ハダカデバネズミのキモカワ精子
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キモカワほ乳類ランキング (むしブロ研究財団調査)で6年連続1位に輝いているハダカデバネズミ(裸出歯鼠)。写真でお分かりのように毛が無くてしわしわの皮膚に、にょっきり飛び出した前歯の外見が非常にユニークでキュートです。
変わっているのは外見だけではなく、その生態も非常に特殊です。ハダカデバネズミはほ乳類であるにも関わらず、一部のアリやハチのように真社会性動物でコロニーに女王と王様だけが繁殖し、まったく生殖行動をとらない働きネズミがいます。中には、子どもネズミのふとんになる「ふとんネズミ」もいます。自分の体をベッドにして子どもを寝かせる役目を担います。
また、その生理も特殊で、低酸素環境に強く体の中にがん細胞ができにくいなどの特徴があります。げっ歯類の中では極端に長い寿命をもち、30年近く生きる個体も確認されています。これらの特性から長寿研究のモデルとしても注目されており、全ゲノム解読も終了しています。
出っ歯の先からしっぽの先までキモカワなハダカデバネズミですが、このたび、オスの精子もキモカワイイことが判明しました。
精子の構造は大きく分けて頭部、中片部、尾部に分かれています。
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ほ乳類の精子の頭部は通常丸っこい形をしていますが、ハダカデバネズミの精子の頭部は円錐型だったりハート形だったりと、とにかく奇妙な形のものが多くてキモカワイイ。→写真
また、中片部にあるミトコンドリアの数も5〜7個と、げっ歯類がもつ<300個に比べて非常に少ないことも判明しました。精子の運動量は非常に低く、ほとんどの精子がノロノロとシャクトリムシのように地をはうような動きをし、泳ぐ「まともな」精子は全体の10%ほどしかありません。
このようなキモカワ精子が生み出された背景には、ハダカデバネズミの珍妙な生態と関係があるようです。
動物では、1匹のメスが複数のオスと交尾することが頻繁に起こります。この時、よりスピーディーな精子を持つ個体の方が、受精確率を高めて自分の子孫を残すのに有利となります。なので、精子どうしの熱いバトルがいつも起こっています。いわゆる精子間競争とよばれるものです。
種類によっては、同じ個体から放出された精子達がスクラムを組んで他個体の精子達と競争したりするなど、様々な戦略を進化させてきました。それほどまでに、精子のスペックを高めることが繁殖戦略上大事だということが分かります。
ハダカデバネズミの場合は真社会性なため、1匹のメスと複数のオスが交尾することがありません。つまり、精子のスペックを高めるような選択圧がなかったために、まともな運動能力がなく、ゆる〜いキモカワ精子がたくさん生まれることになったと考えられます。ちゃんと泳ぐ精子は少しあればいいや、というわけです。
精子レベルでゆるいハダカデバネズミは、「ゆるキャラほ乳類」として、リラックマやキティちゃんをはるかに凌ぐ存在なのです。
【参考資料】
ハダカデバネズミ―女王・兵隊・ふとん係 (岩波科学ライブラリー)
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