クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

人類絶滅を回避するために宇宙へ飛んだミニ人間


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地球から他の惑星への移住は、人類絶滅を防ぐための大切な手段だ。

もし来年、巨大隕石が地球に衝突したら?
もし次の氷河期が、めちゃくちゃ辛かったら?

ネアンデルタール人のように、我々も絶滅してしまうかもしれないし、そう考えると夜も眠れなくなるというもの。

そんなリスクを回避するために、他の惑星への移住計画が着々と進行している。

しかし、ここで問題となるのが、惑星間の移動だ。

惑星間の移動の際には、宇宙船の中でずっと過ごさなくてはいけない。宇宙船の中では、無重力や宇宙放射線など、地上とは異なる環境要因で満たされている。こんな環境の中に長時間いても、人間は大丈夫なのだろうか?

このリスク評価をするために、国際宇宙ステーションに実験台として送り込まれた「ミニ人間」がいる。

シー・エレガンスとよばれる線虫だ。



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このシー・エレガンス、クマムシに比べると細長くにょろにょろとしている上に脚も無く、全く可愛くない。しかも弱い。

しかし、この可愛くない(キモい)シー・エレガンスが使われるのには、意味がある。

シー・エレガンスは、生物学研究で使われるモデル生物として有名だ。体長は1mm程度と小さいが扱いやすく、体内の構造から遺伝子のプロファイルまで調べつくされている。人間と同様の遺伝子機能も多く持っている。

このため、シー・エレガンスを調べることは、間接的に我々人間を観察することでもある。これが、シー・エレガンスがミニ人間とよばれる所以である。

例えば、人は無重力環境に長期間いると筋肉を構成するタンパク質であるミオシンの合成が落ちるが、これと同じことがシー・エレガンスでも確認された。

さらに長期間の影響を見るため、アメリカの研究者らは、国際宇宙ステーションの中でシー・エレガンスを遠隔自動培養している。ビデオカメラも設置し、シー・エレガンスの行動を観察できるようにもした。

これまでに12世代にわたって観察したところ、寿命、産卵時期や産卵数、行動に関して、地球上で飼育されたシー・エレガンスと変わらず異常が無いことがわかっている。

将来は、地球−火星間飛行の際にシー・エレガンスを宇宙船に搭載し、長期間飛行の影響を見るアイディアも持ち上がっている。

このようにして得られたデータから、人類の安全な惑星間移動には何が必要かが分かってくる。

小さな虫が、人類絶滅の危機を回避するために、大きな貢献をしているのだ。


【参考文献】

Remote automated multi-generational growth and observation of an animal in low Earth orbit: J. R. Soc. Interface