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クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

クマムシ、卵でも極限環境に強いことが判明する。



ヨコヅナクマムシの卵. 乾眠状態(左)と通常の水和状態(右) 写真撮影: 堀川大樹, 行弘文子, 田中大介


みなさんこんにちは、堀川です。今回はちょっとプレスリリースっぽい記事を書きます。


このたび、私たちによって明らかにされた、ヨコヅナクマムシの卵における極限環境耐性に関する研究論文が米国科学雑誌Astrobiologyに掲載されました。


Tolerance of Anhydrobiotic Eggs of the Tardigrade Ramazzottius varieornatus to Extreme Environments: Astrobiology


不覚にも、私が自分自身のブログで報告するより1週間以上も前に、アメリカの大手科学サイトで本研究論文が紹介されていました。


Tardigrade Eggs Might Survive Interplanetary Trip: Wired
Tiny Puddle-Dwelling Beasties and Their Eggs Might Survive Interplanetary Travel: Discover Magazine


日本では、4月23日付の産経新聞に掲載されました。


クマムシ 卵も極限環境に耐える: 産経ニュース


さて、研究概要です。


クマムシは体長0.1〜1mmほどの大きさの微小な動物です。陸に棲むクマムシは、乾燥にさらされると脱水して樽状に変形し、仮死状態になります。この状態は、乾眠とよばれます。クマムシはこの乾眠状態では、ほとんど代謝がみられませんが、水が与えられると吸水して活動を再開します。



ヨコヅナクマムシ乾眠ー 脱水と再吸水後の復活の様子. 動画撮影:堀川大樹


乾眠状態のクマムシは、高温、低温、放射線、真空、高圧などの極限的な環境に耐性をもつ事が知られています。クマムシが宇宙空間(低軌道)で真空と紫外線に10日間さらされた後に、生き延びた個体がいたことも確認されています。


これらのほとんどの研究例では、成体や幼体のクマムシを用いたものでした。しかし、陸生クマムシでは卵でも乾眠に移行できる能力がある事がわかっていました。私たちは、クマムシの一種ヨコヅナクマムシの人工飼育系を確立することで(参考記事)、クマムシの卵を用いた実験を容易に行うことができるようになりました。まず、先行研究で飼育培地から回収した同種の卵が乾眠に移行できる事を確認しました(Horikawa et al., 2008)。


今回、さらにヨコヅナクマムシの卵が成体と同様の環境耐性をもつか調査するため、同種の乾眠状態の卵を高温、低温、超真空、放射線(ヘリウムイオンビーム)に曝し、孵化するかどうかを検証しました。その結果、乾眠状態のヨコヅナクマムシの卵は+80°Cまでの高温、-196ºCまでの低温(液体窒素)で1時間の暴露後に孵化した個体が観察されました。


日本原子力研究開発機構(JAEA)で行った放射線照射実験により、ヨコヅナクマムシの卵は、ヘリウムイオンビームに対して成体における耐性能力よりも低い傾向が見られたものの、2000グレイまでの線量照射後に孵化したものがいました。


超真空(5.3x10-4〜6.2x10-5 パスカル)に7日間曝す実験を行った後、乾眠状態の卵が孵化した個体の割合は、大気圧下で同じ日数の間保存していた乾眠状態の卵の孵化率とほぼ同じでした。以上の結果より、ヨコヅナクマムシは卵でも乾眠状態において多岐にわたる極限環境への耐性をもつ事が明らかになりました。


これまで、クマムシの卵が低軌道宇宙環境にて超真空に耐えることは分かっていましたが、今回の研究によりさらに多岐にわたる極限環境に耐性をもつことが明らかになりました。つまり、クマムシが、卵から成体まで一生を通して極めて高い環境耐性能力を持つことが判明したことになります。


同じく乾眠に移行する動物のネムリユスリカ、アルテミア(シーモンキー)、センチュウの一部の種類は、卵や幼体のときなど特定の時期のみ乾燥耐性をもち、それ以外の時期では乾燥すると死んでしまいます。つまり、これらの他の乾眠動物とは異なり、どのタイミングで地球外に放り出されたとしても、生き延びる可能性が考えられます。


これらのことをふまえると、この生物は地球上の動物の中で他惑星へ進出できる可能性のある最も重要な候補とみなすことができます。例えば地球に隕石が落下するなどしてクマムシがコケや土塊に閉じ込められた状態で、生きたまま他惑星に飛行できる事も考えられます。惑星間の生命の伝搬を考えるとき、あるいは宇宙環境に生息している多細胞生物のような生命形態を推測する上で、本研究の成果は宇宙生物学的に意義のある研究結果です。


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