クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

麗しき蘭にまつわる下世話なお話

花を買おうとしてネットを調べていたら、蘭が非常に高価なものだと改めて知りました。

世界蘭展も非常に大規模な催し物ということも知り、なんとなくこの植物と人との間には深い世界が広がっている気がしたので、蘭についてちょっと調べたことをメモします。

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ラン科は種子植物の中でも最も繁栄しているグループで、世界に750属35000種ほどが知られている。亜熱帯から熱帯を中心に、南極大陸を除くほぼすべての大陸に分布している。

花びらは放射状に広がっておらず、左右対称をとる。花に雄しべと雌しべが合体したずい柱をもつ。また、花弁の1枚が変形した唇弁(リップ)がある。

19世紀のイギリスで蘭ブームが起こった。園芸家ウィリアム・カトレイがブラジルから持ち込まれたランを栽培したところ、貴族の間で評判になったのがはじまり。

日本ではそれよりももっと前から蘭を観賞する文化があった。日本、中国、韓国を起源とするシュンランやカンランなどの東洋蘭は、江戸時代には大相撲の番付と同じように格付けがなされたりするなど、武家や公家など上流階級層の人々から親しまれた。

蘭は英語でOrchidで、ギリシャ語のOrchisに由来する。Orchisは睾丸の意味。蘭の球根がそれに似ていることから名付けられたそうだ。また、ランの根が精液の匂いに似ているため、という説もある。17世紀頃まで蘭の球根が強精剤として使われていたとか。

そもそもギリシャ神話には陽気で好色漢のOrchisという人物が登場する。酔っぱらって女官に淫らなことをしたOrchisは、神によって八つ裂きにされてしまう。その後Orchisは花に生まれ変わった。これが蘭。
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蘭の花の形態は多様性が大きく、品種改良が盛んに行われています。バタフライ・オーキッドやタランチュラ・オーキッドなんかがかっこいいです。



バタフライ・オーキッド (Psychopsis papilio) (Image: ladydragonflyherworld)



タランチュラ・オーキッド (Stelis tarantula) (Image: jvinoz)


蘭は、媒介虫との間での共進化と絡めて紹介されることもよくあります。とりわけ面白いのは、ハンマー・オーキッドとよばれる、花が送粉者のハナバチのメスに擬態している種類です。



ハンマー・オーキッド (Ophrys apifera) (Image: missmaryquitecontrary)


ハンマー・オーキッドはその形態だけではなく、匂いや触感もハナバチのそれに似ています。この匂いに釣られてノコノコやってきたハナバチのオスが、ニセモノのメスとも気付かずに花と交尾行動を行うことで雄しべがべったりとくっつき、他の花に着陸したときに花粉を渡して受粉するカラクリになっています。

以下の動画では雄しべが頭にくっついたオスバチを見ることができます(1:45あたりから)。





ハナバチのオスが交尾行動をとる時、ハンマー・オーキッドはオスバチに花蜜を与えることはありませんが、オスバチは実際に精液を放出するため、オスは無駄なコストを払っていることになります。そのため、このニセメスを見破るようなオスのハナバチには選択圧がかかると考えられます。そしてさらに、そんなオスをうまくだますようなハンマー・オーキッドにも選択圧がかかるために、ハナバチとハンマー・オーキッドには進化的軍拡競争が起こっているのでしょう。

ちなみにこのハンマー・オーキッドの英名はBee orchidですが、Prostitute orchid(売春婦蘭)ともよばれています。でもオスバチは実際に交尾することができないので、この呼び方は不適当のような気もしますが*1


【参考サイト】

世界蘭展日本大賞2012

Bee Orchid :Wikipedia

The weird sex life of orchids: The Guardian

*1:しかもコストがかかるばかりで花蜜も何のリワードもないとなると、本当にひどいボッタクリですね。