クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

NASAで働くための方法

本エントリは4月創刊のクマムシメールマガジン「むしマガ」創刊前第0号に掲載されたコンテンツを転載したものです。


☆ NASAで働きたい


米航空宇宙局、NASA。言わずと知れた世界最大規模の宇宙開発機関です。2012年の年間予算は177億ドルで、日本円にして1.4兆円(1ドル78円計算)にも上ります。日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の年間予算がおよそ2000億円であることを考えれば、その規模が桁違いであることお分かりになると思います。


そんなNASAで2年間、私は博士研究員、いわゆるポスドクとして働いていました。任期付のポジションとはいえ、自分でもまさかNASAで働けるようになるとは思っていませんでしたし、採用が決まった時はめちゃんこ(死語)びっくりしました。もちろん、周りの人々も皆驚いていました。


アメリカだけでなく、世界中の多くの若者がNASAで働くことを夢見ています。もちろん、日本の若者も。私にも、どうしたらNASAで働けるのか教えてほしい、という質問がよく来ます。


そこで、今回はNASAで働きたい人のために、NASAに入る方法をお教えします。


☆ NASAに入るための条件


よく耳にする話に「NASAはアメリカ国籍を持つ者しか採用しない」というものがあります。これは半分正解で、半分間違いです。確かに、NASAの正規職員になるにはアメリカ市民である必要がありますが、有期の契約被雇用者などは国籍に縛りはありません。


また、難関大学で航空宇宙工学などを専攻しなければダメだ、ということを主張する人もいます。



"東京大学工学部宇宙工学科卒のみNASAに就職できる可能性があります。(中略)東京大学理科一類に合格して下さい。まずはそこからです。じゃないと100%無理です。"



引用元: Yahoo!知恵袋「NASAに就職するには・・・」


これは完全な誤解です。というのも、NASAは航空宇宙工学の専門家だけを採用しているわけではないからです。NASAで行われている研究分野は、航空宇宙工学だけでなく幅広いジャンルに及んでいます。そしてNASAは超大規模組織なので、当たり前ですが研究のみでなく経理、財務、広告など組織として機能するためのあらゆる部門で人材を必要としています。


また、出身大学の名前もあまり重要ではありません。NASAから見れば、東大だろうがヌアクショット大学だろうが同じです。大事なのはその人の能力でしょう。ちなみに私の出身大学(学部)は神奈川大学です。


☆ 実際にどうすれば良いの?


それでは、NASAに潜り込むには実際にどのような手順を踏めば良いのでしょうか。日本人としてNASAで働いたり勉強するためには、まず自分が以下のどのカテゴリーにあてはまるかを確認します。


1. 研究以外の仕事でもいいからNASAで働きたい(技術職・事務職その他)。
2. 博士号を持っていて、ポスドクや研究員として働きたい。
3. 学生として研究、勉強したい。


まず、1のカテゴリーから。


研究以外の仕事となると、もうほとんどすべての業種がこれに当てはまります。それこそ、清掃員とか売店の店員なども含まれます。私がNASAに居たときに仲良くなった清掃員はメキシコ人の中年女性でした。マリアという名前のかわいいおばちゃんでしたね、そういえば。今でも居るのかなぁ?カフェテリアで働いていたお兄さん達もメキシコ人でした。


☆ MegaBites Cafe


余談ですが、NASA Ames Research Centerには「MegaBites Cafe」という店名も料理も大味なカフェテリアがあるんです。そこの5ドルくらいの日替わりメニューはだいたい4種類くらいあるんですが、その中で「食べてもいいかな」と思えるのがたいてい1種類くらいしかなくて、そのメニューが売り切れていると「これは食べたくないわー」というメニューを食べざるを得なくなってしまうのです。


例えばこんなのとか。



【画像】MegaBites Cafeのある日の日替わりメニュー


日本の刑務所の方がよっぽどいいもの出すんだろうなー、とその時はちょっとホームシックになりかけました。

 
でもYelp(アメリカ版食べログ)ではなぜか高評価になっているぞ、MegaBites Cafe。絶対ステマだ。なんちゃって。


☆ さてさて


話を元に戻します。


カテゴリー1の人は、NASAと業務提携している企業から派遣される形で契約被雇用者としてNASAで働くことができます。そこでまず、自分に合った業務を行っている提携企業を探します。企業を探すには、NASAの求人サイト「NASA Job」のメニュー「How to Apply」のページにある「NASA Contractor Jobs 」に訪れます。


NASA Contractor Jobs


ここには、NASAの各センターへのリンクが表示されています。各センターのリンク先に行くと、提携企業とその業務内容が公開されています。試しにNASA Johnson Space Centerのページに行ってみます。


Johnson Space Center


提携企業のリストを見ると、技術系関係が多いことが分かります。しかし、以下のような企業もあります。


・・・・・・
Naknan
2101 NASA Parkway, MC: LF
Houston, TX 77058
FAX: 281-483-6234
Employment Inquiries: 281-990-0030/FAX 281-990-0033
recruiting@naknan.com
Company Website:www.naknan.com
Financial Management Support Services
・・・・・・


Naknanという企業。財務管理をサポートする業務を行う会社のようです。上に記されているこの会社の住所をググってみると、思いっきりNASA Johnson Space Centerの敷地内であることが分かります。



2101 NASA Parkway, MC: LF Houston, TX 77058


もしあなたが財務関係に明るければ、メールや電話で問い合わせてみましょう。もし人材を募集していれば、履歴書を送るように指示してくるでしょう。


そして、この企業の採用プロセスを無事に通過すれば、あなたは晴れてNASAで働くことができるわけです。ほらね、東大も航空宇宙工学も博士号も全然関係ないでしょ?


もっとも、この記事をわざわざ読みに来た人はNASAで継続して働くことを考えていることでしょう。その場合はやはり、専門分野で力をつけてなんとかしてNASAにもぐりこみ、採用されるように頑張るしかありません。アメリカのグリーンカードを取得する必要があります。


探査機エンジニアの小野雅裕さんは、MITで博士号を取得後、インターンでNASAジェット推進研究所に入り、その後一度は就職に失敗するものの、執念で就職を勝ち取っています。このあたりのエピソードは小野さんの著書に詳しく書いてあります。


宇宙を目指して海を渡る 小野 雅裕 著


この本は小野さんのロマンがにじみ出ていて、NASAうんぬん以前に、読み物としてとても面白いです。


最後に、NASAに就職するのを最終目標にするのはやめておいたほうがよい、ということだけは言っておきます。大学受験なんかでもそうですが、それだけだと、夢が叶ったら燃え尽き症候群になってしまいますからね。NASAで何をするか、という目標の方が、よほど重要な要素です。


※本エントリの続きは4月創刊のクマムシメールマガジン「むしマガ」(月額840円・初月無料)で連載します。