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NASAの「木星衛星エウロパに関する驚くべき発見」を予想する

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Credit: NASA, Michael Carroll


NASAオフィシャルサイトによると、「木星の衛星のエウロパの内部海に関連すると思われる活動についての驚くべき証拠」についての記者会見を現地時間9/26の14:00(日本時間9/27未明)に開くようだ。


NASA to Hold Media Call on Evidence of Surprising Activity on Europa: NASA


これまでに「ヒ素をDNAに取り込む細菌」や「火星表面に液体の水」など、私はNASA発表の予想を的中させており、なぜか恒例になってきたNASA予想。今回の発表内容も予想してみようと思う。


今回のNASAの告知文には、「エウロパ」「活動」「地下海」など、かなり具体的な情報が与えられている。過去の告知文にはもっと曖昧な情報しか掲載されていなかった。今回の予想難易度は高くなさそうだ。


さらに、今回の発見は「ハッブル宇宙望遠鏡により取得した画像から明らかになった」と書かれているため、発見内容をさらにを絞りやすい。ハッブル宇宙望遠鏡では、生命体を直接確認することはできない。つまり、今回も、少なくとも「地球外生命体を発見した」というアナウンスでないことは確かだ。


このように、NASAの告知文の情報からも、多くの情報を引き出せる。さらに、記者会見に出席するメンバーを見てみよう。


Paul Hertz, director of the Astrophysics Division at NASA Headquarters

Britney Schmidt, assistant professor at the School of Earth and Atmospheric Sciences at Georgia Institute of Technology

Jennifer Wiseman, senior Hubble project scientist at NASA’s Goddard Space Flight Center

William Sparks, astronomer with the Space Telescope Science Institute


一人目のPaul Hertz氏はNASA本部からの人。この人は基本的に体裁を整えるための人員なので、予想のための情報は何も得られない。


二人目のBritney Schmidt氏は、エウロパのハビタビリティ(生命居住可能性)の研究を専門としているようだ。今回の研究では、得られたデータを元にモデリングなんかをしたのかもしれない。


三人目のJennifer Wiseman氏はNASAの宇宙物理学者で、ハッブル宇宙望遠鏡プロジェクトのシニアサイエンティスト。彼女はハッブルプロジェクトの主要メンバーであると同時に、サイエンスコミュニケーションにも明るいらしいので、今回は研究内容に関わっているというよりも、プレス向けの適任者として彼女が表に立っているのかもしれない。


残る最後の四人目、William Sparks氏は天文学者。Sparks氏は、ハッブル望遠鏡を使ってエウロパを調べているようだ。


ここから先は「エウロパ」と「ハッブル宇宙望遠鏡」の特性について考え、さらに、「セクシーな発見」の落とし所を予想する必要がある。


なぜ木星の衛星エウロパが注目されるのかというと、この衛星には氷の層の下に内部海があり、そこに生命を宿している可能性があるからだ。他には土星の衛星エンセラドゥスも同じような内部海がある。


地球外生命体の調査は宇宙開発においても重要課題であり、NASA JPLはエウロパに特化したミッションも計画している。


では、ここから予想の核心に入る。今回の発見は「木星の衛星のエウロパの内部海に関連すると思われる活動についての驚くべき証拠」。つまり、内部海に関すること。しかし、ハッブル宇宙望遠鏡では内部海まで観察するのは難しそうだ。では、内部海に関連する何を見つけたというのだろうか。


こうなると答えは簡単だ。「エウロパの内部海から外に噴き出したと思われる間欠泉(プリューム)がハッブル宇宙望遠鏡により確認された」が今回のNASA会見内容だろう。


今回のこの予想は、すでにNASA JPL技術者の小野雅裕さんや元NASA Ames研究者の藤島皓介さんもしているのだが、自分もゼロベースから考察して、お二人と同じ結論に辿り着いた。ここからは、少し私なりに補足をしていきたい。


さて、実は「エウロパの内部海から外に水が噴き出ている」というのは、新しい発見ではない。2014年にScience誌で「ハッブル宇宙望遠鏡によりエウロパの南極上で水蒸気が確認された」という報告がすでにあるからだ。


Transient Water Vapor at Europa’s South Pole: Science


もともとは木星探査機のガリレオにより、エウロパの表面にひび割れのような痕跡が確認されており、ここから水が噴き出ている可能性が指摘されていた。そしてハッブル宇宙望遠鏡の紫外線観測により、エウロパ南極上に水蒸気が存在することが示唆された。


だが、その後はエウロパから水が噴き出しているという証拠は得られず、発見そのものが怪しまれていた。別の研究チームは、エンセラドゥスでは容易に検出された間欠泉の証拠がエウロパでは全然見つからなかったとコメントしている。


「水蒸気はあるよ派」は、エウロパと木星との距離によって水が噴き出たり出なかったりするのではないか、と主張していたが、論争に決着は付いていなかった。


NASAとしてはエウロパから間欠泉が吹き出ていれば、探査機によるサンプルリターンも視野に入れた、充実したミッションを推し進めることも可能になる(政府から予算をたくさん獲れる)。「間欠泉あるかないか問題」は科学的にも政治的にも大きなジレンマだった。



おそらくだが、今回は、William Sparks氏を中心とした研究グループが、かなり高い確度で頻繁にエウロパからの間欠泉が吹き出ている様子をキャッチしたのかもしれない。データの量と質が充分で、疑惑に反論できるとか。ちなみに、William Sparks氏は、エウロパの間欠泉を探すことに特化してハッブル宇宙望遠鏡を使っているらしい。この情報からも、ほぼ間違いなく、今回の予想は当たりだろう。


希望的観測だが、間欠泉が出ているのは南極だけでなく、エウロパのかなり広範なエリアで見られたのかもしれない。木星とエウロパとの間に働く潮汐力により、エウロパの海底は活発な火山活動が起きている証拠にもなる。生命が誕生しやすい環境条件、と言えるかもしれない。


さらに、間欠泉のところに有機物まで検出された可能性もある生命の部品である有機物が発見されていれば、エウロパに地球外生命体がいる可能性がさらに増す。まあ、こちらは当たったらいいな、くらいのオマケということで。


科学的にもNASAとしても「エウロパの間欠泉はあった。再現性がとれた。だからみんなエウロパに安心してお金を出そう」というアピールになる。


土星の衛星エンセラドゥスも間欠泉が宇宙空間に吹き出ているので、探査機がそこを通って分析したりサンプルリターンする案が日本では持ち上がっている。もしエウロパでも同じような間欠泉があれば、エウロパのミッションも加速するだろう。エウロパはエンセラドゥスよりも地球から近い。


ということで、今回の予想的中確率は80パーセント以上と思われる。26日の発表を楽しみに待つことにしよう。


※本記事は有料メルマガ「むしマガ」352号「NASAの「木星衛星エウロパに関する驚くべき発見」を予想する」からの抜粋です。


【追記】

予想がほぼ的中しました。

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【参考資料】

生命の星・エウロパ:長沼 毅 著


地球外生命を求めて:マーク・カウフマン 著


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