クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

昆虫研究界に新エースあらわる

昆虫は食材としてのポテンシャルが高く、昨今の昆虫食ムーブメントには目を見張るものがあることを以前書いた。


21世紀は昆虫食の世紀になるかもしれない


昆虫食が大衆化するためには、ディープではなくライトに攻めることが肝要だ。昆虫食というジャンル自体が嫌でもマニアックな色彩を放っているため、それだけで敬遠されやすいからだ。


そんなマーケティング案はおかまいなしに、真逆の方向、すなわちどこまでもディープに突き進んでいる前衛研究者がいる。その男の名は佐伯真二郎という。


氏のブログ「蟲ソムリエへの道」では、昆虫を1種類ずつの味についてのレビューが淡々と綴られている。氏のブログでこれまでにレビューされた昆虫は、優に100種類はありそうだ。イナゴやハチなどメジャーな昆虫食材にとどまらず、「食べる」どころか「触る」のも躊躇するような昆虫もアグレッシブにお口に運び、その感想を並べている。


実は佐伯氏は、バッタ博士がかつて在籍していた研究室 (田中誠二研) の出身でもある。つまり、バッタ博士の弟弟子にあたるのだ。私は2年くらい前からネット上で氏の活動を見守っていたのだが、最近は行動ががかなり先鋭化しており、兄弟子のバッタ博士に続けとばかりに成長しているのを感じる。


例えば、ある日の記事の内容は、こうだ。佐伯氏がシロヒトリというガの幼虫を捕獲し蛹にして食べようとしたところ(これを食べようとするだけでも相当のものだが)、シロヒトリがヤドリバエという寄生バエの一種に侵されていることを発見。そこで予定を変更して寄生していたヤドリバエの蛹と成虫を食べてレビューしてしまっている

ゴムに似た臭い。不快な臭いではない。


毛が多いので食感は今ひとつ。


下に外皮がのこらないので悪くはないが、良くもない。


だそうだ。


また、ちょっと古い民家や民宿のトイレにたびたび姿を現すカマドウマについても実食レビューがあり、こちらは

抜群に美味い!なんだこれは。


体液はほとんど感じられず粒感と弾力のあるタンパク質の塊がやってくる。焼きタラコのような食感。


翅がなく、胴がたっぷりしているので肉質なのかと。キリギリス科の中でも抜群に美味しく、とても意外ー


と、大絶賛している。カマドウマの味なんて、佐伯氏がいなかったら分からなかっただろう。


それから私の個人的な興味を引いたのが、ネムリユスリカの幼虫のレビューだ。



私自身、「クマムシを食べたことはありますか?」とか「クマムシってどんな味なんですか?」とよく聞かれる。そもそもクマムシの味を判断できるほどにまで増やすのは大変だし、たとえ増やせたとしても勿体ないし可哀想だし食べようとは思わない。


そういう質問に対しては「クマムシがどんな味かは想像できないが、ネムリユスリカの幼虫は乾眠すると糖類の一種トレハロースを大量に蓄えるので、乾眠ネムリユスリカはたぶん甘い」と答えている。私は奥田隆氏が率いるネムリユスリカの研究室にもかつて所属していたが、奥田氏をはじめ、その他の研究室メンバーでもネムリユスリカを食べた人はいないはずだ。


佐伯氏は奥田氏から乾眠状態のネムリユスリカを入手して実食レビューを行っている

ポリポリと食感がよく、かすかに血ににた鉄臭さがある。


(中略)鉄の匂いが強い。からだによさそう。カツオふりかけのようなみりん(トレハロース?)に似たかすかなあまみがある気がする。


残念ながら乾眠によって上昇したトレハロースの味を味覚ではっきりとは感じることはできませんでした。


ということで、意外にもあまり甘くないようだ。ちなみに乾眠していない活動状態のネムリユスリカをゆでて食べた味は「もずくのような小気味の良い感じ」らしい。


また、昆虫を食べるだけではなく、昆虫食をマクロ的視点でとらえた解説も興味深い。氏は、

バッタ養殖のムラには、バッタのフンを利用した工芸が起り、その工芸で着飾った住人たちによる収穫祭が開かれるだろう


というアクロバティックな仮説を唱え、バッタの糞と粘土を半々で混ぜて作った巨大な仮面も作成している。そしてこの記事が「昆虫食をブームで終わらせないために」というタイトルにしてあるところも、氏の先鋭化ぶりを如実に表している。


いずれにしても、佐伯氏は若手昆虫研究者のエース格として、今後この業界を牽引していくことは間違いない。氏のますますの活躍を期待している。


ところで書き忘れていたが、虫が嫌いな人は、本記事のリンク先にある佐伯氏のブログ記事を見ない方がよいだろう。


昆虫食入門: 内山 昭一 著

(日本の昆虫食文化のパイオニア的存在ともいえる内山昭一氏の著書)


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クマムシ博士の「最強生物」学講座ー私が愛した生きものたちー