クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

Newtonにクマムシゲノムに関する記事が出ました

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今月発売されたNewtonのクマムシの記事について取材協力しました。先日発表されたクマムシへのDNA水平伝播に関する論文と、それに対する疑義についての内容です。


Newton(ニュートン) 2016年 02 月号 、「「クマムシに大量の外来遺伝子」に疑問の声」


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「クマムシに外来遺伝子17%」は真実か

おすすめ本レビューサイト「HONZ」に新規参入しました

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おすすめ本のレビューサイト「HONZ」に新規参入しました。拙著フィールドの生物学シリーズ『クマムシ研究日誌』を出版した際のインタビューをHONZの柴藤さんと内藤さんにしていただいた際に、加入のお誘いを受けたのがきっかけである。


夢はみんなで作る研究所! クマムシ博士の野望:HONZ

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本日、最初のレビューを寄稿したので、ぜひご一読いただければ幸いです。


昆虫研究者に囲われた、セクシーすぎる愛人たちの図鑑『きらめく甲虫』: HONZ


日本国内で出版される書籍は数万タイトルにおよぶ。そのような膨大な数の本の中から面白い本を見つけるのは至難の技である。それゆえ、新聞の書評コーナーや、HONZや人気ブログの書評は、忙しい現代人にとって重要な役割をもつ。もちろん、出版業界に与えるインパクトも大きい。書籍の売れ行きは、これらの媒体で紹介されるかどうかで大きく左右されることになる。


だから、どの本を取り上げ、それをどのように紹介するかというレビュアーの行為には、それなりの責任が伴う・・・かもしれないが、私はそんなこはあまり気にせずに、本当に面白いと思う本をちょっとふざけながら紹介していきたい。


というわけで、クマムシ博士に献本してもよいという出版社や著者の方は、horikawadd@gmail.comまでご連絡ください。面白いと思った本はHONZかこちらのむしブロ、あるいは有料メルマガのむしマガで紹介させていただきます。

『クマムシ研究日誌』読者のみなさまにお願い

先日出版されたフィールドの生物学シリーズ『クマムシ研究日誌』がおかげさまで売れ行き好調のようで、そろそろ重版がかかる気配になってきました。ご購入していただいた読者のみなさまには厚く御礼申し上げます。


クマムシ研究日誌: 地上最強生物に恋して


そしてたいへん恥ずかしながら、いくつか誤植なども見つかり、ご指摘いただきました。


P.41 5行目 (誤)「コケやなど」→(正)「コケや地衣など」 
P.132 11行目 (誤)「ノミーネと」→(正)「ノミネート」


@tmhwqさん、ご指摘いただき有り難うございます。


また、2003年の国際クマムシシンポジウムで鈴木忠さんの発表内容を「オニクマムシの生活史についての研究」と記していましたが、正しくは「オニクマムシの卵形成の電子顕微鏡観察」でした。鈴木さん、申し訳ありませんでした。さらに、クロレラ工業株式会社より、生クロレラV12の系統はChlorella vulgaris ChikugoではなくChlorella vulgaris CK-22であることもご指摘いただきました。お詫びして訂正いたします。


読者のみなさまにおかれましては、本書内に他にも誤植や間違った表記などがありましたら、SNSなどでお知らせいただけますと幸いです。第二刷ではより高い質の本にしますので、どうか皆様のご協力をお願いさせていただきたく思います。


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クマムシ本『クマムシ研究日誌』を出版します。

クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたち

クマムシ博士の「最強生物」学講座、重版出来御礼。

クマムシ博士の「最強生物」学講座、重版出来御礼。

拙著『クマムシ博士の「最強生物」学講座』にまた重版がかかり、第3刷になりました。


『クマムシ博士の「最強生物」学講座』


購入していただいた皆様一人ひとりの家庭をまわり、ぎゅっと抱擁してさしあげたい思いでいっぱいですが、日本でこれを実行すると通報されるので控えておきます。もしうっかりやってしまった場合は通報せずに、欧米生活で身についたクセが抜けきらないヤツということで大目に見てください。


最近は『重版出来!』という漫画を読んでいるのですが、これが出版の裏側を描いておりとても面白いです。


重版出来!(1) (ビッグコミックス)


この作品を読むと、本の出版にいかに多くの人々がかかわっているかを認識させられます。読者の皆様はもとより、拙著の制作、流通、販売にご協力いただいているすべての皆様に感謝申し上げます。


フィールドの生物学シリーズ『クマムシ研究日誌』もそろそろ重版がかかりそうです。こちらもどうぞよろしくお願いいたします。


クマムシ研究日誌: 地上最強生物に恋して


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クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたち

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【書評】『持たない幸福論』現代の教祖の有り難い説法

個人的に大好きなニート界のカリスマことphaさんの新著が出た。


持たない幸福論 働きたくない、家族を作らない、お金に縛られない


私はだいぶ前からphaさんが好きで、彼のブログもたびたびチェックしているのですが、今回の本はphaさんの哲学の集大成というか、つい周りの目を気にして働きすぎたりプレッシャーを感じてしまう人が読むと肩の力がうまく抜けるような内容になっています。


ただ、よく言われる「心身が健康なのにあえて働かず税金を納めないニートは社会のインフラにただ乗りしているフリーライダーだ」という指摘に対しては、phaさんは本書で回答していませんでした。このあたり、phaさんがどう考えているのかがとても気になっているのですよね。私自身はニートがいても寛容であればよいと思いますが、やっぱりみんながニートになってしまったら社会インフラもできないわけで、便利じゃなくなるよね、と。たまたま同じ国や地域に生まれた者たちが法の下に協調しつつ労働や納税を義務づけられるのもどうなんだ、という話にもなるのだが。まあ、日本がいきなり分断されることはないだろうけど、経済格差によって住む地域がだいぶ分断されていくのではないでしょうか。あとは一定以上の規模の事業をするひとたちがシンガポールにどんどん出て行ったり。


念のために言っておくと、phaさんについては、たとえ税金を一円も納めてなくても、ぼくは何の問題もないと思っています。彼のようなアイディアは多くの人が耳を傾けるだけの価値があると思うし、意見を発信するだけで文化的な資産を世の中に残していると思うからです。まあ、教祖様のような存在ですかね。職もないし働いてないけれど、有り難いことを言ってくれるから、お布施をあげてもいいや、と思わせるタイプ。実際にこの本も面白い。こういう人は貴重なので、むしろみんなで支えていくべきだ。


ということで、本書は広大な宇宙となり、自分が抱えている問題意識を相対的にミクロ化する効能がある。「自分が周りにどう思われるか」をついつい気にしちゃうタイプの人にとくにお薦めである。


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ニート転身で豊かな人生を

『クマムシ研究日誌』発売開始

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フィールドの生物学シリーズ『クマムシ研究日誌』が製本されて送られてきました。四苦八苦しながら書いたものがこうして本というフォーマットとなって届くと、やはり嬉しいものですね。


本書が書店に並ぶのは早くて今週末、遅くても来週の頭になる見込みです。ちょっと小さい書店だと置かれないかもしれません。近くに大型書店がない場合は、アマゾンなどでお求めすれば確実でしょう。アマゾンからの注文はこちらからどうぞ。


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このフィールドの生物学シリーズは表紙のデザインがすべて同じだったのですが、今回の『クマムシ研究日誌』では特別に少しデザインが変わっています。微妙な違いなので、同シリーズの他の書籍と見比べてみてください。


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【書評】『テングザル―河と生きるサル』ボルネオの思い出

テングザル―河と生きるサル:松田 一希著 (フィールドの生物学7)


著者の松田一希氏は僕とは北海道大学大学院時代の同じ研究室の出身で、しかも同級生。松田氏は現在、京都大学で特定助教をしている。拙著『クマムシ研究日誌』は、彼が僕のことを東海大学出版会の編集者田志口さんにプッシュしてくれたことで、企画が持ち上がった。


余談だが、彼はイケメンでおしゃれさんでもあるので、女性向けファッション誌『VERY』が開催したイケダン(イケてるダンナ)コンテストでも400人の中からベスト6まで勝ち進んだ経歴ももつ。2016年には情熱大陸にも出演


松田氏は博士課程に進学後、テングザルの生態学研究をスタートさせた。霊長類のような大型哺乳類の生態調査は根気もいるし、データを集めるのもなかなか難しい。データをとりにくい研究なので、博士号をとるのも必然的に困難となる。非常にリスキーな研究テーマを選んでいるわけだが、裏を返せば、そこまでしてでも、彼はテングザルを追いかけたかった、ということだ。


テングザルはボルネオ島の河畔林に棲む。オスは天狗のような鼻をもつために、このような名前が付けられている。夜から朝方にかけては川辺ですごし、昼は森の中に入っていく。つまり、テングザルを追跡するには川上をボートで移動しながら観察するだけでなく、森の中に入っていくことも必要になる。きわめてタフな調査が要求されるが、そこは研究室のボスである東正剛教授の「パワー・エコロジー」の教えに従い、松田氏は突き進んでいた。


このようなパワー・エコロジーの実践により、彼はテングザルの詳細な行動パターンや食性を明らかにするだけでなく、霊長類で初めての記録となるテングザルの反芻行動を発見した。今や押しも押されもせぬテングザル研究の第一人者となっている。


海外を拠点とした生態学研究でたいせつなことは、実は野生生物と向き合う忍耐力だけではない。地元の住民たちといかに仲良くやっていけるかも、非常に大きな鍵となる。松田氏は流暢なマレーシア語を喋るが、これはすべて現地のマレーシア人とコミュニケーションをとりながら徐々に覚えていったのだそうだ。あくまでも対等な立場として、しかし時には舐められないように、うまく接してゆく。円滑な研究活動の遂行は、このようなコミュニケーション能力にも依存するのである。


さて、実は僕も5年ほど前に松田氏がテングザル調査をしているマレーシアのスカウ村を訪ねたことがある。スカウ村は本当に素朴な村で、そこにいた子ども達の目がとても澄んでいたことが印象に残っている。不注意に川の中に入って釣りをしていて、ワニに食べられてしまう人もいる。野外でランチを食べていると羽アリが多数ごはんに落ちてきて、注意していても食物がアリごと口の中に入ってしまう。そんな、ワイルドな場所だ。


乗り合いの車でサンダカンからスカウ村へ
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スカウ村のようす
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スカウ村を流れる川
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スカウ川の上をボートですいすいと進むと、熱帯林特有の甘い匂いがした。


ボート上の松田氏(右)とマレーシア人の助手さん(左)
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カワセミ
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テングザルじゃないサルたち
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ほどなくして運良く、僕らは川沿いの木々にたたずむテングザルを見つけることができた。


木の上で休むテングザル
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テングザルは思ったよりも落ち着いていて、あまりアクションがない。まあ、大型哺乳類はどれもだいたいそんなものなのだろう。


さらに幸運なことに、テングザルだけではなく、野生のボルネオゾウまで発見。


ボルネオゾウ
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ボルネオゾウにかなり近づくことができた。ただし、あまり近づきすぎると攻撃してくるので、一定の間合いをとらなければ危険だという。


そして、生きものとの遭遇はこれだけでは終わらなかった。野生のオランウータンまで見ることができたのだ。


オランウータン
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「ウォッォッォッォッ!」


吠えたのはオランウータンではなかった。松田氏だ。なんと、彼はオランウータンとコミュニケーションをとり始めたのだ。マレー語だけでなく、オランウータン語も堪能に操れるというわけだ。


いつの間にかこのコラムが僕のボルネオ探訪紀となってしまったが、とにかく本書はテングザルの生態だけでなく、ボルネオ情緒を知るにもうってつけの良書である。


※本記事は有料メルマガ「むしマガ」292号「南極クマムシツアー」の一部です。

クマムシ博士のむしマガVol. 292【南極クマムシツアー】

2015年5月17日発行
目次

【0. はじめに】もうすぐイタリア

来月下旬は三年に一度の国際クマムシシンポジウムがイタリアのモデナで開催されます。イタリアは伝統的にクマムシ研究が盛んで、今もモデナ大学のグループが幅広いトピックでクマムシ研究を精力的に進めています。イタリア料理も楽しみ。

【1. むしコラム「南極クマムシツアー」】
南極のクマムシについては1世紀以上にわたって調査されている。南極クマムシ研究の実態をレポート。

【2. 今週の一冊『テングザルー河と生きるサル』】
ボルネオでテングザルの研究に没頭した男の研究の記録。

【3. おわりに「新宿ゴールデン街ツアー」】
新宿ゴールデン街をはじめてめぐってきました。

【料金(税込)】 1ヵ月840円(初回購読時、1ヶ月間無料) 【 発行周期 】 毎週

「クマムシ博士のむしマガ」のご購読はこちらから

クマムシ本『クマムシ研究日誌』を出版します。

5月下旬にクマムシ本が出ます。タイトルは『クマムシ研究日誌』。メルマガ「むしマガ」で連載していた同タイトルの原稿をベースにまとめたものです。すでにAmazonで予約受付を開始しています。


クマムシ研究日誌: 地上最強生物に恋して


前作のクマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちーではクマムシの話が全体の3分の1ほどだったのに対し、『クマムシ研究日誌』は一冊まるごとクマムシの話。私がクマムシに出逢ってからこれまでの研究人生を時系列で追いつつ、初心者からマニア向けのクマムシ教養をつめこみました。


『クマムシ研究日誌』は怪作ぞろいの『フィールドの生物学シリーズ』の第15弾目として東海大学出版会から出版されます。このシリーズでの出版ということで、執筆中もプレッシャーがありましたが、なんとか出版までこぎ着けられてほっとしています。『クマムシ研究日誌』の目次は以下のとおり。

クマムシ研究日誌 
ー地上最強生物に恋してー


目次


はじめに

第1章 クマムシに出会うまで


型破り教授
クマムシとの出会い
クマムシとの遭遇
カーブのすっぽ抜けが真ん中やや高めに甘く入ってきた
【コラム】 クマムシとは
クマムシの圧力耐性
変な優越感
クマムシの酒
着手
クマムシを誰かにやらせようと思っていた
卒業研究

第2章 クマムシに没頭した青春の日々


パワーエコロジー
背中に深く突き刺さるナイフのような視線
運命のクマムシ
このクマムシ何のクマムシ気になるクマムシ
手なづけられたフェレットのように
大学院生としてやっていけるという自信が確信へと変わる夏
消えた学会発表資料
国際クマムシシンポジウム二〇〇三
【コラム】 人生最大のピンチ到来
クマムシと橋本聖子選手における共通点についての考察
ボゴールの奇跡
熱帯育ちの眠り姫たちに待っていた過酷な試練
クマムシを乾かそう
研究人生の転機
新天地
オニクマムシの飼育
オニクマムシの介護
【コラム】つくばライフ
ガンマ線照射施設に立ち入る
イオン線照射施設TIARA
クマムシ地獄
【コラム】つくばの異次元タイ料理店
飼い犬の鼻先をゆっくりと触れるように
岩のような塊となって肩にのしかかる落胆
最有力候補クマムシ
クマムシ・レボリューション
乾燥スケジュール異常なし
横綱級の乾燥耐性
命名「ヨコヅナクマムシ」
【コラム】乾燥耐性メカニズム
【コラム】乾燥すると縮まるクマムシの謎
宇宙生物科学会議とタコス
NASA進出への伏線
クマムシのなかまの発見と二度目の居候
【コラム】真っ白に燃え尽きるのか
クマムシゲノムプロジェクト始動
【コラム】乾眠クマムシの記憶

第3章 クマムシとNASAへ


学振の生殺し
九回の裏ツーアウトからの逆転サヨナラ
【コラム】アカデミアで研究者になるには
【コラム】余剰博士問題について
新天地2
【コラム】アメリカでの宿探し
クマムシ餌問題
【コラム】ジョン(John)
クマムシと宇宙生物学
【コラム】科学啓蒙に大切なこと

第4章 クマムシ研究所設立の夢


おもしろいことができれば、それでよい


あとがき


せっかくなので、フィールドの生物学シリーズの歴代の作品も紹介します。どれも新進気鋭の若手研究者たちが著した、熱い研究記です。


熱帯アジア動物記―フィールド野生動物学入門:松林 尚志著 (フィールドの生物学1)


サイチョウ―熱帯の森にタネをまく巨鳥:北村 俊平著 (フィールドの生物学2)


モグラ―見えないものへの探求心:川田 伸一郎著 (フィールドの生物学3)


虫をとおして森をみる―熱帯雨林の昆虫の多様性:岸本 圭子著 (フィールドの生物学4)


共生細菌の世界―したたかで巧みな宿主操作:成田 聡子著 (フィールドの生物学5)


右利きのヘビ仮説―追うヘビ、逃げるカタツムリの右と左の共進化:細 将貴著 (フィールドの生物学6)


テングザル―河と生きるサル:松田 一希著 (フィールドの生物学7)


アリの巣をめぐる冒険―未踏の調査地は足下に:丸山 宗利著 (フィールドの生物学8)


孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生:前野・ウルド・浩太郎著 (フィールドの生物学9)


凹凸形の殻に隠された謎: 腕足動物の化石探訪:椎野 勇太著 (フィールドの生物学10)


野生のオランウータンを追いかけて―マレーシアに生きる世界最大の樹上生活者:金森 朝子著 (フィールドの生物学11)


クマが樹に登ると―クマからはじまる森のつながり:小池 伸介著 (フィールドの生物学12)


イマドキの動物ジャコウネコ: 真夜中の調査記:中島 啓裕著 (フィールドの生物学13)


裏山の奇人: 野にたゆたう博物学:小松 貴著 (フィールドの生物学14)


ではでは。


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クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたち

【書評】『毒きのこ-世にもかわいい危険な生きもの』著者らの意図にまんまとはまる

毒きのこ-世にもかわいい危険な生きもの


菌類研究者の白水貴博士(美声)監修の本書は、毒きのこのみに焦点を当てて紹介している。きれいなきのこの写真に、多すぎず少なすぎない説明が付記されており、図鑑として眺めていても楽しい。


きのこは担子菌類のものがおもである。きのこの本体は菌糸で、きのこと指しているあの物体は胞子をつくって飛ばすためにつくられる子実体だ。毒きのこが生成する毒は捕食者から身を守るために発達したものかと思いきや、昆虫はふつうにこれらの毒きのこを食べるらしい。


毒きのこの消化酵素は他の生物では分解できないものを分解し、栄養源として吸収することができる。この強力に発達した消化酵素はヒトの腸の粘膜にダメージを与えて腹痛や下痢を引き起こす。身を守るためというよりは、消化能力を向上させた結果として毒になってしまったともいえる(ただ、毒きのこにはオオワライタケのように中枢神経に作用を及ぼし視覚障害、幻覚、精神錯乱をおこすものもあるので、こちらは上述のよう理由では説明できない)。


本書で紹介されている毒きのこの中でもとくに印象に残ったのが、ドクササコだ。

ドクササコ


食べた数日後、末端紅熱症といって、手足の先や鼻、男性器が腫れ、そこに、焼け火箸を刺されたような激痛が、なんと1か月以上も続きます。別名は、火傷のような痛みから「火傷菌」、その苦しみから「地獄もたし」。地獄のような苦しみで衰弱した例も。その上、有効な治療法はないといいます。


なんて危険で魅惑的な毒きのこだろうか。


毒きのこに統一した特徴はなく、見きわめるのは困難だ。毒性分が不明なきのこすらある。また、食用キノコとして親しまれていたきのこに中毒作用があることがつい最近になって判明した例もけっこうある。


菌類の種数は多く、未記載のきのこも無数にある。当然、まだ未知の毒きのこもたくさんあるという。クマムシ研究者の感覚からすると、きのこのように肉眼で見えるサイズのものは分類がひじょうに進んでいるものだと思っていた。きのこ研究もまだまだ奥が深そうだ。本書をながめていて、きのこを見る目が変わった。著者らの策略にまんまとはまったといったところだろうか。


※本記事は有料メルマガ「むしマガ」290号「ゲノム編集がおこす社会変革(前編)」の一部です。

クマムシ博士のむしマガVol. 290【ゲノム編集がおこす社会変革(前編)】

2015年4月29日発行
目次

【0. はじめに】ニコニコ超会議2015に行ってきた

2年ぶりのニコニコ超会議参加。非リ充の受け皿としてのニコニコ超会議についての考察。

【1. むしコラム「ゲノム編集がおこす社会変革(前編)」】
ゲノム編集テクノロジーの発展で人類の社会はどう変わっていくのか。今回はノーベル賞受賞が確実視されるゲノム編集テクノロジーのCRISPR/Cas9システムについて解説。

【2. 今週の一冊『毒きのこ-世にもかわいい危険な生きもの』】
かわいいけれど危険な毒きのこ。本書は毒きのこの魅力を巧みに見せる。

【3. おわりに「地球知的外生命体のかたち」】
地球外知的生命体がいたとしたら、それはどんなかたちでどんな文明をもつのか。こんな議論を真面目にしている研究者集団がいる。

【料金(税込)】 1ヵ月840円(初回購読時、1ヶ月間無料) 【 発行周期 】 毎週

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【書評】『捏造の科学者 STAP細胞事件』科学界に横たわる問題を提起し続ける装置

捏造の科学者 STAP細胞事件:須田桃子


本書は毎日新聞記者の須田桃子氏によるSTAP細胞騒動の記録である。2015年の大宅壮一ノンフィクション賞にも選ばれている。


物語は、須田氏が笹井芳樹氏からのメールを受け取るところから始まる。須田桃子氏によるSTAP細胞騒動の記録である。物語は、須田氏と笹井芳樹氏とのメールのやりとりからはじまる。理研CDBから記者会見の招待を受けた須田氏が笹井氏に問い合わせたところ、笹井氏から会見への参加を強く勧められる。


STAP細胞論文発表の記者会見は、発見内容のインパクトの大きさに加えて、プロモーション要素も大きなものだった。熱狂する世間と科学界。しかし、その直後からSTAP細胞論文に数々の疑義が浮上する。須田氏らはSTAP細胞論文の主要著者である笹井氏、若山照彦氏、丹羽仁史氏、そして理研CDBセンター長の竹市雅俊氏に率直な疑問をぶつける。とくに、笹井氏とのメールのやりとりは分量も多く、生々しさが際立つ。


騒動の争点となった疑義の科学的な解説も秀逸だが、本書を通してもっとも感じるのは研究者たちの人間くささだ。科学や研究の世界では、ある事象に対しては私情を排して客観的かつ批判的に分析することが求められる。本件で責任的立場にあった理研CDBの研究者たちは、この能力がとくに優れていた。だが、どんなに優秀な研究者であっても、立場によっては科学哲学は二の次になりうることが、本件から浮き彫りになった。


STAP細胞論文に重大な疑義が見つかり、追試に成功していないにもかかわらず、細胞作製の詳細なプロトコールを発表したこと。STAP細胞やSTAP細胞から派生したとされる残存試料の解析は後回しにして、細胞作製の検証ばかりを優先したこと。彼らの説明は、科学的な論理が破綻しておいた。もしも彼らが当事者でなければ、このような判断や行動はしなかったことだろう。


本書は騒動の詳細を時系列順に追っており、よくまとまっている。ただし、ひとつ残念なのは、本件に対するネットの関わりについてあまり述べられていないことだ。


著者が大手新聞社の記者であるというポジションを考えれば、マスメディアのアクティビティーばかりに言及するのは仕方ないことかもしれない。しかし、STAP細胞論文や小保方氏の博士論文の疑義を見つけ出したのはネット上の人々であり、マスメディアもそれらの情報を頼りに報道をしていた部分も大きい。マスメディアから出た情報については媒体名を引用しているが、ネット上の情報については媒体名を記載せずに「ネット上」とひとくくりにするのは違和感を覚える。


須田氏自身も間違いなくTwitter上の研究者たちのつぶやきやPubPeer11jigen氏のブログ2ちゃんねる生物板などから情報を得ていたはずだ。本書では本件におけるネット上の各媒体が果たした役割についてあまり触れられておらず、そこには物足りなさを感じる。


とはいえ、STAP細胞騒動を本書ほど包括的に記載した本は他にないのも間違いない。研究分野間での熾烈な競争、保身に走る研究者や組織、世間と専門家との間の見識の乖離。STAP細胞騒動は無数の要因がその背景に存在し、そして、数えきれないほどの課題を残した。STAP細胞騒動を時系列順にまとめた本書は、これらの問題をこの先も提起し続ける装置として機能することだろう。


STAP細胞騒動における疑義や、解析結果の科学的な解説については、日経サイエンス2015年3月号「STAPの全貌」に詳しい。


日経サイエンス2015年3月号「STAPの全貌」


こちらも合わせて読むと、本騒動の核心をより深く理解できる。


※本記事は有料メルマガ「むしマガ」288号「熱気を帯びる地球外生命探査計画」の一部です。

クマムシ博士のむしマガVol. 288【熱気を帯びる地球外生命探査計画】

2015年4月12日発行
目次

【0. はじめに】クマムシ受容体
世間でクマムシの認知度が上がっている。クマムシ受容体が人々に発現しているのだ。そのため、以前に比べるとクマムシに関する情報がより届きやすくなっている。

【1. むしコラム「熱気を帯びる地球外生命探査計画」】
NASAのチーフサイエンティストが「地球外生命の兆候を10年以内に見つける」と発言。宇宙探査には莫大な資金がかかるため、国民の理解が必要になる。日本でも地球外生命探査を実現するために、研究者たちはあの手この手で資金をつかもうとしている。

【2. 今週の一冊『捏造の科学者 STAP細胞事件』】
毎日新聞記者によるSTAP細胞騒動の記録。本書は、科学界に横たわる問題をこの先も提起し続ける装置として機能することだろう。

【3. おわりに「クマムシチャンネル」】
クマムシチャンネルでは今後、スペシャルゲストたちが続々と登場していく予定だ。

【料金(税込)】 1ヵ月840円(初回購読時、1ヶ月間無料) 【 発行周期 】 毎週

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【書評】『「ニセ医学」に騙されないために』騙されない人も一読の価値あり

今週はNATROM著『ニセ医学に騙されないために』を読みました。本書の著者はネット上で言わずと知れた内科医ブロガー集団のNATROM


「ニセ医学」に騙されないために 危険な反医療論や治療法、健康法から身を守る!


科学的根拠が乏しいにもかかわらず、治療法や健康法として一定の市民権を得ているものが、国内外を問わず多数ある。端的に言えば、これらのニセ医学のほとんどは魅力的な金儲けの手段なので、あの手この手でリテラシーの低い人々を誘引してしまう。ニセ科学は何の効果もないばかりか、ときとして命を奪うものにもなりうる。


本書ではニセ医学をとりいれた治療法や健康法のうち、代表的なものが取り上げられている。それらの治療法や健康法がなぜ効果がないのかを論理的かつ丁寧に指摘しており、この一冊で書店に並ぶトンデモ医学指南書の主張のほとんどを論破できていると言ってよいだろう。簡潔に言うならば、科学的手法に則って有意な効果が示されなければ、それは有効な治療法や健康法とはみなされないということだ。

 
個人的には、本書を読むまでまったく知らなかったニセ医学もあり、そのバリエーションの豊富さに変に感心してしまった。本書はニセ医学を批判しつつさまざまな病態のメカニズムも記述されているので、ちょっとした医学読み物にもなっている。医者が患者の病態に合わせてそのように治療法を選択しているのかなど、医者の思考を垣間見れるのも楽しい。本書はタイトルこそ「ニセ医学に騙されないために」となっているが、このあたりのリテラシーがすでに高い人間が読んでも楽しめる内容になっている。


私は、ニセ医学につかまりやすい人々にこの本を手に取ってくれることを切に願っているが、これは果たしてどうだろうか。なにせ、著者の名前が「NATROM」である。巷では有名な著者だが、著者を知らない人が書店を訪れて本書を手にとり「NATROM著」と書かれているのを見たら、どう思うだろうか。著者は前書きで「著者名よりも内容で判断してくれ」と書いているが、ふつうはかなり怪しいと感じて読む行為にも至らないのではないか。


実名は難しいにしろ、ここは「NATROM」という記号的な名称ではなく、たとえば「伊藤仁也」といったような血の通った人間らしい名前の方がよかった。


せめて多くの病院が本書を購入し、患者待合室に置いてくれることを、願ってやまない。


※本記事は有料メルマガ「むしマガ」285号「研究者の世界と学会と私」】の一部です。

クマムシ博士のむしマガVol. 285【研究者の世界と学会と私】

2015年3月22日発行
目次

【0. はじめに】研究室選びのリテラシー
東大が不正論文を作成した三名の博士号を剥奪した。異様な慣習のある研究室に入ってしまうと、研究人生を棒に振るかもしれない。

【1. むしコラム「研究者の世界と学会と私」】
科学研究の世界も人間たちの営みで成り立っている。学会では、研究者は研究成果だけでなく、政治的社会的なステータスでも評価されることがある。

【2. おわりに】
書評:「ニセ医学」に騙されないために。

【料金(税込)】 1ヵ月840円(初回購読時、1ヶ月間無料) 【 発行周期 】 毎週

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【書評】『ときめき昆虫学』元虫好き少年少女がふたたび虫スイッチを押すとき


ときめき昆虫学: メレ山メレ子 著


ニコニコ学会βのむしむし生放送むしマガのインタビューでもたびたびお世話になっている虫大好きブロガー・メレ山メレ子さんの渾身の虫本「ときめき昆虫学」が出版された。私と一緒にクマムシを観察したときの様子も収録されている。

ときめき昆虫学

目次

1 チョウ 美しい翅のお客さん
2 ハチ すべて春の仕業
3 アリ 巣の中と外のドラマ
4 クモ 神秘の網にからめとられた「クモ狂い」たち
5 ホタル 愛され虫の甘い罠
6 タマムシ 女子開運グッズとしてのタマムシに関する一考察
7 ダンゴムシ はじめての虫のお友達
8 トンボ 水辺の恋のから騒ぎ
9 ガ 灯の下の貴婦人
10 セミ 真夏のホラー
11 カイコ 家畜化昆虫との新しい関係とは?
12 ゲンゴロウ 黒光りの誘惑
13 クマムシ 最強生物を商う男
14 バッタ 「バッタ者」はなぜカブくのか
15 コガネムシ 「黄金虫」は金持ちか?
16 カタツムリ おっとり型の生きる知恵
17 コオロギ いさましいちびの音楽家
18 ダニ よちよち歩きのチーズ職人
19 オサムシ 「歩く宝石」の見つけかた
20 ゴキブリ 害虫と書いて戦友(とも)と読む


虫本とは思えない洗練された装丁やデザインは、唐揚げに対するレモンのような効果を発揮しており、読みやすい仕上がりになっている。各章のトビラのグラビアも、目の保養になる。


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本書の内容だが、メレ子さんが体当たりで臨んだ昆虫の野外採集や室内での飼育、はたまたイナゴ捕獲競争などの虫イベントのレポートで構成されている。本書には、著者が初めて触れた虫たちの生き様が瑞々しくも美しい文章で綴られている。本業の昆虫研究者では、このような新鮮味溢れる描写は逆になかなか書きにくいだろう。また、少し不安にさせるような著者の妄想も見どころだ。

グローワームはゆっくり玉すだれをたぐり上げ、獲物をミチミチと捕食するのだ。(中略)そう、表参道や六本木のイルミネーションにまぎれて、寄ってきた人間たちを食い尽すのだ。ミッドタウンがピチャピチャという食事のやさしいざわめきに満たされ、エコでロハスなイルミネーションで街はふたたび輝きを取り戻すだろう・・・・・・人の住むところとは思えない暑さの中で、そんな光景を想像するだけで、なんだかちょっと胸がすっとして涼しくなれるのである。


私の場合、クマムシ以外の昆虫(クマムシは昆虫ではないが)への熱は、中学生以降はやや冷めてしまった部分がある。しかし、本書を読んでいると、小学生の頃に虫と触れ合っていた頃の気持ちが鮮明によみがえってくる。今すぐにでも、雑木林の中に昆虫を見つけにいきたい衝動に駆られる。本書の狙いである「眠れる虫スイッチ」が見事に入った格好だ。元虫好き少年少女は本書を読めば、ほぼ間違いなく全員の虫スイッチがオンになるだろう。


もちろん、最近になって虫に興味をもち始めたライト層も、本書を読めば見事にメレ山教に洗脳されること請け合いである。その意味では、近年稀に見る強力な昆虫啓蒙書といって差し支えない。自分の研究対象や仕事をいかに魅力的に表現するか。研究者もそれ以外の人も、本書から学ぶべきところは多い。


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【書評】『パワー・エコロジー』生態学者たちの青春研究冒険譚集


パワー・エコロジー: 佐藤 宏明, 村上 貴弘 編


私は大学院生時代、動物生態学の研究室に所属していた。北海道大学大学院の地球環境科学研究科の東正剛(ひがしせいごう)研究室だ。本書「パワー・エコロジー」は、この東研究室に学生として所属していた研究者らの青春研究冒険譚集である。


東正剛教授は「正剛」の漢字2文字が示すように、たいへんコワモテな外観の研究者である。歳とともに柔和になっていったが、私が学生の頃は、その威圧感から、そばにいるだけで緊張したものだ。本書の表紙の中心にマリオ風に描かれているのが、東教授だ。ちなみに、表紙には私も描かれている。




背表紙にはクマムシさんの姿も。


東研究室のモットーである「クマムシからクマまで」が表すように、各学生の研究対象動物はきわめて多様性に富んでいた。東教授はアリをはじめとした社会性昆虫が専門だったが、テングザルやマレーグマなどの大型ほ乳類を研究する学生も多かった。他にもオオタカやタンチョウなどの鳥類や、イトウという幻の魚を扱う先輩もいた。野外に出かけて調査を行うフィールド系の研究が、研究室の強みだった。


生物学の研究をスムーズに行うためには、データの解析に必要となるサンプルの数(N)をいかに容易に集めるかが重要になってくる。野外で見つけにくいレアな動物を研究対象にすることは、この基本原則に反する。このような対象生物を研究していた学生の中には、当然の結果として、データがなかなか集まらずに博士課程4年目、5年目、6年目に入る者もいた。博士課程で研究するには大きすぎるリスクを伴うテーマを選ぶ学生が多かったわけだが、裏を返せば、研究室員が自分の対象動物にとことん惚れ込んでいた証左でもある。ほぼ野生動物のようになってしまった研究室員もいた。


将来の生活がどうなるのかは、分からない。でも今は、この動物をとことん追いかけていたい。東研究室には、そういう「いきものぐるい」の人々が集まる引力があった。当然だが、その引力の中心にいたのは、東教授である。


フィールド系の研究室というのは、体育会系になりがちなきらいがある。そして、本研究室は絵に描いたような体育会系集団であった(私は違ったが)。頻繁に開かれる飲み会は朝まで続き、泥酔した腕白研究室員によって備品が破壊されることも稀にあった。研究室内はあまり清潔でない部室チックな雰囲気が漂い、本棚には漫画喫茶のごとく多数の漫画本が並んでおり、やや退廃的ながらもくだけた感じが、不思議なやすらぎをもたらしてくれた。古びた黒いソファーには、いつも誰かが疲れ果てて寝ていた。


そんな東研究室が掲げていた標語が、本書のタイトルでもある「パワー・エコロジー」である。パワー、つまり、力を使った生態学だ。いくら机上で仮説を考えていても、野外にいる動物の実際の生態は分からない。自分の身体を使って野外でとことん観察し、データをとることが大切なのである。そして、研究室員たちは世そのあり余るパワーで界中の場所をフィールドとしていた。東教授ももちろんその例外ではなく、その調査域はアフリカや南極まで及んだ。


私がクマムシの研究を始めたときもやはり、このパワー・エコロジーの教義に従い、研究対象の採集に奔走した。100以上の地点でコケなどを採取しては、その中にどのようなクマムシが棲息しているかを調べた。そして、そのうちの1地点からみつかったヨコヅナクマムシは現在、極限環境動物の重要なモデルとしての地位を築きつつある。パワー・エコロジーの教えが無ければ、この生物にも出会えなかったかもしれないのだ。


私がクマムシ研究に没頭していたのを、適度な距離を保ちつつ見守ってくれた東教授には、今でもたいへん感謝している。


ということで、本書を通し、一人でも多くの方に、よい意味でネジの外れたパワフルな研究者たちがいることを知っていただければ幸いである。本書の目次は以下の通り。

パワー・エコロジー


目次

はじめに

序章 生態学の躍進 ─ その目指すもの(大原 雅)


第一部 世界中にフィールドを求めて
1 アリの農業とヒトの農業 ─ 南米で進化!?(村上貴弘)

2 ボルネオ・サル紀行 ─ 妻と一緒に,テングザル研究(松田一希)

3 アフリカで自然保護研究の手法を探る(小林聡史)

4 豪州蟻事録 ─ 大男,夢の大地でアリを追う(宮田弘樹)

5 土壌動物学徒の南極越冬記(菅原裕規)


第二部 多様な生物を求めて

6 海産緑藻類の繁殖戦略 ─ 雄と雌の起源を求めて(富樫辰也)

7 いじめに一番強いモデル動物,ヨコヅナクマムシ(堀川大樹)

8 真社会性と単独性を簡単に切り替えるハチ,シオカワコハナバチ(平田真規)

9 アルゼンチンアリの分布拡大を追う(伊藤文紀)

10 潜葉性鱗翅類で何ができるか ─ 独創性との狭間のなかで(佐藤宏明)

11 幻の大魚イトウのジャンプに導かれて ─ 絶滅危惧種の生態研究と保全の実践記録(江戸謙顕)

12 モズとアカモズの種間なわばり ─ 修士大学院生の失敗と再起の記録(高木昌興)

13 タンチョウに夢をのせて(正富欣之)

14 エゾシカの遺伝型分布地図が語ること ─ 野生動物管理に貢献する保全遺伝学(永田純子)


Amazonの在庫も残りわずかなようなので、注文はどうぞお早めに。


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【書評】『逆境エブリデイ』現代の幸せの見つけ方


逆境エブリデイ: 大川弘一 著


本書は世界最大規模のメルマガ配信スタンドである「株式会社まぐまぐ」の創業者、大川弘一さんによるポーカー戦記である。私は大川さんの考え方や文章が好きで大川さんのメルマガも購読しているが、本書はこのメルマガに書いていた内容がもとになっている。


通常、ポーカー大会ではテキサスホールデムという各プレイヤーが2枚の手札と共通カードの組み合わせで役を競う。ポーカーは偶然性に支配されるゲームというよりは、プレイヤーの振る舞いの適切さでプレイヤーの強さが決まるゲームである。ゲームの大半は、手持ちのカードを見せる前に決まってしまう。つまり、実際のカードの役の強弱よりも、駆け引きが重要な要素となる。


大川さんは海外のポーカートーナメントで入賞するほどのポーカーの腕前である。私は大川さんに公私にわたりお世話になっており、ポーカーの手ほどきも受けさせていただいた。ポーカーというゲームは面白いもので、ゲームの進め方にそのプレイヤーの性格が如実に反映される。


自分の場合、ポーカーをすると、あまり後先考えずに勝負にどんどん乗ってしまう癖がある。リスクを背負いすぎてしまうのだ。自分の過去を振り返ってみると、失敗リスクの高いクマムシの研究テーマを選んで研究に邁進したり、クマムシキャラクターのビジネス化に突き進んだりと、確かに人生においても思い当たるフシがあるのだ。ポーカーをすることで己の欠点が浮き彫りとなるので、自己反省の材料としてはもってこいのゲームでもある。


さて、本書は世界各国でのポーカー戦記が軸となっているが、読みとるべきところは別にある。時価総額300億円まで達した関連会社の価値が暴落し、さらには長期にわたる係争を経験した、著者ならではの現代の生き方や幸せの見つけ方を、本書に学ぶことができる。


キャンピングカーの移動のための運転アルバイトをすることで、レンタカーを借りるよりも格安でアメリカ大陸を移動するところなど、実に大川さんらしい。また、C to Cの宿泊サービスサイトを使うことでホテルよりも安価に民家で寝泊まりし、さらにその家の主である美女と微妙な距離にまで接近したりするところも、実に「らしい」。これらの「マジョリティをフォローして安心するだけの人」からは出てこないような著者の知恵や賢さが随所に見られる。


また、テクノロジーとグローバル化が世界各地に住む人々にどのような影響を与えつつあるのかも、独特の筆致で描写されている。世界各国において、人々は好むと好まざるとにかかわらず大きな変化が求められる。とりわけ日本を含めた先進国では、今よりも格段に大きな努力をしなければ、経済的豊かさを確保できなくなってしまう。


そんな現代の中で、天国と地獄を見た実業家が見つけた幸せとは何か。それは「世界中で面白い人間と会う」という、いたってシンプルなものだった。


幸せはマジョリティが使う物差しで測るものではない。その物差しは、十人十色あってよいはずだ。自分なりの幸せをどう見つければよいのか。そのヒントが、本書に隠されている。

世界初のクマムシ擬人化漫画の第二巻が発売される


ミドリムシは植物ですか? 虫ですか? II: 羽鳥まりえ


羽鳥まりえ先生によるクマムシ擬人化漫画の第二巻が発売された。前巻に引き続き、今回も巻末に私の名前がアドバイザーとしてちゃっかり載っている。


今回はクマムシよりもミドリムシの方にスポットが多めに当たっている気がするが、それでも要所で登場するクマムシゴスロリ少女のくまこが大きな存在感を示している。本巻では、前作で消えたミドリムシ王子をめぐりミステリーが展開される。ミドリムシ研究者の命を狙う謎の影。


その答えは巻末で明らかにされる。さらに微生物学史上の偉人も美形キャラとして登場したりと、微生物ファンにはたまらない内容となっている。


これからクマムシ学や微生物学を志す学生諸君には必読の書だ。


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【お知らせ】このブログが本になりました

クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー