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クマムシ博士が綴るドライな日記

【書評】『バイオパンク―DIY科学者たちのDNAハック!』DIYバイオムーブメントのすべてがここに


バイオパンク―DIY科学者たちのDNAハック!


先日も少し紹介した、これからのバイオ研究活動の動向がわかるエキサイティングな一冊。


ここ数年、アカデミアの外でバイオの研究を行う「バイオハッカー」がアメリカを中心に増加している。彼らの多くは改造したガレージや自宅のキッチンで実験を行う。必要機材はDIYにより低コストで調達する。


ギークらがガレージの中でコンピューターをいじり回した結果、コンピュータ産業が爆発的に成長し、パソコンやスマホは誰にとっても身近な存在となった。次は、バイオである。アカデミアや製薬企業など限られた環境ではなく、誰でもどこでもバイオ研究ができるようになる。本書は様々な実例を挙げながら、このメッセージを投げかけている。


本書にも登場するDIYバイオのムーブメントの旗手の一人にマッケンジー・カウエルがいる。彼は2万ドルの資金を使って輸送用コンテナをオークションで購入し、それをモバイル実験室に改造した。どこでも自由に実験ができるように。彼らの試みは進歩的なアイディアを持つ人々から称賛された。個人によるバイオ研究がバイオテロに結びつくかどうかをリスク評価するため、FBIも彼の活動を一部サポートしつつ連携をとっている。


余談だが、マッケンジーは、私のNASA時代の同僚でルームメイトでもあったジョン・カンバースと親友だったため、カリフォルニアの私たちの家によく遊びにきていた。若干クセがあるが異常に賢く、世界を変えたいという大きな野心を持っていたのが印象的だった。彼に限らず多くのバイオハッカーはアマチュアを自称しているが、その多くは実は野心家である。


バイオハッカーはアマチュアだけがなるものではなく、プロも多い。アカデミアからバイオハッカーに転身した研究者も少なくない。近年、世界的に見ても大学や公的研究機関などアカデミアでのポジションに就くことは非常に難しくなりつつある。アカデミアに残ることをやめて、バイオハッカーとして生きる道を選ぶ研究者が増えているのだ。


このような流れの中、バイオハッカーが集う実験室スペースがアメリカ各地で設立されつつある。月額100ドルを払えば、誰でもそこの実験設備を使って実験ができる。研究プロジェクトも共同で行われており、どこか部活動に近いノリだ。研究活動資金はクラウドファンディングなどで調達する。研究者を招いた講演なども開かれ、そのチャージも運営活動資金となる。


バイオ研究は、現時点ではまだ世間に浸透しているとはいえない。しかし、我々が想像するよりも早く、このムーブメントは広がっていくと予想している。中学生や高校生がアカデミアや企業の研究者顔負けの研究成果を出す日も近いかもしれない。今後、私もこのムーブメントに関わっていくつもりだ。


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アカデミアを卒業します: むしブロ