クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

クラウド査読により透明になるアカデミア

STAP細胞研究は残念な方向に進んでしまいました。この間もメルマガで色々と書いてきましたが、もうこの研究結果を擁護する研究者はほぼ皆無でしょう。私もだいぶ前に理研への寄附手続きの取り下げを申請し、受理されました。


小保方さんの博士論文の剽窃問題を発端として、早稲田大学に提出されたその他の博士論文にも大規模なコピペが見つかっています。これまでに20以上の不適切な博士論文が発覚しています。これを受けて早稲田大学が本格的な調査を行うべき調査委員会を設置しました。


小保方さん博士論文、早大が本格調査へ 外部専門家加え


しかし残念ながら、このような調査委員会の設置はほとんど意味をなさないでしょう。というのも、今は論文の不正は調査委員会が調べるものではなく、ネット上の不特定多数の有志による「クラウド査読」により発覚するケースがほぼ100%だからです。理研の例からも、調査委員会がクラウド査読のスピードに追いつけず、対応が後手に回ることは見えています。


クラウド査読の主なプレイヤーは、2ちゃんねる生物板の住人、11次元氏などの匿名ブロガーら、そして英語サイトのPubPeerのユーザーが挙げられます。


早稲田大学は、これまでに指摘されている小保方さんを中心とした学位取得者の博士論文の疑義を調査するとしています。しかしながら、調査委員会による調査が追いつかないほどのスピードでクラウド査読が進行することは間違いなく、他の博士論文についての疑義も次々と出てくることでしょう。そして、その疑義の数は調査委員会がフォローできないほどに増加すると思われます。


そう考えると、一時的な調査委員会の設置はほとんど無意味です。どうせなら、博士論文の疑義に関する報告窓口を大学のサイトに設置し、そこに情報を送ってもらう方がよい気がします。あるいは、アルバイトを雇って2ちゃんねるの生物板をウオッチングさせ、新しく明らかになった疑義について報告させるのも一つの手でしょう。


そして、博士論文の電子化とオープンアクセス化が進んでいる現状では、これは早稲田大学の問題のみに収まりません。早稲田大学を震源とした博士論文のクラウド査読は、次々と広がっていくでしょう。疑わしい研究室の出身者、そして知名度の高い研究者からターゲットになり、ゆくゆくは全ての博士がまな板の上にのぼることになります。


捏造防止の方法については、アカデミア内で研究者たちがずっと議論してきました。
不正をチェックしたり報告をする第三機関の設置など、トップダウン的な構想が出ていますが、これといった具体的な動きはまだありません。


高尚な議論では解決できなかった、このアカデミア内部の問題。これが、(もちろん正義感に溢れた人々もいることでしょうが)暇つぶしのゲーム感覚だったり、特定の個人に一泡吹かせたいといったようなモチベーションで行われるクラウド住人の査読によって、アカデミアが浄化されている現実は、何とも皮肉に映ります。


とはいえ、目的や手段はどうであれ、開かれた透明なアカデミアの到来は、彼らの手によって達成されることでしょう。一部の博士にとってはディストピアの到来なのでしょうが。


※本記事は有料メルマガ「むしマガ」218号の内容を要約したものです。