境がどのようなものかを考えるとき、もっとも参考になるのは、私たちを育んでいるこの地球の環境である。ある惑星が地球と同じような環境であれば、そこには生命体が居てもおかしくない。もちろん、地球型の生命体とはまったく異なるタイプの生命体も、宇宙のどこかにいるかもしれない。だが、そのような生命体はあくまで空想上の産物にすぎず、実際の探査や検出を行なおうにも、その手段がない。地球生命体という格好のお手本がここにある以上、同じタイプの生命体がいそうな環境を推定するのが合理的である。


生命が棲めるような環境範囲をハビタブル・ゾーンとよぶ。これは具体的には、「液体の水」が存在できる環境範囲のことである。液体の水がある星は、どのような条件を備えているのだろうか。これこそが、本書のテーマである。本書の著者である東京大学理学系研究科の阿部豊准教授は、なぜ地球が生命を培う惑星となったのかを、多角的な視点で検証している。地球の成り立ちにかかわる役者がリレーのように登場し、本書は一冊が壮大なミステリー小説の様相を呈している。


本書を通してわかるのは、我々が想像する以上に、地球が絶妙なバランスで成立してきたということだ。微惑星や原始惑星どうしの衝突を繰り返し、46億年前に地球ができあがったと考えられている。このときに地球が水を獲得できたことが、生命の惑星となるための最初のステップである。太陽からの距離も、地球表面の水が液体で存在できる範囲内に、ちょうどおさまっている。さらに、地球のサイズが適度に大きかったため、重力により大気をとどめておけたのも幸運だった。


太陽からの距離が同じだとしても、もし太陽が現在よりも大きすぎたり小さすぎたりすれば、太陽放射の強度が変化して地球上に液体の水が維持されなかったかもしれない。地球が小さすぎれば大気は宇宙空間へと逃げてゆき、温室効果が失われて凍てつく惑星となってしまうだろう。また、太陽系の他の惑星が今よりも大きければ、重力の影響で地球が太陽系からはじき飛ばされていた可能性もある。とてもではないが、生命が生まれるような惑星にはなっていなかった。


さらに意外なことに、地球上が水一面で覆われていても、生命にとって不都合な環境になるという。


二酸化炭素は温室効果ガスとして地表を暖める効果があるが、この二酸化炭素の循環もほどよい具合に保たれている。火山活動により地中内部から大気に放出される二酸化炭素と、大気中から炭酸塩に固定される二酸化炭素が釣り合っているのだ。地表を現在の気温に維持するのに重要な働きを担うのが大陸の存在であると、著者は主張する。もしも地球に陸地がなく、一面が海に覆われていたとしよう。大気中の二酸化炭素は陸地で炭酸塩に固定されるため、大陸がなければ地中から放出されて大気にとどまる二酸化炭素の量が増え、温室効果により気温は60〜80ºCになるかもしれないという。現存の微生物の中にはこのくらいの温度でも生きられるものもいるが、少なくともヒトが生きられるような環境ではない。


現在の地球は、この惑星の内外の奇跡的なバランスのもとに成立し、我々はおだやかな環境の恵みを享受できているのだ。だが、著者は地球を「奇跡の星」と呼びたくないという。たしかに、銀河系だけでも恒星が1000億個あると言われており、確率論でいえば生命を育む惑星が存在しないほうが不思議である。もっと言えば、知的生命体を宿す惑星だって存在しうる。ケプラー宇宙望遠鏡の活躍により、太陽系の外にある系外惑星の発見も相次いでいる。観測技術の発展により、実際に液体の水を有する惑星が近いうちに発見されるかもしれない。いや、その前に、木星の衛星エウロパや土星の衛星エンセラドゥスへの探査で生命体が見つかるのが早いだろうか。地球外生命体をめぐるロマンは尽きない。


ところで、この地球とて、いつまでも我々にとって都合のよい惑星であり続けることはできない。10億年後には太陽の温度が上昇し、地球への太陽放射が10〜15%増大することが予想されている。そうなれば地球上の温度はなんと1000ºCを超える高温になってしまう。太陽とのバランスが少し崩れることで、この生命の星もいずれは終焉を迎えるのである。こうして宇宙に思いを馳せながら読書を愉しみHONZにレビューを書けるのも、いまの地球がハビタブル・ゾーンにあるからこそ・・・。なんだか感慨深くなってしまった。いずれにしても、本書は宇宙的バランス感覚を養うのに絶好の一冊である。


地球外生命を求めて:マーク・カウフマン 著


人類による地球外生命体探索のこれまでを綴った良書。宇宙生物学者への取材も豊富になされており、臨場感が伝わってくる。


生命はなぜ生まれたのか―地球生物の起源の謎に迫る:高井 研 著


こちらは微生物学者による生命の起源についての考察。最近、この著者はエンセラドゥスへの探査も画策しているようだ。


※本記事は書評サイトHONZに寄稿したものです

【書評】昆虫研究者に囲われた、セクシーすぎる愛人たちの図鑑『きらめく甲虫』

きらめく甲虫:丸山 宗利 著


「これまでの昆虫図鑑の概念を覆した」。本書のことを、こう紹介しても過言ではないだろう。従来の昆虫図鑑では体現できなかった、圧倒的な質感と光沢。本書では、各ページがひとつの標本箱、いや、宝石箱になっている。その中にそっと指を入れれば、掴めてしまいそうな、きらめく虫たち(実際に、本書に印刷された虫を本物だと勘違いし、一生懸命に指でつまもうとしていた幼児がいた)。


ページをめくるごとに、たしかな質量をそなえた昆虫たちが浮き出る。虫たちの容姿は、リアルを通り越して、セクシーな領域にまで達してしまっている。これだけのクオリティーにもかかわらず、本書は驚愕の1300円(税抜)。私は書店で本書を見て、購入を即決した。


これらの艶かしいモデルたちをコレクションし、撮影したのが、ベストセラー『昆虫はすごい』(光文社新書)や『アリの巣をめぐる冒険』(東海大学出版会)の著者でもある丸山宗利氏だ。九州大学総合研究博物館で昆虫分類学研究に従事する、新進気鋭の研究者である。


生物学の分野で大学教員になるのは難しい。昆虫分類学のように博物学的な要素を含む研究分野では、用意されているポジションはとりわけ少ない。競争を勝ち抜いてプロの研究者になる難易度は、さらに跳ね上がる。それを承知で、昆虫分類学研究者として一旗揚げようとする著者のような人間は、尋常ならざる昆虫愛を抱いていなければ、とてもではないが、この世界ではやっていけない。言い換えれば、著者は誰よりも昆虫を愛しすぎた人物なのだ。


昆虫研究者にとっての昆虫とは、すなわち愛人に等しい。誰も邪魔の入らない密室の中で、自らが囲う愛人たちをファインダー越しに愛しながら、慎重にシャッターを切ってゆく昆虫研究者。そんな著者に撮られたからこそ、被写体の虫たちからは性的魅力すら立ちのぼってくるのだろう。撮影機材に特殊なもの使ったのかと思いきや、そういうことはなく、撮影時に光の当て方を工夫して立体感が出るようにしたそうだ。なるほど、地道に培ってきたそんなテクニックも、被写体にさらなる性的魅力をもたせる秘訣だったのである。


もちろん、昆虫たちの迫力ある質感を体現したのは、印刷技術による貢献も大きい。昆虫に取り憑かれた著者と、高度な印刷テクノロジー、そして、出版社の熱意が合わさって、奇跡的な一冊が生まれたのかもしれない。本書はいずれ電子版でもリリースされるかもしれないが、おそらく、紙版のクオリティーには及ばないだろう。本書は、紙の本のさらなる可能性をも感じさせてくれる。


さて、タイトルにある通り、本書は昆虫の中でも甲虫のみを収録している。ご存知の方も多いと思うが、昆虫は地上で最も繁栄している生物群である。その昆虫の中でも甲虫はとくに栄えており、約37万種が知られている。甲虫にはカブトムシやクワガタムシを含むコガネムシ上科をはじめ、オサムシ上科、タマムシ上科、ゾウムシ上科、そして、カミキリムシ上科が含まれる。甲虫が栄えた大きな要因として前翅の硬化が挙げられる。昆虫の他のなかまは二対四枚の羽を使って飛ぶが、甲虫では硬化した前翅二枚は飛翔には使わず、後翅二枚のみで羽ばたく。前翅は後翅を収納・保護する。これにより、天敵から身を守ったり、土の中を潜ることが容易になり、地上の様々な環境に適応することができた。


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プラチナコガネ


種数の多い甲虫だけあり、形態のバリエーションも豊富だ。とりわけ、熱帯地方にはメタル感あふれるきらびやかな色彩を放つ種類が多い。これらの金属光沢は構造色といい、光が当たると発色する。表面の微細構造によって異なる光の波長を反射するため、部位によってさまざまな色に見えるわけだ。人々を魅了してきたこれらのきらめく甲虫たち。種類によっては、高値で取引されることもある。中南米に棲息するプラチナコガネなどは個体数も少なく、重量あたりの取引金額は金よりも高いとか。

ここで、本書に収録されている200種類のうち、私の独断と偏見で選んだかっこいい甲虫ベスト5を発表したい。


第5位 サザナミマダガスカルハナムグリ
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マダガスカル産だが、まるで北斎の作品のようなさざ波模様が粋。


第4位 ニジモンカタゾウムシ
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いきいきとした水玉模様がグッド。


第3位 キラキラアラメムカシタマムシ
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正真正銘のキラキラネーム甲虫。渋くて重厚な色合い。


第2位 イボカブリモドキ
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背に施された突起物がグロ・クール(グロくてクール)で素敵。


第1位 ヤマトタマムシ
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やっぱり日本人にとってヤマトタマムシは永遠のあこがれ。

みなさんも、ぜひ本書の甲虫たちを堪能し、マイベスト甲虫を選定してみてほしい。


ところで著者によると、甲虫の新種は毎年何千も記載されるらしい。それだけ、まだ多数の虫たちが人知れず地上のどこかに潜んでいるわけだ。生物分類学は未知だった生物を全人類に紹介し、さらに科学の俎上に乗せるという、大事な役割をもつ。この学問を蔑ろにすると、そこから先の基礎研究と応用研究は立ち行かなくなる。我が国の現政府は実利的研究以外の分野に冷や水を浴びせようとしているが、著者のような研究者が今後育たなくなれば、我が国の科学研究は土台がもろく先細ったものになってしまうだろう。人類が集合知を作り上げていく上で、今後も著者のような存在は欠かせないのである。

ツノゼミ ありえない虫:丸山 宗利 著


さて、著者によるツノゼミの図鑑もおすすめだ。生存に必要なさそうな、極端な形。こんなありえない形態がなぜ進化したのかを想像するのも楽しい。


昆虫はすごい:丸山 宗利 著


※本記事は書評サイトHONZに寄稿したものです


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『クマムシ研究日誌』、重版出来御礼。

クマムシ研究日誌: 地上最強生物に恋して


重版出来!(1) (ビッグコミックス)


ちょうど1年前に出版した『クマムシ研究日誌』(東海大学出版会)が重版されることになりました。『クマムシ博士の「最強生物」学講座」』(新潮社)に続き、これで単著は2作連続での重版。出版社や書店のみなさま、そして何よりも拙著をお買い上げいただいた方々に厚く御礼申し上げます。


本書の感想を書いていただいた方々にも感謝申し上げます。ここでその一部を紹介させていただきます。

研究対象に注ぐ〈無償の大きな愛〉に圧倒される。
読売新聞

いったい何回クマムシという単語が出てきているのだろうか。彼のクマムシに対する愛はとめどなく溢れてはこぼれ落ち、この本に散りばめられている。
バッタ博士 前野ウルド浩太郎 
砂漠のリアルムシキング

本書から伺える堀川氏の一連の考え方や行動力は、まさに起業家精神(アントレプレナーシップ)に基づいている。
academist代表 柴藤 亮介 
HONZ


柴藤さんと内藤さんとの対談もHONZで掲載されました。

honz.jp

今は作家とかミュージシャンも昔に比べると食えなくなって、イベントをこまめにやったりネットでうまくセルフプロデュースしたりしないとやっていけないとか言ったりするけれど、研究者もそういうものになっていくんじゃないだろうか。
pha
phaの日記


phaさんとも対談させていただきました。

www.gentosha.jp

同じ研究者という生き物として、さまざまな試練にさらされながらも研究を続けようと苦闘する氏の姿に親近感を覚えた
3710920269

甘ちゃんの研究者がだんだん鍛えられてプロになっていく過程はなかなか読ませる。
shorebird 進化心理学中心の書評など

調査対象の飼育システムを確立し、それを研究するだけのサンプル数を稼ぐことができるようにするまでのプロセスがすさまじい。
めもちょう タイの森から石川県へやってきた研究者の生活

研究者だから,つまらない文章だろうと思ったらとんでもない。

よぴきちさん(読書日記)


プチ文壇バー「月に吠える」のWebでも本書についてのインタビューをしてもらいました。


magazine.moonbark.net


Twitterでも多くの感想を寄せていただいています。



『クマムシ研究日誌』をはじめとした東海大学出版会の『フィールドの生物学シリーズ』は大型書店に置いてあるので、実際に手に取ってから購入を検討されたい方は、そのあたりを回っていただければと。以下の書店に置いてあることは確認済みです。


八重洲ブックセンター本店
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丸善丸の内本店
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丸善&ジュンク堂書店渋谷店
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ジュンク堂藤沢店
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丸善多摩センター店
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啓文堂書店 狛江店(実家のある狛江の書店さんに置いてもらいました)
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最後に、ソーシャル校正のよびかけに快くご参加いただいたみなさまに特別の御礼を申し上げます。どうも有り難うございました。


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2015年にクマムシ博士が掲載された雑誌や書籍など

2015年もさまざまなメディアに執筆したり取り上げていただきました。こちらでは主に掲載された雑誌や書籍を紹介します。


kotoba: 南方熊楠 「知の巨人」の全貌、「クマグス的研究生活のススメ」


NHKラジオ基礎英語2CD付き 2015年 04 月号、「クマムシ博士 堀川大樹さん(前編)」


NHKラジオ基礎英語2 2015年 05 月号 、「クマムシ博士 堀川大樹さん(後編)」


ジュニアエラ 2015年 09 月号、「みんなみんな子供だった:クマムシ博士堀川大樹」


マナビゲート〈2015〉―学びの楽しさ発見マガジン、「クマムシを飼育して強さの秘密を解き明かす」


望星 2015年 12 月号、「放課後の学問「クマムシのこと、もっと知ってください」」


Newton(ニュートン) 2016年 02 月号 、「「クマムシに大量の外来遺伝子」に疑問の声」


あと、自分の著作も2015年に出版されました。クマムシに関する数少ない書籍のひとつです。


クマムシ研究日誌:堀川大樹 著