ドミトリーともきんす:科学の世界へのなめらかないざない
本書は『棒がいっぽん』などで知られる漫画家・高野文子さんの作品。寮母のとも子さんと彼女の娘のきん子ちゃんが住む「ドミトリーともきんす」に、研究者を志す四人の学生が下宿している。これら四人の学生の名は、朝永振一郎、湯川秀樹、牧野富太郎、中谷宇吉郎。ひとことで言って、今までに見たことのない漫画だ。
ドミトリーともきんすという架空空間。そこに日本科学界に大きく貢献をした科学者たちを召還し、とも子さんとの何気ないおしゃべりをとおして彼らの哲学にふれていく。フィクションとノンフィクションが自然と溶けあい、不思議な空気を醸し出している。
おしゃべりの中身は各々の科学者たちの著書がソースになっており、しっかりした出典の説明もある。つまり、この漫画作品はこれら科学者たちの書籍を紹介する『書評本』ともみなせる。科学者の言葉を扱ってはいるが、その中身は極限にまで削ぎ落とされているため、固かったり、重かったりは、感じない。エッセンスと少しの潤滑油から成る会話が、滑らかに流れる。
彼らが活躍した時代に比べると、現代の科学技術はドラスティックに発展したものだ。それでもなお、半世紀前に生きた彼らの言葉は普遍性を帯びているし、いつの時代によんでも示唆に富むものとなっている。本書は、やや難しめな自然科学書に興味があるものの、一歩足を踏み入れるのに躊躇しているような人にとって、うってつけだろう。
ちなみに本書は、高野さんが編集者の田中祥子さんから自然科学書を借りたことがきっかけで生まれたらしい。田中さんはブロガーのメレ山メレ子さんの『ときめき昆虫学』や、微生物原理主義者の高井研氏による『微生物ハンター、深海を行く』を手がけた方でもある。本は著者の個性が肝になるが、このラインナップを見ると、編集者の引き立て方がいかに重要かも再認識させられる。
今後、田中さんがどんな自然科学系の本を手がけていくのかが、楽しみだ。
※本記事は有料メルマガ「むしマガ」285号「クマムシのミトコンドリアをまもれ」の一部です。
クマムシ博士のむしマガVol. 287【クマムシのミトコンドリアをまもれ】
2015年4月5日発行
目次
【0. はじめに】エンセラダスのサンプルリターンプロジェクト
土星衛生エンセラダスには液体の内部海が存在し、これがプリュームとなって宇宙空間に吹き出している。このプリュームのサンプルリターン計画がJAXAとJAMSTECにより提案されている。
【1. むしコラム「クマムシのミトコンドリアをまもれ」】
クマムシが乾燥しても生存できる理由。最近になって、クマムシのミトコンドリアに特異的に存在するタンパク質が見つかった。このタンパク質が、乾燥時にミトコンドリアの構造を保っているのかもしれない。
【2. 今週の一冊「『ドミトリーともきんす』:科学の世界への滑らかないざない」】
架空のドミトリーに偉大な科学者四名を召還させた、フィクションとノンフィクションが交差する不思議な科学啓蒙書。
【3. おわりに「灯台下暗し」】
久しぶりに父親と話したが、ニセ医学の言説を信じていたことが明らかに・・・。
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