NASAが発表した「TRAPPIST-1の系外惑星群」のインパクト
Image credits: NASA/JPL-Caltech (images used under NASA media usage guidelines)
アメリカ時間の2017年2月22日、NASAは系外惑星に関する新たな発見について記者会見を開いた。その新発見の内容とは、「ひとつの惑星系に7つの地球サイズの系外惑星が存在すること」だった。これら7つの系外惑星のうち、3つは地表に液体の水が存在しうるハビタブル(生命棲息可能)な惑星である可能性が示された。
生命を宿せるような「第二の地球」候補になりうる系外惑星が3つも同じ惑星系内で確認されるのは、初めてのこと。今回の発見は、我々が想像していた以上に太陽系の外には生命の星がありふれていることを示唆する、重要な発見といえる。
・系外惑星とは
系外惑星とは、太陽系の外に存在する惑星のことである。これらは恒星の周りを公転している。観測技術の発達により最初の系外惑星が発見されたのは、1990年代に入ってからのこと。その後の観測精度の向上により、現在までに3449個の系外惑星が確認されている。2016年には、ケプラー宇宙望遠鏡により観測された系外惑星候補のうち、1284個が一気に系外惑星として認定された。
これらの系外惑星の中には、地球の数倍〜10倍程度のサイズで、岩石でできているものもある。これらはスーパーアースとよばれる。さらに2016年3月時点では、地球のサイズの2倍以下で、なおかつ液体の水が存在しうるハビタブルゾーンにある系外惑星は、21個が確認されていた。
・TRAPPIST-1の系外惑星
系外惑星をもつ惑星系の中でも、TRAPPIST-1系は、生命を探すアストロバイオロジー研究における「スター」として注目され始めた惑星系である。TRAPPIST-1は赤色矮星であり、太陽系から40光年先の水瓶座の方向に位置する。TRAPPIST-1の大きさは太陽の0.08倍しかなく、表面温度も非常に低い。
2016年、このTRAPPIST-1を周回する3個の地球型系外惑星TRAPPIST-1b、TRAPPIST-1c、そしてTRAPPIST-1dの存在が、トラピスト望遠鏡によって取得されたデータから示された。そしてこれらの系外惑星は、生命を育める可能性があるとして、一気に注目されるようになる。
・3個ではなく7個だった
ベルギー・リエージュ大学のMichael Gillon氏が主導する研究グループは、系外惑星TRAPPIST-1dのデータが少しおかしいことに気づいた。そこで今回、新たにトラピスト望遠鏡を含む複数の地上の望遠鏡と、スピッツァー宇宙望遠鏡による観測により、以前取得したTRAPPIST-1dのデータが、実は1個ではなく4個の惑星をとらえたものであることが判明した。かくして、TRAPPIST-1dはTRAPPIST-1d、TRAPPIST-1e、TRAPPIST-1f、TRAPPIST-1gに増えた。
さらに研究グループは今回、TRAPPIST-1の軌道の一番外側に、新しひとつの惑星TRAPPIST-1hの存在を確認。これにより、もともと全部で3個だと思われていたTRAPPIST-1の系外惑星の数は7個になった。
Credits: NASA (images used under NASA media usage guidelines)
ところで、なぜこのような間違いが起きたのだろうか。それは、データの取得と分析方法にある。系外惑星を見つける手法の一つに、トランジット法がある。これは、惑星が主星の前を横切る(トランジットする)ときの減光を検出することで、間接的に系外惑星をみつける手法だ。もし主星の減光期間が一定で、周期的に同程度の減光が観測されれば、その恒星の周りを惑星が回っていると推測できる。
Credits: NASA Ames (images used under NASA media usage guidelines)
前回の研究では、トランジット法による周期的な観測ができなかった。しかも、複数の系外惑星が間を置かずに次々に主星の前を通り過ぎたデータを取得したため、あたかも1個の惑星が主星の減光をもたらしたように見えてしまったのである。このように、論文では捏造でなくても、誤った結果を提出してしまうことがある。論文発表はあくまでも、仮説の提示をすることに過ぎないのである。
・地球に似ている惑星たち
話を元に戻そう。TRAPPIST-1に近い6個の系外惑星は、質量が地球の0.4〜1.4倍、半径が0.77〜1.13倍の範囲に収まることが分かった。非常に地球に似通った惑星であることがうかがえる。
ただし、これらの系外惑星は主星であるTRAPPIST-1にきわめて近いところを周っており、その公転周期も1.5〜12日間と驚くほど短い。それでも、TRAPPIST-1e、TRAPPIST-1f、TRAPPIST-1gなどは地球ー太陽間に比べて主星に20倍以上も近づいているにもかかわらず、地表に液体の水を維持しうると考えられている。これは、TRAPPIST-1が太陽に比べるときわめて低温の赤色矮星であるため、TRAPPIST-1との距離が近くても、惑星はさほど熱くならないと考えられるからである。
ただし、TRAPPIST-1と距離が近すぎるため、これらの系外惑星たちは「潮汐ロック」により、惑星の半面が常にTRAPPIST-1を向いており、もう片方の半面はその反対の方向に面していると考えられる。つまり、片方は常に昼で、もう片方は常に夜という環境である。これは、月も同じ。このような環境が、地球とはだいぶ異なる。
こういった環境条件の惑星は、生命が棲むには厳しいかもしれない。だが、惑星上に局所的に適度な環境があれば、そこに生命がいてもおかしくはないだろう。
・今後は大気を分析
今回の研究により、TRAPPIST-1の系外惑星群の「第二の地球」モデルとしての魅力がいっそうと深まった。今後のアストロバイオロジーの研究対象として、これらの系外惑星のベールがさらに脱がされていくことだろう。
今後、既存の地上や宇宙の望遠鏡により、これらの系外惑星の大気を分析していくことになるはずだ。トランジット分光法という方法により、系外惑星の大気を透過した主星の光を分析することで、大気のどの物質が光を吸収したかを推定できる。とくに、2018年に打ち上げられる予定の次世代宇宙望遠鏡「James Webb Space Telescope」のにより、大気組成の詳細な分析がなされるだろう。
希望的観測だが、もしもこれらの系外惑星に水や酸素やメタンなどが同時に見つかれば、生命存在の可能性が格段に高まる。これらの分子は、生命活動による積極的な供給がないと、共存できないと考えられているからだ。植物のサインなどキャッチできれば、これは大変なことになる(次世代宇宙望遠鏡のスペックでどこまで高い精度のデータが取れるかは不明だが)。
いずれにしても、宇宙探査は今後ますます生命探査と同義になっていくだろう。太陽系外でも太陽系内でも生命が存在する大きな証拠が得られれば、それは人類の思考の根幹に計り知れない影響を与え、価値観の大転換を促すはずだ。その瞬間が訪れるのがあと10年なのか20年なのかは、誰にもわからないが。
さて、最後に、先日行った「クマムシ博士のNASA会見発表内容予想」の自己採点をしようと思う。正直、今回は予想難易度がだいぶ高かった。当初、「系外惑星の大気の分析」が発表内容だと思っていたが、これは違っていた。だが、次のように、当たっていた部分もある。
その系外惑星の表面温度が「液体の水」を保持できる範囲内である可能性、つまり、ハビタブル(生命棲息可能)な惑星である可能性が強く示唆されるような内容も、今回の発見に含まれるのではないかと予想する。
(中略)
今回はTRAPPIST-1の系外惑星群をフィーチャーした可能性が高い。
「ハビタブルな惑星である可能性が強く示唆されるような内容」、そして、「TRAPPIST-1の系外惑星群」というかなり狭い範囲で特定の系外惑星群を予想できていた。このポイントは高い。よって、今回は総合して65点の出来だったのではないかと思う。この点数が高いか低いかは、各読者のご判断にお任せしたい。
※本記事は有料メルマガ「むしマガ」374号「NASAが発表した「TRAPPIST-1の系外惑星群」のインパクト」からの抜粋です。
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