【書評】『毒きのこ-世にもかわいい危険な生きもの』著者らの意図にまんまとはまる
菌類研究者の白水貴博士(美声)監修の本書は、毒きのこのみに焦点を当てて紹介している。きれいなきのこの写真に、多すぎず少なすぎない説明が付記されており、図鑑として眺めていても楽しい。
きのこは担子菌類のものがおもである。きのこの本体は菌糸で、きのこと指しているあの物体は胞子をつくって飛ばすためにつくられる子実体だ。毒きのこが生成する毒は捕食者から身を守るために発達したものかと思いきや、昆虫はふつうにこれらの毒きのこを食べるらしい。
毒きのこの消化酵素は他の生物では分解できないものを分解し、栄養源として吸収することができる。この強力に発達した消化酵素はヒトの腸の粘膜にダメージを与えて腹痛や下痢を引き起こす。身を守るためというよりは、消化能力を向上させた結果として毒になってしまったともいえる(ただ、毒きのこにはオオワライタケのように中枢神経に作用を及ぼし視覚障害、幻覚、精神錯乱をおこすものもあるので、こちらは上述のよう理由では説明できない)。
本書で紹介されている毒きのこの中でもとくに印象に残ったのが、ドクササコだ。
ドクササコ
食べた数日後、末端紅熱症といって、手足の先や鼻、男性器が腫れ、そこに、焼け火箸を刺されたような激痛が、なんと1か月以上も続きます。別名は、火傷のような痛みから「火傷菌」、その苦しみから「地獄もたし」。地獄のような苦しみで衰弱した例も。その上、有効な治療法はないといいます。
なんて危険で魅惑的な毒きのこだろうか。
毒きのこに統一した特徴はなく、見きわめるのは困難だ。毒性分が不明なきのこすらある。また、食用キノコとして親しまれていたきのこに中毒作用があることがつい最近になって判明した例もけっこうある。
菌類の種数は多く、未記載のきのこも無数にある。当然、まだ未知の毒きのこもたくさんあるという。クマムシ研究者の感覚からすると、きのこのように肉眼で見えるサイズのものは分類がひじょうに進んでいるものだと思っていた。きのこ研究もまだまだ奥が深そうだ。本書をながめていて、きのこを見る目が変わった。著者らの策略にまんまとはまったといったところだろうか。
※本記事は有料メルマガ「むしマガ」290号「ゲノム編集がおこす社会変革(前編)」の一部です。
クマムシ博士のむしマガVol. 290【ゲノム編集がおこす社会変革(前編)】
2015年4月29日発行
目次
【0. はじめに】ニコニコ超会議2015に行ってきた
2年ぶりのニコニコ超会議参加。非リ充の受け皿としてのニコニコ超会議についての考察。
【1. むしコラム「ゲノム編集がおこす社会変革(前編)」】
ゲノム編集テクノロジーの発展で人類の社会はどう変わっていくのか。今回はノーベル賞受賞が確実視されるゲノム編集テクノロジーのCRISPR/Cas9システムについて解説。
【2. 今週の一冊『毒きのこ-世にもかわいい危険な生きもの』】
かわいいけれど危険な毒きのこ。本書は毒きのこの魅力を巧みに見せる。
【3. おわりに「地球知的外生命体のかたち」】
地球外知的生命体がいたとしたら、それはどんなかたちでどんな文明をもつのか。こんな議論を真面目にしている研究者集団がいる。
【料金(税込)】 1ヵ月840円(初回購読時、1ヶ月間無料) 【 発行周期 】 毎週