クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

ハダカデバネズミのキモカワイオンチャネル


Image from Wikimedia

前回に引き続きハダカデバネズミの登場です。

以下、前回のコピペ。

キモカワほ乳類ランキング (むしブロ研究財団調査)で6年連続1位に輝いているハダカデバネズミ(裸出歯鼠)。写真でお分かりのように毛が無くてしわしわの皮膚に、にょっきり飛び出した前歯の外見が非常にユニークでキュートです。

変わっているのは外見だけではなく、その生態も非常に特殊です。ハダカデバネズミはほ乳類であるにも関わらず、一部のアリやハチのように真社会性動物でコロニーに女王と王様だけが繁殖し、まったく生殖行動をとらない働きネズミがいます。中には、子どもネズミのふとんになる「ふとんネズミ」もいます。自分の体をベッドにして子どもを寝かせる役目を担います。

また、その生理も特殊で、低酸素環境に強く体の中にがん細胞ができにくいなどの特徴があります。げっ歯類の中では極端に長い寿命をもち、30年近く生きる個体も確認されています。これらの特性から長寿研究のモデルとしても注目されており、全ゲノム解読も終了しています。

コピペ終了。

出っ歯の先からしっぽの先までキモカワなハダカデバネズミですが、このたび、ナトリウムイオンチャネルもキモカワイイことが判明しました。


The Molecular Basis of Acid Insensitivity in the African Naked Mole-Rat: Science

No Acid Burn for Naked Mole Rats: Science Now


実は、ハダカデバネズミにはスーパー鈍感力の持ち主としても有名です。全てのほ乳動物は酸に触れると痛みを感じます。傷口にレモン汁を欠ければ誰だって痛いものです。しかし、ハダカデバネズミだけは唯一の例外で、酸をかけられても平然としています。

私たちが痛みを感じるのは、皮膚などにある痛み受容器(侵害受容器)に存在する受容体で痛みをキャッチし、電気信号が神経を通じて脳に送られるからです。

ハダカデバネズミの場合、酸(H+)をキャッチする受容体が皮膚の痛み受容器に存在しないのではないかと考えられていました。しかしこの受容体は存在しており、ちゃんと機能もしていました。それではなぜ、ハダカデバネズミは酸による痛みを感じないのでしょうか。

なんと、ハダカデバネズミでは、酸をキャッチした後の電気信号が脳に送られていなかったのです。この電気信号を送るには、神経に存在する電位依存性ナトリウムチャネルが働くことが必須です。ところが、ハダカデバネズミではこのナトリウムチャネルが変異してキモカワイくなっており、酸が与えられるとブロックされて機能しなくなることが分かりました。このため活動電位が発生すること無く、電気信号が脳まで伝わっていなかったのです。

ハダカデバネズミのこのスーパー鈍感力のからくりがわかったことで、新しい痛み止め薬が生まれることが期待されます。

せんとくんやまんべくんは、どんなに叩かれ炎上してもしぶとく生き残っています。しかし、イオンチャネルレベルでもキモカワイイハダカデバネズミは、彼らにも勝る打たれ強さNo.1のゆるキャラなのです。


【参考資料】

ハダカデバネズミ―女王・兵隊・ふとん係 (岩波科学ライブラリー)

ハダカデバネズミ―女王・兵隊・ふとん係 (岩波科学ライブラリー 生きもの)


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