クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

シオマネキの大バサミはクーラーマシーンだった


via nakrnsm

私は沖縄の西表島が大好きなのですが、この島の干潟で多くのシオマネキを見ることも、楽しみの一つです。

シオマネキのオスは片方のはさみが不自然なほど大きく、もう片方は小くなっています。小さいはさみで砂をすくい餌を食べ、大きいはさみで「まねく」動作をしてメスを惹き付けます。大ばさみはまた、巣穴に入ってくる敵をガードする時にも使われます。ちなみに、メスのはさみは両方とも小さくなっています。

オスの大きく発達したはさみは、求愛行動のための性選択によって発達したと考えられてきました。しかし一方で、この大きすぎるとも言えるはさみは、生存上のコストを考えるとむしろマイナスで、求愛行動のためだけに発達したと考えるには不自然だとも考えられてきました。

今回、アメリカの研究者らは、オスのこの大ばさみが体温調節にも大いに役立っていることを新たに示しました。


Thermoregulation as an Alternate Function of the Sexually Dimorphic Fiddler Crab Claw


研究者らは、オスの大ばさみが、オスのシオマネキの体温調節に重要な役割を果たすという仮説を立てました。そしてこの仮説を検証するため、シオマネキに白熱光を照射して熱し、この際の体温上昇をモニタリングしました。実験には、以下の4パターンのシオマネキを使っています。



1. シオマネキ (オス)
2. 小さい方のはさみを切除したシオマネキ (オス)
3. 大きい方のはさみを切除したシオマネキ (オス)
4. シオマネキ (メス)


はさみを切除された2と3のオスはちょっと可哀想ですね。

さて、実験の結果、1と2の大ばさみを持っているオスのシオマネキは、3と4の大ばさみを持っていない個体に比べ、体温の上昇が著しく抑えられることが分かりました。これは、大ばさみがクーラーマシーンのような役割を果たし、大ばさみを通じて体の熱を効率よく空気中に逃がしているためと推測されます。

野外では、シオマネキは太陽の直射日光にさらされるわけですが、体温が上がりすぎると穴に潜って体をクールダウンさせる必要があります。この休憩時間には、餌をとったりメスに求愛することができません。よって、オスの大きなはさみは、オスの体の体温上昇を効率よく抑えることで活動時間を延ばす、という適応的な役割があるのでしょう。

メスへの求愛、巣穴のガード、そしてクーラーマシーン。一石三鳥のシオマネキの大ばさみのお話でした。