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クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

蓮舫氏の二重国籍問題と国籍法


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※写真は本記事の内容とは関係ありません


民進党の蓮舫氏が保持している国籍状況が話題になっている。クマムシとは関係ないが、重国籍に関する備忘録として、本件について記そうと思う。


・重国籍になる可能性


父母が日本人と外国人の組み合わせをもつ子どもは、日本と外国の二重国籍になりうる。たとえこのような条件でも、外国側での手続きをしなければ、この子どもは外国国籍は有さず、日本の国籍しか持たないこともありうる。ただ、このような場合でも、所定の手続きをすれば、後から外国国籍を取得することは可能だ。


また、アメリカのように出生地主義を採用する国では、生まれた国の国籍も取得することができる。父が日本人で妻が台湾人の子どもがアメリカで生まれた場合、日本、台湾、アメリカの3つの国籍を取得できる可能性がある。


・日本国籍を選択する場合の手続き


日本の国籍法によると、未成年のうちに重国籍を持った場合は22歳までに、成年後に重国籍になった場合はその時から2年以内に、どちらかの国籍を選択しなければならない(国籍法第14条第1項)。


ここで、もし期限内に上に挙げたいずれかの方法で国籍の選択をしなかった場合は、法務大臣が当事者に国籍選択の催告をすることができる(国籍法第15条第1項)。そして催告を受けた日から一月以内に日本の国籍の選択をしなければ、その期間が経過した時に日本の国籍を失うことがある(国籍法第15条第3項)。


蓮舫氏の件に関して、菅義偉官房長官が「外国の国籍と日本の国籍を有する人は、22歳に達するまでにどちらかの国籍を選択する必要があり、選択しない場合は日本の国籍を失うことがあることは承知している」と述べているが、これは国籍法のこの部分を指している。


とはいえ、仮に法務大臣から催告が来たとしても、役所では当事者が本当に重国籍をもつかを確認するのは難しい。このような理由によって日本国籍の剥奪が行われることは、現実にはほぼないようだ。


ここで日本国籍を選ぶやり方には、次の2つの方法がある。


1. 外国の国籍を離脱する


このやり方では、外国の法令に従ってその国の国籍を離脱する手続きをとり、これを証明する書面を市区町村役場または大使館・領事館に外国国籍喪失届をする(戸籍法106条)。こうすれば、国籍は日本国籍のみとなり、日本国籍の選択が完了する。


2. 日本の国籍の選択の宣言をする


一方で、こちらのやり方では、「日本の国籍を選択し、外国の国籍を放棄する」旨の国籍選択届を市町村役場または大使館・領事館に提出することで、日本国籍の選択が完了する(戸籍法104条の2)。


ただし、日本国籍選択の宣言により日本国籍を選んだ場合、外国国籍の離脱・喪失については国籍法で強制していない。あくまでも、「外国国籍を喪失していない場合は、外国国籍の離脱の努力をすること」という、あいまいな宣告にとどまっている(国籍法16条1項)。


この一連の流れを説明するのが、下の図である。


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国籍Q&A:法務省より


つまり、この2番目のやり方で日本国籍の選択を完了させた場合は、積極的に外国の国籍を離脱・喪失する手続きを行わない限り、重国籍のままとなる。だが、それでも国籍法の選択義務は履行したことになり、国からあらためて催告を受けることもない。


・蓮舫氏のケース


蓮舫氏のケースを見てみよう。蓮舫氏は1967年に台湾人の父と日本人の母のもとに出生したとされる。この時点での日本の国籍法は、父が日本国籍をもつ場合のみ、その子どもも日本国籍を取得できると定めていた。蓮舫氏は出生してからしばらくの間、日本国籍を持っておらず、台湾国籍のみを有していた。


1985年1月1日に国籍法が改正され、父だけでなく、母が日本国籍をもつ場合でも、子どもが日本国籍を取得できるようになった。この改正された国籍法が施行されてから出生した子どもはもちろんのこと、1965年以降に出生し、出生時に母が日本国民であり、申請時も日本国民である場合は、1988年1月1日までに法務大臣に届け出れば、日本国籍を取得することができた。


蓮舫氏は1967年に出生しており、まさにこのケースに当てはまる。本人によると、1985年、蓮舫氏が17歳のときに、日本国籍を取得したとされる。これは国籍法の改正に伴い、日本国籍の取得を申請したためと思われる。


この時点では、蓮舫氏は台湾国籍を喪失しておらず、二重国籍であった可能性がある。蓮舫氏はこのときに未成年だったので、日本国籍を選択する際には、上述したように1. 台湾国籍を離脱するか、2. 日本国籍選択の宣言を22歳までにする必要がある。国籍選択は、1985年1月1日以降に重国籍となった国民が対象となるので、蓮舫氏にも当てはまる。


蓮舫氏によれば、同じ1985年に台北駐日經濟文化代表處(台湾と国交のない国(たとえば日本)との窓口機関)に父親と出向き、台湾国籍の離脱・喪失手続きをしたという。もしこの手続きが完了しており、日本側に外国国籍喪失届を提出していれば、二重国籍は完全に解消されており、現在では日本国籍のみを持っていることになる。


だがもし、日本国籍選択の宣言をすることにより日本国籍を選択していたとすれば、二重国籍状態は今も継続している可能性がある。とはいえ、上述したように、この場合でも国籍選択義務は履行していることになる。


では、はたして蓮舫氏がそもそも国籍の選択自体を行っていない可能性はあるだろうか。これも上述したように、もし22歳までに国籍の選択をしなかった場合は、法務大臣から当事者に対して国籍選択の催告が届くことがある。催告を受け、それでも日本の国籍の選択をしなければ日本の国籍を失うが、そもそも日本国内の役所では蓮舫氏が台湾国籍を保持しているかどうかをきちんと確認する術がないこともあり、日本国籍を強制的に剥奪することはしにくいだろう。


よって、蓮舫氏は1.台湾国籍の離脱・喪失したか、2.日本国籍選択の宣言により国籍選択の手続きを完了したか、3.そもそも国籍選択の手続きを踏んでいないかの、いずれかの可能性がある。このうち2.と3.の場合では、台湾国籍を離脱・喪失していない限りは、日本国籍と台湾国籍の両方を有した二重国籍の状態が継続する。


・国家間で統一したルールはない


重国籍に関する議論で混乱のもとになっているのが、国家間で統一したルールが存在しないことだ。たとえば日本は台湾を国家としては認めておらず、便宜上は中国(台湾)と認識している。日本にいる台湾人は便宜上は中国人ということになっている。しかしそれはあくまでも日本側の認識であり、台湾側は日本にいる台湾人は、もちろん自国民(台湾人)とみなしている。


国籍選択の際も、日本国籍選択の宣言をすれば、「日本では」日本国籍を選択したとみなされ、もはや台湾人でも中国人でもない。だが、たとえ日本国籍選択の宣言をしても、台湾国籍(中華民国国籍)の離脱・喪失をしていなければ、「台湾では」台湾人(中華民国人)として認識され続ける。当事者が重国籍をもつかどうかを日本の役所で調べることも難しい。


それぞれの国には、それぞれのローカルルールがある。このような国家間をまたいだ問題においては、統一見解が得られにくい。マスメディアにも個人メディアにも、そのあたりの認識をごちゃまぜにした議論が多く見られる。


・日本が重国籍者に外国国籍の離脱・喪失を強制しない理由


何度も出てきたことだが、ここで改めて説明する。重国籍者が日本国籍選択の宣言をすれば、日本側は外国国籍の離脱・喪失について強制することはない。今回の蓮舫氏の一件でも絡んでくることだが、最大の混乱のもとになっているのが、このシステムだ。


ではなぜ、日本は重国籍者に国籍選択の義務を課すものの、外国国籍の離脱・喪失について強制はしないのだろうか。おそらくだが、これは他国のルールとの兼ね合いを考慮してのことだと思われる。上でも述べたように、国際的に統一したルールはない。日本のように国籍選択制度を採用する国は少数派である一方で、重国籍を容認する国は多く存在するのである。


一方の国では重国籍を認めるのに、もう一方の国では外国国籍を厳格に認めない。このような場合、どちらの国のルールに優先権があるだろうか。こういった矛盾した状態が生じることになるため、各国との兼ね合いを考えて、日本は重国籍者に対して外国国籍の離脱・喪失を強制できないのではないだろうか。


ちなみに、台湾では、自国民が重国籍を持つことに対して、日本ほど厳しく取り締まることはなく、寛容だという。*1


平成18年度に出生した日本国民の100人に1人以上が、重国籍者である。実際に、大人になっても重国籍者のままの日本人はそのへんにゴロゴロいるのである。多くの日本人にとって、身近な問題なのだ。国家間を行き来する日本人がこれだけ増え、それに伴って重国籍者も増え続ければ、現行の国籍法を厳密に適用するのはいっそう難しくなりそうだ。


※本記事は有料メルマガ「むしマガ」350号「蓮舫氏をはじめとした重国籍問題について調べてみた」からの抜粋です。

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【参考資料】

国籍法:法令データ提供システム

国籍選択について:法務省

国籍Q&A:法務省

台北駐日經濟文化代表處

蓮舫氏「台湾籍放棄」と改めて強調、“二重国籍”問題で:TBS Newsi

国籍選択届けについてのサジェスチョン

一番じゃなきゃダメですか?:蓮舫 著

*1:台北駐日經濟文化代表處の担当者に問い合わせたところ、このような回答をいただいた