クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

納豆フォトコンテスト結果発表

先週告知した納豆フォトコンテストですが、たくさんの納豆フォトを応募いただきました。みなさま、ご協力どうも有り難うございました。


むしブロ+納豆フォトコンテスト審査委員会による厳正な審査を行いましたので、その審査結果をここで発表させていただきます(この記事を読み進めると目がネバネバしてきますが。どうかご了承ください)。


まず、佳作の作品から。


佳作1: こまさん (‏@koma_mk)


納豆ご飯にみそ汁という、日本の朝を体現したシンプルな作品ですね。お箸が綺麗なのも粋です。



佳作2: ririri@砕けそうさん (@ririri1108)


見ている者に迫り来る納豆の群衆を捉えた構図、そして賞味期限が2週間ほど過ぎた納豆ということで、アグレッシブさが表れています。



佳作3: KazNさん (@KazN2)


これも至近距離で納豆を切り取った迫力ある作品に仕上がっています。白米の白さと納豆の褐色のコントラストが、納豆の圧倒的存在感をさらに引き立てていますね。



佳作4: 西島さん (@kachidehi)


こちらは自家製の納豆とのことで、作り手の西島さんの人柄が染み渡ったかのような朗らかかつ繊細な光沢を醸し出しています。草食系納豆とでもいったところでしょうか。



佳作5: はるはるさん (@spring_haruru)


大根おろし、しらす、そしてシソのみじん切りを添えることで納豆に上品な色合いをもたせることに成功した一品。器の淡いピンクも納豆のもつ粘着テイストを見事に打ち消しています。



佳作6: 1467さん (@shimalino)


納豆とオクラのネバネバツートップで蕎をいただくという離れ業の一品。こちらは香港での夕食で食べた納豆とのことですが、日本料理屋さんで召し上がったのでしょうかね。



佳作7: がとうあんぷさん (@unpeu_G)


こちらも自家製納豆。自家製だと納豆が優しく見えるような気がしますね。作り手のもつ波動の種類によって納豆も変わってくるのでしょうか。



佳作8: トビムシさん@御社が第一脂肪ですさん (@Schrodingerscap)


こちらは昔ながらのわら納豆。わらの隙間からのぞいて見える納豆、ちょっと恐怖感が煽られますね。


さて、次は優秀賞です。



優秀賞: ochiさん (@02320_ochi)


初夏の爽やかさを想起させる演出が、納豆から発せられるノイズを見事に掻き消しています。納豆成敗に意気込むクマムシさんの凛とした表情もよいですね。ochiさんのブログ記事にさらなる解説がありますので、よろしければご覧ください。


ヒマだったから納豆菌とクマムシを対決させてみた: おち研



さて、いよいよ納豆フォトコンテスト最優秀賞作品の発表です。


最優秀賞: 203gowさん (@niimarusangow)


なんと、編み納豆。納豆の一粒一粒の形状、そして粒ごとに微妙に異なる大きさがリアリティを創出しています。そして糸の引き具合があまりにも見事です。天才の作品としか形容のしようがありません。本作品は私の著書に掲載させていただく予定です。



203gow氏


さて、この作者の203gowさん、実は著名な編みアーティストなのです。



編み巨大イカ



編みゴマすり器



編み再生ニッポン


ふだん、あまり編みものの対象とならないようなモノを編むのが203gowさんのこだわりで、ニコニコ学会βでも即興で編み物をしていた姿が印象的でした。個展などもたまに開かれているようなので、興味のある方はぜひ203gowさんのHPをチェックしてみてください。


へんなあみもの〜編み師203gow


それでは、改めまして今回の納豆フォトコンテストにご応募いただいた皆様に感謝の意を表したいと思います。どうも有り難うございました。


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みんな納豆菌を甘く見ない方がいい: むしブロ+

納豆フォトコンテストを開催します

納豆フォトコンテストを開催します。


【応募方法】

個人で撮影した納豆の写真をどこかにアップロードして、この記事のコメント欄にリンクしてください。応募の中からベストの納豆写真を、現在執筆中の本に掲載させていただければと思います。もちろん、撮影者のクレジットも載せます。


ネットや他のところからとってきたものは不可となります。また、残念ながら謝礼はありません。すみません。


締切は2013年6月2日(日)です。朝食時に納豆を食べる方はついでに撮影してみてください。


それでは皆様、どうぞよろしくお願いします。


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アルファブロガーのメレ子さんにメレンゲが腐るほど語ってもらいました


私が発行しているオンラインジャーナル「むしマガ」の特集として、人気ブログ「メレンゲが腐るほど恋したい」を運営するアルファブロガー・メレ山メレ子さんのインタビューを本日から掲載する。4時間弱に及ぶインタビューからは、こちらも勉強になるような気付きがたくさん得られた。


メレ子さんとは彼女が座長を務めたニコニコ学会βのむしむし生放送に登壇者として呼んでいただいたことで、縁ができた。ネット上で大きなプレゼンスをもつメレ子さんに対して、最初は「もし高飛車な人だったらどうしよう」とビクビクしていたのだが、そんな心配は杞憂に終わった。実際のメレ子さんは物腰柔らかく、細かい気配りを忘れない才色兼備の方だった。彼女のおかげで、むしむし生放送では余計なことに神経を使わずにすみ、プレゼンに集中することができた。


メレ子さんは平日は会社員としてフルタイムの勤務をこなしながら、むしむし生放送や昨年行われた昆虫大学などのイベントを取り仕切るなど、精力的な活動を展開している。ネット上の有名人がオフラインでイベントを行うことはよくあるが、メレ子さんのように本業と全く無関係の活動にここまで深くコミットするケースは珍しい。これは、メレ子さん自身が純粋に好きなこと、やりたいことをやっているからに他ならない。



ナミアゲハ幼虫の臭角(威嚇の際に出す角状の器官)を装着したメレ子氏


メレ子さんは、ごく普通の人が「やりたいことを実現させるため」にどうすればよいかを考える上で、よいロールモデルとなるだろう*1。ブログを書くことで支持を得て影響力をもち、ネットの世界を飛び超えて多くの人々を巻き込んでいく。こうすることで、メレ子さんのプレゼンスはますます大きくなり、自分のやりたいことの実現のために協力してくれる人もどんどん増えていくのだ。


もちろん、ここまでのプレゼンスをもつようになるまでには、魅力的なコンテンツを制作・発信できるように時間をかけて試行錯誤を繰り返す必要がある。メレ子さんの場合、とにかくブログを多くの人に読んでもらうためにアクセスが集まる記事の傾向を研究し、結果として旅行日記に特化した記事を書き続けることにしたそうだ。また、自分の顔を露出する決心をしたのも、旅行紀というブログコンテンツとの相性がよいと判断したからだ。人の表情がもつ情報量は非常に多いため、ブログ記事の読者が感情移入しやすくなる効果があるのだ。


今回のインタビューでわかったのは、顔出しにしろtwitterでの発言にしろ、ひとつひとつの言動に対してメレ子さんがきちんと事前に理由付けをしているということだ。露出の多いアルファブロガーは攻撃されたり炎上することが多く見られるが、メレ子さんはそのような不幸にあまり見舞われないのも、この緻密な配慮のためだろう。ネットでのイメージとは違い、割とドライでクールな印象も受けた。


だが、意外なことに実際に彼女を突き動かしていた原動力は「皆から愛されたい」という純粋かつ強烈な欲望だった。ブログを書き、読者からもらった愛情を承認欲求で飢えた心に注ぎこむ日々。この種の愛は塩水のように飲めば飲むほど渇き、さらに欲っしてしまうのを分かっていながら、止められない。こういう人間臭さとクールさを併せもつところが、彼女の魅力かもしれない。


このインタビュー内容の全貌は有料オンラインジャーナル「むしマガ」(月額840円・初月無料)のVol.153〜Vol.167にて明らかにする (購読申込はこちらから)。本インタビューには、ふだんブログなど表には書けないようなメレ子さんの思考がふんだんに盛り込まれている。本日から7回にわたるメレ子さんのインタビューのラインナップは以下の通り。

【メレンゲが腐るほど語りたい】メレ山メレ子2万字インタビュー


第1回 メレ子のむしむし生放送: 時代は「虫萌え」から「虫博士萌え」へ
第2回 メレ子の履歴書: 東大→ニート→虫ガール覚醒
第3回 メレ子流イベント作り: 昆虫大学は「メレ子の夢ランド」
第4回 メレ子流ブログ術: 旅行記を書くのは楽ちん
第5回 メレ子の欲望: ただ自分が愛されたかった
第6回 メレ子、吠える。: 発信者の掟
第7回 メレ子の進化: 意識を超えたところで動く


「何かしたいけれども一歩前に踏み出せない」と思っている人は、本インタビューを読むことで、活動を始める際の指針を得られるだろう。


最後に。答えにくいきわどい質問にも本音で答えてくれたメレ子さん、どうもありがとう。おかげさまでたいへん面白いく、かつタメになるインタビュー内容になりました。


(おまけ)










【関連記事】

超高校級とよばれたイケメンサイエンティストの野望 (荒川和晴氏インタビュー)

孤独なバッタが群れるとき (前野ウルド浩太郎氏インタビュー)


【関連書籍】

メレンゲが腐るほど旅したい メレ子の日本おでかけ日記: メレ山メレ子

*1:よく考えたら、あれだけ変人な虫博士たちを調教できるメレ子さんは普通の人ではない。

21世紀は昆虫食の世紀になるかもしれない

2013年5月13日、国連食糧農業機関(FAO)は人類に昆虫を食すことを促す内容を記したレポートを発表した。


虫は未来の食糧源、国連FAOが報告書: AFPBB News


昆虫は栄養価が高い上に飼育による増殖効率がよく、食料として非常に高いポテンシャルを備えている。そこで、積極的に昆虫を食べよう、というわけだ。


「昆虫を食べる」というと、昔は貧困層が主菜の代替食品として仕方なく食べる、というイメージがあった。漫画「はだしのゲン」にも、戦時中の食糧難のために、主人公一家がイナゴを捕まえて食べるシーンがある。戦後になると、やがて食糧難は解消され、わざわざイナゴを捕まえて食べなければ生きられないような国民も、ほぼ皆無になった。


そして飽食の時代になると、再び昆虫を食べ始める層が日本国内に出現した。彼らは当然、食料に困っているわけではない。この世に無数ある食材の一つとして、昆虫に舌鼓を打っているのだ。つまり、昆虫食をグルメとして楽しんでいるのである。


意外に思われるかもしれないが、最近では昆虫を食べる女性も多い。昆虫食に造詣の深いブロガー・メレ山メレ子氏によれば、国内の昆虫食推進組織である昆虫料理研究会には男性よりも女性の方がやや多く在籍しているとのことだ。


国内における昆虫食人口が増加しつつあることは間違いない。しかしながら、現時点で昆虫を食べているのは、やや先鋭化したアーリーアダプター層に限られていることは否めない。


そこで、昆虫食を一般人に普及するためには、まずは著名な文化人や富裕層をターゲットとした高級路線を歩むことが大事だろう。昆虫食をファッションにすることが最初は肝心だからだ。そうすれば、昆虫食はいずれ大衆化していくと思われる。


10年ほど前、私はJAXAが掲げる宇宙農業計画のミーティングに出席したことがある。その席でJAXAの研究者が宇宙食材としてカイコを大プッシュしていたのだが、正直、私は「これはありえない」と思っていた。


だが、今後の昆虫食マーケティング次第では、昆虫はあらゆるシチュエーションで食材として利用される可能性があると、今では感じている。


昆虫食を推進するようなベンチャー企業には、公的機関やクラウドファンディングによる資金も調達しやすいと思われる。NPO法人のような非営利団体がこのような活動を行うのもよいだろう。21世紀には、昆虫食ビジネスが花開くかもしれない。

ハフィントン・ポストにブロガーとして参加します

巷で話題のニュースメディア「ハフィントン・ポスト日本版」が先週スタートしました。


ハフィントン・ポスト・ジャパン


創始者のアリアナ・ハフィントン氏がリベラル寄りということもあって、ハフィントン・ポストにもそのような政治色が出ています。日本版では朝日新聞と提携していることからも、そのことが窺えます。


実際に記事の論調も安倍政権をチクチクするようなものが多く、こういうスタンスで行くのかなと思いきや、安倍首相自身もブロガーとして参加することになるというサプライズがありました。個人的には色々なバックグラウンドをもつ人々が意見を言いあうプラットフォームになればよいと思っています。


さて、ご縁があって私もブロガーとして参加することになりました。


堀川大樹: ハフィントン・ポスト


そして最初の記事が、これ。


堀川大樹: オタクと変態はモテる: ハフィントン・ポスト


ちなみに、この記事は以前自分のブログに書いたのを転載したものです。ハフィントン・ポストは自分のブログの転載でもOKなので。


そして、2013年5月14日現在、この記事は過去一週間の全記事の中で人気ランキングトップになっています。


トップ記事/ブロガー一覧: ハフィントン・ポスト


創始者のアリアナ・ハフィントン氏の記事よりも上になってしまうという、ハフィントンポスト的には由々しき事態になっており、編集部は頭を抱えているに違いありません。


ということで、今後はこちらもどうぞよろしくお願いします。


あ、あとメルマガもね。


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クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー

地上最強の動物クマムシと人類

体長1ミリメートルにも満たない小さな体に4対の肢をもち、宇宙空間に放り出されても生存できる生きもの。それが私の研究対象、クマムシである。



ヨコヅナクマムシ (写真: 堀川大樹・行弘文子)


クマムシは緩歩動物とよばれる分類体系上のグループに属しており、これまでに1000種類以上が知られている。クマムシのすみかは種類ごとに異なり、バラエティに富んでいる。


熱帯雨林の樹表にへばりついているもの、南極の氷河にできた水たまりに潜んでいるもの、深海の砂底に埋もれて過ごすものまでいる。陸に棲む種類のクマムシは乾燥すると仮死状態になり、極限的ストレスにさらされた後も、吸水すると復活する。



ヨコヅナクマムシの脱水と再吸水後の復活の様子(撮影:堀川大樹)


私たちの身近なところ、例えば、駅前の駐車場の隅っこにちょこんと生えた干からびたコケなどにも棲んでいる。日本国にあまねく存在する八百万の神々と同様、いや、それ以上に、クマムシはいたるところに存在しているのだ。


私がクマムシの研究を始めて、今年で12年目になる。クマムシの研究に着手した当時に比べ、最近では、この生きもののことを知る人もにわかに多くなってきた。


絶対零度近くの超低温、人の致死量の1000倍の線量の放射線、水深7500メートル地点の水圧の100倍に相当する高圧、そして宇宙空間の超真空。地球上の自然界ではまず遭遇しえないこれらの極限的環境ストレスにさらされても生存できるクマムシ。


その無駄にハイスペックなクマムシの特殊能力が、中二病を患う人々の心をわしづかみにして離さない。かくいう私も、かれらのもつその鋭利な爪で心臓をえぐり取られた一人である。


日本では、外国に比べてクマムシファンが圧倒的に多くいる。なぜか。それは、クマムシが強いだけでなく、可愛いからである。「強いものは可愛くあるべきだ」という日本人の美徳を考慮すれば、クマムシは愛されるべくして愛されているのだ。そう、鉄腕アトムや谷亮子が愛されたように。


かれらは、赤んぼうのようなむくむくとした体驅で、短い肢を小刻みに動かしながら水の中を歩行する。そのか弱く愛くるしい仕草からは、かれらが宇宙空間という超劣悪環境にも耐えられるとは、とても想像できない。スーパーマンやアーノルド・シュワルツネッガーから如実に読み取れる公式、つまり、強さと男性臭漂うルックス度は絶対的に相関するという観念をもつアメリカ人には、クマムシのもつギャップに萌えを見いだすことは不可能なのである。


クマムシが日本の若者から支持を集めるようになったのは、社会的背景にも一因がある。ゼロ年代、努力すれば将来が報われるという価値観が完全に崩壊した。これにより、「成功するために何かを頑張る」といったスローガンは現実味を帯びず、現代の若者はほどほどに自分の好きなことをするか、あるいは何もしないという道を選んだ。


しかし実のところ、これは諦めから派生した受動的な選択にすぎない。夢は追いかけるもの、大きなことを成してこその人生、という一握りの勝ち組によって押し付けられたイデアは、大脳皮質深部でマーチングバンドと化して行進し、時折彼らを苦しめる。自身に対する後ろめたさ――小学校のプールで泳いでいて鼻に水が入ったときの、あのつんとした感じ――を引きずり、息をひそめるようにして生きているのが、現代の若者なのである。


そんな彼らの前に現れた、目的もなく、努力することもなく、動物界最強という称号を手にしているクマムシという存在。そんなクマムシに、若者たちはファンタジィを、そしてある種のカタストロフィを感じる。彼らがクマムシに抱く感情は、もはや信仰に近い。


そこで私は、クマムシのもつ属性を抽象化、記号化した。若者たちが取り戻すことのできなかった、心のかけらと相同なピースを作るために。こうして誕生したのが、イマジナリィ・キャラクタァの「クマムシさん」である。



クマムシさん (イラスト: 阪本かも)


現在クマムシさんは、ウェブ上を中心に若者の救済活動に勤しんでいる。「ストレスに耐えるコツ、それは鈍感になることさ」と語りかけながら。


クマムシが救済する対象は、何も日本の若者だけではない。その対象は、全人類に及んでいる。人間がクマムシの小さな体に秘められたマシィナリィにあやかることで、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)をドラスティックに向上させることが期待できるのだ。


クマムシは過度の乾燥曝露や放射線照射に耐えられるが、これらのストレスは通常、DNAやタンパク質といった生物の構成要素を破壊あるいは変質させ、最終的には死をもたらす。つまり、クマムシにはストレスからDNAやタンパク質を護ったり、これらが傷ついても癒すメカニズムを備えているはずである。


DNAやタンパク質の損傷は老化や疾病の原因と考えられているため、クマムシの体制メカニズムを導入することにより、ヒトのアンチ・エイジングや病気の治療を行うことができるかもしれないのだ。


私の研究の最終ゴールは、クマムシの乾燥耐性能力を応用し、どんな生物でも生きたまま乾燥状態にする技術を確立することである。この技術は、生肉や生野菜などの生鮮食品や移植要臓器の乾燥保存も可能にするだろう。もちろん、人体そのものの乾燥保存も。


長年にわたる宇宙旅行をドライスリープ(乾眠)で過ごし、目的地の惑星に到着するときにはインスタントヌードルと同様に水を吸って眠りから覚めることができるのだ。


インスタントヌードルを発明した日清食品創業者の故安藤百福は「人類は麺類」と言った。



そう、人類はクマムシと融合し、文字通り麺類に進化するのだ。乾燥状態で生命を保ったまま悠久の時を過ごし、水で潤えばいつでもしなやかに蘇る、あの美しい麺類に。



(本記事は思想雑誌「kotoba(コトバ)」2012年07月号に掲載された「地上最強の動物クマムシと人類」を一部加筆・修正したものです)


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クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー

ニート転身で豊かな人生を

現在、私は研究活動を生業としているが、これ以上に自分に充実感を与えてくれるアクティビティはないと思っている。何か発見をすれば、それがどんなに小さなものであっても人類の歴史で誰も見たことのない現象であれば、プライスレスの知的興奮を味わうことができるからだ。これは研究者に与えられた特権だろう。


とはいえ、実験が上手くいかない日が続いたり、論文投稿の際に審査員から理不尽な文句をつけられたり、研究室内や研究分野内の人間関係がこじれたり、睡眠時間を削ってクマムシの世話をしたりすれば、ストレスも否応なく溜まっていく。研究が好きとはいえ、他の多くの仕事と同じように、楽しいことばかりではない。


それは、顕微鏡を覗きすぎたある日の終わりのことだった。帰宅してMacBook Proを起動し、twitterをチェックしていた。モニターのバックライトが眼精疲労を抱えた私の目を刺激して辛かったが、タイムラインには知的好奇心を刺激する情報が溢れていた。タイムラインを数時間遡りながらリンク先のコンテンツに目を通しただけでも、あっという間に時間が過ぎてしまった。twitterを眺めているだけでも、一日中楽しめることができることであろう。


そして、思った。ニートになれたらどんなに幸せだろう、と。座り心地のよいソファーに一日中座って、ポテトチップスをほおばりながら一日中ネットの世界に浸っていたい。そんな衝動に駆られた。


今は、ネットに接続できる環境さえ整っていれば、永遠にエンターテイメントに触れ続けることができる。趣味が同じ仲間を見つけてコミュニケーションもとれるので、全然孤独にもならない。当然、煩わしい人間関係もない。ニートに転身することで、多大なメリットが生じるのだ。ニートこそが勝ち組といえる。


そして日本ニート界のカリスマであるpha氏の著書「ニートの歩き方
」を読み、私の仮説への自信は確信に変わった。


ニートの歩き方――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法: pha著


90年代半ばまでは、ニートや引きこもりはゲームや漫画など高コストなエンターテイメントに依存するしかなかったし、社会から完全に隔離されるので他人とコミュニケーションをとることも難しかった。ニートや引きこもりでいることのメリットは小さかったのだ。


だが今では部屋から一歩も出ずに、エンターテイメントや人との繋がりを容易に保持することが可能になった。それだけではない。ネットで興味のある分野についての情報を集めてブログや有料メルマガにまとめることで、ある程度の収入まで確保することもできる。


オンラインの専門誌や学術誌には、無料で公開している記事や論文も多い。きわめて専門的で質の高い情報を、誰でも入手することができるのだ。昔なら、このような資料は大学や企業がお金を払わなければ入手できなかった。個人にとっては、ほぼ入手不可能だったような情報である。私も、無料で公開されている英語論文を自身のメルマガのネタとして使うことも多い。


もちろん、ニートが自分の部屋から出ずにフルタイムで働いている人と同等の収入を得るのは簡単ではない。だが、趣味の延長で月に7〜8万円程度稼げれば、物価の安い東南アジア諸国などで不自由なく生活することができる。ネットさえ使える場所であれば、ニートはどこででも生きていけるのだ。


毎日満員電車に揺られ、終わらないノルマの山と悪戦苦闘し、職場で苦手な人間と顔を合わせ続けることの対価として月収30万円をもらうよりも、好きなときに寝ることができ、気が向いたらビーチを散歩したり地元のマーケットの屋台で味の素の効いた地元料理を楽しみながら月収8万円のストレスフリー生活の方が、はるかに豊かな人生を過ごせるのではないだろうか。



マレーシア滞在時の食事


とはいえ、私はそれでもニートになるよりはストレスを受け入れて研究者として生きる道を選ぶだろう。安泰よりもエキサイトメントの多くある研究人生の方が、やはり楽しいのでね。

オタクと変態はモテる

オタクや変態がモテるためには、自らの歪んだ性癖を隠さずに誇りをもってアピールするべきだ。


オタクや変態だからモテないと思い込むのは、大きな間違いである。確かに、オタクや変態は異性からいぶかしげな眼で見られがちだ。嫌われることもある。だから、自分の趣味や性癖が異性にバレるのを極端に恐れ、隠そうとする。ちょっとファッションに気を使ってみたり流行りの話題についていく努力をして、「普通の人カモフラージュ」を試みる。


だが、これはモテるためには逆効果なので、今すぐやめるべきだ。このような行為は、その他多くのマジョリティ、つまり普通の集団の中に飛び込んで自らを目立たなくしてしまうことである。マニュアル通りのPRポイントをエントリーシートに書きこむ就活生のように、好かれも嫌われもしない当たり障りのない人間になってしまうことだ。


世の中にはマジョリティから逸れた尖った人間、つまり、変わった性癖を持つ人たちを好む男女が一定数いる。だから、このニッチを占める人々をターゲットにするのだ。


私の友人に、バッタに食べられることが夢だと語る研究者がいる。33歳になる彼は、最近も自身のブログでユニークな性癖を告白していた。



一人ドラゴンボールごっこ: 砂漠のリアルムシキング


大半の女性はこの研究者を敬遠する。だがその一方で、一目惚れする奇特な女性もたくさんいるのだ。彼と実際に会った際に感激のあまり泣き崩れた女性もいれば、バレンタインデーに精魂込めて作製した菓子を捧げた女性もいたという。


この例からもわかるように、変態はモテるのだ。


マジョリティとかけ離れたタイプの異性と子孫を残すことは、将来環境が変化した場合にに有利に働くこともあるだろう。現時点での多数派の戦略が、未来の環境に適応的とも限らないからだ。もしかすると、異性の好みについての「逆張り遺伝子」がヒト集団の中で一定の割合で維持されているのかもしれない。いずれにせよ、オタクや変態はこの層に向けて自分をアピールしていくことが肝要なのだ。


だから、自らの性癖を隠そうなどとは絶対にしてはいけない。嫌というほど見せつけていくべきである。自らの性癖を堂々とさらけ出すことで大多数の人間には嫌われるが、ここでひるんではならない。下の図のように、結果的には、普通の一般人でいるよりもオタクや変態をアピールした方が異性から好かれる確率は上がるのだ。



図: 一般人およびオタク・変態における異性からみた好感度の割合


世の中には自分の性癖が刺さる人間が必ずいると信じて、異性に接近する回数を増やせばよいだけだ。今はインターネットの発達により、不特定多数の人間に向けて自分の性癖を露出することも容易になった。


じっくりと発酵したくさやがコアなファンをつくるように、あなたも臭ってくるほどの性癖を見せつければ間違いなくモテるようになるはずだ。ぜひ、今日からはポジティブなオタクや変態として生きてほしい。


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ある研究室でのラブストーリー

研究者が自立して研究活動を続ける方法

本日の朝日新聞朝刊で、私の活動が紹介されました。それも、尊敬してやまないバッタ博士と同じコーナーで。光栄な限りだ。


堀川大樹さん「最強」のクマムシを「ゆるキャラ」に仕立てた: 朝日新聞


研究者がキャラクターグッズの販売や有料メルマガの発行を行い、その収益を自らの研究活動の資金にしようする例は自分以外に皆無なため、興味を持っていただいたのだと思う。


クマムシさんtwitter

有料メルマガ「むしマガ」


一方で、海外では寄付によるマイクロファンディングが盛んになってきた。PETRIDISH.orgのような、研究活動に特化したウェブサイトもある。


だが、よほどのことがない限り、寄付のみで個人の研究者が生活し、研究活動を続けるのは無理があるように感じる。上記のサイトなどで寄付を募っている、2〜3人で行う規模の研究プロジェクトでも、日本円でせいぜい数十万円を集めるのがやっとだからだ。


確かにプロジェクトを遂行するための研究資金としては、この程度の金額でも足しになるだろう。しかし、一人の研究者が生活し、研究を持続するためには、到底足りるものではない。現時点では、マイクロファンディングは、あくまでも生活が保証されている研究者のための、研究資金集めと位置づけられる。任期付だったり、どこにも雇われるチャンスのない人間が、研究者としてやっていくための手段にはなりえない。


もちろん、将来、より多くの人々が研究者に寄付をする行為が盛んになり、研究者が人間らしく暮らしながら研究も続けることができる世の中が来るかもしれない。だが、今の時点ではそういう未来は感じられない。あのノーベル賞受賞者の山中伸弥教授でさえ、マラソンを一回走って集まる寄付金が1000万円程度なのだから


そう考えると、研究者や研究機関がコンテンツを作って販売するのが、持続可能な方法のように思う。このやり方の方が、お金を払う方も納得するだろう。私の場合は、自分の研究対象であるクマムシを「クマムシさん」としてキャラクター化し、科学啓蒙やtwitter上での人生相談などの社会貢献を行っている。有料メルマガでは、一般の方にも楽しめるようなサイエンスのコンテンツを提供している。これらのサービスの対価として、お金をいただいている。


キャラクタービジネスは、多くの研究者ができるものではないと思う。だが、自分を支えるための手段として、執筆業は知的労働者には向いているだろう。ブログで専門分野の解説をしつつ、有料メルマガや書籍を出版するなどして、収入を得るやり方だ。雑誌連載や講演も、まとまった収入になる。


このようにして、最低限、自分一人の生活費が確保できれば、研究生やポスドクという立場で研究活動を続けられる。人件費がかからなければ、受け入れてくれる研究室は多いはずだ。


この場合、週末などを執筆作業などに充て、平日は研究活動をするというこのスタイルになる。このやり方の素晴らしいところは、自分のやりたいことができる場所を自分で選べる点だ。世界中の、どこでも。好きな研究を持続してできるのは、研究者にとっては幸せなことだろう。


もちろん、この方法だと、研究室の主催者になるのは、難しいかもしれない。しかし、あまり性に合わない研究をボスにやらされ続けたあげく、任期切れの末に研究の世界からドロップアウトするくらいなら、一生ポスドクの立場で好きなことをやっていた方が、はるかに充実した人生を過ごせるだろう。


私の試みは始まったばかりであり、まだ自立はできる状態ではない。ただ、今後もこの社会実験を継続し、成功させたいと思う。そして、明日がないと思い込んでいる博士たちに、自由になるための道筋の一例を示せるようになりたい。


ということで、改めてクマムシさんむしマガをどうぞよろしくお願いします。

キャラクターのゆくえ


クマムシさんがtwitterで活動を始めてから、もうすぐ1年になります。クマムシさんをデザインしたのは2011年2月で、その後すぐに商標登録をすませました。現在、twitterのフォロワーも1万人を超え、ニュースサイトや雑誌にもちょこちょこ露出するようになってきました。


これまで、多くの方々にお手伝いいただき、先日グッズの販売も開始しました。


かわいいグッズに“むきゅーん” 「クマムシさん」のネットショップがオープン: はてなブックマークニュース


ネットショップの他、日本科学未来館とジュンク堂書店池袋本店(てぬぐいのみ)でも、クマムシさんグッズを販売しています。


従来のゆるキャラに見られる特徴として、「かわいさ」「自分よりも下(ばか)」「従順」などがあります。これは、ペットに見られる特徴とも共通しています。SNSが普及したことで、ゆるキャラから返事が直接もらえるようになりました。このため、キャラクターとユーザーとの関係がより親密なものへと強化されるようになりました。

 
ただ、これらのゆるキャラは、従来のキャラクターの特徴はそのままで、SNSを使っている場合が多いように見えます。ユーザーからの問いかけに、可愛らしく、そしてちょっとおばかっぽくせっせと答えることで、幅広く支持を集めることに成功しているのです。


今後、双方向コミュニケーションができるメディアにおいては、キャラクターの役割はもっと異なる方向に進んで行くことが予想されます。ユーザー一人一人の不安を取り除いたり、問題を解決してくれるような、自分を導いてくれる教祖のような存在に、キャラクターは発展していくと思われます。


つまり、自分よりも"上"の存在となるようなキャラクターが望まれるようになり、可愛さだけでなく知性と知恵を備えたキャラクターが増えて行くこととが予想されます。このようなキャラクターとユーザーの結びつきは、従来の"ちょいおバカ系"キャラクターとのそれとは比較にならないほど強固になっていくのではないでしょうか。


現在多くのゆるキャラで飽和しているゆるキャラ市場ですが、今後は知性というふるいにかけられることでその多くが脱落し、新たなゆるキャラ勢力図が現れてくると思われます。


ということで、今後ともクマムシさんをどうぞよろしくお願いいたします。


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クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー

フランス人の生産性の高め方

フランスに住んでいると、人々の時間感覚の違いに辟易することがよくある。駅の故障した自動改札は修理をせずに何ヶ月も放置したままだったり、ビザの手続きも無駄に時間がかかる。


ところが先日、これと相反する行動を目の当たりにした。


今月、私が所属する研究室は別の大学に引越すのため、11月9日には業者が研究室から実験机を持ち出すことになっている。よって、この日までに実験机の上の試薬や実験道具はきれいに片付けておく必要がある。このアナウンスが流れたのは10月末だ。


私はぎりぎりまで実験作業をしたかったので、前日の11月8日までに徐々に片付ければ良いと思っていた。また、フランス人の時間感覚からして、他の研究室メンバーもぎりぎりまで片付けずに実験を続けるだろうと予想していた。


ところが、である。意外なことに、研究室のメンバー皆、アナウンスが流れたとたんに怒濤のごとく実験机を片付け始めたのだ。これは、普段の彼らの行動パターンに相反する現象だ。そして、11月5日ごろには、ほとんどの実験机があらかた片付いてしまっていた。まだ実験道具が置きっぱなしなのは、私の実験机だけであった。


その日、研究室のあるメンバーから「確認のため言っとくけど、実験机の上を片付けてね」と言われた。私は、9日までには必ず片付ける、と告げたが、彼女の顔はどこか不満げだった。


そして翌日の6日、違うメンバーから「もうみんな片付け終わっているので、あなたの机も片付けてほしい」と言われた。明らかに不機嫌そうな表情で。9日までに片付ければ、何も問題は無いはずなのに、である。この言動はいささか理不尽だ。


研究室のミーティングだって、皆遅れてやって来るのが当たり前で、予定時刻通りに始まったためしがないというのに。なぜ今回は、皆焦っているのだろうか。そして、この国では個々人が強い主張を持つことが是とされている。「みんなが〜だから、おまえも〜しろ」などという全体主義的な圧力を感じたのも、今回が初めてのことだ。


しかし、この理由は7日に明らかになった。水曜日だというのに、研究室には私と2名を除き、誰も来ていなかったのだ。そう、他の者は皆、休暇をとったのだ。ちなみに、彼らは8日も9日も来ていない。10日と11日は土曜日と日曜日なので、5連休をとったことになる。


もうお分かりだろう。彼らの考えは、こうだったのだ。

・・・・・・
11月9日までに実験机を片付けなければならない。

だが、もしこの日よりも早く片付ければ、それ以降は実験ができなくなる。

実験ができなくなるということは、研究室に来ても意味がない。

職場に行く意味がなくなるので、休暇をとる正当な口実が作れる。

早く片付けよう。
・・・・・・


理由はただひとつ、休暇が取りたかったのだ。私をせかしたのも、共用で使う実験装置の取り扱いなどについての確認を急ぎたかったためだ。私がぎりぎりまで作業をしないと、彼らも作業を終えることができず、休暇をとることができないので困るというわけだ。もちろん、こんな事情は私には知る由もなかった。


フランス人は、とにかく休暇をとる。年に複数回、1ヶ月単位の休暇をとるのも珍しくない。とにかく、自分たちの時間を楽しみたいのである。そんな彼らに、ぎりぎりまで実験をしようとか、実験ができない時は何か違う仕事をしよう、などという発想ははじめから無いのだ。


そんなフランスだが、科学分野における生産性は、日本のそれと大差がない。これには、本当に必要な仕事だけに集中して時間を投資する彼らのやり方に、秘密が隠されているのだろう。やることはミニマムにしてできるだけ休暇をとり、英気を養う。そして体力と気力に余裕を持たせて、仕事を集中して行うのだ。


それとは反対に、日本人はあまりにも雑多な仕事を引き受けすぎてしまうため、生産効率が低下してしまうのだろう。今回の引越し事件、実は彼らは日本人である私のために、このメッセージを遠回しに伝えてくれたのだ。フランス人同僚のその心意気に感謝したい。


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科学報道に大切なこと

ある若手記者によって書かれた、科学報道に関する産経ニュースの記事が叩かれている。


科学取材…専門用語飛び交い理解不能の世界、頭が真っ白に: 産経ニュース


内容は、文系出身の若手記者が記事作成のために研究者の取材をするものの、研究者が話す専門用語や研究意義が理解できずに悪戦奮闘するというものだ。


この記者に対して、理系の教養に欠けること、そして、取材前に予習をしないという姿勢に、多くの批判が寄せられている。記事中の「わかりやすい記事を書くために凡人こそ記者になればいい」という一文も、多くの科学好きの神経を逆撫でしている。


ちなみに、この記者がその時の取材で書いたのが以下の記事だ。


「筋力の衰え測ります」 屈伸でOK 立命大が開発: 産経ニュースwest


この記事に対しても、「科学的な説明が不十分」などの批判が寄せられている。同じ研究成果を報告しているマイナビニュースの記事と比べて論じている人も多い。


しかし、私は産経の記者が書いた方の記事に落ち度があるとはまるで思えない。シンプルでわかりやすいタイトル、そして短い文章の中に、研究意義、研究概要、今後の展望をうまくまとめていると思う。


そもそも、産経新聞とマイナビニュースでは読者層がまるで異なる。日常的に科学に関する情報をネットで集め、ちょっと科学リテラシーが足らなさそうな記事を見つけると、その記事をはてなブックマークに追加してそこで批評を述べる。そういう行動をとるレベルの科学好きな読者は、産経新聞の読者のマジョリティではないだろう。


産経新聞の読者のマジョリティは、デジタルよりもアナログ、ネットよりもテレビ、サッカーよりも野球に親和性の高い、中高年と思われる。当然、科学よりも政治経済関連の話題の方が興味は大きいだろう。そのような読者層に対しては、この産経の記者が書いた記事は大変読みやすいものとなっているだろう。


一方で、マイナビニュースの記事は明らかに科学好きのニッチな層に向けたマニアックな記事に仕上がっている。科学的に非常に詳しく書かれているが、この記事を産経新聞に掲載しても大部分の読者には理解不能であり、そもそも長過ぎて記事が目に入った瞬間に読む気も失せることだろう。


今回、産経新聞の記者を叩いている科学好きの人の大部分は、コストについての意識が低いように感じられる。科学分野に理解の深い理系出身の人間を記者に雇えと言うが、科学専門の記事を書かせるために地方の支局に理系出身の記者を雇うのはコストパフォーマンスが悪すぎる。というのも、新聞記事のほとんどは政治経済と社会についてであり、科学技術に関する記事はあまり需要がないからだ。つまり、文系出身者を雇用した方が効率が良い。


むしろ、新聞記者に過剰な要求をするのではなく、研究者の側が科学知識に乏しい人にも成果をわかりやすく伝えられるだけのプレゼン能力を向上させるべきである。学会発表で説明するようなやり方では、研究分野が違う理系の人間にもうまく伝わらないわけだから、小学生でもわかるように努力する必要があるだろう。


もちろん、今の新聞社の体制にも問題点はある。つい先日の森口氏によるねつ造の研究成果を紙面に出してしまったり、ニセ科学を報じてしまう部分だ。これはガイドラインをつくり、例えば査読のある国際ジャーナルに論文が発表される研究成果に限って報道するなどすれば良いだろう。このようなスクリーニングにより、信頼できる研究成果を効率よくピックアップすることが可能だ。また、科学記事を書きたくてうずうずしている科学コミュニケーターも余るほどいるので、彼らをアルバイトで雇って書いてもらうのも手だ。


いずれにしても、研究者にとっては、新聞社は科学報道をしてくれるだけ有り難いと思った方が良い。研究者の研究成果を効率よく大衆に伝える役割として、マスコミはまだ大きな役割を担っているし、その意味で彼らは研究者の味方だ。新聞記事は、役人に成果を訴える時のわかりやすい材料にもなってくれる。私も自分の研究成果を新聞で取り上げてもらったことがあるが、その記事を読んだ知らない人からtwitterでメッセージをもらったりと、新聞社の影響力の大きさを実感した*1


研究畑の人間が過剰に新聞社を叩きすぎると、彼らは面倒になってさじを投げてしまいかねない。需要の低い科学記事を書くのをやめたところで、彼らはあまり痛くないのだ。その時に一番困るのは一体誰なのかを、叩いている側は考えてみた方がいいだろう。


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*1:ちなみに、その記事を書いた新聞記者さんは科学リテラシーも高かったし、不明なところを何度も丁寧に質問してきた。記事の文章も素晴らしかったことを追記しておく。

鍵をかけましょう

 自宅に女性を連れ込んで乱暴しようとしたとして、京都市の大学生が逮捕されました。 


強姦未遂容疑で同志社大生逮捕 京都


 この大学生がこれまでに行ってきたハレンチ行為の数々を、twitterで逐一報告していたことが分かり、ネット上で大きな注目が集まっています。驚くのは、twitterで自ら実名+顔写真付きで数々の行為を報告している点です。恥も外聞も無いというレベルを通り越して、一連の行為を誇らしげに見せつけたいという欲求も垣間見えるところに、恐怖すら感じます。容疑者が逮捕されているためtwitterfacebookのアカウントは削除されずそのままになっています。容疑者の家族や友人の心境も堪えられないものがあるでしょう。


 今回の事件は路上で見つけた女性を自宅に連れ込んだものでしたが、実は僕は、連続暴行魔に自宅侵入されたことがあります。大学生だった12年前のことです。当時僕は神奈川大学に通っていましたが、近くのT大学付近のアパートに一人暮らしをしていました。事件が発生した時期は、ちょうど大学の定期試験期間中でした。その日、無計画なダメ学生だった僕は、翌日に控えた生化学の試験勉強をしないまま夜を迎えたため、


「よし、朝早く起きて勉強しよう」


 と能天気なことを言いながら、午前6時に目覚まし時計のタイマーをセットしてベッドに入りました。そして、明け方。かすかに「スー」という風が漂うような音がしたな、と夢の中で感じた次の瞬間、ベッドのある居間とキッチンとを仕切るスライド式のドアが「スルスル」と音を立てました。この音を夢の中で聞いたその0.5秒後、


「ピピピピピピ!」


 という目覚まし時計のアラームが鳴りました。そして僕が目を開けた瞬間、視界に飛び込んできたのは黒い人影だったのです。心霊現象に出くわしたような恐ろしい気分でした。目覚まし時計のアラームに驚いたのか、黒い影は一切物音を立てずにスーッとアパートの外に出て行きました。この時点でもまだ、心霊現象が起きたかのような、狐につままれたような気分でした。


 それから数秒し、この現象をようやく「不審者が自分の部屋に侵入した」ということと認識しました。しかし、恐怖の方が大きく、犯人を追跡しようなどという気は全く起きませんでした。数分ほど身動きがとれず、アパートの玄関のドアにも近づけませんでした。侵入者の移動スキルは、本当に驚くものでした。生身の人間とは思えないほど、全く音を立てずに移動していたからです。


 この一件以来、夜は必ずドアに鍵を閉めるようにしました。


 そして、この日から1年以上が経過した後、神奈川の秦野署から電話がありました。ある暴行魔が逮捕され、この暴行魔が僕のアパートに侵入したことを供述している、というのです。この暴行魔、T大学の学生で、1年で185件もの強制わいせつや窃盗を犯してきたことが明らかになりました。


私大生、婦女暴行など犯行185件/わいせつ・窃盗も重ね、余罪続々


 当時の他のニュース記事によると、この容疑者、T大学の講義は出席せずに日中からT大学キャンパス内や街中で好みの女性を見つけて尾行し、アパートの場所を確認していたとのこと。夜に女性が住むアパートに忍び込んでナイフで脅して暴行し、金銭を奪う行為を繰り返していたのだとか。僕の部屋に入ったのは、女性がいるものと勘違いしていたためと思われますが、もしあの時、目覚まし時計が鳴らなければ、自分の身にも危険が及んでいたことでしょう。試験勉強をきちんとしていなかったことが、妙なところで役に立ちました。


 この暴行魔の供述によると、一人暮らしのかなり数の女性が、ドアに鍵をかけていなかったということです。一人暮らしの方もそうでない方も、油断せずに必ず施錠することをおすすめします。 

EM菌こそ宇宙最強のエイリアンである

クマムシ納豆菌も驚愕の、トンデモない論文が大阪日日新聞に掲載されていた。


大阪ヒト元気録:大阪日日新聞


論文中では、EMボカシネットワークという研究組織がEM(Effective Microorganisms)を使用し、その有用性を示している。


そのEM菌の、恐るべき効能の例を挙げよう。


・ブタの飲み水にEMを混ぜるとブタが元気になり、小屋の悪臭も消えた。

・そのブタの尿を飲んだがん患者が快方に向かった。

・EMにサトウキビから作った糖蜜とぬかを混ぜたもの(通称「元気玉」)を河川に放り込むと、浄化された。


などなどだ。


そして、戦慄が走る恐ろしい事実も明らかになった。


なんと、EMは2000ºCでも死なないというのだ。


たばこの火がだいたい900ºC、ガスバーナーを使った激しい炎の温度が1700ºCほどである。鉄でも1538ºCで融ける。


もちろん、このような温度ではクマムシや納豆菌は燃えつきて死んでしまう。EMが2000ºCでも死なないということは、少なくとも細胞を構成している分子の融点が2000ºC以上ということであり、これは地球上の生命体でないことは明白である。


EMこそ、地球に侵略にやってきた、宇宙最強のエイリアンである可能性が極めて高い。


こうしてはいられない。これから直ちにNASAの仲間に通報する*1


【参考資料】

様々な火の温度:富山大学・木原寛さんのサイト

*1:日本でトンデモないインチキが蔓延している、ってね。

かわけ!クマムシのように。:理系クンと思想クン

最近、思想ブームが来ているらしい。あちこちのウェブ媒体で思想系の論客がインタビュー記事をみかける。


そして、若手の思想系論客、いわゆる思想クンが一部の女子たちにとってアイドル的な存在になっているようだ。


思想ブーム到来!要チェックのイケメン若手批評家10人: NAVERまとめ

【論壇女子部が行く!】 古市憲寿(上): 論壇女子部


90年代後半に頭角を現したくるりの岸田繁と漫画「ピンポン」のスマイルによって確立された、メガネ男子ブーム。


その後、文化系メガネ男子や理系メガネ男子などやや細分化されたメガネ男子のブームがあり、そこに群がっていた女子の一部が今、思想クンの深遠な脳内世界に着地点を見いだしたしたように映る。


ところで、文化系メガネ男子の人気に比べて理系メガネ男子(≒理系クン)のそれは明らかに物足りなく感じる。ブームも一瞬で終わってしまった。


これは、文化系女子のマーケットの方が理系女子マーケットよりも圧倒的に大きいことに一因があろう。なんだかんだで、文化系女子は理系男子よりも文化系男子を好む傾向にあるのではないだろうか。


また、文化系の最終的なフォーカスが人に帰結するのに対し、理系の主な関心は人以外のモノや現象であることが多い。たとえ思想クンがどんなに難しい内容の話をしていたとしても、そこには人の根源に関わる何らかのトピックが絡んでいるため、相手の共感が得られやすい。


一方で、理系クンの会話は人以外のモノが中心であるため、そのモノが共通の関心ごとでない限り、共感を呼びにくい。


「クマムシの爪の形や体表のデコボコ模様が種類によって違い、どれも美しい。この違いで種類を見分けることができるんだ」


などと熱く語る人間と長時間一緒にいることに耐えられず、ショートケーキをすくうと見せかけて、理系クンが履いている淡い淡いブルー色のジーンズの上に、力一杯握りしめたフォークを突き立ててしまう女子がほとんどだろう。残念ながら。


そのように悟った私は、理系クンから思想クンへの身分の転換を図ろうと考えた。そして、アンドロメダ流星群を見ながら、こんなふうにつぶやいた。










そしてなんと、このつぶやきを聞いた神様=とある編集者が私に思想系雑誌への論文投稿を依頼してきたのだ。まだユリイカを取り寄せてもいなかったのに。


私はここぞとばかりに「地上最強の動物クマムシと人類」と題した論文を無我夢中で執筆し、投稿した。


結果は、なんと「受理」だった。


そして本日、この論文が思想雑誌「kotoba」の特集、


新世代が撃つ!ニッポンを変える若手論客たち—縮小均衡の時代、過渡期にあるこの国への処方箋は、古参の権威ではなく、新たなリーダーが見つけ出すにちがいない。1970年以降に生まれた新しい世代、これからの時代を担っていく若き論客たちが、ニッポンを変える。」


にて発表された。


kotoba (コトバ) 2012年 07月号
kotoba (コトバ) 2012年 07月号 [雑誌]



今を代表するイケメン思想クンの面々が活躍しているのと同じ舞台で、晴れて論壇デビューと相成ったのである。


理系のイケメン思想家には茂木健一郎氏、斎藤環氏、福岡伸一氏など錚々たる顔ぶれがいるが、若手で理系出身の思想クンを挙げろといわれると、あまり思いつかない。つまり、理系出身の若手思想クンというニッチなジャンルを、イケメンでもない私が今後独占できる可能性があるのだ。競争の少ない環境をあえて生活の場として選び繁栄に成功した、クマムシのように。


上に述べたように、モノばかりを語る理系クンはとっつきにくいが、理系的視点で思想を論じる行為は理系的な人間の考察に繋がり、共感が得られやすい。つまり、女子にモテやすいだろう。それを狙い、今回の私の論文タイトルにもずばり「人類」の語を入れておいたのだ。


ニッチな思想の世界で生きるという戦略をとることにより、私もついにモテ期をつかむことが可能になるかもしれない。


果たして結果はどうなるだろうか。この検証結果は1年後に報告したい。


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地上最強の動物クマムシと人類


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