クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

クマムシの育て方 (助手ガール編)

以前、このブログでクマムシの採集方法について書いた。今回は「クマムシを飼ってみたい」というマニアックな読者向けに、クマムシの飼育方法を伝授したい。


1000種類以上が知られているクマムシの中で、飼育できる種類はほんのわずかである。クマムシの生態を調査する研究者が少ないため、ほとんどの種類でその食性が判明していないからだ。ここでは、私が札幌市の橋の上に生えるコケの中から採集し、飼育系を確立したヨコヅナクマムシの飼育方法について紹介しよう。



ヨコヅナクマムシ (撮影: 堀川大樹)



ヨコヅナクマムシの飼育にあたって用意する道具は、以下の通り。


1. ペトリディッシュ
2. ミネラルウォーター(ボルビック)
3. 寒天
4. パスツールピペット
5. 実体顕微鏡
6. クロレラ(生クロレラV12)
7. ビーカー



まず、ヨコヅナクマムシの家となる寒天培地を作る。今回もクマムシ助手にデモンストレーションをしてもらった。



ヨコヅナクマムシは寒天の上だと爪を引っかけて上手に歩くことができ、落ち着いてエサを食べたり卵を産むことができる。寒天培地のための寒天溶液を作るため、まず、ビーカーに100mlのミネラルウォーターと1.5グラムの寒天粉末を入れる。ミネラルウォーターはボルビックが良い。


ミネラルウォーターと寒天粉末を混ぜたら、ビーカー後と電子レンジに入れて加熱する。寒天溶液をつくるためだ。よく寒天粉末が溶けるまで、何度か混ぜながらチンしよう。


寒天溶液ができたら、これをペトリディッシュに流し込む。流し込んだら蓋をして室温下で放置し、寒天が冷えて固まるまで待つ。



寒天が固まったら、すでに用意してあるヨコヅナクマムシを培地の上に置く。この作業は、実体顕微鏡をのぞきながら、パスツールピペットでクマムシを水と一緒に吸い取って行う。パスツールピペットは、先端をガスバーナーで細くしたものを使う。




そして、最後にクロレラを投入する。ここで使用するクロレラは、クロレラ工業株式会社の生クロレラV12という銘柄だ。この銘柄のクロレラ以外を餌として与えても、ヨコヅナクマムシが増えることはない。偏食も大概にしてほしいと言いたくなるレベルだ。


www.chlorella.co.jp



クロレラは、ボルビックのミネラルウォーターで希釈して投入する。直径90mmの培地を使う場合、ミネラルウォーター3mlにクロレラの原液20µl(マイクロリットル)を混ぜたものを入れる。


ちなみに、この生クロレラV12の賞味期限は3週間である。この商品の容量は1Lだが、3週間で使用する量は多くてもせいぜい5mlだ。つまり、0.99L以上は無駄になってしまう。非常に勿体ないことだが、ヨコヅナクマムシの飼育のためにはやむをえないのだ。


さて、クロレラを投入したら、暗い場所に保管しよう。ヨコヅナクマムシは、暗いところが落ち着くようだ。保管する温度は、暑すぎず、寒すぎないくらいがちょうどよい。22℃に設定できる保温器があれば、完璧だ。



ヨコヅナクマムシ保管用の専用ボックスを作るのもいいだろう。そうすれば、自宅で飼育する場合でも家族にクマムシの培地を間違って捨てられる心配もない。


培地を顕微鏡で観察すると、ヨコヅナクマムシがクロレラを食べている様子が観察できる。



ヨコヅナクマムシは褐色だが、よく目をこらすと、お腹の中に緑色のクロレラが詰まっているのを見ることができる。



クマムシ体内に取込まれた緑色のクロレラが透けて見える (撮影: 堀川大樹)


何日かすると、産み落とされた卵や、卵から孵ったばかりの子どもをみつけることができるだろう。おめでとう、新しい命たち。子どもの体型は大人と同じだが、色は透明だ。



飼育培地の中のヨコヅナクマムシ。写真右側に三つ見える黒い玉のような物体は卵。 (撮影: 堀川大樹)


コヅナクマムシの寿命は、だいたい1〜2ヶ月である。ちなみに、ヨコヅナクマムシはメスしかいない。オスは存在しない。ドラゴンボールのナメック星人と同じだ。ナメック星人は、交尾をせずに、自ら卵を作って口から吐き出して産む。卵を産むのはメスの仕事である。だから、ナメック星人もメスだ。


ヨコヅナクマムシも、交尾なしに、メス1匹で卵を作って産む。卵は5日ほどでふ化し、孵化から2週間くらいで大人になって、卵を産み始める。


飼育培地は、1週間ごとに新しいものに取り替えよう。 卵や子どもたちも、新しい培地に移してやる。卵や子どもは非常に小さいので、ピペットで吸い取って扱うのは難しい。だが、これができるようになって初めて一人前の「クマムシスト」を名乗ることができるのだ。ぜひ、頑張ってトライしてみよう。


ちなみにクマムシの飼育に関する疑問は有料オンラインジャーナル「むしマガ」にていつでもコンサルティングを行っているので、気軽に購読登録してほしい。



付録:クマムシを飼育するためにおすすめの道具リンク集


・顕微鏡

2Way 双眼実体顕微鏡(新日本通商)


・ペトリディッシュ

滅菌ディスポシャーレ(PS製) 90×15mm PS-90


・ミネラルウォーター

ボルヴィック


【参考文献】

クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー


Horikawa et al. (2008) Establishment of a rearing system of the extremotolerant tardigrade Ramazzottius varieornatus: a new model animal for astrobiology. Astrobiology 8: 549–556.


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