【地球外生命体?】 NASAの会見内容を予想してみる
最初に。
この記事の内容は、あくまでも私個人の"予想"です。
私自身、今年までNASAの研究員として在籍していましたが、これからお話しする内容は、一切、NASA内部から見聞したものではないことをお断りさせていただきます。
それでは、、
NASAが12月2日(日本時間の12月3日)に、地球外生命体に関する考察についての記者会見を開くことになったようです。
ネット上では、「ついに宇宙人の発見か?!」などと一部騒然としているようですが、記者会見に出席予定のメンバーを眺めると、大体どのような内容か予想がつきます。
それでは、その予想される発見の内容ですが、以下の3つのうちのどれかだと考えられます。
1. 地球上において、ヒ素をDNAの部品として利用する微生物が発見された。
2. ヒ素をDNAの部品として利用する微生物を人工的に作り出した。
3. 隕石から、ヒ素を含んだDNA(あるいはRNA)が発見された。
(個人的には、この3はちょっと可能性が薄いように思います。)
この1から3に共通するキーワードはヒ素とDNA(RNA)です。
というのも、今回の発見は、記者会見に出席予定のメンバーのうち、
Felisa Wolfe-Simon (NASA Astrobiology Institute)
と
Steven Benner (Foundation for Applied Molecular Evolution)
の両氏がキーパーソンだとにらんだためです。
この二人はそれぞれ、ヒ素をDNAの中に持つような生物の探索や、そのような生物を人工的に作り出そうとしています。
では、なぜ彼らはヒ素に注目しているのか?
ヒ素と言えば、劇薬作用の強い物質としても有名ですよね。
実は、ヒ素(元素記号As)は、リン(元素記号P)と物理化学的な構造がきわめて近いのです。
リンは、DNAをつくるための部品として欠かせない元素です。そして、太古の地球上では、局所的にヒ素が多く存在する環境があったと考えられています。
つまり、生命が誕生した初期の段階では、リンのかわりにヒ素をDNAの部品に使って複製していた可能性もあるのです。
さらに、現在でもヒ素が多く含まれる環境があるため、そのような環境ではDNAにヒ素を含むような微生物がいるかもしれないのです。
事実、ヒ素を光合成の材料にしているバクテリアは見つかっています。
もしかすると、無理矢理ヒ素濃度の高い条件である微生物を培養したら、DNAにヒ素を取り込んだ、という発見をしたのかもしれません。
では、リンのかわりにヒ素をDNAに含む生物が発見されたり、人工的に作製されたりすると、どのような意義・インパクトがあるのでしょうか。
一つ目の大きな意義として、このような知見から、地球以外の惑星にヒ素を含む環境をターゲットにすることで、地球外生命の探索に新たな光を当てることができるようになります。
二つ目には、今回の(予想)発見は、これまでに常識とされていたDNAの分子的な概念が打ち破られる、という画期的な発見になりえます。つまり、DNAの構成元素は、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、酸素(O)、そしてリン(P)である、という前提が崩れるわけです。人類の生命観が変わると言っても良いかもしれません。
生物学的な意義は、後者の方が大きいでしょう。
と、12/3の会見での発表内容の予想を書いてきましたが、これらがまったく的外れなものに終わる可能性もあります。
そのときはどうか、お許しください(笑)。
もし本当に宇宙人が見つかったりしたら、それはそれでアリということで。
いずれにしても、宇宙生物学(アストロバイオロジー)から大きな研究成果が出るというのは、クマムシを使って同じ分野で研究をする私にとっても嬉しい限りです。(余談ですが、Felisa Wolfe-SimonさんはNASA Astrobiology Fellowで私の2つ後輩にあたる方なので、なおさら嬉しい。)
もっとこの分野が発展するように、自分も貢献したいですね。
地球外生命のことなどについての入門的な知識を得るには、こちらの本がお薦めです。
生命と非生命のあいだ―NASAの地球外生命研究 ピーター D.ウォード 長野 敬 青土社 2008-05-24 |
それでは、3日を楽しみに待つことにします。
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[追記 12/1]
他のサイトでは、ヒ素を使って光合成をする地球外生命体の発見ではないか、という予想をしているところもあるようです。
さすがに「地球外生命体」の可能性は低いと思うのですが、今回の発見のメインに「光合成」が絡む可能性はかなり高いです。
というのも、Wolfe-Simonさんが最近出版している論文の内容は、光合成に関する研究が多いからです。
しかし、これではちょっぴりインパクトが弱い。なので、私は「もし、こうだったら面白い!」というような、もっと夢のあるストーリーを描いてみました。
予想を外した時の言い訳のようになってしまいましたが、この記事の想定外の反響の中、「こうかもしれない」ではなく「こうなんだ」と思い込む方もいらっしゃるようなので、念のため蛇足をつけさせていただきました。
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