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クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

世界に蔓延する偽装魚と食の未来

社会 むしマガ

昨今、日本における食品の偽装問題が取り沙汰されているが、アメリカやヨーロッパでも事情は同様である。記憶に新しいのは牛肉のミンチに馬の肉が使用されていた問題だ。いずれも、より安い品物を求める消費者により、業者間のコスト削減競争が激化していることが背景にあるのだろう。


国際的非営利活動組織海洋保護団体Oceanaの研究調査によると、魚の偽装はアメリカで日常的に行われているようだ。


Oceana Study Reveals Seafood Fraud Nationwide


Oceanaによる調査は2010年から2012年にかけてアメリカの21の州で行われた。寿司屋、スーパーマーケット、魚屋の674店舗から1200の魚のサンプルを入手し、DNAを解析した。この解析手法はDNAバーコーディングとよばれるもので、サンプルの特定の遺伝子領域の塩基配列を調べてデータベースで種を特定する。


調査の結果、全体のうち33%が表記された種類とは別の魚であることが判明した。全店舗のうち44%でラベルの表記とは別の種類の魚を売っていた。とくに寿司店のうちの74%が偽物を提供していた。スーパーマーケットでは18%であった。


アメリカではビンチョウマグロ(シロマグロ)は"white tuna"とよばれる。寿司屋で出されるビンチョウマグロも、71%が偽物だった。代わりに出されていた魚のほとんどがアブラソコムツという種類だった。この写真は、アブラソコムツとビンチョウマグロの切り身を並べて比較した者である。違いが一目瞭然だろう。


そう、アブラソコムツはやたら白いのだ。私もこのやたら白い切り身をwhite tunaとしてアメリカの寿司屋で食べた気がする。白すぎないか、これ、と思いながら。


知らぬが仏ではないが、偽物に全く気付かずに満足して食べていれば、損した気分にはならないだろう。ところが、このアブラソコムツはちょっと怖いのである。アブラソコムツは消化ができないワックスエステルを多量に含む。この魚を30g以上食べると、人によっては下痢や深刻な腹痛を起こし、大量に食べると脱水症状をおこして昏睡状態に陥ることもある。


もはやこうなると、知らぬが仏とは言っておれない。いや、知らぬがゆえに仏になってしまう危険性もあるわけだ。アメリカで仏にならなくてよかった。ちなみに日本では食品衛生法で食用としてアブラソコムツを販売することは禁止されている。


このような偽装が魚の流通のどの段階で起きているかははっきりと分かっていない。アメリカでは食品医薬局(FDA)が食品の取り締まりを行っているが、このように魚の偽装についてはザルの状態である。FDA自体が推奨していない、水銀を多く蓄積しやすい種類の魚も偽装されて出回っている始末だ。このような状況を放置すれば、偽装問題はますます深刻化していくだろう。


魚の偽装については、アイルランド、スペイン、ギリシャなどのヨーロッパ諸国でも問題になっている。現在私が所属している研究室を始め、フランスでもこの偽装がどの程度行われているのか調査を始めたところだ。


さて、それではお魚天国である日本はどのような状況になっているのだろうか。これは推測だが、回転寿司店などが値下げ競争を繰り返し、コストを極限まで切り詰めて儲けを出そうとすれば、安い偽魚を提供する店があっても不思議は無い。実際に、こんな告発サイトまである。


回転寿司の真相と食品のカラクリ



もちろん、これは匿名のサイトなので記述内容の信憑性は不明だ。ただし、マダイの偽装魚としてティラピアの名前を挙げているなど、上述したOceanaの実際の調査結果と合致する記述もある*1


食べても体に悪影響の出ないレベルの偽装であればまだマシだが、コスト削減のために腐ったり不衛生なものが材料として出てくることは非常に問題だ。古い生肉を使ったユッケを食べて死亡した事故があったが、これも、ある意味でコスト削減競争が引き起こした悲しい災いだろう。


消費者である我々が安いものを求続ける限り、この問題に終わりはないのかもしれない。


※この記事は有料メルマガ「むしマガ」(月額840円・初月無料)の160号に掲載された論文を要約した簡易バージョンです。新規購読登録はこちらから。

*1:このサイトの更新日が2011年9月であり、Oceanaによる調査報告発表は2013年2月である。つまり、このサイトの情報公開の方が早い。