クマムシ博士のむしブロ

クマムシ博士が綴るドライな日記

実は意外と利口だったトカゲ


via Clicksy


は虫類は、鳥類やほ乳類に比べて認知学習能力がはるかに劣ると考えられてきましたが、トカゲは、これまで考えられていたよりもはるかに柔軟で高度な学習能力を持つらしいことが明らかになりました。これまでの認知学習の進化セオリーについて、再考をせまるものとなりそうです。


Behavioural flexibility and problem-solving in a tropical lizard

Brainy Lizards Pass Tests for Birds


研究論文を報告したのは、アメリカ・Duke大学の研究チーム。研究者らは、木のブロックに2つの穴を作り、片方の穴にのみ餌を入れ、餌を入れた穴にのみ、キャップをかぶせました。プエルトリコのアノールトカゲを実験ゲージに入れると、何回かのトライの後、彼らはキャップをくわえたり突いたりすることで脇にどけ、餌をとる行動をとるようになりました*1

このような行動は、野生環境では観察されていないことでした。これは、野生のトカゲが人工的にあつらえられた新しい環境やシステムに素早く対応できること、すなわち高度な認知学習能力が備えていることを示しています。ちなみに、鳥を使ってこれと同じ実験を行った場合では、学習が成立するまでに、より多くのトライが必要でした。

次に、餌を入れた穴に青色のキャップを、餌を入れていない穴には黄色のキャップをかぶせ、アノールトカゲが「餌」と「色」という二つの情報を連合させて学習するかどうかを検証(連合学習実験)したところ、「青色のキャップの下には餌がある」ということも認知し、学習しました。下の動画では、その実験の様子を見る事ができます。





さらに、キャップの色を逆、つまり餌入りの穴には黄色のキャップを、餌なしの穴には青色のキャップをかぶせて実験したところ、はじめはすべてのトカゲが青色のキャップをひっくり返しましたが、数回のテストの後、2匹のトカゲがこの"トリック"に気付き、黄色のキャップをひっくり返して餌をとるようになりました。研究者らは、この二匹のトカゲに「プラトン」と「ソクラテス」と名付けました。

鳥類やほ乳類が、新しい環境に進出し素早く順応できるのは、それまでに経験したことのない問題に直面した時に、それを解決できるだけの高い認知学習能力をもつためだと考えられています。今回の結果は、は虫類でも認知学習能力に長けた種が存在し、新しい環境に素早く順応できることを示唆しています。実際に、アノールトカゲは、多様な環境に進出して分布域を比較的早く広げることができる、とのことです。

我々ヒトが社会の中で色々な異なる環境、例えば学校や会社などの環境に柔軟に適応したり、はたまたその場の空気を読んだりといった高等な認知学習能力の起源が、実はは虫類だった、ということになるかもしれません。そう考えると、トカゲを見る目も少し変わってきます。

*1:トカゲが餌の匂いを感知してた正しいキャップをどけることもあるのではないかと思うが、論文本文を読んでいないので何とも言えない。