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クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

クマムシが30年ぶりに覚醒

クマムシ 科学・研究 むしマガ

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南極クマムシAcutuncus antarcticus©Kazuharu Arakawa


南極で採取され、30年間保存されていたコケの中にいたクマムシが復活したことを報告した論文が出版された。これはクマムシにおける生存期間の最長記録。


Tsujimoto et al. 2015 Recovery and reproduction of an Antarctic tardigrade retrieved from a moss sample frozen for over 30 years. Cryobiology (in press).


この研究を主導したのは、国立極地研究所の辻本惠特任研究員。今回、辻本博士らは、南極のドローニング・モード・ランド地域にある昭和基地近くで1983年に採集されたのちに当研究所の冷凍室(−20ºC)で保管されていたコケを、3℃で24時間おいて融解。その後、水を張ったシャーレの中で24時間給水した。コケの中からは2匹のクマムシが伸びきっていない状態で見つかった(体が伸びきったクマムシはだいたい死んでいる)。この2匹とも、しばらくすると動き出した。この2匹を寒天培地に移し、餌としてクロレラ(クロレラ工業株式会社の生クロレラV12)を与えて飼育を試みたところ、このうちの1匹は卵を産んで子孫を残した。もう1匹は卵を産むことなく20日後に死亡。追記:コケの中には他にも体の伸びきったクマムシが何匹かいたが、死んだものとして追跡観察は数週間しても復活しなかったとのこと(辻本さんからの私信)。


さらにコケの中からはクマムシの卵も見つかり、給水後の6日目に孵化。孵化したクマムシもクロレラを食べて成長し、子孫を残した。このように、長期間の保存のあとにクマムシの繁殖能力が維持されていたことを報告されたのは、本研究報告が初めての例である。


子孫を残した2個体のクマムシはいずれもAcutuncus antarcticus。南極で見つかるクマムシとしてよく知られている種類だ。慶應義塾大学クマムシ研究グループでも、辻本博士から分与された本種を研究対象にしている。慶應の荒川さんが撮影したこの南極クマムシはこちら。



これまで、クマムシの最長生存記録は、乾燥状態(乾眠)のツメボソヤマクマムシ属Ramazzottius oberhauseriの卵のもので、9年間だった。ただし、これは室温で保存された場合の記録。クマムシは乾眠になると代謝が停止するため実質的な老化は起こらないとみなせるが、環境中の酸素により酸化が起こるために生態にダメージが蓄積し、ある程度時間が経つと死んでしまうと考えられている。ただし、低温で保存すれば酸素分子による損傷を軽減できるため、理論的にはより長期間の生存が可能になると予想されていた。


今回報告されたクマムシが、コケの中で乾燥状態でいたのか水を含んだ凍結状態でいたのかは定かではないと著者らは書いている。ただ、コケ自体が湿っていたため、少なくともある一定以上の期間はクマムシは水を含んだ凍結状態でいたのだろう。クマムシは高い凍結耐性をもつものも多いのだ。クマムシのこの凍結モードはクリプトバイオシスのなかのクライオバイオシス(凍眠)というもの。


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クマムシのクリプトバイオシスとその種類


クマムシのような動物でも数十年単位で生存できることが報告されたことで、より長期間にわたって永久凍土中などに生きたまま閉じ込められているクマムシがいる可能性も感じさせられます。クマムシのような高等生命体が火星、エウロパ、エンセラドゥスなどで眠っていたとしても、不思議には思わない。個人的には。


【参考書籍】

クマムシ研究日誌


【関連記事】

「クマムシに外来遺伝子17%」は真実か

クマムシトリビア総集編



※本記事は有料メルマガ「むしマガ」325号「クマムシが30年ぶりに覚醒」の一部です。

クマムシ博士のむしマガVol. 325【クマムシが30年ぶりに覚醒】

2016年1月10日発行
目次

【1. はじめに「クマムシが30年ぶりに覚醒」】
南極クマムシが30年の時を経て復活した。

【2. むしコラム「新産業で激変を強いられる街と人」」】
「クマムシに外来遺伝子17%」という報告の妥当性を探る。

【3. Q&A「クマムシ細胞は老化するのか」】
クマムシに見られる防御機構はクマムシの老化を抑えるのだろうか。

【4. おわりに「クマムシの味は」】
今年はクマムシの実食企画が浮上。クマムシを育てて食べるための計画を紹介。

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