クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

【書評】『バイオパンク―DIY科学者たちのDNAハック!』DIYバイオムーブメントのすべてがここに


バイオパンク―DIY科学者たちのDNAハック!


先日も少し紹介した、これからのバイオ研究活動の動向がわかるエキサイティングな一冊。


ここ数年、アカデミアの外でバイオの研究を行う「バイオハッカー」がアメリカを中心に増加している。彼らの多くは改造したガレージや自宅のキッチンで実験を行う。必要機材はDIYにより低コストで調達する。


ギークらがガレージの中でコンピューターをいじり回した結果、コンピュータ産業が爆発的に成長し、パソコンやスマホは誰にとっても身近な存在となった。次は、バイオである。アカデミアや製薬企業など限られた環境ではなく、誰でもどこでもバイオ研究ができるようになる。本書は様々な実例を挙げながら、このメッセージを投げかけている。


本書にも登場するDIYバイオのムーブメントの旗手の一人にマッケンジー・カウエルがいる。彼は2万ドルの資金を使って輸送用コンテナをオークションで購入し、それをモバイル実験室に改造した。どこでも自由に実験ができるように。彼らの試みは進歩的なアイディアを持つ人々から称賛された。個人によるバイオ研究がバイオテロに結びつくかどうかをリスク評価するため、FBIも彼の活動を一部サポートしつつ連携をとっている。


余談だが、マッケンジーは、私のNASA時代の同僚でルームメイトでもあったジョン・カンバースと親友だったため、カリフォルニアの私たちの家によく遊びにきていた。若干クセがあるが異常に賢く、世界を変えたいという大きな野心を持っていたのが印象的だった。彼に限らず多くのバイオハッカーはアマチュアを自称しているが、その多くは実は野心家である。


バイオハッカーはアマチュアだけがなるものではなく、プロも多い。アカデミアからバイオハッカーに転身した研究者も少なくない。近年、世界的に見ても大学や公的研究機関などアカデミアでのポジションに就くことは非常に難しくなりつつある。アカデミアに残ることをやめて、バイオハッカーとして生きる道を選ぶ研究者が増えているのだ。


このような流れの中、バイオハッカーが集う実験室スペースがアメリカ各地で設立されつつある。月額100ドルを払えば、誰でもそこの実験設備を使って実験ができる。研究プロジェクトも共同で行われており、どこか部活動に近いノリだ。研究活動資金はクラウドファンディングなどで調達する。研究者を招いた講演なども開かれ、そのチャージも運営活動資金となる。


バイオ研究は、現時点ではまだ世間に浸透しているとはいえない。しかし、我々が想像するよりも早く、このムーブメントは広がっていくと予想している。中学生や高校生がアカデミアや企業の研究者顔負けの研究成果を出す日も近いかもしれない。今後、私もこのムーブメントに関わっていくつもりだ。


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アカデミアを卒業します: むしブロ

『クマムシ博士の「最強生物」学講座』のKindle版が出ました

拙著『クマムシ博士の「最強生物」学講座』が出版されてから半年が経過しました。おかげさまで各界で好評をいただいています。

クマムシのゆるキャラを商品化して研究費を捻出しようとする奮闘ぶりも語られる。研究対象並みのしぶとさが頼もしい。

朝日新聞


極低温や真空にも耐える驚異の生物を紹介。過酷な環境に居場所を見つけるしぶとい生き方を見習いたい。

読売新聞


端的に言えば、なんだかむちゃくちゃ面白い生物科学エッセイ、である。

最新の科学トピックを読者に引きつけつつ紹介する話術も実も巧みでわくわくする。

土屋敦氏: HONZ


これは、クマムシ云々というよりは、科学者の個性に唸ってしまった1冊。
目次ページの章タイトルからちょっと変。「クマムシミッション・ハイテンション」「キモカワクリーチャー劇場アゲイン」「ぼくたちみんな恋愛ing」。たぶん、これで、いいのだと思う。


とりあえず私は今のところ、こんな風に宣言した本を他に知らない。

野坂美帆氏: HONZ


商売人は、自分がクマムシになった気持ちで、閉塞状況を打ち破るチャレンジをする必要があるのではないか。そう考えると、ビジネス書としても読める本だと思います。

吉村博光氏: HONZ


最高に面白いです。クマムシの真面目な話からフジツボ貴婦人、お馴染みバッタ博士まで。人間が一番おかしい。

猪谷千香氏


誰かを愛するということはどういうことか。愛の意味を知る一冊でした。

前野ウルド浩太郎氏(バッタ博士)


やっぱ虫研究者はやばいわ。エンタメ性の無いサイエンスアウトリーチはダメでしょうな。

藤川哲兵氏


クマムシや生物学についての知識がなくてもたのしく読める。全然知らないジャンルのことなのに純粋に読み物としておもしろいのがすごい。

ミネコ氏


常識破りの極限生物とその生き様をわんこそば感覚で紹介する本なのですが、同調圧力が強く、単一視点に平均化されがちな今日の日本社会への抵抗の意志に満ちています。文体も良い。

羊谷知嘉氏


この他にも紹介しきれないほど多くの方々から感想をいただきました。ここに御礼申し上げます。


さて、本書は売れ行き好調につき、このたびKindle版も出ました。



【Kindle版】クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー


このKindle版、現在アマゾンで10%ポイント還元の特別セール中です。4月3日まで。まだ本書を手に取ってない方は、これを機会にぜひどうぞ。

知的労働者が書籍を出版する方法

おかげさまで拙著「クマムシ博士の「最強生物」学講座」が好評につき、早くも増刷が決定。ご購入いただいた皆さまに感謝。











クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー


日本滞在中に都内の書店を散策していたが、ほとんどの大型書店で本著を平積みにしていただいていた。



写真は丸善お茶の水店


また、書評サイトHONZでは土屋敦さんに熱いレビューを書いていただいた。


黒い情念がゴッゴッゴッ! 『クマムシ博士の「最強生物」学』


著者の私自身もワクワクしてしまうような、今までに見たことのないレビュー。どうも有り難うございます。


さて、今回は本書が書籍化に至った経緯について少し書いておく。私のケースは、特に書籍出版を目標としている知的労働者にとって参考になると思う。


そもそも少し前までは、一般科学書を出版するのは教授等の肩書きのある研究者か、著名な科学ジャーナリストに限られてきた。権威の無い人間が書籍を出版するのは難しかったのだ。


だがご存知の通り、ネット、とりわけブログやTwitter、そしてはてなブックマーク等のネットツールの登場により、優れた文章の書き手が容易に発見される時代が到来した。ブログに書いた文章がSNS上で言及され、その数が評価の指標になるからだ。そして出版社の編集者は、この指標をもとに本の書き手を選定している。書籍出版には、権威ではなく、読み手を惹き付ける内容、中身が大事になってきたのだ。


私のブログは科学、とりわけ生物学を対象にしている。大事なことは、非専門家の読者にも理解できるように記事を書くことだ。本ブログを書いている研究者・専門家は多くいるが、この意識を持ちながら情報を発信している人間は少ない。専門知識があり、なおかつ分かりやすい文章を書ける人間が、書籍の書き手として重宝されるのだ。高度な専門知識をいかにやさしく説けるか。この落差が大きいほど、書物としての価値も高くなる。野茂の落差のあるフォークに多くの打者がついバットを出してしまうのと同じ原理だ。


私の場合、記事を50〜60ほど書いた2011年の末頃から書籍出版の依頼が来始めた。その中で、新潮社からはブログと有料メルマガをベースにしたものを出版したいということだったので、最初の書籍となった。今後、さらにいくつかの書籍を他出版社から出版予定である(出版社のみなさまへ:現在は新規の出版依頼は受付けていません)。


ということで、書籍出版を目標としている人は、以下のステップを踏んでいくとよいだろう。


1. ブログに自分の専門分野周辺の話題を噛み砕いて書く

2. Twitterやはてなブックマークなどで読者の反応をチェック

3. 足りなかったと思える点を次回の記事に反映させる

4. 2と3を繰り返す


このステップを忠実に遂行していれば、いずれ出版社から声がかかってくるだろう。


書籍を出すことで優雅な印税生活を送るのは難しいが、書籍化をきっかけに自分の活動の枠を広げることができ、自由度が増す。本を出すことで得られるこのメリットは、金銭面の収入以上に大きいと感じている。ということで、書籍出版に興味がある人は、とりあえずブログを開設して何か書いてみてはいかがだろうか。


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クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー

クマムシ vs. 極限環境微生物ー地上最強生物トークバトル

先日、極限環境微生物学者の高井研氏の著書を出版社のイーストプレスから送ってもらった。


微生物ハンター、深海を行く:高井研

本書は高井氏の研究人生のこれまでをドラマティックに、そしてバブリーな表現で綴ったものだ*1。これから研究者を目指そうとする学生にとっては参考になる部分あるだろう。参考にならない部分もあるが。


さて、本書の中ではなぜか私とクマムシも取り上げられている。しかも、かなりディスられているのだ。

ブログやらツイッターやらのコメント欄に、どうもうら若い女性達の「堀川さん素敵 ♡、クマちゃん最強、きゃわうぃーねー♡」みたいなニュアンスのコメがたくさん載っているのを見た瞬間、ワタクシの心の闇に「堀川許すまじ!クマムシ許すまじ!」の黒い情念がゴッゴッゴッと湧き上がってくるのを止められずにいたのだ。

「へっ、なにがクマムシだよ。あんなプニュプニュのユルユル歩きなんて、相手じゃねえぜ。地球最強はアレよ、極限環境微生物よ。そらそうよ」などと嫉妬の炎が燎原の火のごとくメラメラしていたりするわけで


本書やtwitterでの発言から、高井氏はかなりの女性好きであることが伺える。クマムシや私に対するライバル意識は、女性からの注目を集める我々に対する嫉妬心が源となっているようだ。


いずれにしても私から言いたいことは、クマムシは極限環境微生物の敵ではなく、正真正銘の地上最強生物だということだ。


もちろん、生存可能な温度範囲など、ストレスに対する耐久力を強さの指標とした場合は極限環境微生物の方がクマムシよりも上だろう。だが、文字通り"単細胞"の微生物どもと、脳神経系や消化系など複雑な体制を備える高等生物クマムシを比較すること自体がおかしいのだ。ストレスにさらされたとき「細胞ひとつが生存できればOK」という極限環境微生物とは、まったく次元の異なる耐性能力なのである。


とまあ、ネット上での水掛け論をしても仕方がないので、MCにメレ山メレ子さんを迎えて公開討論を開催することにした。詳細は以下の通り。


・・・・・・

クマムシ vs. 極限環境微生物ー地上最強生物トークバトル!


【日時】


2013年9月25日(水) OPEN 18:30 / START 19:30


【会場】


新宿ロフトプラスワン

新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2  アクセス


【出演者】


高井研(微生物地球学者)
堀川大樹(クマムシ博士)
メレ山メレ子(むし大好きブロガー)


【イベント内容】


地球に君臨する最強生物は誰だ?! 


地上最強の生物として知られるクマムシ。その愛くるしいフォルムから、人気もうなぎのぼり。


しかし、これを黙って見過ごすことのできない生物たちがいた。極限的な環境を住処とする、極限環境微生物である。冷戦が続いていたクマムシ vs. 極限環境微生物。だが遂に今回、最強生物どうしの闘いが研究者同士の代理戦争に発展してしまった……。


クマムシ博士 vs. 微生物学者。地上最強生物を決める前代未聞のトークバトルの火ぶたが、今落とされる!


【チャージ】


前売¥1500 / 当日¥1800(共に飲食代別)

※前売券は8/31(土)正午12時から9/24(火)18時までe+にて発売。(チケット購入はこちらから)


※ニコニコ生放送はこちらから

・・・・・・


強いのはどちらか、決着をつけるのを楽しみにしている。


【お知らせ】このブログが本になりました

クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー

*1:"新人ポスドクびんびん物語"など、ヤングな世代には元ネタが分からない表現が多い。

クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたち

このたび、『クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー』という書籍が新潮社から出版された。本書は本ブログとメルマガに執筆したコンテンツの一部を加筆修正し、まとめたものだ。一部、書き下ろしも含んでいる。クマムシさんの表紙が目印。











クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー


この本は、常識破りの極限生物とその生きざまのエピソードを、クマムシ博士が読者にわんこそばを食べさせる感覚で紹介する生物学講座である。本書に登場するのは、クマムシから人間までの多岐にわたる、私が愛してやまない生き物の数々だ。


私は幼い頃より、生き物、とりわけ昆虫が好きだった。昆虫の姿や生態は、我々のものと随分と違う。言い換えれば、我々の常識と彼らの常識はまったく異なる。常識の異なるアナザーワールド。昆虫たちのもつ異世界に、私は虜になった。


それでは以下に、本書の目次を紹介する。

クマムシ博士の「最強生物」学講座 
ー私が愛した生きものたちー



「生物学のとば口に立ったばかりのいたいけな高校生共を生物学の泥沼へと誘う魔道の禁書」*1

目次


はじめに

第1章 地上最強動物クマムシに敬礼


乾燥、超低温、放射線、高圧、そして宇宙空間。地上最強動物クマムシの生存可能領域は地球外にまで広がっている。実在する奇跡・クマムシに出会ったとき、誰でも敬礼せずにはいられない。


・「クマムシって何?」という奇特な方へ
・「わたしの放射線耐性力は57万レントゲンです」
・クマムシのエクストリームフレンドたち
・ついに乾いたミニ人間
・「サイヤ人死にかけ&復活実験」で覚醒したスーパー放射線耐性菌
・サイボーグ生命体の誕生を祝福する

第2章 クマムシミッション・ハイテンション


地上最強動物クマムシの生態を頭で理解したら、次はいよいよ実践だ。クマムシ捕獲計画に、クマムシ増殖祭り。想像しただけで、大興奮。クマムシミッション、ハイテンション。


・クマムシ捕獲計画実行中
・クマムシ増殖祭り開催中
・クマムシさんを人類救済の切り札に
・超高校級と呼ばれたあるヤングサイエンティストの野望

第3章 暴かれた宇宙生命体の真実


科学者が踏み込んだ新たな学問領域、宇宙生物学。生命起源の解明、地球外生存可能範囲の特定、そして地球外生命の探索。未知なる世界の深淵に科学者たちが見た、宇宙生命体の真の姿とは・・・。


・ヒ素で毒づく宇宙生物学界
・地球人と火星人は双子どうしかもしれない
・私たちは宇宙生まれ地球育ちかもしれない
・スクープ:納豆菌は宇宙生命体だった
・日本に大量増殖したミュータント人間とその原因

第4章 キモカワクリーチャー劇場アゲイン


一見気持ち悪いが、よく見ると可愛いらしい生きものたち。そんなキモカワクリーチャーたちの魅力に気付いてしまったらもう最後。引き返せない、戻れない。ようこそ、魅惑のキモカワクリーチャ—劇場へ。


・キモカワアニマルのキモカワ精子
・不老不死の怪物と地球脱出と
・出動!サイボーグゴキブリ
・クモの糸をはくカイコ
・生き物をゾンビにするパラサイトの華麗なる生活

第5章 博士生態学講座


世界で生み出される博士の数は増加の一途をたどっている。街で石を投げれば当たるほどにコモデティ化した博士。とはいえ、外界から博士たちの実態を知るのは容易でない。ここでは、知られざる博士たちの生態をお見せしよう。


・スーパー研究者たちの掟
・意識の高い博士の特徴
・理系研究室分類学
・理系的「ジョジョの奇妙な英語学習法」
・フジツボ貴婦人あらわる
・バッタに捕食されたい博士

第6章 ぼくたちみんな恋愛ing


この世に男と女がいる限り、恋愛戦争に終わりは無い。それは人間界だけに限らない。今日も明日も明後日も。ぼくたちみんな、エンドレス恋愛中。


・オタクと変態はモテる
・タイムトラベラーと肉体関係を持つのは危険
・悪魔を召還し、嫌がる相手と無理矢理交尾するオス
・うんこになって飛行移動するカタツムリ
・パラサイト男子とその彼を体内に宿した女子の愛の物語



あとがき


常識を破ること。それは、常識の範囲を大きく逸脱した極限の世界を生きることに等しい。クマムシや型破りな人々の生きざまを見ていると、自分がいかに狭い視野で物事を考えていたかに気付かされる。


同調圧力が強いこの社会の中では、望むと望まざるにかかわらず、私たちは平均であり続けようとしてしまう。それは、物事を単一の視点からしか見れなくなることを意味する。この世界は、多様性で満ちているにもかかわらず、だ。


本書で取り上げた生き物たちのエピソードが、読者の中にある常識というコリを少しでも揉みほぐし、これまでと異なる視点で世界を見る眼を養う一助となれば、著者として嬉しく思う。


(アマゾンからの購入はこちらから)

*1:キャッチコピーはBernard_Domon氏にいただいた

世界初のクマムシ擬人化漫画がついに発売される






















ついにクマムシが主人公の漫画が世に出た。擬人化したクマムシとミドリムシが活躍する研究漫画である。漫画のタイトルこそ「ミドリムシは植物ですか?虫ですか?」となっているが、私の脳内では「クマムシはクマですか?虫ですか?」と変換されるのでクマムシ本という認識でいる。



珍しいクマムシ


本作は漫画家の羽鳥まりえ先生によるものだ。羽鳥先生は私が発行する有料オンラインジャーナル「むしマガ」の読者だ。むしマガのクマムシ情報も本作品を作る上での一助となったとのことで、嬉しく思う。巻末には、協力者として私の名前も掲載していただいた。


この漫画には、私をモデルにしたとしか思えないイケメン・クマムシ研究者が出てくる。名前は勅使河原大吾。私の名前が「大樹」なので「大吾」とは一文字違いである。外見も名前も似ているのである。



クマムシ研究者の勅使河原大吾


この勅使河原大吾がある日顕微鏡でクマムシを眺めていると、目の前にゴスロリ少女が突然現れる。少女は自らを「くまこ」と名乗る。



くまこ


戸惑う勅使河。そして驚くべき事実が判明する。なんとくまこは、クマムシだったのだ。


くまこは幼女だが、クリプトビオシス(完全無欠モード)覚醒するとグラマラスな成人女性に変身する。




とってもグラマー


決め台詞は「ビッグ・バンから出直してくることね」。正直、出直しすぎだと思う。


次に擬人化ミドリムシ。クマムシは幼女だが、ミドリムシの方は王子である。もう、わけが分からない。



ミドリムシ王子


このミドリムシ王子「レナ」は、あまり服を身に付けず、下半身を露出していることが多い。光合成をする必要があるので、服で光を遮るのはよくないからだ。


このミドリムシ王子も覚醒する。



超光合成


この超光合成の効率は、どんな植物にも達成できないほどの高効率であるようだ。なお、ミドリムシ王子は超細胞分裂もする。つまり、ミドリムシ王子を無数に増やして地球上の至る所に配置すれば、エネルギー問題は解決されるであろう*1。不毛なエネルギー論争も、これでおしまいだ。


それでは、クマムシ少女とミドリムシ王子の活躍については、以下の本編で十分にお楽しみいただきたい。


ミドリムシは植物ですか? 虫ですか?: 羽鳥まりえ



(おまけ)



リアルミドリムシ王子の姿をとらえた貴重な写真。左はクマムシさんを肩に乗せた作者の羽鳥まりえ先生。


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【お知らせ】このブログが本になりました

クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー

*1:実際には光合成で産生されるエネルギーを取り出すのは難しい

ニート転身で豊かな人生を

現在、私は研究活動を生業としているが、これ以上に自分に充実感を与えてくれるアクティビティはないと思っている。何か発見をすれば、それがどんなに小さなものであっても人類の歴史で誰も見たことのない現象であれば、プライスレスの知的興奮を味わうことができるからだ。これは研究者に与えられた特権だろう。


とはいえ、実験が上手くいかない日が続いたり、論文投稿の際に審査員から理不尽な文句をつけられたり、研究室内や研究分野内の人間関係がこじれたり、睡眠時間を削ってクマムシの世話をしたりすれば、ストレスも否応なく溜まっていく。研究が好きとはいえ、他の多くの仕事と同じように、楽しいことばかりではない。


それは、顕微鏡を覗きすぎたある日の終わりのことだった。帰宅してMacBook Proを起動し、twitterをチェックしていた。モニターのバックライトが眼精疲労を抱えた私の目を刺激して辛かったが、タイムラインには知的好奇心を刺激する情報が溢れていた。タイムラインを数時間遡りながらリンク先のコンテンツに目を通しただけでも、あっという間に時間が過ぎてしまった。twitterを眺めているだけでも、一日中楽しめることができることであろう。


そして、思った。ニートになれたらどんなに幸せだろう、と。座り心地のよいソファーに一日中座って、ポテトチップスをほおばりながら一日中ネットの世界に浸っていたい。そんな衝動に駆られた。


今は、ネットに接続できる環境さえ整っていれば、永遠にエンターテイメントに触れ続けることができる。趣味が同じ仲間を見つけてコミュニケーションもとれるので、全然孤独にもならない。当然、煩わしい人間関係もない。ニートに転身することで、多大なメリットが生じるのだ。ニートこそが勝ち組といえる。


そして日本ニート界のカリスマであるpha氏の著書「ニートの歩き方
」を読み、私の仮説への自信は確信に変わった。


ニートの歩き方――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法: pha著


90年代半ばまでは、ニートや引きこもりはゲームや漫画など高コストなエンターテイメントに依存するしかなかったし、社会から完全に隔離されるので他人とコミュニケーションをとることも難しかった。ニートや引きこもりでいることのメリットは小さかったのだ。


だが今では部屋から一歩も出ずに、エンターテイメントや人との繋がりを容易に保持することが可能になった。それだけではない。ネットで興味のある分野についての情報を集めてブログや有料メルマガにまとめることで、ある程度の収入まで確保することもできる。


オンラインの専門誌や学術誌には、無料で公開している記事や論文も多い。きわめて専門的で質の高い情報を、誰でも入手することができるのだ。昔なら、このような資料は大学や企業がお金を払わなければ入手できなかった。個人にとっては、ほぼ入手不可能だったような情報である。私も、無料で公開されている英語論文を自身のメルマガのネタとして使うことも多い。


もちろん、ニートが自分の部屋から出ずにフルタイムで働いている人と同等の収入を得るのは簡単ではない。だが、趣味の延長で月に7〜8万円程度稼げれば、物価の安い東南アジア諸国などで不自由なく生活することができる。ネットさえ使える場所であれば、ニートはどこででも生きていけるのだ。


毎日満員電車に揺られ、終わらないノルマの山と悪戦苦闘し、職場で苦手な人間と顔を合わせ続けることの対価として月収30万円をもらうよりも、好きなときに寝ることができ、気が向いたらビーチを散歩したり地元のマーケットの屋台で味の素の効いた地元料理を楽しみながら月収8万円のストレスフリー生活の方が、はるかに豊かな人生を過ごせるのではないだろうか。



マレーシア滞在時の食事


とはいえ、私はそれでもニートになるよりはストレスを受け入れて研究者として生きる道を選ぶだろう。安泰よりもエキサイトメントの多くある研究人生の方が、やはり楽しいのでね。

【書評】『孤独なバッタが群れるとき』バッタ博士の青春

孤独なバッタが群れるとき: 前野ウルド浩太郎 著 (東海大学出版会)




本書は、バッタ博士こと前野ウルド浩太郎氏の初の著書である。前野氏については本ブログでもたびたび取り上げてきたので、ご存知の方も多いだろう。


バッタに憑かれた男

バッタに憑かれた男との出会い


サバクトビバッタは、個体密度が低い環境にいるときは孤独相とよばれるモードになるる。だが、バッタどうしが混み合った環境に置かれると、飛翔力のアップした群生相とよばれるモードになる。この2つのモードは、世代を超えて行ったり来たりする。これが、相変異とよばれる現象だ。


群生相と化したバッタは、群れを作って大群となり、アフリカ地方を中心に農作物を食い荒らしてしまう。前野氏はサバクトビバッタの相変異を、大学院生時代から一貫して研究している。本書は、前野氏自身が行ってきたバッタ研究の歴史を綴った昆虫記である。


以前にも紹介したが、まず、本書の目次が色々な意味で衝撃的である。

目次


はじめに

第1章 運命との出逢い
一縷の望み
師匠との出逢い
サバクトビバッタとは?
黒い悪魔との闘い−絶望と希望の狭間に
相変異
 コラム バッタとイチゴ
 コラム バッタ注意報

第2章 黒き悪魔を生みだす血
白いバッタ
ホルモンで変身
授かりしテーマ
ホルモン注射
触角上の密林
論文の執筆
 コラム バッタのエサ換え
 コラム 伝統のイナゴの佃煮

第3章 代々伝わる悪魔の姿
相変異を支配するホルモン
補欠人生に終止符を
目を見開いて
代々伝わるミステリアス
 コラム バッタ飼育事情
消えた迷い
相蓄積のカラクリ
仮説の補強
 コラム:バッタ研究者の証

第4章 悪魔を生みだす謎の泡
常識の中の非常識
戦慄の泡説
疑惑の定説
揺らぎ始めた定説
定説の崩壊
逆襲のサイエンティスト
理論武装
打っておくべきは先手、秘めておくべきは奥の手
十三年にわたる見落とし
追撃
戦力外通告後の奇跡
飼育密度の切り替え実験
論争の果てに
束縛の卵
禁断の手法
真実は殻の中に
研究はアイデア勝負
 コラム 真実を追い求める研究者

第5章 バッタde遺伝学
紅のミュータント
バッタでメンデル
優劣の法則
分離の法則
隠された紅の証
消えたミュータント
独立の法則
バイオアッセイ
成長という名の試練

第6章 悪魔の卵
悪魔を生む刺激
Going my way 己の道へ
博士誕生
混み合いの感受期
感受期特定実験1 長期間の混み合いの影響
感受期特定実験2 短期間の混み合いの影響
混み合いの感受性のモデル
バイオアッセイの確立
壁の向こう側
混み合いが三つの刺激
バッタのGスポット
塗り潰し実験
切除実験
昔話「バッタの耳はどこにある?」
カバー実験
Physical Chemical factor 物理的もしくは化学的要因
最短の混み合い期間特定実験
こする回数
目隠しを君に
あの娘にタッチ
接触刺激の特定実験
育ちが違うバッタにも反応するのか?
異種にも反応するのか?
暗闇事件
孤独に陥る闇の中
闇に光を
光り輝く夜光塗料
不可能を可能にする魔法「ルミノーバ」
光るバッタ
光を感受する部位の特定実験
夢を信じて
体液の中に
ドロ沼
アゲハの誘惑
異常事態
カラクリだらけのホルモン仕掛け
セロトニン
 コラム 虫のマネをするファーブル
 コラム 一寸の虫にも五分の魂

第7章 相変異の生態学
なぜ子の大きさが違うのか?
力の差が出るとき
瞳を見つめれば
ルール違反の発育能力
掟破りの産卵能力
海を越えて
 コラム インディアンの住む森
国際学会
運河の孤島・バロ・コロラド島
 コラム 栄冠は手をすり抜けて
エサ質実験1 発育
エサ質実験2 成虫形態
エサ質実験3 産卵能力
切り倒すか、たたき倒すか
 コラム ミイラが寝ているその隙に
男たるもの
一皮むけるために
Dyar’s low ダイヤーの法則

第8章 性モザイクバッタ
奇妙なバッタ
オスにモテるがメスが好き
 コラム 図の美学

第9章 そしてフィールドへ・・・
バッタの故郷
夜にまぎれて
砂漠の道化師
バッタ狂の決意
旅立ちのとき
いざアフリカへ
ミッションという名の闘い
トゲの要塞
己の力を試すとき
決戦
喰うか、喰われるか
ウルド誕生
新たなる一歩
忘れられた自然
アフリカで研究するメリット
サバクトビバッタ研究を通して
伏兵どもが夢の中


あとがき


そして、肝心の内容も目次負けしない、バッタ博士の魂が詰まった一冊となっている。濃厚な卵黄がぎっしりと詰まった、群生相のサバクトビバッタの卵のように。


本書では挫折を繰り返してきた少年が、昆虫研究者へと成長していく過程が、ユーモアも交えつつ、鮮やかに記述されている。


バッタたちとの友情、師匠のもとでの修行と努力、ライバルの出現、勝利によるレベルアップ、新たなステージへの旅立ち。はじめは弱かった少年が、不断の努力により、たくましく成長し変態していく姿が描かれており、バッタ研究の内容はもちろんのこと、少年漫画の要素も満載で楽しめる。



写真: 昆虫研究者に変態した前野ウルド浩太郎博士


私は前野氏とは、大学院博士課程の時期を、同じ研究所で1年半過ごした仲である。研究室が隣どうしだったことと、学年がひとつしか違わなかったこともあり、よく一緒に話をした。そしてまた、暗黙のうちに、お互いをライバルとして認識していた。


1日の中で、どちらが夜遅くまで実験を続けられるか、という大学院生ならでは馬鹿馬鹿しい競争もしていた。私も体力の限界まで頑張ったのだが、結局、前野氏に勝つ日はほとんどなかった。インドア系の私に比べ、体育会系の前野氏は体の強さが違うのだな、とその時は思っていた。


だが、前野氏も長時間におよぶ実験による過労により、研究所内のトイレで意識を失ったりしていたのだ。体力の限界を超えるまで、自らの体に鞭を打って研究に取り組む姿勢に、私には越えられない壁があるように思えた。前野氏はネットメディアなどで露出しているイメージとは裏腹に、実は、異常なまでに努力家なのである。


彼の研究業績は、同世代の中では群を抜いているが、それは、桁違いに努力できる才能の賜物なのだ。本書でも、ひとつの実験に数十万のサンプルを調査したことなどがさらりと書かれているが、このような作業の裏側には、土日休日もすべて返上し、自分が信じることに青春を賭けた青年の、とてつもない努力が隠されているのだ。「誰にでもできることを、誰にもできないくらいにまでやる」。それが、彼のポリシーだ。


自分の好きなことに人生を賭け、それを継続することは、とても困難なことである。皆、それを知っているからこそ、本書を読んだ読者は、夢を叶えるためにアフリカ大陸にひとり渡る決心をした前野氏の姿が眩しく映り、応援したくなる。そして、読んだ方にも、前向きに生きてみようという気持ちにさてくれる。そんな一冊であった。


さて、そんな前野氏のインタビューを、私が発行している有料メルマガ「むしマガ」にて、本日から7回にわたって掲載することになった(当該インタビュー掲載のバックナンバー購入はこちらから)。本書に書かれていないエピソードや研究哲学などの内容を、盛りだくさんでお送りする。インタビューのラインナップは以下の通り。


第1回: 師匠との出逢い
第2回: バッタ博士流研究哲学
第3回: 大事なのは体力と気合い
第4回: ディズニーランドよりもバッタランド
第5回: モーリタニアで生きる
第6回: 退職するまでアフリカで
第7回: バッタのぬけがらは、たまらないッス。


前野氏のファンや研究者を志したい人はもちろん、そうでない人が読んでも、面白く、かつ前向きな気持ちになれるようなインタビュー内容となった。実のところ、私自身が一番楽しませてもらったかもしれない。


有料メルマガ「むしマガ」は申込初月は無料であり、購読手続きを開始した月に解約すれば購読料の支払いは発生しないので、ぜひ試しに読んでいただければと思う。


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バッタ博士によるバッタ本の目次がキてる件


写真: 前野ウルド浩太郎博士


このブログやメルマガでもたびたびフィーチャーし、コアなファンを獲得しつつあるバッタ博士・前野ウルド浩太郎氏が、11月20日にバッタの本を出版することになった。


孤独なバッタが群れるとき<サバクトビバッタの相変異と大発生>: 前野ウルド浩太郎 著 (東海大学出版)


338ページにもおよぶボリュームもさることながら、そのキてる目次が嫌でも目を引く。

目次


はじめに

第1章 運命との出逢い
一縷の望み
師匠との出逢い
サバクトビバッタとは?
黒い悪魔との闘い−絶望と希望の狭間に
相変異
 コラム バッタとイチゴ
 コラム バッタ注意報

第2章 黒き悪魔を生みだす血
白いバッタ
ホルモンで変身
授かりしテーマ
ホルモン注射
触角上の密林
論文の執筆
 コラム バッタのエサ換え
 コラム 伝統のイナゴの佃煮

第3章 代々伝わる悪魔の姿
相変異を支配するホルモン
補欠人生に終止符を
目を見開いて
代々伝わるミステリアス
 コラム バッタ飼育事情
消えた迷い
相蓄積のカラクリ
仮説の補強
 コラム:バッタ研究者の証

第4章 悪魔を生みだす謎の泡
常識の中の非常識
戦慄の泡説
疑惑の定説
揺らぎ始めた定説
定説の崩壊
逆襲のサイエンティスト
理論武装
打っておくべきは先手、秘めておくべきは奥の手
十三年にわたる見落とし
追撃
戦力外通告後の奇跡
飼育密度の切り替え実験
論争の果てに
束縛の卵
禁断の手法
真実は殻の中に
研究はアイデア勝負
 コラム 真実を追い求める研究者

第5章 バッタde遺伝学
紅のミュータント
バッタでメンデル
優劣の法則
分離の法則
隠された紅の証
消えたミュータント
独立の法則
バイオアッセイ
成長という名の試練

第6章 悪魔の卵
悪魔を生む刺激
Going my way 己の道へ
博士誕生
混み合いの感受期
感受期特定実験1 長期間の混み合いの影響
感受期特定実験2 短期間の混み合いの影響
混み合いの感受性のモデル
バイオアッセイの確立
壁の向こう側
混み合いが三つの刺激
バッタのGスポット
塗り潰し実験
切除実験
昔話「バッタの耳はどこにある?」
カバー実験
Physical Chemical factor 物理的もしくは化学的要因
最短の混み合い期間特定実験
こする回数
目隠しを君に
あの娘にタッチ
接触刺激の特定実験
育ちが違うバッタにも反応するのか?
異種にも反応するのか?
暗闇事件
孤独に陥る闇の中
闇に光を
光り輝く夜光塗料
不可能を可能にする魔法「ルミノーバ」
光るバッタ
光を感受する部位の特定実験
夢を信じて
体液の中に
ドロ沼
アゲハの誘惑
異常事態
カラクリだらけのホルモン仕掛け
セロトニン
 コラム 虫のマネをするファーブル
 コラム 一寸の虫にも五分の魂

第7章 相変異の生態学
なぜ子の大きさが違うのか?
力の差が出るとき
瞳を見つめれば
ルール違反の発育能力
掟破りの産卵能力
海を越えて
 コラム インディアンの住む森
国際学会
運河の孤島・バロ・コロラド島
 コラム 栄冠は手をすり抜けて
エサ質実験1 発育
エサ質実験2 成虫形態
エサ質実験3 産卵能力
切り倒すか、たたき倒すか
 コラム ミイラが寝ているその隙に
男たるもの
一皮むけるために
Dyar’s low ダイヤーの法則

第8章 性モザイクバッタ
奇妙なバッタ
オスにモテるがメスが好き
 コラム 図の美学

第9章 そしてフィールドへ・・・
バッタの故郷
夜にまぎれて
砂漠の道化師
バッタ狂の決意
旅立ちのとき
いざアフリカへ
ミッションという名の闘い
トゲの要塞
己の力を試すとき
決戦
喰うか、喰われるか
ウルド誕生
新たなる一歩
忘れられた自然
アフリカで研究するメリット
サバクトビバッタ研究を通して
伏兵どもが夢の中


あとがき


「黒き悪魔」「あの娘にタッチ」「Gスポット」など、およそ学術書らしからぬワードのオンパレードである。この目次を見るだけでも、本書が色々な意味で学術書の歴史を塗り替える一冊になることを確信できる。


*2012年11月14日追記
アマゾンでの購入はこちらから→孤独なバッタが群れるとき


読んで書評も書きました!→孤独なバッタが群れるとき


【関連サイト】

砂漠のリアルムシキング(前野博士のブログ)


【関連記事】

二人のバッタ博士が書いた本: 砂漠のリアルムシキング

バッタに憑かれた男

バッタに憑かれた男との出会い

パラダイスレジデンス

嬉しいことに、こうしてブログで執筆活動をしていたりTwitterで情報発信をしていると、多くの人からネット上で色んな感想・コメントをいただく。


そしてたまに、自分と全然違う分野の人や、こちらが一方的に憧れていた人と繋がれることもある。


漫画家の藤島康介先生もその一人だ。


藤島先生はクマムシ好きで、Twitter上で繋がってしまったのだ。まさにクマムシが結んだ縁である。


私は中学生から高校生のころに月刊アフタヌーンを愛読していた。当時のアフタヌーンは藤島先生の「ああっ女神さまっ」をはじめ、「寄生獣」、「ツヨシしっかりしなさい」、「無限の住人」などなどバラエティに富んだラインナップであった。


そして少年時代、私は漫画家になろうと思っていたいたことがある。多くの少年少女がそうであるように、私にとって漫画家はヒーローのような憧れの存在だった。


それから十数年がすぎ、憧れの漫画家の先生と、Twitter上でたまに絡ませてもらっている。インターネット万歳である。


そしてある日、藤島先生がgood!アフタヌーン誌で連載中の「パラダイスレジデンス」を読んでみたい、と私がつぶやいたところ、なんと先生から「小説版パラダイスレジデンス」を直々に送ってもらったのだ。


パラダイスレジデンス1 野梨原 花南 藤島康介

パラダイスレジデンス1 (講談社ラノベ文庫)



そして先生の直筆サインが!



家宝にします!


さて、漫画は好きな私だが、実は小説はあまり読まない。


しかし、この小説版パラダイスレジデンスを読んで、ちょっと驚いてしまった。ページ数は200を超えるというのに、ストーリーは半日分しか進んでいないのだ。


この小説では、牧歌的な田舎町の山の上の、とある女子高校の寮、パラダイスレジデンスに入寮する新入生の半日が描かれている。といっても同性愛的なものでもなければ、男子が一人だけ混ざっていてラブゲームになる、といったものでもない。


日常的な女の子同士のやりとりが、淡々と綴られていく。新入生歓迎会のための料理の準備や段取りなどは、とても描写が細かい。そして最後には、初めて親元を離れて新生活を始めた女の子の不安が瑞々しく表現されている。


ファンタジーの設定の中にも人間味ある情緒を、そして昭和を感じさせる、藤島先生らしい作品でした。漫画の単行本化も楽しみにしています。

岩波「科学」に寄稿しました。

今月の岩波の「科学」に、私たちによるクマムシの紫外線耐性に関する研究報告が掲載されました。


科学 2012年 07月号 [雑誌]



全国1億人のクマムシファンの皆様には、ぜひともお目を通していただきたく存じます。


【お知らせ】このブログが本になりました

クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー

どうぞよろしくマムシ。

かわけ!クマムシのように。:理系クンと思想クン

最近、思想ブームが来ているらしい。あちこちのウェブ媒体で思想系の論客がインタビュー記事をみかける。


そして、若手の思想系論客、いわゆる思想クンが一部の女子たちにとってアイドル的な存在になっているようだ。


思想ブーム到来!要チェックのイケメン若手批評家10人: NAVERまとめ

【論壇女子部が行く!】 古市憲寿(上): 論壇女子部


90年代後半に頭角を現したくるりの岸田繁と漫画「ピンポン」のスマイルによって確立された、メガネ男子ブーム。


その後、文化系メガネ男子や理系メガネ男子などやや細分化されたメガネ男子のブームがあり、そこに群がっていた女子の一部が今、思想クンの深遠な脳内世界に着地点を見いだしたしたように映る。


ところで、文化系メガネ男子の人気に比べて理系メガネ男子(≒理系クン)のそれは明らかに物足りなく感じる。ブームも一瞬で終わってしまった。


これは、文化系女子のマーケットの方が理系女子マーケットよりも圧倒的に大きいことに一因があろう。なんだかんだで、文化系女子は理系男子よりも文化系男子を好む傾向にあるのではないだろうか。


また、文化系の最終的なフォーカスが人に帰結するのに対し、理系の主な関心は人以外のモノや現象であることが多い。たとえ思想クンがどんなに難しい内容の話をしていたとしても、そこには人の根源に関わる何らかのトピックが絡んでいるため、相手の共感が得られやすい。


一方で、理系クンの会話は人以外のモノが中心であるため、そのモノが共通の関心ごとでない限り、共感を呼びにくい。


「クマムシの爪の形や体表のデコボコ模様が種類によって違い、どれも美しい。この違いで種類を見分けることができるんだ」


などと熱く語る人間と長時間一緒にいることに耐えられず、ショートケーキをすくうと見せかけて、理系クンが履いている淡い淡いブルー色のジーンズの上に、力一杯握りしめたフォークを突き立ててしまう女子がほとんどだろう。残念ながら。


そのように悟った私は、理系クンから思想クンへの身分の転換を図ろうと考えた。そして、アンドロメダ流星群を見ながら、こんなふうにつぶやいた。










そしてなんと、このつぶやきを聞いた神様=とある編集者が私に思想系雑誌への論文投稿を依頼してきたのだ。まだユリイカを取り寄せてもいなかったのに。


私はここぞとばかりに「地上最強の動物クマムシと人類」と題した論文を無我夢中で執筆し、投稿した。


結果は、なんと「受理」だった。


そして本日、この論文が思想雑誌「kotoba」の特集、


新世代が撃つ!ニッポンを変える若手論客たち—縮小均衡の時代、過渡期にあるこの国への処方箋は、古参の権威ではなく、新たなリーダーが見つけ出すにちがいない。1970年以降に生まれた新しい世代、これからの時代を担っていく若き論客たちが、ニッポンを変える。」


にて発表された。


kotoba (コトバ) 2012年 07月号
kotoba (コトバ) 2012年 07月号 [雑誌]



今を代表するイケメン思想クンの面々が活躍しているのと同じ舞台で、晴れて論壇デビューと相成ったのである。


理系のイケメン思想家には茂木健一郎氏、斎藤環氏、福岡伸一氏など錚々たる顔ぶれがいるが、若手で理系出身の思想クンを挙げろといわれると、あまり思いつかない。つまり、理系出身の若手思想クンというニッチなジャンルを、イケメンでもない私が今後独占できる可能性があるのだ。競争の少ない環境をあえて生活の場として選び繁栄に成功した、クマムシのように。


上に述べたように、モノばかりを語る理系クンはとっつきにくいが、理系的視点で思想を論じる行為は理系的な人間の考察に繋がり、共感が得られやすい。つまり、女子にモテやすいだろう。それを狙い、今回の私の論文タイトルにもずばり「人類」の語を入れておいたのだ。


ニッチな思想の世界で生きるという戦略をとることにより、私もついにモテ期をつかむことが可能になるかもしれない。


果たして結果はどうなるだろうか。この検証結果は1年後に報告したい。


【関連記事】

地上最強の動物クマムシと人類


【お知らせ】このブログが本になりました

クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー

【書評】『マリス博士の奇想天外な人生』まさに奇人


マリス博士の奇想天外な人生:キャリー・マリス 著
マリス博士の奇想天外な人生 (ハヤカワ文庫 NF)

本書は、1993年にPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法の確立への貢献によりノーベル化学賞を受賞した、キャリー・マリス博士の自伝的エッセイ集です。

PCR法は特定のDNA配列を容易に増幅する方法であり、この方法の確立以前と以後の分子生物学研究のスピードをがらりと変えてしまいました。今日では、分子生物学を行っている研究室でPCRを行うサーマルサイクラーの装置を置いていないところはほとんどないでしょう。

本書では、恋人とのドライブ中にPCR法の原案を思いついたエピソードを初め、著者ならではのユニークなエピソードが語られています。

著者は、根拠が曖昧なデータをもとにして官僚や政治家を言いくるめて研究費を獲得する研究者らや、自身のノーベル賞の対象となった研究論文の重要性を認識できなかった一流科学ジャーナルを批判しています。これらのエピソードからは、著者が常識や権威を常に疑い、物事の本質を見極めようとする姿勢が伺えます。

また、著者本人は自らを「正直者」と称するように、自身の女性遍歴や薬物使用に関してぶっちゃけた話も紹介しています。とくにLSDを使用したときの感覚は詳細に描いており、LSD体験が著者の思考・思想に影響を与えていることが伺えます。ノーベル賞選考委員会も、LSD使用を公言する人物に賞を授与するとはなかなか懐が深いですね。

この薬物使用の影響なのかどうか定かではありませんが、森の中でアライグマに人間の言葉で話しかけられた後に意識を失ったりするなど、著者はさまざまなスピリチュアルな体験もしています。

ジャンルを問わず、偉人には変人の類いが多いものですが、著者も間違いなく世間から見れば一級品の変人でしょう。しかし、違う見方をすれば、常に物事の本質を探求し、予定調和を嫌う人間が世間からは変人扱いされてしまう、ということも言えます。

世の中にブレークスルーを起こすことは、それまでの常識を壊すことでもあります。イノベーションを起こす人物の中には、傍若無人で反社会的に見える人も多いですが、それは彼ら彼女らがピュアな視点で世の中を眺め、世間の常識だろうと何だろうとおかしいと感じるものに果敢に立ち向かって行くからなのでしょう。

私の恩師の一人もかなりの変人でしたが、彼が常々「科学とは非常識を常識に変えるものである」と言っていたのを思い出しました。科学者たるもの、世間の空気や流行などくそくらえで猪突猛進が吉ですね、やっぱり。


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傑出した研究成果を出すための8のポイント: むしブロ+

【書評】『現代免疫物語』

少し前になりますが、2011年のノーベル賞受賞者が発表され、ノーベル生理学医学賞には免疫学において大きな貢献を残した米仏の3氏が選ばれました。

受賞対象となった自然免疫の分野でエクセレントな業績を残した大阪大学の審良静男教授が受賞されなかったのは残念ですが、その業績の価値は受賞したボイトラー博士とホフマン博士のそれと比肩するものです。

私は免疫学とは遠く離れた分野の研究をしているので、免疫に関する知識ははるか昔に大学の講義で身につけた程度で、しかもほとんど忘れてしまいました。ですので、シンポジウムなどでたまに免疫に関する研究発表を聞いても、登場する細胞や分子の種類の多さと、それらの役者たちの免疫ネットワーク上での関係性を把握しきれずにチンプンカンプンの状態が続いていました。

そこで、今年のノーベル賞を機に、免疫学の入門書を読んでみようと思い本書を手にとりました。本書の著者の一人は、免疫学の世界的権威で、審良静男教授のお師匠さんでもある元大阪大学総長の岸本忠三博士です。



現代免疫物語 (ブルーバックス)
現代免疫物語 (ブルーバックス):岸本 忠三 中嶋 彰 著


本書では、花粉症や臓器移植など免疫が関わるさまざまな場面をとりあげながら、平易な表現を交えつつ、体の中で起こっている仕組みを非常に分かりやすく解説しています。

19世紀に始まった血清療法から各種インターロイキンの働きまで幅広く触れているため、入門書としては十分でしょう。また、新しい科学的発見がなされる過程のストーリーも、各々の研究者にスポットを当てて臨場感たっぷりに描かれています。

そして本書を通して最も印象的なのは、同じ分野でしのぎを削る研究者同士の激しい戦いのエピソードの数々です。

私自身は「クマムシの極限環境耐性」というかなりニッチなフィールドを住処としていますが、それでもやはり世界にライバルがいるし、研究内容がピンポイントでかぶってしまうこともあります。免疫学という巨大な学問分野内での競争ともなれば、まさに生き馬の目を抜くかのごとく想像を絶する熾烈さとなります。

そんな熾烈さを良く表しているエピソードの一つに、赤血球増多因子の特許権をめぐる争いがあります。

1977年、熊本大学の宮家隆次博士と米国シカゴ大学のゴールドワッサー教授は、共同してこの因子を抽出・生成することに成功しました。もともとは、宮家博士が再生不良性貧血症患者の尿中に赤血球増多因子があると推測し、その尿サンプルをゴールドワッサー教授の研究室に持ち込んだことが共同研究の発端でした。

赤血球増多因子はその名の通り赤血球を増やす因子で、貧血に効果的な治療薬として期待できます。この赤血球増多因子が巨額のマネーを生み出すと睨んだ二つのバイオベンチャー企業が、宮家博士とゴールドワッサー教授に近づきます。しかし、何か意見が合わなかったのか、宮家博士はジェネティクス・インスティテュート社と、ゴールドワッサー教授はアムジェン社と別々に協力して赤血球増多因子の商業化に向けた研究を開始します。

そして、宮家博士とジェネティクス・インスティテュート社は赤血球増多因子タンパクに関する詳細な情報を特許として出願し、ゴールドワッサー教授とアムジェン社は赤血球増多因子産生に必須な中間物質の遺伝子を出願しました。両社は5年間にわたって特許係争を行うことになり、結果、アムジェン社の勝利に終わりました。アムジェン社は、2010年には150億ドルの売上高を誇る巨大企業へと成長しています。

私たちが現代医療の恩恵を受けられるのは、No.1を目指す研究者たちの競争の結果によるものだということを、忘れないようにしたいものです。

あなどれない子ども向け図鑑

この度、「ねぇ知ってる?大図鑑」という子ども向け図鑑にヨコヅナクマムシの画像を提供したのですが、この図鑑の出来映えが素晴らしいです。東京大学の國枝武和さんも魅力的なクマムシの画像を提供されています。



ねぇ知ってる?大図鑑
ねぇ知ってる?大図鑑


私は今までに様々な媒体に自分が撮影したクマムシの画像を提供してきましたが、この図鑑は私がこれまでに関わった媒体の中でも最高レベルの出来です。

図鑑の内容は人体、生き物、宇宙、テクノロジーなど幅広く扱っており、各豆知識について、ゆるキャラの豆しばが「ねぇ知ってる?」とナビゲートする流れにになっています。例えば、クマムシの項目では「ねぇ知ってる?電子レンジでチンしても死なない生き物がいるんだって。」といった具合です。

この図鑑、まず感心するのが、子どもの関心を惹き付けるように各項目のタイトルを工夫しているところです。上のクマムシの項目であれば、「地球上で最強の生き物、クマムシ。」とするのが通常のところを、「電子レンジでチンしても死なない生き物がいる」とすることで、子どもにとって具体的なイメージを描きやすくしています。

また、「ねぇ知ってる?〜なんだって。」というフレーズは子どもどうしでコミュニケーションする際に頻出するフレーズです。このように語りかけることで、親しみを持ちやすくしている効果もあるでしょう。

このようなフォーマット上の工夫も素晴らしいのですが、取り上げている内容も良く練られています。各項目にはいわゆる王道的なネタではなく、どちらかというとトリビア的なものをピックアップしている傾向があります。トリビアネタで子どもの関心を引き、それに関連する様々な基本知識を伝えるような仕掛けになっているのです。

例えば、「ねぇ知ってる?ウマは自分の正面が見えにくいんだって。」という項目には、草食動物と肉食動物の視野の違いとその適応的意義が説明されている他、猛禽類とヒトの眼にある視細胞の数の違い、昆虫は紫外線が見れることなど、各項目の周辺知識を掘り下げたところまで解説しています。

個人的に面白かった項目は、「コアラのごはんは1日4万円分」「新幹線は一般道路を使って運ぶ」「カニ飛び出し注意の道路標識がある」「ヒトは1日にペットボトル1本分の唾液が出る」などです。この図鑑、子ども向けと銘打っているものの、大人でも知らないような事項が満載なので十分楽しめます。

最近は子どもも大人もの理科離れや科学離れが加速しているためか、このような魅せる図鑑を作らなくてはならないのかもしれません。いずれにしても、この図鑑からは「何とかして科学の面白さを伝えたい」という作り手の気合いのようなものが伝わってきます。サイエンスコミュニケーションに携わる方にも、本図鑑の手法は大いに参考になると思います。