クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

もし助手ガールがクマムシを採集観察したら

地球上最強の動物といわれるクマムシ。


超低温、真空、高圧、放射線、さらには宇宙空間でも耐えられるタフさに加えてその可愛さから、最近ではクマムシの知名度も上がり、「クマムシが好き!」というクマムシファンが増えてきました。


しかし、実際にクマムシを見たことがある人は、どれほどいるでしょうか。
クマムシの採集や観察に興味があっても、どうしたら良いか分からずに二の足を踏んでいる人もいると思います。


そこで今回は、クマムシを見てみたい!という方々を対象に、クマムシの採集と観察のハウツーを紹介します。
少しでも多くの人に、クマムシとふれあう機会をもっていただけたら、と思います。


1. 採集・観察のための道具


まずは、クマムシの採集と観察をするために必要な道具をそろえます。



1 封筒
2 ポーチ
3 シャープペンシルなどの筆記用具
4 薬さじ
5 洗浄瓶
6 ピンセット
7 スポイト
8 時計皿
9 ガラスシャーレ
10 実体顕微鏡


これらの道具は、実体顕微鏡を除けば高価なものはありません。実体顕微鏡の価格は4〜5万円から数十万円するものまでピンキリです。


一般に普及しているのは倒立型顕微鏡ですが、これはクマムシの観察には不向きです。顕微鏡の購入を検討される方には、観察台の下から光を当てられる光源の付いた、透過型の実体顕微鏡をお薦めします。


この記事の最後にこれらの道具のリンクを貼っておきましたので、道具の購入をお考えの方はご参照ください。


2. 採集


それでは、早速クマムシの採集に出かけましょう。

クマムシは、どんな場所に住んでいるのでしょうか。かれらは、山や川や池にも住んでいますが、市街地の道路に生えている乾燥したコケからもよく見られます。


そう、あなたの家のすぐそばに住んでいるのです。


今回は、助手とともに東京都内の市街地にクマムシ採集へと出かけました。



クマムシが住んでいるようなコケは、道路の端に生えていることが多いので、道路の端を注意深く観察します。


乾燥していてかつ薄く生えているようなコケが、クマムシにとって快適なすみかです。湿っていたり、分厚く生えているコケは、クマムシの生活環境としてはあまり適していません。


探すこと30分、民家の壁の下に、クマムシが好みそうな良い感じのコケを見つけました。



薬さじを使ってコケを剥ぎ取り、封筒の中に入れます。



道路脇でひとりコケを採取している姿は、どうしても通行人の注目を誘ってしまいます。



これは仕方のないことですので、この際恥じらいは捨てましょう。


コケを回収したら、封筒に採取した年月日と場所を記しておきます。



乾燥したコケの中にいるクマムシは、乾眠状態とよばれる乾燥した仮死状態になっています。この状態だと、室温で1~3年は生きたまま保存できます。冷凍庫に入れておけば、数十年ほどもつと思われます。


3. 観察


さて、いよいよ観察です。まず、採取してきたコケをガラスシャーレの中に移します。



そして、水(水道水で良い)を、シャーレの壁面の半分と少しくらいの高さまで加えます。




このとき、コケをシャーレに入れすぎると砂粒も多く混じってしまい、後で顕微鏡でクマムシを見つける時に砂粒が邪魔になって探しにくくなってしまうので、多くても上の写真にあるような程度の量にします。


シャーレに蓋をかぶせ、そのまま一晩放置しておきます。このような処理をすることで、コケの中の乾眠状態のクマムシは吸水して復活し、コケの外に這い出してきます。


さて、一晩経ちました。


シャーレからコケをピンセットで取り除きます。




いよいよ顕微鏡を覗いて、コケから出てきたクマムシがいるか観察しましょう。



これが顕微鏡の倍率を10倍で観察したときの視界です。



クリスマスツリーのように見える植物体はコケの破片です。長さ5ミリメートルほどと推察されます。


クマムシを探すには、顕微鏡の倍率を20〜30倍ほどで観察し、クマムシを探します。ちなみに、慣れてくると10倍ほどでクマムシを探し出すことができるようになります。


探すこと数分・・・。


いました!



写真の中央にクマムシがいます。どれか分かりますか?


これはトゲクマムシの仲間です。体長は0.2ミリメートルほど。(注:撮影は63倍率で行っています。)


さらに観察を続けると、トゲクマムシの他に別の種類のクマムシも見つけました。



クマムシだけを集めて観察するため、ガラススポイトでクマムシのみを吸い取り、時計皿に移します。




この時、クマムシと一緒に吸い取る水の量はなるべく少なくしておきます。こうすると、余計な砂粒の混入を極力避けることができ、この後時計皿でクマムシを観察するのが容易になります。


この作業を何回か繰り返します。



スポイトの中のクマムシは、やはり肉眼では見えませんね。


さて、クマムシを集め終わったところでもう一度観察してみましょう。



改めて、トゲクマムシの仲間です。今回採集したコケからは、この種類がたくさん出てきました。


トゲクマムシの仲間は、なかなかお目にかかれないので、今回はラッキーでした。


写真の右の2匹は、仰向けになっています。もがく肢はとてもゆっくりとした動きで、自力で起き上がることができません。



写真を拡大。眼があるのが分かりますか?


<・


↑こんな風に点になっているのが眼、正しくは眼点とよびます。



これはおそらくチョウメイムシの仲間です。チョウメイムシの仲間は、遭遇する頻度が最も高いクマムシの種類です。白っぽい半透明の体で、トゲクマムシの仲間に比べると動きが活発です。


体長は0.2ミリメートルほど。


こちらも拡大してみて見ると・・・



(・ ・)


↑このように、やはり眼点が確認できます。(眼点のない種類のクマムシもいます。)




こちらはオニクマムシ。やや褐色ぎみの体で、肉食動物らしく獰猛な動きで見る者に威圧感を与えます。


ワムシや小さなクマムシを食べます。体長は0.7ミリメートルほどです。



上の写真は上の全3種類がニアミスしたところ。偶然撮れた一枚です。


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以上、クマムシの採集と観察の基本的なプロトコールの紹介でした。


今回は1ヵ所のみから採取したコケからクマムシが出てきましたが、クマムシ歴の浅いうちはコケリテラシー(クマムシが住んでいるコケを選別できる能力)がまだ低いため、5ヵ所くらいからコケを採ってきて観察するのが良いでしょう。


皆さんがキュートなクマムシたちに出会えることをお祈りして、この記事を終えたいと思います。


参考書はこちら。


クマムシ研究日誌

クマムシ博士の「最強生物」学講座(Kindle版あり)


付録:クマムシの採集と観察におすすめの道具のリンク集


・顕微鏡

2Way 双眼実体顕微鏡(新日本通商)


クマムシの採集と観察に特化した顕微鏡セット(税抜1800円)を学研と共同開発しました。お手軽価格でクマムシを観察できます。

ミクロモンスター LED内蔵ズーム顕微鏡&調査キット


horikawad.hatenadiary.com


(注:本記事中で使用した顕微鏡はオリンパスSZX7で、やや高額です。)


・スポイト

プロフェッショナルガラススポイト

・洗浄瓶

サンプラ 丸型洗浄瓶 [広口タイプ]

・ポーチ

QUARTER REPORT フラットポーチ ブランチ

・ピンセット 

アネックス ステンレスピンセット 115mm直 No.120

・シャーレ

フラットシャーレ FS-90S

・時計皿

時計皿(並質)45mm(10枚)

・薬さじ

抗菌小口スプーン(抗菌ステンレス)


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