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クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

日本に大量増殖したミュータント人間とその原因

科学・研究 社会

ここ近年、あるミュータント(変異型)人間が日本で増殖している。

このミュータントには、以下のような特徴がある。


1. 主に大都市で活動する。
2. とくに1月から4月にかけて活発に活動する。
3. 紺系の色を好む。
4. 従順である。
5. 前屈運動能力に長けている。


皆、個人識別が困難なほど互いに酷似した外部形態(服装・髪型)を呈している。前屈運動能力にも長けており、上半身を前方向に倒す角度を精密に調節することが可能だ。

このミュータントは、国内外で「シューカツセイ」という名で知られている。

1986年代の若者は、ここまでの同調性はなかった。

当時の若者はバラエティに富んだファッションに身を包んでいる。当時はまだ、シューカツセイの特徴を備える個体は認められない。シューカツセイが大量発生したのは、ここ最近になってからなのである。

・なぜミュータント人間「シューカツセイ」が大量増殖したのか

ところで、なぜシューカツセイはここ数年で爆発的に増えたのだろうか?

実は、これには、あるウィルスと深い関わりがある。

つくば理科学研究機構ウィルス研究ユニット長の培裸巣保(ばいらす・たもつ)博士は、このシューカツセイの異常な増殖速度に疑問を持った厚生労働省から研究調査の依頼を受け、シューカツセイから体細胞を採取し、解析を行った。

423名のシューカツセイから採取したDNAを解析したところ、検査されたすべての個体から人間には本来存在しないDNA塩基配列が検出された。なお、対照群である529名の非ミュータント、すなわち通常の人間からはこの配列は検出されなかった。

培裸巣博士らは、シューカツセイのみに見られるこのDNA塩基配列をデータベースで検索したところ、19年前に東京都内の大学生(当時)から初めて発見されたウィルスの遺伝子であることが判明した。

このウィルスは「モンギリウィルス」と呼ばれ、人から人へ空気感染することが確認されているものの、病原性はないことが報告されている。



ヒトの細胞に結合するモンギリウィルス


しかし、このモンギリウィルスが人の細胞に感染すると、自らの遺伝子を人のDNAの中に組み込んで増殖することが確認された*1。さらに、培裸巣博士らは、人の細胞の中で高い活性を持つモンギリウィルスの遺伝子(sk2)を突き止めた。

そして、モンギリウィルスのこのsk2遺伝子を組み込んだ遺伝子組換えマウスは、きわめて従順で我慢強い性格になることが観察された。

研究員に回し車でランニングをするように指示されると、ウィルス遺伝子を組み込まれたマウスは、指示を拒否すること無く通常マウスの2.6倍も多くの量の運動をこなした。

また、遺伝子組換えマウスは、一匹ずつ隔離して飼育すると極度の不安症状を見せた。組換えマウスどうしを集団で飼育すると、このような不安症状は解消された。

さらに、組換えマウスは、前屈運動能力が向上していることも確認された。驚くことに、これらのマウスでは、上半身を前方向に大きく折りたたむ前屈運動行動が頻繁に見られた。これは、人がおじぎをする行動に相似していた。

ウィルスの感染によって、宿主の行動が大きく変化することは昆虫などで知られていたが、ほ乳類で確認されたのは今回が初めてのことである。

これらの研究結果から、次のことが推測できる。

まず、モンギリウィルスが人に感染すると細胞内に侵入し、ウィルスの遺伝子を人のDNAに組み込む。組み込まれたウィルス遺伝子が働き、人の脳神経系に作用することで性格・行動に変化を起こす。従順になったり、ある時期や場所での活動が活発化したり、前屈運動能力が増したり、特定のファッションを好むようになる。

モンギリウイルスが人から人に感染し、大量のシューカツセイが生み出される。これが、ミュータント人間・シュウカツセイが急激に増殖したカラクリだったのだ。


・シューカツセイは不景気の日本でうまく適応した

シューカツセイは、現代の日本社会にきわめて良く適応しているといえる。というのも、この不景気下の日本において、シューカツセイが非ミュータント人間よりも有利な行動パターンを持つがゆえに職を得やすいからだ。

世紀末に始まった不景気は、いわゆる「社会的淘汰圧」となり、日本の社会を大きく変容させた。

「淘汰圧」とは、進化学の用語であり、ある生物にとって不利益なプレッシャーのことである。

例えば、我々が住む地上は乾燥していたり紫外線が降り注いでおり、水中に住むほとんどの生物は、このようなストレスのある環境に進出すると死んでしまう。

私たちの祖先は、このような過酷なストレスを克服するような能力を身につけた結果、地上に進出することができたのだ。この場合では、乾燥や紫外線などのストレスが淘汰圧に該当する。

話を元に戻そう。

不景気という社会的淘汰圧により、各企業は新入社員の採用数を大幅に減らした。言い換えれば、企業側が学生を選抜する基準を厳しくした。企業にとって、本当にメリットのある学生しか採用されなくなった。

では、企業にとっての理想の学生は、どんな条件を持つ学生だろうか?

財団法人丸の内経済研究所のデータによると、就職氷河期に一早く企業から内定を貰う学生には、以下の3つの条件が当てはまる。


1. 紺系のスーツを着用している。
2. 従順で自己主張をしない。
3. おじぎの角度を15度・30度・45度の3段階に精密に制御できる【→】。


もうお分かりだろう。これらのすべての条件は、シューカツセイが兼ね備えているものなのだ。

したがって、シューカツセイは優先的に企業に採用され、非ミュータントである通常の人間が不採用になる割合が大幅に増加した。

非ミュータント人間もシューカツセイを装い、紺系のスーツを着用したり従順さをアピールする。だがしかし、おじぎの角度だけはどうしても精密さに欠いてしまう。シューカツセイに前屈運動能力で圧倒的に劣る非ミュータント人間には、もはや勝ち目は無いのだ。


・シューカツセイの大量増殖が招く社会問題



ミュータント人間・シューカツセイを起用した就職情報企業の広告。あたかもシューカツセイが勝利宣言をしているかのようだ。


従順な性格で扱いやすいミュータント人間・シューカツセイの出現は、多くの企業にとって歓迎されるものだ。しかしその一方で、シューカツセイの存在を面白く思わないグループも存在する。

それはもちろん、シューカツセイに職を奪われた非ミュータント人間たちである。

企業に採用されるかどうかは死活問題であるため、非ミュータント人間たちはシューカツセイに対して激しい憎悪を抱いている。数年前から、非ミュータント人間たちによるシューカツセイを誹謗・中傷するような発言が、インターネット上で目立ってきた。

そして、最近では非ミュータント人間によるシューカツセイ排斥運動が活発化しており、デモ運動もさかんになっている。

また、モンギリウィルスを高価格で購入する人たちも現れた。

買い手の多くは、園児から高校生の子どもをもつ親で、子どもにウィルスを感染させるのが目的だ。わが子が難関学校や大企業に入ることで、安定した将来を手に入れてほしい。そう願う親たちだ。

ウィルスを培養し販売しているのは、先述した培裸巣博士の研究室にかつて在籍していた元研究員のH氏という人物だ。

この元研究員H氏は、NASAでクマムシという生物の研究をした後に同研究室で働いていた。だが、契約期限が切れたために無職となってしまった。そこで自らウィルスに感染してシューカツセイに変異して就職活動に臨んだものの、多くの企業は博士号取得者は採用していなかったためどこにも就職できなかった。そこで、ウィルスを研究室から持ち出し、販売する商売を始めたのだという。ウィルスの価格は350万円ほどで、遺伝子改変により感染力を高めた系統は700万円ほどだ。

しかし、予想以上にウィルスが売れたために供給が追いつかなくなり、H氏は偽物のウィルスを販売し始めた。ウィルスを摂取してもシューカツセイに変異しないことに気付いた購入者らは、H氏を相手方に訴訟を起こす準備を始めている。偽物のウィルスを販売する模倣者も増加している。

これらのシューカツセイにまつわる諸社会問題については、厚生省を始め、政府も懸念を示している。

とはいえ、国としてはシューカツセイのような人間は扱いやすい。この国の既得権益層にとって、シューカツセイは都合の良い存在なため、ウィルス感染者がこのまま増えてくれれば、と願っているのが本音だ。とりわけ検察庁は、この意向が強い。

現時点において、シューカツセイは世の中の勝ち組といえる。だが、グローバル化と自動システム化が急速に広まりつつあるこの世の中で、紋切り型のシューカツセイがいつまで勝者であり続けられるだろうか。

これから到来する社会の中では、横並びを良しとし自己主張しないような人間ではなく、新しい価値を社会に創造するクリエイティブな人材が必要になってくるはずだ。未来の社会で生まれる新しい種類の社会的淘汰圧にさらされた時、はたしてシューカツセイが生き残れるのか、甚だ疑問である。

シューカツセイの増殖により多様性を失った日本は、世界から取り残された存在になるに違いない。


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*1:モンギリウィルスはHIVと同じレトロウィルスであり、RNAから逆転写を経てDNAが合成される。