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クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

【書評】虫ビギナーにおすすめのポップな虫入門書2冊『恋する昆虫図鑑』『カブトムシゆかりの虫活! 』

書評

私は、自身の研究対象であるクマムシのキャラクター「クマムシさん」を、数年前からプロモーションしている。この活動の大きな目的のひとつは、キャラクターを入り口として人々が生物や自然に親しみを持ってもらうことだ。


実際に、クマムシや昆虫にまったく興味がなかったが、クマムシさんのグッズを買ってから本物のクマムシを知り興味を持った人が何人もいる。そのような人を目の当たりにするのは本当に嬉しく、それと同時に、啓蒙活動をするにあたって、啓蒙対象を絞らず間口を広くしておくことの大切さを再認識させられる。


最近は虫をモチーフにした作品を出展するイベントも増えており、私の観測範囲では空前の虫ブームが起きているようにも感じる。だが、「虫イコール気持ち悪い」という固定観念が植えつけられてしまった人も多いのが実情だろう。最近では、虫を触れない若年層が増えているという声も聞こえてくる。ちょっと虫に興味があるが、はまるきっかけを持てない、という層もあるはずだ。


さて、今回は、そんな人のためのポップな虫入門書を2冊紹介したい。まず1冊目は、『恋する昆虫図鑑 ムシとヒトの恋愛戦略』。


恋する昆虫図鑑 ムシとヒトの恋愛戦略:篠原 かをり 著


本書のタイトルは、ちょっと前に物議を醸した書籍とよく似ているが、著者も出版社もお互いにまったく関係のない者同士である。


本書の最大の特徴は、虫の生態を人間に置き換えて説明しているところにある。この部分はきわめて徹底されている。登場するいくつもの虫に対し、それぞれの生態に沿った詳細な人物像が割り当てられており、著者の人間観察力と妄想力におののいてしまう。たとえば、一生をミノの中で暮らすオオミノガのメスについての記述は、以下の人物像に例えられている。

「太っているから痩せなきゃ」「私、かわいくないから........」などと自ら自虐的発言を繰り出しておきながら、「そうだね。かわいくないね」という肯定はおろか、「そんなことないよ!普通だよ!」という無難な回答をしてもムッとしたり落ち込んだりする......そんな少し面倒くさい女、あなたの周りにもいませんか?


(中略)


彼女たちの多くは、決してかわいくない訳ではありませんが、かと言って本人たちの自己申告を否定してまでかわいいと励ましてあげる義理はないくらいの微妙な容姿をしています。


(中略)


彼女は否定されるのが大の苦手。自分を肯定してくれる人だけで周りを固めて、すぐに殻に閉じこもってしまうのです。


著者はさらに、オオミノガ系女子の特徴として「赤文字系の服装を好む」ことも挙げているが、この根拠がどこに由来するのか気になるところだ。いずれにしても、本書は虫に興味を持ち始めたビギナーだけでなく、ゴシップ好きだったり、人間のネガティブな面を見て楽しめるような、ちょっと根暗な人にもおすすめだ。


ちなみに、本書『恋する昆虫図鑑』はもともとは出版甲子園という学生作家を掘り起こすイベントの企画がもとになっている。著者の篠原かをりさんが第10回出版甲子園のグランプリを受賞し、本書が世に出た。まだ現役大学生の若い著者の今後の活躍に期待したい。


続いて紹介する2冊目は、『カブトムシゆかりの虫活! —虫と私の○○な生活—』。


カブトムシゆかりの虫活! —虫と私の○○な生活—:カブトムシゆかり 著


本書の著者は、知る人ぞ知る昆虫アイドル、カブトムシゆかりさんだ。全編フルカラーの本書は、著者のエッセイ、ヨロイモグラゴキブリなど著者が飼っている昆虫の紹介、フィールド観察記録など、かなりバラエティに富んだ内容となっている。笑顔で虫を手にした著者の写真も散りばめられており、虫を愛でる楽しさが伝わってくる。


一見ポップな本書だが、とくに興味深いのが、虫好きアイドルを名乗る著者ならではの心の葛藤を綴った部分だ。著者はもともと虫が好きで、虫を紹介するブログを運営していたことがきっかけで、芸能プロダクションにスカウトされたという。ただ、周囲からは、虫好きアピールが売れるための表面的な戦略だと誤解されたり、番組ではどうしてもキワモノ扱いされたりと、著者の本来の目的である「虫の素晴らしさを広めること」を達成することの難しさがうかがえる。


さらに著者は、テレビ番組などで虫がイヌやネコなどに比べて雑な扱いを受けて弱ったり死んでしまったりしたことも嘆いており、メディアの現場のあり方に疑問を呈している。通常、芸能活動をする芸能人は、このようなメディア批判はしづらいはずだ。著者は自身が売れることよりも、虫を広めること、そして何よりも虫を愛することを最優先にしていることが、これらの記述からうかがえる。


実際に、著者は虫の素晴らしさを広めるため、メディアだけの仕事ではなく、虫のお姉さんとして昆虫教室などのイベントでも啓蒙活動をしている。


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私も先日、著者と昆虫学者の丸山宗利さんのトークイベントに参加したが、著者の話もユーモアに富んでいてとても面白かった。今後の虫啓蒙活動にも大いに期待したい。