クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

むしブロ+の過去記事ベスト5

ブログを書くようになっておよそ1年、更新頻度は低いものの最近は以前に比べて多くの方に訪れていただくようになりました。みなさんどうも有り難うございます。

ブログを開設したときはアメリカにおり、あまり何も考えずにスタートさせたものの最初の半年間はほとんど何も書かずに放置していました。

ブログを書き始めたきっかけは、去年2010年の11月末にNASAからプレスリリースされた重大発表記者会見のお知らせを読んだことでした。この時、NASAは宇宙生物学上の重要な発見をしたとアナウンスし、その会見内容を世界中の人々が憶測していました。

私も2010年6月までNASAにいましたし、宇宙生物学が専門ということもあって会見での発表内容を推測した記事を当ブログに書きました。そして結果的に予想が的中し、割と大きな反響をもらいました。(参考記事:NASAの「ヒ素を食べる細菌を発見」発表で日本のクマムシ研究者が凄い件: 天漢日乗)

私のブログ記事を見た民放テレビ局からも連絡をもらい、番組で会見内容の解説もしました。この件で、個人ブログでもちょっとした影響力をもったメディアになり得るということを実感しました。これがきっかけでモチベーションも芽生え、それ以降ちょくちょくブログを更新するようになりました。

ブログを継続させるにあたり、自分の勉強も兼ねて論文紹介の記事を書くことにしました。とある昆虫研究者のメモ蝉コロンなどのブログを読んでいたことも、影響していたと思います。

とある昆虫研究者のメモを運営しているIさんは私のリアル知人で、6年くらい前に私が大学院生としてつくばの某研究所に所属していたときの先輩です。当時、彼は1日に5本くらいの論文を読み2〜3本の記事をブログに書いていました。Iさんの知識量と論文を読みこなす能力は凄まじく、論文レビューをできる人はこういう人なのだな、自分には無理だよな、などとその時は思っていました。

論文レビューをしているブログのレベルはやはり高く、私なんかは正直ビクビクしながら書いていることが多いです。しかしながら、ブログで論文紹介をすることは自分自身の勉強になります。そして、読んでいる人に少しでも情報提供できればそれで良し、と割り切ってやっています。

研究者の生息範囲は狭く、同業者以外の人と接点を持つことがなかなかありません。ブログを通して研究者以外の人々ともコミュニケーションをとっていると、職業柄陥りがちの孤独感から解放される感覚もあります。読者からの反応がブックマークやツイッターで見れるので、どんな記事が人気があるのかをチェックするのもなかなか楽しいです。インターネット万歳と言いたいです。


それではここで、むしブロ+の過去の記事から私のおすすめ記事ベスト5を紹介させていただきたいと思います。


第5位 クマムシ集会・イン・パリ - むしブロ


パリの日本料理屋で開かれたクマムシ集会のレポート。このブログでほとんど唯一の日常生活報告的記事。この記事を書きながら、人との出会いやタイミングで人生の大半が決まることを感じました。今自分がいる場所は、自分だけで来たのではなく、多くの人とともに歩んできた結果なのですね。


第4位 みんな納豆菌を甘く見ない方がいい - むしブロ


この記事は、自分の投稿論文を書くために参照した論文が元ネタです。枯草菌が強いことは生物学者なら多くの人の知るところなので、あえて身近な納豆菌をフィーチャーしました。私の友人のバッタ博士自身のブログにネタっぽい記事をよく書いていたので、私も真似してちょっと陰謀論風に書いたところ予想外に受けて1日で35000以上のアクセスがありました。

あと、こんなネタ記事でも信じる人がいたことに少なからず驚きました。ニセ科学がここまで蔓延している理由も理解できました。


第3位 日本に大量増殖したミュータント人間とその原因 - むしブロ


海外に住むようになってから、日本の風習の中で理不尽な部分が一段と目につくようになりました。就職活動にまつわる文化もその一つです。この記事では、あえて自分の意見をストレートに表現せずに、シュールに仕立ててメッセージを伝えようと書いた実験的な記事です。日本ではマジョリティを形成する典型的な就活生の行動を揶揄した記事だったので、もしかしたら炎上するかもしれないと思いました。が、大騒ぎになるには至りませんでした。

ネット上では、マジョリティを批判するような意見を言うと炎上する事例がよく見られます。そして、その大半は書き方に問題があると感じています。この記事から、同じメッセージでも伝え方によって読者の反応が変わるということを実感しました。


第2位 404エラー|Ameba(アメーバブログ)(移転先はこちら)


冒頭にも出てきた、NASA会見内容の予想記事です。NASAの記者会見予告のサイトには記者会見出席者が掲載されており、その出席者のメンツから発表内容を予想しました。私はNASAに在籍していましたが、会見出席者の誰一人として知り合いはいませんでした。

発表内容を予想するため、会見出席者の専門分野と発表論文をざっと調べました。予想するために使った時間は2時間ほどだったと思います。会見出席者の一人であるFelisa Wolfe-Simon博士が光合成に関する論文を出していたことから、海外のネット上では光合成をする地球外生命体が発見されたのではないか?という予想が目立っていました。しかし会見出席者には惑星探査プロジェクトに関わる人はおらず、地球外生命体の発見である可能性は低いだろうと私は考えました。

Wolfe-Simon博士のウェブサイト(現在は閉鎖)や彼女らが発表した論文で主張している仮説から、私はDNAにヒ素を含む生物を発見したか、そのような生物を作り出したのではないかと予想しました。そして、その予想は当たりました。

発表内容を予想できたのは、別に私が宇宙生物学の専門家だったからではなく、予想しようとした研究者が少なかったためでしょう。とはいえ、会見内容を正確に予想していたのは世界でもネット上では私だけだったようなので、どうせなら英語で書いておけば...と少し後悔もしました。

ところでこのヒ素細菌が本当にDNAにヒ素を取り込んでいるかどうかについては、未だに議論が続いています。早く追試結果を知りたいところです。


第1位 もし助手ガールがクマムシを採集観察したら - むしブロ


ブログを始めた当初から、クマムシの採集と観察のハウツー記事を書きたいと思っていました。当初は私自身が被写体となり、クマムシを採集観察するような記事を考えていましたが、30代の冴えない男の写真では誰も見ないだろうと思い、助手の女の子を起用しました*1

クマムシに興味を持った一般の方や、学校での理科実習の担当教諭の方に、この記事を参照していただければ嬉しいです。ちなみに記事タイトルは当初「クマムシの観察と採集のススメ」だったのですが、女装芸で有名なアサイさんから同記事タイトルのご提案をいただき変更しました。


そんなわけで、2012年もむしブロ+をどうぞよろしくお願いします。みなさんどうぞ良いお年を。


【お知らせ】このブログが本になりました

クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー

*1:その後、ナショナルジオグラフィックの特集で私自身がパリでクマムシを採集する記事が掲載されましたが、助手ガールに比べるとイマイチな注目度でした。