貢がないオスの精子をブロックするクモ
メスにとってオスの選別はきわめて重要である。ガガンボモドキでは、オスがメスに貢ぐプレゼント餌のクオリティーと量により、交尾の受入れを判断する。
クモの一種、Pisaura mirabilisでも、オスは糸でぐるぐる巻きにした昆虫をプレゼントしてメスに渡す。メスがプレゼント餌を食べている間、オスは交尾をすることができるのだ。
プレゼント餌を獲得できるオスは、ハンティング能力に長けている。この能力が遺伝的なものだとすれば、自分の息子も高いハンティング能力を獲得することが期待できる。この能力があれば、当然生存に有利だ。また、メスにクオリティーの高いプレゼント餌を提供できるため、配偶者選択でも有利に働く。メスからすれば、プレゼント餌はオスの質を反映するシグナルとなるのだ。
ただし、このクモでは、プレゼント餌を渡さなくてもオスはメスと交尾できる。プレゼントは義務ではないのだ。しかし、プレゼント餌がない場合は交尾時間が短く、オスは十分な数の精子をメスに渡すことができない。
さらに驚いたことに、プレゼント餌をメスにあげなかった場合は、交尾の単位時間あたりの輸送精子数も著しく低いことが判明した。何らかの形で、メスは「手ぶらオス」からの精子をブロックしているようだ。メスに対してコストをかけないオスは、交尾をしても子孫を残す確率が激減するようになっているわけだ。
その一方で、プレゼント餌を渡して交尾をしたら、さらに自分までメスに食べられてしまう悲惨なオスもいるようだ。ここの説明では、この動画のオスがそうらしい。
貢いだ男の骨の髄までしゃぶるとは、このメスグモはとんだブラックワイフである。なんとおそろしいことか。
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