クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

放射能をもつ細菌を投与した「体内被曝療法」で膵臓がんを治す

がんの撲滅は人類が直面しているあまりに大きすぎる課題だ。現代の日本では、がんは死因のトップとなっている。


数あるがんの種類の中でも、とりわけ膵臓がんはやっかいである。膵臓がんは全種類のがんの中で死亡原因が第4位となっている。膵臓がんは転移しやすく、従来の化学療法や放射線療法もあまり効き目がない。


膵臓がんにかかった患者が5年後に生存している確率はたったの4%にすぎない。ゲムシタビンやエルロチニブといった治療薬もあるが、これらを投与しても末期の膵臓がん患者の生存は最大で6ヶ月までしか伸ばすことができない。


今回、アメリカのアルバートアインシュタイン医科大学の研究グループは、膵臓がんに治療の画期的な方法を提唱した。それは、体内被曝療法である。放射性物質を搭載した細菌を体内に投与し、細菌が発する放射線でがん細胞を殺すというやり方だ。爆弾を搭載した戦闘機を標的に体当たりさせる攻撃方法とも似ている。


Quispe-Tintaya et al. (2013) Nontoxic radioactive Listeriaat is a highly effective therapy against metastatic pancreatic cancer. PNAS


今回使用された細菌はListeria monocytogenesという種類のものだ。Listeriaはがん細胞に選択的に感染する特徴がある。研究グループはこの特徴を利用し、この細菌に放射性物質である放射性レニウム188をくっつけた。人為的に癌腫を生じさせたマウスにこの放射性細菌をを投与したところ、転移細胞の数を90%減少させることが確認された。放射性細菌から発せられた放射線により効果的にがん細胞を殺したものと思われた。


もちろん、この体内被曝療法がヒトにとって安全であるかどうかは今後の試験で評価する必要がある。ただし、治療効果がてきめんである場合、ある程度の副作用リスクは許容されるだろう。メリットとデメリットのバランスの問題になるからだ。


年間で4万人が死亡する膵臓がんの効果的な治療法となりうるか、本治療技術の今後の発展に期待がかかる。


※本記事は有料オンラインジャーナル「むしマガ」(月額840円・初月無料)の151号に掲載された論文を要約した簡易論文版です。完全版を読むにはこちらから購読登録してください。