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クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

クマムシ博士からスーちゃんへ


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トゲクマムシの一種(撮影:クマムシ博士)


30年以上も凍っていたクマムシが復活したって聞いたよ。クマムシってすごい生命力を持つ不死身の生き物なんでしょう。ムシってついているけど昆虫じゃないの?どんな生物なのかな。 
スーちゃん


2016年5月14日の日本経済新聞の朝刊、NIKKEIプラス1にクマムシが紹介されました。掲載されたのは『親子スクール理科学』というコーナー。小学5年生の女の子「スーちゃん」によるクマムシについての質問に対し、物知りな「森羅万象(しんら・まんぞう)博士」がクマムシの生態や耐性、そして採集の方法を説明しています。


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2016年5月14日付け日本経済新聞朝刊『NIKKEIプラス1』より


先日、森羅博士から頼まれ、クマムシ博士が取材協力をしました。今回のようにクマムシを大きく取り上げてもらうのは、クマムシ研究者の一人として、とても嬉しいことです。


ただ、今回、森羅博士からスーちゃんへの説明について、クマムシ博士から補足させてもらいたいところがありました。以下、私からスーちゃんにコメントしたいと思います。


★★★★★


スーちゃん、クマムシについて興味を持ってくれてありがとう。森羅博士がクマムシのことをていねいに教えてくれてよかったね。クマムシ博士からもいくつかお話があるから、聞いてくれるかな。

クマムシは「緩歩動物」といって、ミミズやゴカイの仲間と昆虫の間に位置する生物と考えられている。 
森羅万象博士


森羅博士は「クマムシがミミズやゴカイの仲間と昆虫の間に位置する」って教えてくれたよね。クマムシは緩歩動物門、ミミズやゴカイの仲間は環形動物門というグループに入るんだ。昆虫は節足動物門の中で昆虫綱というグループの総称になる。「門」が都道府県だとしたら、「綱」は市町村のような位置づけ。だから、ここでクマムシの位置についての説明は、門のレベルで比べた方が、より適切なんだ。


それから実際のところ、緩歩動物門は節足動物門に近いのは間違いなさそうだけれど、環形動物門とはそこまで近くないことがわかっているよ。環形動物門よりもむしろ、有爪動物門(カギムシ)や線形動物門(センチュウ)に近いとされている。緩歩動物門、節足動物門、有爪動物門、線形動物門の位置関係については、まだ研究者の間で議論が続いている。とてもホットな研究トピックなんだよ。

30年以上冷凍されていても、からからに干からびた状態で9年間放っておいても、水をかけると復活して動き出した。(中略)ある博物館に保管されていた130年前のコケに水をかけると、ひからびたたる状のクマムシがもとに戻ったそうだ。(中略)たるの状態だと、セ氏150度くらいの熱にも、マイナス273度というもうれつな寒さにも耐えられる。  
森羅万象博士


森羅博士が言うように、クマムシはからからに干からびた乾眠状態だと、長い間生きのびたり、とてつもない暑さや寒さにも耐えることができる。



ヨコヅナクマムシの乾眠移行と復活(撮影:クマムシ博士)


でも、たとえ乾眠状態ではない水を含んだ状態でも、クマムシは凍結に耐えることができるんだよ。南極で凍ったまま保管されていたコケから復活したクマムシは、おそらく乾眠状態ではなく、水を含んだまま凍った状態で30年間生きのびたと考えられる。これについて森羅博士は間違ったことを言っているわけじゃないけれど、誤解しやすいから、念のための補足。


horikawad.hatenadiary.com


あと、120年間(130年ではなく120年)保管されていたコケから乾眠のクマムシが復活した、という話がある。でもこれは、元の文献に書いてある記述に尾ひれがついて広がった噂話で、実際には「クマムシが復活した」という話ではないんだよ。もっとも、超低温下で保管すれば、120年どころか半永久的に生き延びられるかもしれないけれどね。


乾眠状態のクマムシが151度まで耐えられるという話も、1920年代の文献が元になっている。でもその後、この温度にクマムシが耐えられたという報告はない。現在では、クマムシが耐えられる温度の上限は100度くらいまで、というのが僕たち専門家の間で一致している意見。ただ、何かの条件を変えることで、クマムシがもっと高い温度で耐えられるようになるかもしれないけれどね。


クマムシ博士からのコメントは、これでおしまい。森羅博士が勘違いしていた部分もあるけれど、けっして博士を責めないでね。ふつう、研究者は、自分の専門とは別の分野についてはあまり詳しくないんだ。森羅博士は化学の研究者みたいだけれど、ここまでクマムシについて知っていることが、むしろ驚きだよ。


え?今回の記事を配信する前に、森羅博士からクマムシ博士に原稿を送っていれば、校正することができたと思うって?するどいね。うん、きっと、森羅博士はそのつもりでいたと思う。でも、とっても忙しくて、きっと原稿を送るのを忘れちゃったんだ。文献調査と実験を同時進行でこなしている姿からも、博士が日々の研究に忙殺されていることが容易に読み取れるからね。


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また何かクマムシのことで質問があったら、聞いてね。科学者になる夢、応援しているよ。


【参考書籍】

クマムシ研究日誌:堀川大樹 著


クマムシ博士の「最強生物」学講座:堀川大樹 著)


クマムシ?!―小さな怪物:鈴木忠 著


クマムシを飼うには―博物学から始めるクマムシ研究:鈴木忠 森山和道 著


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