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クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

フランス人の生産性の高め方

社会

フランスに住んでいると、人々の時間感覚の違いに辟易することがよくある。駅の故障した自動改札は修理をせずに何ヶ月も放置したままだったり、ビザの手続きも無駄に時間がかかる。


ところが先日、これと相反する行動を目の当たりにした。


今月、私が所属する研究室は別の大学に引越すのため、11月9日には業者が研究室から実験机を持ち出すことになっている。よって、この日までに実験机の上の試薬や実験道具はきれいに片付けておく必要がある。このアナウンスが流れたのは10月末だ。


私はぎりぎりまで実験作業をしたかったので、前日の11月8日までに徐々に片付ければ良いと思っていた。また、フランス人の時間感覚からして、他の研究室メンバーもぎりぎりまで片付けずに実験を続けるだろうと予想していた。


ところが、である。意外なことに、研究室のメンバー皆、アナウンスが流れたとたんに怒濤のごとく実験机を片付け始めたのだ。これは、普段の彼らの行動パターンに相反する現象だ。そして、11月5日ごろには、ほとんどの実験机があらかた片付いてしまっていた。まだ実験道具が置きっぱなしなのは、私の実験机だけであった。


その日、研究室のあるメンバーから「確認のため言っとくけど、実験机の上を片付けてね」と言われた。私は、9日までには必ず片付ける、と告げたが、彼女の顔はどこか不満げだった。


そして翌日の6日、違うメンバーから「もうみんな片付け終わっているので、あなたの机も片付けてほしい」と言われた。明らかに不機嫌そうな表情で。9日までに片付ければ、何も問題は無いはずなのに、である。この言動はいささか理不尽だ。


研究室のミーティングだって、皆遅れてやって来るのが当たり前で、予定時刻通りに始まったためしがないというのに。なぜ今回は、皆焦っているのだろうか。そして、この国では個々人が強い主張を持つことが是とされている。「みんなが〜だから、おまえも〜しろ」などという全体主義的な圧力を感じたのも、今回が初めてのことだ。


しかし、この理由は7日に明らかになった。水曜日だというのに、研究室には私と2名を除き、誰も来ていなかったのだ。そう、他の者は皆、休暇をとったのだ。ちなみに、彼らは8日も9日も来ていない。10日と11日は土曜日と日曜日なので、5連休をとったことになる。


もうお分かりだろう。彼らの考えは、こうだったのだ。

・・・・・・
11月9日までに実験机を片付けなければならない。

だが、もしこの日よりも早く片付ければ、それ以降は実験ができなくなる。

実験ができなくなるということは、研究室に来ても意味がない。

職場に行く意味がなくなるので、休暇をとる正当な口実が作れる。

早く片付けよう。
・・・・・・


理由はただひとつ、休暇が取りたかったのだ。私をせかしたのも、共用で使う実験装置の取り扱いなどについての確認を急ぎたかったためだ。私がぎりぎりまで作業をしないと、彼らも作業を終えることができず、休暇をとることができないので困るというわけだ。もちろん、こんな事情は私には知る由もなかった。


フランス人は、とにかく休暇をとる。年に複数回、1ヶ月単位の休暇をとるのも珍しくない。とにかく、自分たちの時間を楽しみたいのである。そんな彼らに、ぎりぎりまで実験をしようとか、実験ができない時は何か違う仕事をしよう、などという発想ははじめから無いのだ。


そんなフランスだが、科学分野における生産性は、日本のそれと大差がない。これには、本当に必要な仕事だけに集中して時間を投資する彼らのやり方に、秘密が隠されているのだろう。やることはミニマムにしてできるだけ休暇をとり、英気を養う。そして体力と気力に余裕を持たせて、仕事を集中して行うのだ。


それとは反対に、日本人はあまりにも雑多な仕事を引き受けすぎてしまうため、生産効率が低下してしまうのだろう。今回の引越し事件、実は彼らは日本人である私のために、このメッセージを遠回しに伝えてくれたのだ。フランス人同僚のその心意気に感謝したい。


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