共同研究者に「ギブ・ミー・マネー」と言う時代
先週はフランス人の知人一家がこちらに遊びにきました。この知人は、フランスで博士号を取得し、今はアメリカのワシントン大学でテニュアトラック助教をしている知人のアンソニー。そしてアンソニーの妻(台湾人)、子ども、妻のお母さん、そしてアンソニーの弟を加えたご一行が我が家と実家に遊びにきました。
私の実家の桜に興奮し激写するアンソニー一家
アンソニーの専門はナノテクノロジーとバイオテクノロジーを融合した分野。植物体の中にナノファイバーを張り巡らせて、光合成効率を向上させることを目指しています。フランスからアメリカに移り、現地のトップ大学でテニュアトラック助教に就いているので、アカデミア的にはなかなかのエリートコースを歩んでいる彼。でも、研究環境は恵まれているものの、フランスとアメリカの研究文化の違いへの戸惑いもこぼしていました。
たとえば、同じ大学の中で別の研究室と行なう共同研究。あるデータを取るときに、共同研究先の別の研究室の機器を使わなければならない場合があります。しかしこのとき、共同研究であっても、その別の研究室での機器の使用料を払わなければならないそうです。
共同研究ということは、論文になれば著者陣のなかに共同研究先の研究者も入ることになります。つまり、共同研究者たちに自分のところの機器をどんどん使ってもらいデータを出してくれれば、論文になるし、自分の業績にもプラスになるわけです。ですから、日本でもフランスでも、通常は共同研究者に対して自分の研究室の機器使用料を請求することはありません。
憶測ですが、この機器課金の背景にはアメリカの独特な研究システムの影響があるものと思います。アメリカでは、各研究室は研究資金のほとんどを競争的研究費に依存しています。研究費を獲得できなければ研究員や大学院生を雇うことができず、機器や試薬も購入しづらくなります。それだけでなく、研究室の賃貸料も大学に払うことができなくなります。場合によっては、自らの給料すら払えなくなってしまう。
このようなわけで、機器の使用料など、課金できる機会があれば、共同研究者であろうと躊躇なく「ギブ・ミー・マネー」と言う研究者が出てくるのでしょう。もっとも、私がアメリカにいたときには周りにこのようなタイプの研究者はいなかったので、アンソニーの共同研究者はだいぶマイノリティーだと思いますが。それでも、アメリカ型の研究システムでは、今後このようなタイプの研究者がどんどん増えてきてもおかしくありません。
日本でも、大学の運営交付金を減らして競争的研究資金の獲得を研究者に競わせる方向へと向かっています。日本の研究者もえげつなく「ギブ・ミー・マネー」を連呼する時代がもうすぐ来るのかもしれません。
【追記】
@horikawad アメリカのお金にしぶい研究室は昔からそうでしたよ。
— 高井研 (@1031kentakai) 2015, 4月 25
ということで、アメリカでは昔から人によってはそういうタイプがいたようですね。
※本記事は有料メルマガ「むしマガ」289号「日本原理主義フランス人を通して見えたもの」の一部です。
クマムシ博士のむしマガVol. 289【日本原理主義フランス人を通して見えたもの】
2015年4月19日発行
目次
【0. はじめに】春の綱島温泉大宴会〜バッタ博士を迎えて
久しぶりにバッタ博士を囲んでの宴会が執り行われました。綱島温泉、昭和情緒にあふれすぎて、そこが都会にあることを忘れそうになるほどでした。バッタ博士やメレ子さんらからのメッセージも掲載。
【1. むしコラム「日本原理主義フランス人を通して見えたもの」】
日本大好きフランス人の知人がやってきた。多様性から目をそらし、メディアなどにより単純化されたイメージを盲目的に信じることのこわさについて考察。
【2. Q&A『もう少し英語が上達したら・・・』】
中学生クマムシ博士からの質問。「○○がもう少し上達したらxxしよう」という考え方はやめておいた方がいいということ。
【3. おわりに「アリマニアの学生」】
アリマニアの慶應生。彼がとった意外な行動とは。
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