クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

不老不死の生き物と幹細胞

人類の夢、不老不死は、まだ現実のものとなっていない。しかし、自然界には、不老不死を実現した動物が存在する。


ヒドラはクラゲやイソギンチャクなどと同じ刺胞動物に属する、不老不死の動物だ。淡水環境に生息し、体長はおよそ1センチメートルほどで、頭に長い触手をもつ。この触手には刺胞とよばれる毒針のような器官があり、これで動物プランクトンなどをバシっと麻痺させて補食する(下はミジンコを捕らえるヒドラの動画)。



ヒドラは100年ほど前から不死身説が唱えられていたが、この生き物が不死身であるというコンセンサスがとれたのは、割と最近のことだ。


アメリカのMartinez博士は、無性生殖するヒドラを1匹ずつ容器に入れて飼育し、継続して観察した。産まれた個体がいれば、すぐさま取り除き、4年間にわたってヒドラが死ぬかどうかを調査した。


その結果、4年の間に死亡するヒドラは、ほとんど見られなかった。もちろん、もっと長期間の観察をすれば、どこかの時点で一斉にヒドラが死に始めることもあったかもしれない。しかし、次の事実から、ヒドラがほぼ不死の生物であるということが示唆された。


動物の寿命は、産まれてから繁殖を開始するまでの時間と比例関係にあることが知られている。長寿の動物であるヒトの場合、繁殖可能になるのに十数年が必要になる。一方で、ショウジョウバエは繁殖を始めるのは孵化から7日ほどしかかからず、寿命は1ヶ月ほどだ。


ヒドラが繁殖を開始するのには、産まれてから10日弱である。ここから予測されるヒドラの寿命は、1〜8ヶ月の範囲内だ。4年にわたって死亡個体が見られないというのは、ヒドラがこの法則から大きく逸脱していることを示している。


さらに、動物は通常、加齢とともに繁殖能力も衰えてくる。しかし、ヒドラでは、4年が経過しても明らかな繁殖能力の低下は見られなかった。この事実も、ヒドラが不死身であることを支持する根拠になる。


では、なぜヒドラは死なないのだろうか。その理由は、ヒドラの中で増殖し続ける幹細胞と、幹細胞で働く特定の遺伝子にある。


今週のサイエンスメルマガ「むしマガ」116号では、このヒドラの不老不死のメカニズムについて、最新の知見と合わせて紹介している。ヒドラ幹細胞で動く遺伝子はヒトにもその相同遺伝子があるため、ヒドラがヒトの不老不死を実現するためのモデルとなりうるだろう。


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【参考文献】

Martinez (1998) Mortality patters suggest lack of senescence. Exp. Geront., vol. 33, pp. 217-225.