クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

NASAの「火星における重大な科学的発見」を予想する

2015年9月28日(日本時間は29日)、NASAが「火星に関する重大な科学的発見」について記者発表します。


NASA to Announce Mars Mystery Solved: NASA


発表予定時刻から8時間前にこの予告を知り、自分なりに短時間で発表内容を予想してみました。以前、似たようなNASAの重大発表会見の内容(ヒ素細菌)について予想を的中させましたが、今回はちょっと私の専門からずれるため、本記事は眉唾で読んでいただければと思います。


最初に結論から言うと、今回の重大な科学的発見は、火星生命体の発見ではありません。現在の火星探査スペックでは、まだ「生命体が存在する(した)こと」を言い切れるだけの証拠を集められないからです。それでは、何か。それは、ずばり、「火星地表に液体状の水が存在すること」に関する発表だと思われます。


今回の発表内容を予測するにあたり、記者会見に登場するメンバーの専門分野を最大公約数的に絞り込みました。記者会見に登場するメンバーは以下の通り。


Jim Green(NASA本部の惑星科学ディレクター)

Michael Meyer(NASA本部のMars Exploration Programリーダー)

Lujendra Ojha(Georgia Institute of Technologyの大学院生)

Mary Beth Wilhelm (NASA Ames Research Center職員、およびGeorgia Institute of Technologyの大学院生)

Alfred McEwen(University of Arizonaの教授)


ここで、最初の二名はNASAの偉い人なので、今回の研究内容には直接関係ありません。それ以外の三名は、Mars Reconnaissance Orbiter(MRO)のミッションに関わっており、地質学というキーワードで共通しています。さらに、研究論文はNature Geoscienceに発表予定です。地質学関連の研究内容に違いありません。


さらに、これらの三名は火星地表の観察分析を行なっています。とくにOjha氏は学部時代はMcEwen教授と同じUniversity of Arizonaに所属しており、この二人がキーパーソンとみられます。Wilhelm氏は研究のお手伝い的立ち位置ですが、NASA所属ということ、また、メディア慣れしていることから会見に呼ばれているのかもしれません。


Ojha氏とMcEwen教授は2014年に火星表面に観察されるある現象について報告しています。それはRecurring Slope Lineae (RSL) とよばれるもので、直訳すると「繰り返し現れる傾斜の直線群」となるでしょうか(適当です)。


Ojha et al. (2014) HiRISE observations of Recurring Slope Lineae (RSL) during southern summer on Mars. Icarus, 231. pp. 365–376.


下の画像のように、直線状の細い線が傾斜に沿って並んでいますが、これがRSLです。


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Credit: NASA/JPL/University of Arizona



RSLは暖かくなると現れ、寒くなると消える。季節変化によって繰り返し現れたり消えたりするのですね。不思議な現象です。火星上にRSLがたくさん見つかり、しかも火星の場所によって出現頻度が異なる。というのが、2014年に発表された内容です。


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Credit: NASA/JPL/University of Arizona


このRSLが現れたり消えたりするのはなぜなのか。これはもしかしたら、水の流れによってできるのかもしれない。ということで、今回はその謎が解け、RSLの原因が「地表に液体の水が流れたりしみ出しているから」ということをある程度裏付ける証拠を掴んだものと思われます。


ついでに、本研究が関わっていると思われるミッションについて。2005年にローンチされたMars Reconnaissance Orbiterは、火星の周回軌道から火星を探査しています。NASAで推進されているMars Exploration Programの一環です。本探査機のミッションは、火星における水の挙動の歴史を観測すること。水の挙動と生命の存在可能性は密接にリンクしているので、このような研究は重要なのです。


この探査機には高解像度カメラのHiRISE (High Resolution Imaging Science Experiment)や分光計のCRISM (Compact Reconnaissance Imaging Spectrometer for Mars) が搭載されています。HiRISEで火星地表を撮影して小水路の痕跡がないかどうかを観察したり、CRISMで鉱物の化学組成分析を行なうことで、過去から現在に至るまでの水の挙動の歴史を解明しようとしています。鉱物の種類によって水がその場所にどう存在していたか、あるいは作用しているかがわかったりするのですね。また、HiRISEやCRISMでは水の挙動も把握することができるようです。


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HiRISE. Credit: NASA/JPL/University of Arizona


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Image captured by CRISM. Credit: NASA/JPL/University of Arizona


もしも火星の地表に今も液体の水が存在するのであれば、これは大変にエキサイティングなことです。これまで、火星には地下に氷が存在することが確認されていましたが、地表に、しかも液体状で水が存在することになれば、火星表面に生命が存在する可能性も俄然として高まります。ということで、期待もこめて今回の予想を行なってみました。


ちなみに、今回のNASA会見発表で登場予定の一人であるMary Beth Wilhelm氏は、私がNASAエームズ研究所に勤務していたときに同じ施設におり、面識があります。ただし、今回の件では、会見発表内容について、彼女から一切の情報提供を受けていないことを、ここに誓います。


宇宙生物学については下記の本がおすすめです。

地球外生命を求めて マーク・カウフマン (著))


※本記事は有料メルマガ「むしマガ」312号「NASAの「火星における重大な科学的発見」を予想する」からの抜粋です。

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【関連記事】

【地球外生命体?】 NASAの会見内容を予想してみる


【追記(2015.9.29)】


NASAの会見は「現在の火星表面に液体の水が存在することが示唆された」というもので、本記事に書いた予想が的中しました。本研究発表について、新たに解説記事を書きました。


NASAが発表した「火星表面に液体の水が存在」の意味


また、今回の予想について少し違っていた点がありました。本記事ではMary Beth Wilhelm氏の貢献度は低いものと予想しましたが、実際には論文の第二著者であり、本研究にかなり大きな貢献をしていました。私がNASAエームズ研究所にいた頃、Wilhelm氏はまったく異なる研究を行なっていたため、このような過小な予想をしてしまい、Wilhelm氏にはお詫びいたします。