クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

むしマガハイライト【Vol. 85, 86, 87】


☆━━━━悲劇

 先週は悲惨な事件がありました。それは、研究室で起きました。


 今月、僕の所属する研究室がそのままそっくり別の研究機関に移ることになっており、引越し作業をしていました。


 引越しに伴い、飼育中のヨコヅナクマムシもすべて乾燥させるため、クマムシ乾燥用のデシケータに入れて乾燥処理をしました。


☆【画像】クマムシ乾燥用デシケータ
http://goo.gl/6WMxV


 上の画像内ではクマムシを時計皿の上に置いていますが、今回はナイロンメッシュを用いました。また、デシケータ内の湿度を調節するために水酸化カリウムではなく、グリセロール溶液を使いました。


 インキュベータの中にこのデシケータを3日間保管して乾燥させてから、デシケータを取り出し、実験机に置いておきました。そして実験机を離れて少しデスクワークをしている間に悲劇が起きました。


 数分後に戻ると、誰かがそのデシケータの横に他の機材を並べるために、デシケータを持ち上げてどけた痕跡がありました。デシケータ内の35%グリセロール溶液が乾燥したクマムシにかかってしまっていたのです。


 まずい。。


 そう思って急いで蒸留水でクマムシたちを洗って救出しようとしました。しかし、すでに手遅れでした。数千匹のヨコヅナクマムシが、死んでしまったのです...。


 机を離れる際、デシケータに「さわらないでください」の張り紙をしなかったことが原因です。数分なら、いずれにしても、この日は一日悲しさと得体の知れない疲労感でいっぱいになりました。


 しかし、嘆いていてもクマムシたちはもう戻ってきません。引越しが完了したら、今手元にあるヨコヅナクマムシを増やすことに全力を尽くそうと思います。


Vol. 85【むしコラム「火星でメタンが見つからなかった理由」】


 今年2012年8月に火星に着陸し、現在精力的に火星を探査中のキュリオシティ。今回、このキュリオシティが火星の大気を分析したところ、メタンがほとんど検出されなかった、という発表がありました。


☆火星にメタンなし キュリオシティーの分析
http://goo.gl/1dmc8


 まず、火星探査機キュリオシティの火星探査についてあまり存じない方のためにちょっと補足します。キュリオシティの主なミッションは、火星に生命の痕跡があるかどうかを調べることです。キュリオシティに搭載された分析装置で大気や岩石の組成を調査するのです。


 今回のキュリオシティの装備では、岩石などに微生物が潜んでいたとしても、その微生物そのものを認識したり、ましてや持ち帰るようなことはできません。あくまでも、間接的な生命の痕跡を発見することが目的です。


 この間接的な生命の存在を確かめるための指標の一つが、大気中のメタンの有無なのです。というのも、メタンは主に生物によって生成される化合物であり、地球上のおよそ90%のメタンは生物によって産出されたものだからです。メタンは、岩石と熱水の相互作用や彗星の衝突によっても生じますが、この量の全体に占める割合はごく小さいものです。


 地球上でこのメタンを生成するメインの役者が、メタン菌です。メタン菌は細菌とは異なる古細菌というグループに入り、およそ30億年前から存在することが示唆されています。生息場所は、海洋や湖沼、そしてウシの腸内などさまざまな環境に及びます。


 つまり、もし火星でメタンが見つかれば、それはメタン菌のような生物によって生み出されたものである可能性が高いと考えられるのです......


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Vol. 86【クマムシ研究日誌「バッタに憑かれた男の異常な愛情」】


 僕の新しい研究活動の場となったつくばの農業生物資源研究所は、もともとは蚕糸昆虫研究所という名称であった。この研究所の名前が示すように、研究所内ではカイコをはじめ、さまざまな昆虫を研究対象として扱っていた。


 そこにいる研究者の大半は、こどもの頃に虫博士とよばれた人たちだ。虫博士とよばれた少年少女が本物の虫博士となり、ここでプロとして日々研究に打ち込んでいるのだ。そんなプロのリアル虫博士になるため、僕も前野氏もこの研究所で日々研究に励んだ。


(中略)


 オニクマムシの世話と観察をしていた、ある日の深夜のことである。僕が顕微鏡を覗きながら作業をしている横の流し台で、前野氏が何かを洗い始めた。


 それは、プラスチックの容器だった。あの、コレクションとして集めているサバクトビバッタの抜け殻を入れるための容器だ。


 二人はお互いに会話をすることもなく、黙々と各自の作業にとりくんでいた。そして数十分が経過した頃である。


「っくぅっくっっ.......」


 普段、人があまり発しないような聞き慣れない音声が聞こえた。僕はこの音声が何に由来するのか、瞬時に判断できなかった。深夜まで作業をしていて疲れていたため、気のせいではないかと思ったのだ......


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Vol. 87【クマムシトリビアクマムシの天敵」】


読者からのクマムシにまつわる様々な疑問に対して堀川が回答します。


◆ 質問:


 クマムシに天敵っているんですか?


◇ 回答:


 はい、います。


 といっても、クマムシは野外での生態調査が難しいため、詳しいことはよくわかっていません。それでも、報告されている範囲内、そして僕自身が観察した事例から、クマムシの天敵についてお話ししたいと思います。


 まず、クマムシの天敵で真先に挙げられるのがクマムシです。


 肉食のクマムシは他の種類のクマムシを食べてしまうんです。とりわけ、子どものクマムシは体が小さいので、簡単に餌食になります......


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