クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

コウモリを大量死させる「白い鼻病」

近年、コウモリの大量死が北アメリカでか起きています。「白い鼻病」にかかるのが原因だと考えられています。この白い鼻病はその名のの通り、鼻の周りが白くなるのが特徴です。



Image from Wikimedia


この白い部分はGeomyces destructansというカビが増殖したものです。このカビは20℃以下で増殖します。コウモリが休眠状態になり体温が低下すると増殖し始めます。

北アメリカでは白い鼻病によって100万単位のコウモリが死んでおり、個体群のうち90%が死亡する例もあります。症状としては体脂肪の減少、翼の飛膜の損傷などの症状が見られ、過剰に飛翔してエネルギーを消耗し餓死して死亡するようです。

この病気のために、一部の種類では近い将来絶滅の恐れがあるとされています。また、コウモリの個体数が減少するのに伴い、彼らが補食していた農業害虫が増殖して農業に甚大な被害が及ぶことも懸念されています。

しかし、これまでのところ、白い鼻病の直接原因がこのカビによるものなのか、あるいはこのカビによって免疫能力が低下したために日和見感染でコウモリが死亡するのか分かっていませんでした。

ヨーロッパでも同種のカビに感染するコウモリがいるものの、これらのコウモリが死亡することは無いため、このカビによる因果関係について長い間議論がなされてきました。

今回Natureで発表された論文では、北アメリカのホオヒゲコウモリの白い鼻病の直接原因がGeomyces destructansであることを報告しています。


Experimental infection of bats with Geomyces destructans causes white-nose syndrome: Nature


野外で捕獲したカビ感染コウモリと、実験室で人為的にカビに感染させたコウモリで翼の飛膜を組織学的に調べたところ、両者とも飛膜に菌糸が侵入してはびこっていることが確認されました。

また、このカビは空気感染はせず、接触によってのみ感染することも明らかになりました。今後、このカビによるコウモリへの感染を防ぐ手段を確立することが重要となってきます。

ヨーロッパのコウモリがこのカビに感染しても平気なのは、カビの病原性には種特異性があるためだと考えられます。このカビは観光客によって遠隔地からもたらされた可能性があるとのことで、ヨーロッパなどから持ち込まれたこともありえるでしょう。

人への感染の可能性については無いようですが、地理的な隔離によって今までにさらされることのなかった病原菌の破壊力の大きさをまざまざと見せつけられます。

宇宙からやってきた病原菌で地球上の生物が全滅、なんてシナリオも無きにしもあらずです。


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