【書評】『逆境エブリデイ』現代の幸せの見つけ方
本書は世界最大規模のメルマガ配信スタンドである「株式会社まぐまぐ」の創業者、大川弘一さんによるポーカー戦記である。私は大川さんの考え方や文章が好きで大川さんのメルマガも購読しているが、本書はこのメルマガに書いていた内容がもとになっている。
通常、ポーカー大会ではテキサスホールデムという各プレイヤーが2枚の手札と共通カードの組み合わせで役を競う。ポーカーは偶然性に支配されるゲームというよりは、プレイヤーの振る舞いの適切さでプレイヤーの強さが決まるゲームである。ゲームの大半は、手持ちのカードを見せる前に決まってしまう。つまり、実際のカードの役の強弱よりも、駆け引きが重要な要素となる。
大川さんは海外のポーカートーナメントで入賞するほどのポーカーの腕前である。私は大川さんに公私にわたりお世話になっており、ポーカーの手ほどきも受けさせていただいた。ポーカーというゲームは面白いもので、ゲームの進め方にそのプレイヤーの性格が如実に反映される。
自分の場合、ポーカーをすると、あまり後先考えずに勝負にどんどん乗ってしまう癖がある。リスクを背負いすぎてしまうのだ。自分の過去を振り返ってみると、失敗リスクの高いクマムシの研究テーマを選んで研究に邁進したり、クマムシキャラクターのビジネス化に突き進んだりと、確かに人生においても思い当たるフシがあるのだ。ポーカーをすることで己の欠点が浮き彫りとなるので、自己反省の材料としてはもってこいのゲームでもある。
さて、本書は世界各国でのポーカー戦記が軸となっているが、読みとるべきところは別にある。時価総額300億円まで達した関連会社の価値が暴落し、さらには長期にわたる係争を経験した、著者ならではの現代の生き方や幸せの見つけ方を、本書に学ぶことができる。
キャンピングカーの移動のための運転アルバイトをすることで、レンタカーを借りるよりも格安でアメリカ大陸を移動するところなど、実に大川さんらしい。また、C to Cの宿泊サービスサイトを使うことでホテルよりも安価に民家で寝泊まりし、さらにその家の主である美女と微妙な距離にまで接近したりするところも、実に「らしい」。これらの「マジョリティをフォローして安心するだけの人」からは出てこないような著者の知恵や賢さが随所に見られる。
また、テクノロジーとグローバル化が世界各地に住む人々にどのような影響を与えつつあるのかも、独特の筆致で描写されている。世界各国において、人々は好むと好まざるとにかかわらず大きな変化が求められる。とりわけ日本を含めた先進国では、今よりも格段に大きな努力をしなければ、経済的豊かさを確保できなくなってしまう。
そんな現代の中で、天国と地獄を見た実業家が見つけた幸せとは何か。それは「世界中で面白い人間と会う」という、いたってシンプルなものだった。
幸せはマジョリティが使う物差しで測るものではない。その物差しは、十人十色あってよいはずだ。自分なりの幸せをどう見つければよいのか。そのヒントが、本書に隠されている。